へぇ~すごいですね!
「おまえぇ! アレはないだろうアレは!?」
試合終了後、機体から降りて即、カイはあさひを問い詰めた。
なぎさやメカニック・整備員たちが周りにいることなんて気にさえせずに。
何かあるだろうとは思っていた。
トンチキメカオタクのあさひと天才赤羽顧問の組み合わせである。
何もないなんてわけがない。
が、流石に【二丁拳銃近接格闘術】なんてどこぞの映画じみた代物は想像さえしていなかった。
「あはははは! ちなみに発案は私じゃなくて赤羽顧問だよ。モチーフは映画だって」
「知ってるよ!」
「だよねー。ま、単発火力は低いけど応用力はあるし、許してね。きゃぴっ」
ウィンクをしながらぶりっこポーズ。
黙ってたら可愛いのは確かだが、中身がケダモノ過ぎて正直気味が悪い。
この頭鎌倉武士と比べたら薩摩だって大人しい部類に入るだろう。
「まあ、使えるのはわかった。理屈ではありえないと思ってるが、出来ているんだからしょうがない」
「いやー人って不思議だねぇ」
「不思議なのは人間じゃなくて、お前だ。んで、ラガ……じゃないな。マスク取ってるから。ナガレ、大丈夫か?」
疲れた表情のまま、ナガレは微笑んだ。
「おう。体力的には大丈夫だ。ただ、ちょっと乗り物酔いしたかな」
「緊張と興奮による脱水症状だろう。しっかり水分を取って休んでくれ。達臣先輩。バイタルはどうでした?」
呼ばれ、パソコン画面を見ながら達臣は答えた。
「ナガレのバイタルに影響はない。軽い精神的疲労だろう。むしろカイの方が揺らぎがある」
「マジか。そんな自覚はないんだが……」
「なんだかんだ言ってリーダーとして指揮していたからな。精神的な疲労は強いはずだ。それで、あさひは――」
「あ、私は大丈夫なんで」
あさひはニコニコ顔で、そうきっぱりと言い切った。
沈黙が、場を支配する。
正直、あさひの言葉を疑わない奴は、この場には誰もいないだろう。
「……あさひ、正直に言え」
「んー、ちょいと疲れた感じ。胃がぐるんってします。でも大丈夫まだ戦えますはい!」
きっぱり断言するあさひだが、当然信用はない。
カイはちらっと、達臣の方を見る。
達臣はなんとも言えない表情をしていた。
思ったより悪いけど、リタイアするほどではない。
そんな辺りだろう。
「あーこほん。カイ君。ちょっと良いかい? あ、洒落じゃないよ?」
なぎさがドヤ顔で尋ねてきた。
「……なんですか?」
「あさひちゃんの体調が不安な時は自分の元に来るようにと、赤羽顧問から伝言を預かっているんだが――」
「なるほど。あさひ。わかってるな?」
あさひはびしっと、まっすぐ挙手をした後、駆け足で赤羽の元に走っていった。
「……まあ、あれだけ元気があれば大丈夫だろう」
「いやぁ。わからないよ。彼女、頑張り屋さんだからさ。自分の体調なんて軽く誤魔化すよぉ?」
なぎさの言葉に、カイは静かに顔を顰めた。
「まあ、あいつのおかげで初戦は危ういことなく勝てた。が……次からはそうもいかないだろう。ナガレもゆっくり休んでくれ。最低でも一時間は休憩がある」
カイの言葉にナガレは頷く。
「カイ君も休んでくれたまえよ。後のことは我々バックアップに任せてね!」
「はい。神楽坂先輩がた、後のことはお願いします」
ぺこりと頭を下げ、カイはナガレと共に控室の方に戻った。
しばらく控室で、カイとナガレの二人はゴロゴロとしていた。
別にあさひを女扱いしているつもりはない。
それでも、やっぱり野郎だけだからだろう。
二人とも完全にだらけきった状態で、頭空っぽで会話をしていた。
さっきの試合で大したことが出来なかったとか、次はもう少し考えて動きたいとか、そんな前向きなことを言うナガレ。
もっとヒールらしい言動をとか謎の煽りを口にするカイ。
普段の自分では絶対に言わない軽口が口から零れて、ようやくカイは自覚した。
自分もまた、相当疲れているのだということを。
真面目なことを考えるのが、面倒になっていた。
これは不味いと思い、糖分補給にチョコレートを口に入れる。
そんなタイミングで、静かなノックが響いた。
二人はばっと身体を起こし、背筋を伸ばす。
「どうぞ」
きりっとした口調でカイが答えると、扉が開かれる。
そこには見知らぬ女性が立っていた。
「すいませーん。【メカニカルグラフティ】の者ですが、ちょっとお時間よろしいでしょうかー?」
きょとんとした顔の後、ナガレはカイに尋ねた。
「メカニカルグラフティって?」
「いや、知らない……」
そんな二人の態度を見て、女性は悲しそうな顔で記者証を見せた。
「イクス・ユニット関連の雑誌です……」
「す、すみません。それで何の用事でしょうか?」
「あ、取材です。インタビューよろしいでしょうか? 一応顧問からの許可は得てますよ?」
「顧問の名前は何でした?」
「赤羽顧問ですけど、何かありました? もしかしてもう一人顧問いましたか?」
「いえ、何でもありません。ただの確認です」
そう、確認。
本当に許可を取っていたのか、そして赤羽を紅朱雀と呼ばなかったのか。
つまり、かつて十年前の事故を掘り下げに来たのかの確認をカイはしていた。
「というわけでインタビューなのですが……えっと、どうでしょう? 受けてもらえたりしますかね?」
ちょいと不安そうに、見上げる記者は尋ねてきた。
「あー。えっと、誰にでしょうか?」
「誰でも構いませんよ。受けてくれるだけで感謝です! 珍しい機体を操るリーダーの竜胆一族でも、二丁拳銃の赤い機体を操る最強ゲーマーでも、最新鋭を持ってきた未知なる三人目でも、誰でも!」
ふんすと鼻息荒い記者を見て、カイは表情を曇らせた。
「……悪いが俺はパスだ。竜胆の家の落ちこぼれでな、俺が取材を受けたら家に迷惑がかかる」
「そんなことは……いえ、おうちの事情ならしょうがないですね」
「それで、あさひは、女性パイロットは今顧問と"打ち合わせ中"だ。そっちで会わなかったか?」
「ん-私が許可貰った時にはいませんでしたねー」
「そうか……。いや、正直オフレコにしたことなんだが、三人目は良い機体を与えられただけの実は初心者でな。あまり目立つと――」
記者はカイの言葉で、ある程度の事情を察し、小さく頷く。
初心者が強い機体に乗って活躍する。
それだけで世間からバッシングに晒されるだろう。
その上、取材まで受けたなら倍率ドンだ。
「あー。それは下手打てばメンタル潰れますねぇ。そういうことなら、残念ですが今回の取材は諦めましょうか」
「ああ。すまな――」
そう言いかけて、カイは気づいた。
その横で、覆面を被った男がいることに。
変質者同然の大男は、腰に手を当て、胸を張り、自分の出番を待っている。
カイはうっかり、忘れていた。
ナガレは基本人当たりが良く、真面目で気遣いが出来る男だが、中身で言えばあさひの同類であったと。
「……すいません。予定変更で、三人目の取材をお願いします。もちろん、没にしてくださっても構いませんので……」
「いえいえ! むしろ通ると思いますよ。うちの会社、こういうの大好きなんで!」
「それ、会社として大丈夫なんですか?」
「あはははは! 大丈夫じゃないから、お二人ともうちの雑誌知らなかったんだと思いますよー」
なんとも、ぐうの音も出ない正論だった。
そっとそれっぽいマイクを持ち、ちょっとプロレスを意識して、記者はマイクをラガラに向けた。
「えっと、まず、名前をお伺いしても?」
「おう! 俺様は『ラ・ガラ・デル・ディアブロ』! 地獄よりの使者。悪魔の狂爪よ! 俺様のことはラガラと呼べ」
「ははー! それでラガラ様はイクス・ユニットの搭乗歴はどのくらいで?」
「残念ながらぺーぺーのぺーぺー。ライセンス取り立てのひよっこよ。ゆえに! 悔しいことに人間程度の後塵を拝すことになっておるわ! まったくもって忌々しい!」
「ほうほう。初心者さんと。ではあの機体は?」
「ま、運が良かったって奴だな。もちろん、あやつのスペックはあの程度ではない。もっと暴れ相手を屈辱に満ちさせてくれるわ!」
「力強いお言葉ですねぇ」
「当然だ。これでも枠を奪い取った責務があるからな。俺様がナンバーワンになるまでの間くらいは、チームに従ってやるとも。最低限はな」
大胆不敵にニヤリと笑い、ラガラはカイを挑発的に見た。
「ほほー。つまり下剋上狙いと」
「逆だ。本来ならば俺様がトップとなることが当然なのだ。俺様は悪魔の狂爪。すべてを引き裂いてこそ本懐よ!」
「なのに盾なんですね」
「仕方あるまい。だがな、侮るなよ。屈強なる盾の裏に爪が潜んでないとは限らぬのだからな」
「なるほどなるほど! では、ラガラ様のそのお姿について尋ねてもよろしいでしょうか?」
おずおずとした質問に、ラガラはジロリと記者を睨む。
その後、しょうがなさそうに溜息を吐いた。
「無礼な質問だが、仕方がない。何でも答えてやろう」
「ありがとうございます。では、その覆面姿はやはり……」
「うむ! 当然、プロレスよ! プロレスこそ我が魂! いずれプロレス世界の頂点も取ってやろうではないか!」
「なるほど。プロレスラーでPDの二足の草鞋を履く予定なのですね」
「違う! 俺様は悪魔! つまりすべての世界すべてを履きつぶすのだ!」
「失礼しましたぁ! 最後に、自由記述ですが何か読者に伝えたいことはありますか?」
「そうだな……。我が僕となり俺様を応援する者がいればありがたく思う。もちろん、俺様を恐れ、潰そうとすることも構わん。悪魔は誰の挑戦でも受けるからな! ぐははははは!」
「はい。それでは取材は以上になります。ありがとうございました」
「はい、ありがとうございました」
記者が頭を下げると、ラガラもそれに合わせ、ぺこりと頭を下げた。
「うーん。少しパンチが弱いですね」
「え? 本当ですか? 結構頑張ったつもりなんですが……」
「そうですねぇ。こういうのは中途半端だと本当に悪人っぽく見えるんです。もっと開き直った方が観客も楽しめますよ。具体的に言えば10万歳を超える悪魔のお方みたいに」
「なるほど。そりゃ説得力ありますね」
「はい。なので、後で少々脚色して、その原稿をお持ちしますので確認してください。もちろん、そちらからゴーサインが出ない限り雑誌には載せませんので」
「あ、それは助かります。お手間をかけ申し訳ありません」
「いえいえ。取材を受けて下さったのですからそれくらいは。では、休憩時間にあまりお邪魔したら悪いのでこの辺りで失礼しますね。名刺は顧問の方に渡してますので何かあればそちらにお願いします。ではではー」
女性はニコニコと本当に嬉しそうに何度も頭を下げ、そのまま部屋を退出した。
「……ナガレ、お前凄いな」
「え? 何が?」
「いや、よくあんなすらすらと取材とか出来るな。緊張もせず」
「まあ、レスラーなんて目立ってなんぼだし」
「……これからも取材が来たら任せて良いか?」
「もちろん! むしろ回してくれ」
そう言って、ナガレはどんと胸を叩く。
これ、思ったより大分良いチームじゃないか。
そうカイは悔しいながらも一瞬思ってしまっていた。




