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『R.I.S.E.:Over the Sky』~銀髪美少女が浪漫を貫くようです~  作者: あらまき
紅を超える蒼

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紅を超えし蒼


 最終的に、勝敗はカイの降参という形で決した。

 それを責める声はない。


 それほどまでに、圧倒的だった。


 なにせ、相手チームは最初から最後まで、蒼月一人しか動いていなかったのだから。


 舐められていた。

 それでも、何も出来なかった。


 だから、控室に戻った彼らは陰鬱とした気持ちを抱いて――。


「あー! ウルトラムカつく! どうなってるのよアレ!?」

 あさひは頭をわしゃわしゃと掻き乱し、キーキーと叫ぶ。

 その姿は、まるで猿のようだった。


 それでも、今この場においてはその姿は確かな救いとなっていた。

 もしあさひに元気がなければ……きっと彼らの心境は、本当に陰鬱としたものになっていただろう。


「ま、しょうがないさ。相手の方が装備も上だったしな」

 ナガレがそう言った瞬間、あさひはぎょろっとして威圧染みた眼差しをナガレに向ける。

「お、おわっ!? ど、どうした? 何か不味いこと言ったのか?」

 無表情に近いのに妙に圧がある表情に、ナガレは完全に気圧される。

 こほんと、カイは一つ咳払いをして、あさひの気持ちを代弁した。


「ブラスター種と呼ばれる武器は、もう公式大会に五年も姿を見せていない」

「……なんでだ?」

「時代遅れになったから、というのが一番近いだろうな」

「"ロングブラスター"なら十年前でさえ産廃扱いだったよ」

 あさひはそう、注釈を付け足した。


「な、なんでだよ!? どう考えても強いだろ、あの武装!?」

「そうだな。圧倒的な破壊力があるのは確かだ。だが、欠点が多すぎる。あと一番の差は機体性能の向上だろう」


 イクス・ユニットは日進月歩と言われる速度で発展している。

 その中でも特に大きな要素はその機動性であり、お互い長時間高機動が可能となったため、長距離の概念そのものが変わっている。


 昔は百メートルオーバーを長距離射程と言ったが、今では五十メートルから百メートルまでを長距離と表すようになったほど。


「というわけで、足早いし硬くなったしで狙撃系の武装は厳しい時代になりましたとさ。それに、ブラスターはエネルギーを莫大な量喰らうの。機体の機動性を失うくらいに。だから、高機動がメインとなった今の時代ではブラスターを使う人はほとんどいないよ」

「同じエネルギー系兵装でも軽い物が主軸だな。光子銃とか、レーザーライフルとか」

 あさひの説明に今度はカイが付け足す。


 二人の共通見解となるくらい、それは常識的な話だった。


「つまりあれか? 時代遅れな武器で、三人がかりでボコられたってことか?」

「そういうことになるな」


 そう――それだけの力量差があり、知識差があり、そして経験の差があった。


 だから本来なら絶望してもおかしくないのだが、あさひは猿のようにキーキー叫ぶだけ。


 その元気さに、カイは心底救われていた。

 自分のように絶望しなかったことを妬ましいと思いながらも。


「それにね……それだけじゃないのよ……」

 ぽつりと、あさひは呟いた。

「まだ何かあんのか?」

 ナガレがうんざりしながら呟くと、あさひは一番悔しいと感じた部分を告げる。


「ロングブラスターってのは、紅朱雀のもう一つの武器なの」


 現アーク顧問赤羽京香の十年前、現役だった頃。


 彼女の武装はパイルバンカーとロングブラスターの二つ。


 その片割れであるパイルバンカーを愛するあさひが、ロングブラスター使いに何の感情も抱かぬわけがなかった。


「というか、最後のあれ、実弾だったよな?」

 カイの問いにあさひは頷く。


 ロングブラスターから最後に放たれたのは、実弾。

 ブラスターでありながらキャノンでもあるという二種併用の武装だった。


「うん。短射程カバーのためだと思う」

「遠近両用……まるっきり戦法が紅朱雀だな」

「だから悔しいのよ! つまり私はパイルバンカーを射出すれば良いの!? 長距離狙撃パイルバンカーを作れば良いの!?」

「ただの釘打機ネイルガンだな」

「ムキー! ああもう悔しいなぁ! これじゃあっちの方が紅朱雀の後継者とか言われるじゃない!?」


「安心しろ。それはない」


 否定の声は、あさひの背後から。

 そこに、赤羽が立っていた。


「ないって、どういうことです?」

「その皇蒼月から苦言を言われてな。現役の頃の私のファンと、今のあいつのファンが結構被ってるらしくてさ。『後継者扱いされて困る』って愚痴られたよ」

「うらやま」

「いや、だから困ってるんだって。それにな、私は正規の"3on3"ライズバトルに参加したことはない。そこで一機で三機をぶちのめしたのなら、私の後塵というのは変な話だろう? しかもそれが私の教え子なら」

「つまり?」

「あいつは今日この時から"紅を超えし蒼"だ。……また変な名前になったって苦言が来るだろうが、まあそれは知らん。決めたのは別に私じゃないし」


 困った顔で赤羽は苦笑した。




 準優勝ということで表彰され、授与式が終わって。

 控室の片づけをするパイロットたちの様子を、赤羽は眺めた。


 あさひは急に無言となった。

 叫ぶでも怒るでもなく、何か考え込むように。


 カイは、最初から折れている。

 だからもう折れない。

 エリートでありながら雑草のような部分はこいつの強みだろう。


 ナガレは、精神的な不安を感じさせない安定感がある。

 けれど、二人の弱い部分をカバーするほどの関係性は築けていないらしい。


(さて、顧問として、ここからこいつらにしてやれることは……)


 発破をかけるか、飴を投げるか。

 飯でも奢ってストレスでも発散させてやれば良いか。


 そう思っていた最中、あさひが口を開いた。


「赤羽顧問。例えばだけど……」

「うん? なんだ?」

「例えば……あいつにリベンジするためには、何をしたら良い? どうすればあいつのすかした横っ面をぶん殴れる?」

「――つまりそれは、実力差をどうすれば埋められるかってことか?」

「ううん。それもあるけど、むしろどこで何をすればもう一回戦えるとか。あいつが次どこに出るとかわかる?」


 赤羽が無言になっていると、カイがくっくっと含み笑いをこらえきれず、笑いだした。


「まあ、そうだな。お前、外面はともかく中身は鎌倉武士だものな」

「どのあたりが?」

「舐められたら殺す」

「それ、普通のことじゃない?」


 カイはやれやれという顔で、赤羽の方を見た。

 この狂犬を育てたのはお前だから、責任を持てみたいなツラでちょっとだけムカついた。


「まあ、確実かつ最短なものなら、全国大会予選だろうな」

「じゃ、それに参加ということで」

「いや、無理だろ」

 あさひの言葉をカイが否定した。


「……なんで?」

「参加条件はかなり厳しいからだ。新設の部なんかじゃ絶対無理だ」

「そこはこう……カイの経験者の能力を生かして……」

「そういう話じゃねーよ。先生も何か言ってやってくれ。俺たちじゃ無理だって」


 カイの言葉に続くよう、ナガレは小さな声で呟いた。


「それに、予選に出られたとしても……どうするんだ? 俺たちはたった一機に敗北してるんだぞ。まあ、初心者の俺が言うのもあれだけどさ……」


 カイも同意するよう頷く。

 そう――全国大会の舞台で手加減をしてくれるなんてことはない。

 だから、今度は三機相手で、それも相手得意の超長距離ロングレンジ攻撃も想定しなければならない。

 そんなの、どうあがいても勝ち目がないだろう。


 あさひも同意するよう、うんうんと何度も頷いた。


「そう……今のままじゃ勝てない。だから特訓だね!」

 ぐっと握りこぶしを作り、あさひは宣言する。

 まるでスポコン漫画の世界から来たようで、カイは眩暈を覚えた。


「先生も、何とか言ってやってくれ。無理だって……」

 縋るような目をするカイを見て、赤羽は微笑を浮かべ、一言呟いた。


「参加の方は何とかしてやるよ。ま、天才の私にお前らが付いてこれたらの話だけどな」


 その一言で、カイは敗北を認識する。


 あさひは、最初から最後までこう。

 決めたということは命を賭けてやり通す、生粋の狂人である。


 ナガレもまた、どちらかと言えば熱血側。

 道筋が立っていれば、多少の苦労も何のことと受け止めるだろう。


 そして赤羽がやると決めたのなら、賛成は三票。

 カイの意見など、ごみ屑も同然に飛んでいく。


「では、目下の目標を全国大会予選参加とし、最終目標を紅を超えし蒼打倒とする!」


 締めの言葉とし、赤羽はそう宣言した。

 後ろ向きなカイの表情など、誰も気づかぬという風に。




 帰り支度を済ませ、既に部員の皆もバスに乗って、これから長距離バスで帰宅する。

 赤羽は運転のための気合を入れ直した。


 正直面倒とは思いつつも、命を預かる以上雑なことは出来ない。

 そう赤羽が気持ちを入れ替えているタイミングで、一つの影が近寄る。


 それは、皇蒼月だった。


「おや。今回のチャンピオンじゃないか。こんな場所にわざわざ敗者を見に来るなんて、よほどの暇人なのだな」

 くっくっと、赤羽は笑った。


「……聞きたいことがある」

「ふむ? それは君の支持者の方々に、私などもう足元にも及ばないと説明したことかい?」

「そんなことはどうでも良い!」


 その言葉に、赤羽は片眉を上げる。


 試合前に随分と、紅朱雀と比べられたことを気にしていた様子なのに、"そんなこと"と。

 それは、少しばかりおかしな話じゃないだろうか。


「じゃ、君は一体何の用事で私に?」

「あんただろ。あれは。一体どうやったんだ?」

「ふむ。あれねぇ……」


 呟き、考え込む仕草をして笑う。

 思わせぶりに笑って見せたものの、赤羽は彼が何について言っているのか、さっぱりわからなかった。


「済まないが、あれと言われるようなことは何もしていないつもりだが?」

「とぼけるな! あの赤いコヨーテだ! なんだあの動きは。……何故あれだけ俺に付いてこれた。コヨーテ如きが。いや、そうじゃない。あの機体は……あれは、どうやってAEP時であそこまで出力を上げられた!?」

「……ほぅ。つまり、あの組み合いは君にとって驚く程度の戦果はあったというわけか」

「AEP時限定だったが、コヨーテの出力を大きく超えていた。一体何をした? もしかして、AEP時の低下を抑えるような、そんな発明をあんたは……」


 赤羽はその言葉に、つい我慢できず笑ってしまった。


「くっ……ふははははは! 確かに私は天才だが、ずっと昔に研究者が匙を投げた結果を変えるほどの化物じゃないよ、私は」

「じゃあ……何かコヨーテに特殊な改造を……」

「それもない。そもそも、私は何もしていない」

「……何?」

「嘘じゃないぞ? もしあの結果に何かあったとするなら、私ではなく、パイロットが異常だったのだろう。たぶんね」

「……あれに乗ってたのは誰だ?」


 きょとんとした顔をした後、赤羽は苦笑した。


「君はそれさえ興味がなかったのか。私もアレな自覚はあるが、君も大概だな」

「良いから教えてくれ。あれに乗っていたのは……」

「天羽あさひ。君に吠えていた可愛い銀髪のポメラニアンだよ」

 楽しそうに笑う赤羽とは対照的に、蒼月は露骨なまでに不快を表すような、そんなしかめっ面となっていた。



これで第二話は終了です。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。




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