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『R.I.S.E.:Over the Sky』~銀髪美少女が浪漫を貫くようです~  作者: あらまき
紅を超える蒼

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不愛想な黒と、無表情の銀


 竜胆戒は卑怯者である。


 恵まれた環境と才能がありながら、劣等感から早々に諦め何もしなかった。

 半端者でさえなから、卑怯者としか表現出来ない。


 自分の限界から逃げ、家族と向き合うことを拒絶し、たったそれだけの理由でイクス・ユニットを捨てた。


 だというのに、こうして中途半端に未練たらしくイクス・ユニットに関わっている。

 だから、彼は自分を卑怯者と罵り続けていた。


 いや、自分とさえ向き合えない卑怯者だったからこそ、眩しかったのだろう。

 天羽あさひという存在と、彼女のイクス・ユニットとの向き合い方が。


 ひたむきで、どこまでもまっすぐ。


 しかもそれは、日向のような温い、舗装された道などではない。


 女性というハンデだけでも大事おおごとなのに、虚弱体質という特大のハンデを背負っている。

 普通の人ならこの時点でパイロットは諦める。


 その上、かつて事故で大怪我まで負っている。

 後遺症もあるだろうが、それ以上に怖いはずだ。


 そんな荒れ果てた航海を、羅針盤もなく突き進み続けている。

 コロンブスのような存在のいない中で。


 前代未聞挑戦を、まっすぐ突き進める。

 その在り方が、あまりにも眩しかった。


 折れてしまった自分だからこそ、誰よりも彼女の偉大さが理解出来ている。


 このまま彼女が折れず、挫けず突き進んだら、きっと自分など足手まといになるだろう。

 情熱も何もない人間がやっていけるほど、パイロットというのは甘い世界ではないのだから。


 もし本気で彼女が全国大会を目指すのなら、必ず"もう一人"パイロットが必要になる。

 やる気のない、『全国なんて絶対に勝てない』と確信している自分の代わりのパイロットが。


 そう……カイは別に変わったわけじゃない。

 ただ、あさひに目を焼かれただけ。


 いまだ彼は、イクス・ユニットという存在に大した愛着を持っていない。

 カイがパイロットを続けようと思ったのは、もっと即物的な感情。


『あさひが行きつく先が見てみたい』

 だからきっと、彼にとって彼女は眩し過ぎて、太陽みたいだった。




 ――なんてシリアスなことを考え彼女に付いていったことを、カイは死ぬほど後悔していた。


 あいつの誘いだから、RAEオンラインかと思っていた。

 けれど、連れていかれた場所は人の多い野外だった。


 そのあげくに求められたのは着替えだった。

 嫌な予感しかしない中、よくわからない、用意された格好に更衣室で着替えさせられた。


 そして今、カイは一人で写真を撮られ続けている。


 そう――コスプレである。


 どうして……とか、何故……とか、そんな単純な疑問さえ、ここで答えてくれる人はいない。


 あさひとはぐれ、完全なる別行動で、カイはただカメラに囲まれ、ぱしゃぱしゃと連写をされていた。


「やっぱり、良く似合う」

 永遠とも感じる被写体としての時間の末、あさひの声を耳にし、カイは怒りを抑えながら振り向く。


 そこに居たあさひは、紫のワンピースを着て、髪を後ろに束ねポニーテールのようになっていた。


 そう――コスプレである。


「……おいあさひ。これはどういうことだ?」

「やめて」

「……は? あ、こういう場所で本名を言うなってことか。すまな――」

「いや、そっちは別にどうでも。ただ、表情を付けないで。淡々と話して。私たちは、そういうキャラ」

「……は?」

「背格好も似てるから、あとは淡々としていれば良い。一応設定を言えば、黒の死神と呼ばれた暗殺者。それが貴方。私はその仲間」

 そう言って、あさひは人差し指を使って自分の口角を上げ、笑みを作ってみせた。


 普段は"ゲラ"の癖に。


「……なんで俺がこんなことをしているのか、説明しろ」

「……良いね。そんな感じの話し方で続けて」

「ふざけろ。……まあ良い。春先には向かないが、そこまでおかしな格好ではない。気にしないでおこう」

 今カイが身に着けているのは黒をベースとした代物で、私服とそこまで差はない。


 強いて言えば、暑苦しいコートが仰々しくて大分異質なくらいだが、他のレイヤーよりははるかに常識的な恰好と言えるだろう。


「むしろあさひ。お前その髪はどうしたんだ? ショートカットだっただろ?」

「事前に、地毛でウィッグとかエクステを作ってる」

「……そこまでやるのか」

「コスプレは、魂を燃やす物。私はそう思ってる」

 そう言って人差し指で再び口角を上げた。


「……そうか」

「あと、これも」

 そう言ってあさひは、カイに白い仮面を手渡した。

「……なんだこれは」

「貴方の、仕事道具」

 カイは静かに顔を顰めた後、受け取った。


「顔を隠せば良いのか?」

「持ってたら、良い」

「そうか。……そうか…………」


 あまりにも苦渋に満ちた表情だったから、あさひは笑いを堪えるのが大変だった。


「じゃあ、後はお願い。私は売り子をやってくる」

「あ、おい! 俺はどうしたら良いんだ!?」

「このまま、コスプレしてて。撮影は、受けても受けなくても良い」

「そっちを手伝わなくても良いのか?」

 ぴたりと、あさひは動きを止める。


 そして、カイをまっすぐじっと見つめだした。


「……来たいの?」

 短い、単なる問い。


 そのはずだ。


 そのはずなのに……何故か、得も言われぬ恐ろしさが身体を覆っていた。

 それはまるで、相手に銃口を顔面に向けられたような、そんな感覚。


 それは間違いなく、踏み込んではならない――間合いだった。


 カイは唾を飲み込み、静かに首を横に振った。


「そう。……賢明」

 それだけ言って、あさひは静かに道の奥に消えていった。


 そこでようやく、カイは気づいた。

 この場の女性人口が妙に多いことに。


 特に、あさひが向かった同人誌即売会の会場方面は、ほぼほぼ十割女性しかいない。


 その事実に気づいた瞬間、カイは震えあがるような猛烈な恐怖に襲われた。




 そうしてすべてが終わり、電車の中……。

「はいお疲れー! これ、バイト代ね」

 あさひは心地よい疲れの中、カイに封筒を手渡した。


「いや、俺、ただコスプレして写真撮られただけなんだけど……」

「一緒にあわせも沢山撮ったねー。記念に貰ったけど見る?」

「ごめんこうむる。というか、あんまり俺と仲良くしたら不味くないか?」

「……なんで?」

「いや、お前彼氏がいるだろ」

「いないよ?」

「あいつは? いつも一緒にいる……」

「お友達。だからあんま気にしなくても良いよ。というかカイに意識されたらちょっと気持ち悪い」

「安心しろ。俺も正直言ってて気持ち悪くなった」


 双方共に、照れ隠しでもなく本音十割。

 お互いに、こいつだけはありえないと感じている。


 それは仲が悪いということではない。

 そして同時に、この嫌悪が逆転することもない。


 ただ、パイロットであると魂に刻み込まれているだけ。

 だから、彼らは異性ではなく、仲間でありライバルだった。


「失礼な、でも気持ちはわかる。これ単なる興味本位なんだけどさ、カイの好みってどんな感じ?」

「考えたこともないが……少なくとも、嬉々としてパイルバンカーをぶち込むようなタイプではないな」

「じゃ、私は無理だ」

「最初からそう言っているだろうに。黙ってたら可愛いけど、口を開いたら狂犬と武士のハイブリッドバーサーカーだからなお前」

「そんな可愛いなんて……」

「都合の良い耳し過ぎだろうに」


 そう言って見つめ合って、二人で笑う。

 ようやく、下らない冗談が言える程度には、仲間になれたような気がした。


「それでさ、マジで俺が金貰える理由がわからないんだが……」

「今回の出資者は私の友達。あ、高校の時のね」

「お嬢様学園のか」

「そう。彼女はまあ……俗に言う"壁サークル"でしてね。それもマイナージャンルをこよなく愛する」

「ふむ。つまり?」

「稼いだ金をジャンルの盛り上げに使うという永久ループをする生命体」

「……それだけ?」

「それだけ」

「それだけで、お前をコスプレさせて売り子にして、俺をコスプレさせて放置したのか?」

「バイト代が不満なら口聞いておくけど?」

 カイは行儀が悪いと思いつつ、そっと封筒の中身を見る。


 万札が、束になっていた。

 たぶんだが、二十万円はあるだろう。


「……んで、不満は?」

「――ない」

 多少おぼっちゃんとして育った自覚のあるカイだが、この金額が異常なことだけは理解出来た。

 というか、金額に狂気を感じる。


「あさひ、お前は今日のバイト代、全部部費にするんだろ?」

「当然。そのためだし。あ、でもカイは気にしないで良いからね。それはカイが身をもって稼いだものだし」

「いや、俺もそれで構わん。一緒にしておいてくれ」

 そう言ってカイはあさひに封筒を返した。


 少し受け取るのを躊躇したあさひだが、微笑を浮かべ受け取った。


「ありがと」

「礼はいらん。……ところで、これは怖いもの見たさなんだが……」

「ん? 何?」

「その壁サークルとかいうお友達の書いた本って、どんなタイトルなんだ?」

「えっと今日の新刊は……確か『てるてる×暴威 ~電気ショックで絶頂賛歌~』と『頭脳は大人なら合法だろ? 黒の凌辱』の二冊だったかな?」


 静まり返った、他に誰もいない電車の中。

 カイは静かに、天井を見上げる。


 これほどまでに、己の好奇心を後悔した日はなかった。










黒を『くろ』以外、銀を『ぎん』以外に読んだ人はお友達。

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