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『R.I.S.E.:Over the Sky』~銀髪美少女が浪漫を貫くようです~  作者: あらまき
理不尽スパイラル

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残る問題は


 久方ぶりに、ARCガレージは賑わいを見せていた。


 あさひの父、天羽智を主体とした、無数の妨害工作。

 時限性を持つ幾つかの課題。

 ついでに、日常足りえる大学生活。


 そういった事情を乗り越え、十日ぶりに彼らはここに終結していた。

 約一名を除いて。


「やはり、赤羽顧問はしばらく無理か……」

 そう呟くキョウジは、非常に忌々しそうだった。


 彼が不満に思うのも当然だろう。

 その所為で、部外者である自分がこうして監督役を回されているのだから。


 役そのものに不満はない。

 ただ、赤羽の代理が務められるほどキョウジは自惚れ屋ではないというだけ。

 むしろ、天才の代理であることを求められる状況はフラストレーションそのものだった。


「流石に海外はねぇ……」

 あさひは苦笑する。


 どうやら海外の医療系論文発表会に参加しているらしい。

 最短で帰ってくるとしても、もうしばらくはかかるだろう。


「天才であることが仇となったか」

 なぎさはやれやれと呟いた。


「まあいないものは仕方がない。くそっ! どうして狂気たる我がこんな常識人ポジションをしなければならないのだ! とりあえず貴様だ! 自己紹介しろ!」


 そう言われ、新入部員は慌て席を立ちあがった。


「は、はい! 元"影山祐希"こと『奏多悠陽』です! お、おそばせながら部員となりました!」

「男装の麗人とか貴様はリボ〇の騎士か! やるじゃないか! 出来ることと出来ないことを言え!」

「で、出来ることは何もないですが……ミリタリーの、それも銃器はそれなりに詳しいと思います。出来ないことは、その、あまり人と話すのは……」

「ということだ。良かったなメイド。貴様の後輩だぞ」


 そう言って、キョウジはにやけ面でメイド服姿(に無理やりさせた)莉央に声をかける。

 莉央はこくこくと小さく、けれど何度も頷き、ホワイトボードに『可愛がる』と書いた。


「とりあえず悠陽ぃ! 貴様のポジションは当分あさひのサポート役と雑用となる。慣れてきたら銃器のアドバイザーにもなってもらう予定だ。良いな?」

「は、はい! 頑張ります!」

「良し! というわけで次はタスクの確認だ。貴様ら各自状況を報告せよ!」


 そう言ってキョウジは、パイロット三人の方に目を向けた。


 すっと、カイはライセンスカードを提示する。

 そこには上級Dではなく、Cとワンランク上の認可が下りていた。


 つい先日までカイは、諸事情にて当主の家に世話になっていた。

 それは悪いことばかりではない。

 そのおかげで、値段を気にせずの移動が叶い、他県のライセンス資格認定試験に乗り込めた。


 つまるところ、運が良かった。

 だから、こんな早々に取得出来た。


「俺の課題はこれだけだから、時間的猶予は生まれた。プラスで何か出来ないか探していく。……その前にだがあさひ。お前随分と遅かったみたいだが……何かあったのか?」


 そう、カイは尋ねた。


「ふぇ?」

「いや、俺を助けに来たお前が、俺よりも四日も後に大学に戻って来るっておかしいだろ。何かあったのか?」


 カイの心配を聞いてから、突如あさひはドヤ顔となる。


「その言葉待ってました。そして、これが答えだ! 喰らえ!」


 バーンと、『緋衣朔夜』の名が入ったライセンスカードを、あさひは掲げる。

 そこには新たに、"上級C"の文字が描かれていた。


「は、はぁ!? お前D取ってなかっただろ!? ……お前、何やらかした!?」

 怪訝というか、犯人扱いのような、そんな疑いの眼差しをカイは向けていた。


 うんうんと頷き、あさひはカイに、一つの宣言をした。

「このわたくし天羽あさひは、じっちゃんによって、竜胆家RAEオンライン特別指南役を仰せつかり申しました。まる」

「……じっちゃんって……もしかして、ご党首様?」

「うぃ」

「もしかして……」

「うぃ。そちら様のおうちのコネを、齧りに齧りまくってやりました。どやぁ」


 周りの唖然とする空気など知らんとばかりに、あさひはドヤ顔を見せまくった。


 とはいえ、カイはある種の納得を覚えていた。

 確かに、それは竜胆らしいやり口だ。


 党首、竜胆一文字鈴之助は別に私利私欲であさひを贔屓にしたわけではないだろう。


 当主があさひをお気に入りというのは正しい。

 けれど、当主がお気に入りというだけで動けるほど竜胆の看板は軽くない。


 つまり……これは一種の対外的外交である。


 竜胆は、日本トップクラスランカーのあさひを外部協力者としてゲット。

 ついでにこそっと専属化して他の組織への牽制も行っている。


 竜胆からすれば、あさひを抱え込むことはメリットしかなかった。

 あさひとしてもありがたい部分があるから、一応はウィンウインが成立しているだろう。


 ただし、この取引は双方得であってもカイにとってだけは、望ましくない展開である。

 カイには見えていた。

 ランカー確保、対外牽制に続く三つ目の竜胆の理屈。

 すなわち……。


(たぶんご党首様……あさひを俺の嫁にすること、諦めてないな)

 内心戦々恐々としながら、カイはあさひをジト目で見つめた。


「あまり、取り込まれるなよ。名門ってのは闇があるんだから」


 カイはそう静かに忠告する。

 わずらわしい人間関係にあさひを巻き込みたくなかった。


「えっ!? イクス・ユニット秘密結社とか、世界征服のためのロボットとかあるんですか!?」

「あるわけないだろ……」

 そう言って、カイは小さく溜息を吐いた。




 カイは上級Cライセンスを取った。

 何故かあさひもCを取り、RAEオンラインのイベントも一応大成功を収めた。

 更に言えば、悠陽という信頼出来る新入部員に、あさひ拉致騒動の責任も兼ね『株式会社鷲羽製作所』も外部協力者として参入してくれた。


 赤羽が想定していたよりも、はるかに状況は好転していた。

 ナガレを除いて――。


「悪い……。俺の方は色々手付かずというか……正直言えば、かなり崖っぷちに近いわ」

 そう口にするナガレは、珍しく疲れた顔をしていた。


 そしてその後語られたナガレの状況は、あまりにも悲惨なものだった。


 赤羽がいないため、うまく時間が取れず実働時間が想定の半分程度しか稼げていない。

 これでもキョウジや他の大学の教師に頼んだり、隣県のトレーニングセンターに行ったりと必死に頑張っている。

 けれど、稼働時間を稼ぐための準備に頑張っている時点でどうしても無理が出る。


 そんな状況だから上級ライセンス実技試験の練習は一向に進まんでいない。

 もっと不味いのは、ペーパー試験の方だ。

 一人で勉強するしかないものの、一般ライセンスでギリギリだったナガレに効率が良い勉強が出来るわけがない。


 その合間に、ライズシングル部門での大会にも三度ほど参加したものの、すべて一回戦負け。


 赤羽の下された上級ライセンスD取得に、実機での勝利数稼ぎ。

 そのどちらも、ナガレは一切進められていない。


 ぽつりぽつりと、呟くその姿は妙に痛々しかった。


 ただし、これは決してナガレが悪いわけではない。


 むしろ始めたばかりの初心者が大会に複数参加し大きな故障もなく帰ってきている時点で天才呼びしても良いくらいだ。


 大会三連戦しながら実働時間稼ぎと勉強を並列するその体力は、天才を超え比喩なしと化物と言っても過言ではない。


 それでも失敗しているのは、ただ、ハードルが高すぎるだけ。

 本当にそれだけの話だった。


「すまん。足を引っ張っちまって」

 そう、力なく笑うナガレを責める声はどこにもない。


 彼以上に頑張っている人がいないことを、誰もが理解出来ていた。

 けれど、……このままだとどうしようもないかもという不安もまた、皆の中に湧き出ていた。


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