短い時間で出来ることを(後編)
カイがあさひ、ナガレを引き連れ部室に向かった時、そこに居たのは赤羽一人だけだった。
「なんだパイロット組。流石にこれ以上のトラブルは勘弁だぞ?」
どこか疲れた顔で苦笑しながら、赤羽はそう口にした。
「いえ、提案……というか、要望を出しに」
「ふむ? お前ら三人がか 言ってみろ。一応聞いてやる」
「はい。……リーダー機をあさひに回そうと思ってます」
そうカイが伝えると、赤羽はじっと三人を見つめた。
「それが、お前らの結論か?」
「俺たちというより、俺の考えです」
「突撃馬鹿のこいつが落ちるリスクはどうする?」
「そもそも、あさひが落ちた時点で俺たちは負けみたいなものです。それに……あさひが落ちたなら、負けでも構わないかなと」
「なんというか……理論派のお前らしくない結論が来たなぁ」
そう言って赤羽は後頭部を掻いた後……。
「構わんよ。というか、こっちとしても同じような結論になったからな」
「同じ……ですか?」
「……さて、そっちの話を聞いたから、次はこっちの話を聞いてくれるかね?」
赤羽は、にやぁとしたいやらしい笑みを浮かべ三人を順番に見た。
「あー。すげぇ嫌な予感。具体的に言えばなぎさパイセンがはっちゃけたような感覚」
あさひが冷や汗を掻きそう呟くと……。
「残念。はっちゃけたのは悪魔の方だ。まずナガレ。アステロイド・ブルーのパイロットよろしく」
かちんと、ナガレは動きを止めた。
「ちょ、ちょっと待てって。無理だ! 確かに制限プログラムを入れたらある程度動かせるが、それでもあれは俺くらいしか……」
「それを出来るようにしやがったんだよ、莉央は。カイはナガレと交代でアキレスの楯な。それであさひは……」
わくわくとした顔をするあさひ。
それを見て、赤羽は小さく溜息を吐き……。
「おめでとう。新型を鋭意製作中だ。まるで間に合いそうにないがな」
「その場合はどなるの?」
「あー……。アトラスって覚えてるか?」
「寛のじっちゃんとこのスラスター機だよね? 私の物になる予定の」
「すげぇ都合の良い頭してんなお前。あのアトラスとコヨーテと、ついでにラプトルまで使って足りない部位をカバーする。いわゆるごちゃまぜのキメラ機になる予定だ」
「なんか、とんでもない無茶してない?」
「基本的にだが、無茶しかしてない。というか莉央の策は無茶とリスクと意外性しか存在せん。ナガレなら良くわかるだろ?」
ナガレは大きく頷いた。
「俺が筋肉痛になるレベル」
「あれを筋肉痛で済ませたお前はやっぱり化物だよ。というわけで、詳しいことはまだ決まってないがそんな感じで準備を頼む。ああ、後もう一個あったな。言うことが」
「……それは、重要なことか?」
カイは尋ねた。
「まあ、重要っちゃ重要だな。予選出場までに最終レベルアップも兼ねて合宿をやるつもりはないかい?」
赤羽の言葉にあさひは目を輝かせ――そんなあさひをカイとナガレは連携を持って押しのけ黙らせた。
「ふむ――悪くないが……あまり時間がないな」
「丁度次の月曜が祝日だから、それを合わせて三日という辺り予定だ」
「それなら問題ないな。場所は?」
「そこが相談なんだ」
赤羽は困った口調で呟いた。
「ふむ……。場所がないなら竜胆に相談しようか? ご党首様になら声をかけられるが」
「いや、そうじゃない。そうじゃなくて――」
赤羽はそっと、テーブルに三枚の資料を並べた。
「なんでか知らんが三か所からうちを合宿先に使ってくれって連絡が来た。ちなみにそのうちの一つは竜胆だ」
カイは慌ててその一つを取る。
そこは、ご党首の家の一つ。
つまり、カイが囚われあさひが迎えに来たあの場所だった。
「後の二つは、『鳳学園RAEオンライン部』の皇真琴代表と『鷲羽製作所』だな。一応パイロット合宿だから、どこが良いか三人が決めてくれ」
赤羽はそう言って、三人を順に見た。
あさひはその資料を手に取り、メリットを見比べる。
竜胆一文字鈴之助の場合、至れり尽くせりの和食と地下にあるシミュレーターが特徴だろう。
あれが使い放題になるというのはなかなかに大きい。
他にもプロや大会経験者も関係者にいるため、知識的に学ぶことも多いはずだ。
カイは知識面での成長。
ナガレは正規の流派指導を受けられる。
あさひはガンガンシミュレーターでタイマン性能を伸ばせる。
わかりやすい成長方針と言えるだろう。
鳳学園RAEオンライン部は、皇家が抱えるレジャー施設を貸し切りで使わせてくれるらしい。
もっと言えばプール付きのビーチ。
海水浴も兼ねたトレーニングに、豪華バーベキュー。
遊び混じりで夏合宿っぽさは満載であるのは確かだが、メンタルリセットも兼ねたらそう悪い選択でもないだろう。
人員も多いため、訓練相手も困らないだろう。
欠点は、訓練ベースがRAEオンラインであること。
つまり、基本はタイマン、最大でも"2on2"までしか訓練出来ない。
それと、鳳学園RAEオンライン部は大半が女子だからカイとナガレの居心地は非常に悪いことと、最悪喰われる可能性があること。
"女性は花"なんて思っていると、間違いなく餌食になる。
鷲羽製作所の場合は、会社都合のジム施設が使い放題であることが最大のメリットだろう。
それと、機体改修に関われること。
今後、イクス・ユニット本体の改修は鷲羽製作所で行われる。
理由は近くて広いから。
外部協力者の中では最大大手となるから、この会社がこれからメインになると思って良い。
だからパイロットであっても改修を段階ごとに確認出来、その都度希望を述べやすい。
欠点は、大会の戦術やイクス・ユニットに関する知識があまり蓄えられないこと。
ある意味これは最大の欠点と言える。
「俺はどこでも良いぜ?」
「ああ、俺もだ」
ナガレとカイはそう言って、あさひに選択を委ねる。
なら――と、あさひは竜胆の家を手に取る。
決まり手は、羊羹だった。
そしてそのことを話そうとした瞬間――。
「悪いが、少し待って欲しい」
そんな声が聞こえ、あさひは振り向いて――露骨に顔を顰める。
そこに居たのは、実の父だった。
「やぁやぁ愛しいマイラブリードーター。それとその他」
天羽智はそう言ってニコニコと娘に手を振った。
「何しにきやがりました黒幕さん」
「はっはっは。それはもう引退しましたよ。それでね、一つ、提案があってきました」
「提案? 提案って何よ?」
ジロリと睨むあさひを無視し、智は赤羽の方に近づいていく。
そして、その提案という名の要請を口にした。
「合宿先を鷲羽製作所にして下さい。でなければ私と鷲羽製作所は協力を放棄します」
「なっ――!? 父さん! 何を勝手に――」
そう叫ぶあさひを、智は黙らせる。
そして、じっと赤羽を見つめた。
「……理由をお聞かせ下さい。せめて納得出来る理由を、もしくは、娘を説得できるだけの理由を」
「理由は、娘の体調です」
そう言ってから、智はそのデータを赤羽にだけ見せた。
「お前らは見るなよ。というか絶対見せん」
そう言ってから智は両手を広げ、カイとナガレを威嚇しだした。
「いや、見ないけど、その渡したデータは何ですか?」
カイは呆れ顔で尋ねた。
「娘の体調を示すデータ最新版」
あさひが露骨に嫌そうな顔をした。
「なんだこの血の薄さ……。おいおさひ。お前、こんな状態で……」
赤羽はジロリとあさひを睨んだ。
「いえいえ。大げさですって、はは……」
そう言ってあさひは誤魔化すように笑い、目を反らした。
「はぁ……。これに関しては智氏の方が正しい。ですが、どうして鷲羽製作所なんですか?」
「あそこには最新の医療施設が揃ってるからです。というか娘のための入院設備でもあるんですよ」
「なるほど……。つまり合宿という名目で療養をしたいと」
赤羽の言葉に智は頷いた。
「はい。というか、三日でも休んでおかないと、試合中に倒れる恐れさえありますので」
「そんなわけないじゃん。それに、そんな勝手通らないって。ねぇみんな」
あさひは笑いながらそう口にする。
けれど、皆何も言わない。
赤羽、カイ、ナガレ、全員とも、あさひをじっと見つめ無言の圧をかけ続けた。




