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『R.I.S.E.:Over the Sky』~銀髪美少女が浪漫を貫くようです~  作者: あらまき
紅を超える蒼

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部外者


 箱舟……ARCのガレージを、祐希は遠巻きに見つめていた。



 いつでも入って良いと言われている。

 それでも、その足が前に進む気配はなかった。


 あさひとはいつも一緒にいる。

 部活が開いている時は本屋や文具店に通い、喫茶店で一緒に勉強したりカラオケに行ったり。


 だから、祐希はアークについて概ねの事情を理解していた。


 この短期間で、部員は二人増えた。

 ライセンス取得こそまだだが、パイロット枠三人目もじき満たせる予定である。


 それでも、まだ足りない。

 あさひ、カイ、莉央、ナガレ。


 部活の認証を受けるには、五人。

 あと、一人――。


 祐希にだってわかっている。

 自分が、何をすべきかなんて。


 あさひのために、わずらわしい部員集めなんてさっさと終わらせて、本業のライズに専念させてあげるべきだ。


 そもそも、アークはまだ何を目指すかさえ決めていない。

 部員不足だから、見通しさえ立っていない。

 全国大会予選は当然狙うとして、それ以外にどの大会を目指すか。


 もしくはいっそ海外での経験を積むか。


 バトルや機体についてもそうだ。

 現在バトルに使える機体は最低限の三機のみ。

 これで大会に行くのは少々心もとない。

 じゃあどんな機体を入手し、どう改良するのか。


 決めることは無数にある。

 彼女の楽しいことが、たくさん待っている。


 だから……だから、自分が――。


 影山祐希には、わかっている。


 それでも――祐希の足は動かなかった。


 変わることが、目立つことが、知られることが。

 怖くて怖くて、足はその場で震えていて――。


 ぽんと、後ろから肩を叩かれ祐希はびくんと身体を震わせた。

 おそるおそる振り向くと、そこにはなぎさが立っていた。


「なぎさ……先輩?」

 いつものようなどや顔混じりの笑みではなく、なぎさは祐希を真剣な表情で見つめ、そして首を横に振った。


「君の事情はわかっている。無理しなくても良い」

 その言葉で、祐希はなぎさの表情が同情なのだと理解できた。

 だから、悔しくて、悲しかった。


「でも……僕は……あさひさんの友達で――」

「いざとなればどうにでもできる。……君があさひちゃんの友達でいてくれている。それで十分。十分過ぎる程、君は頑張ってるよ」

 何かを言おうとしたが、言葉が出てこなかった。


 何も言い返せない。

 何も、反論できない。


 祐希は逃げるよう、その場を後にした。


『それで十分』


 その言葉にほんの僅かでも安堵してしまった。

 その事実が情けなくて――祐希は、心の底から自分が許せなかった。




 気分転換と現実逃避を兼ねて、祐希はゲーセンへやって来た。


 人は少ないが、寂れ切っているわけでもない。

 人の気配が苦手な祐希にとっては、ちょうどいい穴場だった。


 店内を見回しながら、一人でも遊べそうなものを探す。

 もっとも、店の規模としても祐希の趣向としても、その候補はあまり多くないが。


 とりあえずクレーンゲームの景品を眺めて歩いてみた。


 特に欲しいものがあるというわけではない。

 だからだろう。

 視線が向かうのは、自然とあさひの好きそうなイクス・ユニットのフィギュアやプラモデルばかりだった。


 その後、ガンシューティングの筐体の前に立つ。

 幾つか筐体はあるが、フットペダルや身体センサーもない、シンプルなガンコンだけの物を選択する。


 前にあさひとやった時の、多数ボタンのあるわちゃわちゃした奴も嫌いではない。

 だが、こういう無駄を省いた無骨なガンシューティングの方が祐希の好みにはあっていた。


 百円を入れ、銃を構えゲームをスタート。


 敵が現れる瞬間に合わせ、タン、タンとリズミカルに指を切り一瞬で雑魚を退場させる。

 祐希は普段の気弱さなど欠片も感じさせない洗練された動きだった。


 ハンドガンの反動、ブローバックに物足りなさを感じながら、精密な射撃でステージを容易くクリアしていく。


 そのまま、一度も危なくなることなく祐希はゲームをクリアした。

 ミスは後半の難所で一度だけ。残りはノーミスで当然ノーコンティニュー。


 スコアもぶっちぎりで一位。

 場末のゲーセンとはいえ、なかなかの結果と言えるだろう。


「ふぅ」

 腕に感じる心地よい疲労感を、小さく溜息と共に吐き出した。


 楽しい。

 一人でもそう感じられたことに、祐希は安堵を覚えていた。


 ちらりと、時計を見る。

 思ったよりも、時間が潰れていなかった。


「……体力的に、もうちょっとだけ何かしたいな」


 クレーンの景品があればチャレンジするが、今は特にない。

 格闘ゲームなんかはあまり得意じゃないし、身体を使ったものも基本苦手。


 あと何かやるものあったかな。


 そう思いながら探すと、珍しく『RAEオンライン』の筐体に空席があるのを発見した。


【R.I.S.E. - Arcade Edition Online】


 要するに、ライズの高度なシミュレーターである。

 もっとも、基本は一対一のシングルマッチだったり、現実には存在しない機体が登場したりと、実機との違いは少なくないが。


 中でも最大の違いは、娯楽向けに負荷やストレスが極限まで取り除かれていることだろう。

 だからこそ、誰もが最高のコンディションで操縦できる。

 機体の性能も、パイロットの技量も、まるでエースになったかのように。


 どのゲーセンでもRAEオンラインは目玉であり、遊ぶために並ぶ必要があるため、空席が残っているというのは本当に珍しいことだった。


 RAEオンラインの筐体には、レースゲームのようなシート式と、個室型のコックピット式の二種類が存在する。

 祐希としては後者が良かった。


 機能も多いし、何より他人に顔を見られずに済む。

 だが、人気の高いコックピット式はほぼ予約制。

 空いているはずもなかった。


 仕方なくシートへ腰掛け、気休め程度のシートベルトを締める。


 それから"ライセンスカード"を端末へ通した。


 当然、本物のライセンスではない。

 RAEオンラインのプレイヤーデータを保存しただけのゲーム用カード。

 機体登録から戦績管理、電子決済まで、このカード一枚で済ませられる。


 正面モニターに自分の機体が表示され、選択した瞬間――祐希は被っていた帽子が外れ、視界が広がった。


「あー! やっぱり可愛い! ねぇねぇ君一人!? ゲーム好きなの?」

 いきなり声をかけられ、祐希はびくんと身体を震わせた。


 気づけば、数人のニヤついた女性が筐体の周りに集まっている。

 そのうちの一番近くの一人。

 彼女は、祐希の帽子をその手に持っていた。


 悪意がないのは、わかる。

 おそらく、単なるナンパなのだろう。


 それでも……。


 祐希の脳裏に、あの日の光景が蘇る。


 複数の女性に囲まれ、必死に耐えることしかできなかった、中学のあの頃。


 祐希は、自分のうかつさを呪った。

 今まで無事だったのは、あさひと一緒だったから。


 変わったんじゃない。

 変わったつもりになっていただけ。


「ねー? 聞いてるー? あ、私結構強いけど一緒にやる? ねぇねぇ。それともやらない感じならカラオケでもどう?」

 少々派手な服装に、ブランドらしきバッグを持っている彼女たちの姿が、昔のクラスメイトと被る。


 息苦しくて、ここから逃げたい。

 なのに、膝がどうしようもないくらい笑っていた。




 事情はよくわからない。

 あさひはただ、なぎさから祐希を探すよう言われただけ。


 けど、この状況が良くないことだけは理解できた。


 あさひは急ぎ、助けようと祐希に駆け寄って――。


「何をしているのですか貴女たちは!?」

 けたたましい怒鳴り声を、あさひはすぐ隣で耳にした。


 祐希を囲っていた三人はその姿を見て、すぐぎょっとした表情に変わる。


「ま、真琴まこと様!? どうしてここに?」

「そんなことはどうでも良いです! 三人で一人を囲って……何をしようとしているのですか!?」

「えっ? いや、その……ナンパ……です……」

「そんな、一人を嬲ってなんて女の風上にも……へ? ナンパ?」

「…………は、はい」

「あ、あら? そう、ですの。ごめんなさい。てっきりリンチでもしてるのかと……。でも、そちらの殿方も怯えていらっしゃるので、一旦三人はその殿方からお離れ下さいませ」


 それだけ言って、真琴と呼ばれた彼女は、隣にいるあさひの方に向き、頭を下げた。


「うちの部の者がご迷惑をおかけしました。天羽様」

「い、いえいえ! ……ってあれ? どうして私の名前を?」


 もう、何から何まであさひは状況についていけていなかった。


「あちらはともかく、わたくしは貴女を探しておりましたので」


 彼女はあさひに微笑み、スカートの裾を軽く持ち上げ、お嬢様学園だった頃を思い出すような丁寧な挨拶を披露した。


「わたくしの名は真琴。鳳学園大学一年、すめらぎ真琴と申します。天羽あさひ様、あなたを――スカウトに参りました」


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