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『R.I.S.E.:Over the Sky』~銀髪美少女が浪漫を貫くようです~  作者: あらまき
紅を超える蒼

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下らない話


「"33(さんさん)"のライズバトル盛り上がるけどさー。休憩時間が長いのは欠点だよねー」

 のんびりと退屈そうに、控室であさひは呟いた。


 機体が三機に広大な野外フィールド。

 その分整備や準備の時間がかかり、試合の合間二時間三時間はざら。


 しかも今回は観戦禁止という情報規制スタイル。

 選手が合間の時間に行ける場所の制約も多い。


 つまり、あさひは暇で暇でしょうがなかった。

 早々に勝ち残り、次なる試合は決勝戦。


 今頃対戦相手も決まっていることだろう。


「時間が欠点って……それをお前が言うのかよ……」

 カイは呆れ顔で呟いた。

「私が言ったらだめなの?」

 ちょっと拗ねた口調であさひは言葉を返した。


「駄目じゃないが……体力の少ないお前が一番時間の恩恵を受けているだろうに」

「安心して。死んでもバトルが終わるまでは立っているから」

「冗談にならないことを言うな。そこまでマジでやるってわかってるから嫌なんだよ……」

「わかってるじゃん」


 カイはわざとらしく溜息を吐く。

 横で筋トレしながら聞いていたナガレはただただ苦笑することしかできなかった。


 そんな暇つぶしの雑談さえ飽きて来た頃に、ドアを叩くノックが響く。


「おや? 私がいない時に来た記者さんかな?」

 あさひはいそいそと立ち上がり、扉を開く。


 その瞬間――顔から笑みが消えた。

 そして、一瞬で表情は嫌悪に染め上がった。


 表情を偽ることさえ忘れるほどの衝撃。

 その直後、可能性の失念に自責の念さえ宿る。


 あいつがここへ来る可能性を、あさひは完全に失念していた。


「おや、イケメンさん。どちらさんかい?」

 ナガレがあさひの前に立ち、ニコニコ笑顔で尋ねた。


「チーム『イクリプス』リーダーの皇蒼月だ。対戦相手として挨拶に来た。顧問はどこにいる?」

 そう、その男は見下すように言い放った。


 あさひはその名を知っている。

 その男を見ている。


 自分の妹に平手を放ったあげく、髪を掴み無理やり頭を下げさせた姿を。

 いや、その行いだけならば、百万歩譲ってまだ理解出来る。


 納得し辛いが、行いそのものはやらかした妹のしりぬぐいなんて家族愛ある行動だからだ。


 問題は、その表情の方。

 愛だとか情だとか家族だとか、そんな表情じゃなかった。


 その時のこいつは、ただただ面倒そうで、それでいてこちらを蔑んでいた。

 まるで、虫けらでも見るかのように。


 あれは妹が心配だからではない。

 ただ、自分に迷惑をこうむることだけを気にした、そんな顔だった。 


「なあカイ。こういう風に挨拶に来るのって普通なのか?」

 小さな声で、ナガレはカイに尋ねた。


「いや、そんなことはないはずだが……」

 困った顔でカイは呟く。


 その間も、あさひはずっと威嚇する犬みたいな顔で蒼月を睨んでいた。


「し、知り合いか?」

 耐え切れず、ナガレは尋ねた。


「いや、こんな女知らんが?」

「てめぇゲーセンでの出来事忘れてんじゃねーよ!」

 今にも噛みつきそうなあさひを、ナガレは慌てて羽交い締めにした。


「ゲーセン? そんな場所俺が行くわけが……ああ。愚妹の。そう言えば見た顔だったな」

 じろじろと怪訝な表情で、蒼月はあさひを見る。


 そして――。


「だからあの時愚妹を殴っておけと言っただろうに。あとから文句を言うな女々しい女め」

「私が文句あるのは女の顔平然とひっぱたく貴様じゃい! がるるるる!」

「どうどう……はいはいどうどう」

 暴れるあさひをなだめるナガレ。


 その様子を見て、蒼月は溜息を吐いた。


「まるで動物園だな」

「あぁ!? 飼育員さんのつもりか!? てめぇも一皮剥けばケダモノだろうが暴力男が」

さえずるな。うっとうしい」


 乱暴に吐き捨てた後、蒼月はふと背後からの気配に気づいた。


「騒がしいから黙っていろ。人の言葉がわかるならな」


 ぷるぷると震え、あさひの顔が赤から白に変わる。

 それは、怒りで人を殺すような、そんな顔だった。


「忠臣蔵が起きる理由がわかるな」

 ぽつりと小さな声で、あさひを見ながらカイは呟いた。


 足音を立て、わざとらしく近づく気配。

 そちらに蒼月は向き、見つめる。


 そして――彼女が現れた。

 かつて紅朱雀と呼ばれた、本物の天才が。


「おや。君は誰かな?」

 蒼月は姿勢を正し、頭を下げた。


「チームイクリプスのリーダー、皇蒼月です」

「ああ。次の相手か。挑戦状でも叩きつけに来たのかな?」

「いえ、貴女に会いに」

「ふむ。……皇ということは、もしやあの皇グループの?」

「はい」


 それを聞いて、赤羽は寂しそうに微笑を浮かべた。


「そうか。それなら、君は私に文句を言う権利はあるだろう。十年前、皇グループには相当の出資をさせてしまったのだから。君の両親には改めて謝罪をしなければ」

「いや。それは良いんです。両親は貴女に不満などありません。ここに来たのは、俺の個人的な理由です」

「ふむ。それなら、聞かせてもらっても?」

「……いや、まあ言いたいことはあったのですが……"そんなこと"より言うべきことが出来た。文句を言うとか、これはそれ以前の問題だ」


 小さく溜息を吐いて、蒼月は吐き捨てた。


「あんた。随分と堕ちたな。仮にも天才と呼ばれたあんたが、お遊戯会か? なんだあの連中は?」

 親指で、開かれた扉の向こうを指差した。


「私が天才と、あいつらの頭が遊園地なことは違う話だろうに」

「無駄な時間を使うなと言っている。あんたならわかるだろう。凡人にかまけているだけ無駄だってことくらい」

「貴重な意見ありがとう。参考にさせてもらうよ。さ、挑戦状は受け取った。君は戻り給え」


 へらへらと笑いながらの赤羽の言葉に、蒼月は黙り込み静かににらんだ。


「すまないね。大人は子供の戯言をいちいち真に受けないものなんだ」

「っ! ――」

 口をぱくぱくさせるも言葉が出ないらしく、蒼月は口を噤み、赤羽に背を向けた。


「はやくお帰り」

「俺は未だに、紅朱雀と比べられ続けている。かつての再来だ天才だとな。下らないことにな」


 おそらく、それが最初の本題だったのだろう。

 言葉の隅々まで、忌々し気な感情が灯っていた。


「――そうか。それは本当に下らない話だ。次それを口にする馬鹿がいれば私の元に連れてくれば良い」

 蒼月は何の返事もせず、静かに、消えるようその場を後にする。


「……本当、下らない話だ」

 その背を見送りながら、赤羽は口の中で小さく呟いた。


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