楯の弱点
二戦目。
小規模大会で参加チームの少ないため、事実上の準決勝となる。
コックピットの中にいるあさひは、赤羽顧問より参加のお許しこそ出たものの、大人しくしておくよう命じられ、大層ご不満な様子だった。
自分的には、問題はない。
多少体調が落ちることなんて皆あることだろうに。
とはいえ、赤羽やカイが心配しているからの判断ということもわかるから、あさひはしょうがなく受け入れていた。
『どうしたあさひ? やはりきついのか?』
無言となったからだろう。
カイはそんな言葉を投げてきた。
『俺様が先頭をしてやっても良いんだぞ?』
ナガレ……ではなくラガラの言葉は純粋に心配していることがわかる。
彼のやりたい悪役が、なんとなく見えてきた。
お膳立てをして皆を喜ばせる、引き立て役であり、ツンデレ。
そんな縁の下の力持ちこそが彼の理想の形なのだろう。
そう……彼のプロレスは、純粋に自分の活躍を観客に見せつけたいわけではない。
盛り上げ、ベビーフェイスの活躍を観客の目に焼き付けて、みなが幸せな気持ちを持ち帰ってほしい。
そんなナガレだからこそ、チームとしてこれ以上なく信頼出来た。
「……本当、拾い物だったね」
『まったくだ。来年が楽しみでしょうがない』
カイもその意見には同意を見せる。
正直、人間の成熟度という意味で言えばパイロットチームの中でもラガラは一枚抜けている。
それは一年早い生まれというだけが理由じゃないだろう。
『あん? 何の話だ?』
「にゃんでもないよ。むしろ警戒行動の先頭しか私の出番がないことに不満があるってお話ー」
『良いじゃねぇか別に。ようはカイや顧問は決勝戦であんたを使いたいから温存してるって話なんだし』
「あー。そういうことか。それなら我慢――二人とも! 正面から来たよ!」
あさひは叫び、サブマシンガンを取り出し、引き金を絞る。
軽い反動がコックピットを微震させ、無数の銃弾が敵の位置を浮かび上がらせた。
『ラガラは前に! あさひはラガラのカバー! こっちも敵確認! 一機はコヨーテでもう一機はバンシー! 残りは……なんだあれ。あさひわかるか?』
「たぶん柳のアレンジ機。けど大分邪道な改造してるから性能面はわからないかな」
『邪道?』
「腕も足も別のパーツ流用してる。もはやキメラだよ」
『キメラね。……予算不足の可能性もあるが、まあ油断する意味はないな。あさひはばらまき続けろ。ラガラはもう数歩前に』
それだけ指示し、カイのアステロイド・ブルーは静かに木々の間に消えた。
おそらく、回り込む算段なのだろう。
「ちぇー。美味しいところを持ってくつもりだー」
ぶつぶつと呟きながら、あさひはマシンガンを気楽にばら撒いていく。
当たっているかどうかもわからない上に、有効射程の外から。
それでも気にもせず。
相手はシングルアクションなのか、銃声に合わせて単発の弾丸がひゅんひゅんと脇を抜けていく。
同時に、直撃コースの弾丸はすべてアキレスの楯が軽々と打ち消していた。
影に隠れて撃つ。
たったそれだけで、これほど一方的な状況を作れてしまう。
単なるサブマシンガン一丁で三人を足止め出来ているのは、紛れもなく"アキレスの楯"の耐久性能によるものだった。
「その機体、完全な格下殺しになってるねぇ」
『……相手は予算が足りない"ツギハギ"の装備なのに、こっちはこれか。悪者になるのは光栄だが、なんか嫌な気分だ』
ぽつりと呟くラガラの言葉に、ついあさひは笑ってしまった。
「ラガラ。勘違いしてる」
『あん?』
「相手はね、そのツギハギの装備で勝ち残ってここにいるんだよ? 同情は失礼以外の何物でもないし……それ以前に、同情出来るほどの余裕もない。油断してるし一気に食い殺されるよ?」
そう……確かに戦況はこちらに傾いているが、それは油断して良い程ではない。
特に、多くを未経験である初心者のラガラは。
『……確かに、相手に対してリスペクトがなかったな。……あさひ、圧をかけるため前進する。後ろは任せる』
「オーライ。お任せあれ」
じりじりと、一歩ずつゆっくりとラガラは前進する。
その牛歩は、わざとであり、挑発。
すべての攻撃を受け、跳ね返すという絶対王者としての風格を以て――。
「あ。やばっ。ラガラすぐに後退。やばいやばい」
ツギハギ機の持つ妙にゴテゴテしたSFチックな銃を見て、慌ててあさひは叫ぶ。
ラガラの悲鳴が響いたのは、その直後だった。
『ぐあっ! な、なんだこれ!? バリアが一気に減ったぞ!?』
「いわゆる光線系だねー。一種の防御無視系だから相性悪いよー」
ハンドガンに持ち替え、ツギハギ機に狙いを定め射撃を重ねる。
ハンドガン程度で中距離の相手を倒せるとは思っていない。
ただ、ここで牽制しておかないとアキレスの楯がデフレクター切れだけでは済まなくなる可能性があった。
『ど、どうしたら良い!?』
「とりあえず下がってー。それで大丈夫だから」
どうやら、こちらが接近するまで、光線系武装を敢えて隠していたらしい。
戦術という意味なら、相手の方が一枚上手なようだ。
この流れを変えないためか、相手三機は綺麗に横の連携を取りながら、どしどしとこちらに近づい来る。
おそらく、先に厄介なアキレスの楯を落とす算段なのだろう。
(ここで連携を崩さないか。それならまだ何とかなりそう)
もしも、この状況で連携を崩し最速で突撃されたら、状況は少しばかり不味かった。
「ラガラ! 後ろ歩きで全力後退! こけそうになったら支えてあげるから!」
『わ、わかった!』
バックステップから、アキレスの楯はダッダッと大地を踏みしめ後退していく。
流石は高級機、後ろに走るという普段行わない動作でもしっかりバランスが取れている 。
「走りながら聞いて。エネルギー系の兵装は基本、距離減衰が大きい。だから距離さえとればアキレスの楯なら耐えられる!」
光線系と名打ってはいるものの、SFに良くあるレーザーやビームとは大きく性質が異なる。
光をそのまま圧縮し弾丸に加工したというのが、かなり強引な解釈となるが、近しい例えだろう。
強力な兵装種であることは間違いない。
特に、重装甲や強固なデフレクターに対しては大きな成果が見込める。
だが、決して扱いやすい万能兵器というわけではない。
むしろリスクや欠点が非常に多く、運用に極めて難のあるというのが正しい評価となるだろう。
少なくとも、うちで運用することは当分ないはずだ。
性能もそうだが、主に予算の問題で。
アキレスの楯を庇い、サブマシンガンとハンドガンを片手ずつに持ち、あさひは援護射撃に徹する。
徐々にだが、距離が開きつつある。
もう既に、あいての光線系武装の有効射程から外れたはずだ。
これが、連携の弱み。
連携を取る場合、機動力の低い機体に合わせなければならなくなる。
だから、中量級混じりの相手三機は、軽量二機であるあさひ、ラガラコンビに追いつけない。
相手の最適解は、ツギハギ機を置いて軽量二機で先行し、こちらの動きを阻害して光線系の有効射程を維持することだったはずだ。
『それで、これからどうするんだ!?』
ラガラの慌てた声が響く。
「どうするも何も、十分役目を果たしたでしょ。だって私、無理するなって言われてるし」
ちょっと拗ねた口調であさひは呟いた。
『は? それはどういう……』
ラガラの問いに答える必要はない。
なにせその答えは、すぐ目の前に表される。
相手三機左側に居る機体、コヨーテは側面からの弾丸をぶち込まれ身体を大きく揺らし、動きを停止させた。
相手が混乱するよりも早く、流れるように、"光線兵装持ちのツギハギ"も背面強襲を受ける。
ツギハギという性質通り防御性能は低かったらしく、ツギハギ機は一瞬で撃沈判定を受け機能を停止した。
ツギハギ機がリーダーでなかったから、終了のブザーは響かない。
けれど、この状況になったらもうあまり関係はないだろう。
機体の性能ではなく、ライフルの性能でもなく、立ち回りと間合いのみで、カイは三機を一瞬で追い詰めた。
「……あれを見ると、サバゲーって例えはわかるなぁ。私には絶対真似できないけど」
射撃が苦手というわけではない。
だが、あさひが出来るのはただ狙って撃つという行為のみ。
それで出来るのは精々一機を落とすことまで。
こんな風に王手をかけることは出来ない。
射撃戦術が出来るのと出来ないのが自分とカイの最大の差だとあさひは感じていた。




