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『R.I.S.E.:Over the Sky』~銀髪美少女が浪漫を貫くようです~  作者: あらまき
紅を超える蒼

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待ち望んでいた三人目


 そうして翌日放課後。

 あさひはガレージで、わーわーと嬉しそうに彼女を紹介した。


「というわけで、パイロットじゃないけど三人目の部員となってくれた莉央ちゃんです。はくしゅー!」

 自分と同じくらい小柄で、自分と違って華奢で繊細で可愛らしい。


 そんな女の子は……ぷるぷると真っ赤な顔で俯いていた。

 理由は当然――メイド服。

 もはや一人学園祭である。


「……まあ、色々ツッコミたいところはあるが、気にしないでおこう。ありがたいことに、常識人のようだしな」

 カイはぶっきらぼうにそう呟いた。


「こ、この格好で常識人って……」


 涙目で抗議する莉央に、カイは死んだ魚のような目で返した。


「その反応が答えだ。……お前も、その……まあ、頑張れ」


 なぜメイド服を着ているのかは分からない。

 だが、トラブルメーカーどもの被害担当であることだけは、悲しいほどに理解できていた。


「そんなに恥ずかしいなら、女性陣皆メイド服を着るというのはどうだろうか?」

 なぎさのトンチキな一言にあさひは迷わずサムズアップ。

 何故かわからないが、二人にはとても良いアイディアに思えるらしい。


 木を隠すには森の中のつもりなのだろうか。

 だが実際はメイド服集団となるだけで、莉央の恥は上乗せされるだけではないだろうか。

 そう思ったカイだが、下手なことを言えば自分までメイド服を着せられる流れになるような気がしたから、そっと口を噤んだ。


「君子危うきになんとやら……」

 小さな声で、カイは呟く。

「え? え?」

 おろおろとする莉央をよそに、あさひとなぎさは二人でそそくさと奥の部屋に消えていった。


「……なんか、すまん」

 達臣は静かに莉央に謝罪をする。

 特に悪いことをしたわけでもないが、なぎさの行動に強い罪悪感を抱いていた。




 それからしばらくして、顧問である赤羽がガレージに訪れた。


 眉をひそめながら、片手にバインダーを持って。

 悩み事が多いのか、最近はその顔がデフォルトとなっていた。


 そんな彼女を出迎えたのは、銀色メイド美少女だった。

「おかえりなさいませ、ご主人様!」

 そう言って、あさひは元気良く挨拶をする。

 赤羽は、ぽかんとした表情で一瞬固まった。


 莉央は赤面しながらもあさひの隣にいて、なぎさはその背後でミニスカメイドとなってどや顔を披露。


 それは、赤羽の頭脳でさえ全く理解出来ない状況だった。

 理解したくもないし、する気もない状況の方がより正確な表現となるが。


「……コスプレ会場か?」

 赤羽はなぎさにジト目を向けた。


「新人の歓迎会さ! 赤羽先生もどうだろう? その赤い髪はメイド服に映えると思うのだが? だが!?」

 なぎさの言葉に赤羽の眉間に刻まれた皺がより深くなった。


「アラサーだぞ? ごめんこうむる。……まあ、お前らの奇行はいつものことなのだが……ふむ」

 じろじろと三人を見つめ、一言呟いた。


「けばい引率と中学生見習い二人か」

 その言葉に、三人は言葉と共に表情を失った。


 いつも能天気な笑みのあさひも、赤面しおどおどしていた莉央も、あの自慢げな笑みのなぎさも、皆が呆然と立ち尽くしていた。


「よし静かになったな」

「……あんた、鬼だな」

 カイの一言に赤羽は笑った。

「鬼じゃない。天才だ。ほれ、さっさと話し合いを始めるぞ。神楽坂兄妹は……ま、別にいても良いか」


 赤羽はバインダーの中から書類を取り出し、テーブルに広げる。

 それは、生徒たちの名簿だった。


 名簿と言っても個人情報の大部分は秘匿済みであり、載っているのは名前、性別、学年、それに簡単な戦績くらいのもの。

 必要な資料ではあるが、教師としてプライバシーへの配慮は欠かしていない。


 とはいえそのプライバシーの所為で、赤羽はこれを準備するだけのために徹夜する羽目となった。


「あさひとカイの条件になるべく一致させつつ、私が使えそうと思った奴をリストアップした。好きに選んで口説き落とせ」

「えと、あの、何の話を……」

 おどおどしながら莉央が尋ねた。


「ん? ああ、パイロット候補の選出だ」

「あ、ありがとうございます」

「構わん。意見があるなら遠慮するな、お前は部員なんだから。逆になぎさは何も言うな黙ってろ」

「おやおや。私の扱いが酷くないだろうか? 泣くぞ? 泣いてしまうぞ?」

 なぎさの演技を赤羽は無視した。


 あさひが紙の束を持ち、カイと莉央はそれを横から見つめた。


「ふむふむ……。結構沢山いるね」

 ぱらりぱらりとめくっていると、カイがさっと手を挟み、めくる手を止めた。


「ちょっと待った。そいつを詳しく見せてくれ」

「ふむ? えっと……『アルト・クルルギ』。ハーフさんですか。私と同じだね」

「……えっ」

「ん? 何その反応」

「いや……お前……ハーフなの?」

 あさひはどや顔で自分の輝く銀髪を指差した。


「いや、ちょっと特殊過ぎてな……まあ、言われてみたらそうか」

「と言ってもパピーずっと昔に帰化してるから、国籍そのものは純日本人だけどねー。んで、このアルト君が……」


 カイが気になった理由は、非常によくわかる。

 年齢二十七という自分たちより赤羽顧問に近い年齢。

 その上、外国育ちの元軍属。


 短い間だが、軍に所属し訓練を受けて居たらしい。

 気にならないわけがなかった。


「いや、これは無理だな。すまん。飛ばしてくれ」

「なんで? 結構良くない? 頼もしいじゃん」

「逆に頼もし過ぎる。というか外国育ちで異色の経歴。年齢も違っている。来てくれるなら構わないが、スカウトするには少し不穏だ」

「ふぅん。そっかー。じゃ誰が良いかな?」

 ぱらぱらとめくるあさひの手が、ある時ぴたりと止まった。


『二十六木流』


「随分変わった名前だな。……身長百八十五に体重九十。デカいな、だが悪くない。コックピットを特注にすることになりそうだが……」

「そ、そういうのはうちができますよっ」

 莉央の言葉にカイは頷いた。


「助かる。それで、あさひはそいつの何が気になったんだ?」

「わかんないけど……なんかティンと来た」


 直観頼りすぎるあさひに、カイは怒るべきか呆れるべきか、少しだけ悩んだ。


「まあ、そういう直感を馬鹿にするつもりはないが……。先生、この流って奴の情報他にないか?」

「あん? いや、ないことはないが……さて、どこまで話すべきか……。プライバシーだからなぁ……」

「あんたの目から見てどうだ? うちでやっていけそうか?」

「そうだな。悪くないと思う。善良だし、入ってくれる可能性も高い」

「それ以外の目で見たらどうなんだ?」

「即戦力の期待はできんな。完全な未経験者だ」

「ふむ……。他に話せることはないか? あさひが何に気になったのか知りたい。単なる直感と言えばそれまでなのだが……」


 赤羽は小さく溜息を吐いた。


「はぁ……お前はお前で妙に面倒な奴だな。……そうだな。話して問題なさそうなことは……実家が忍者なことくらいか」

 尋ねたのは自分である。


 けれど、その言葉を口にした赤羽をカイは少しだけ恨んだ。

 存在しないはずの、なぎさの狐耳が一瞬跳ねたような気がした。


 そしてあさひは……。


「行ってきます!」

 そのままガレージを飛び出そうとするも、カイに首根っこを掴まれ静止させられた。


「待て」

「止めないでカイ! これはもう運命なんだよ! だって忍者だよ忍者! メイドと忍者が一緒に集うことになるんだよ!」

「そのメイド服のまま外に出るな。まあ、それで恥をかくのはお前だから百歩譲って良いとしよう」

「じゃあ、何が問題なの?」

「どこにいるかも知らない相手を探しに飛び出すな」

「……あっ」


 あさひはようやく動きを止める。

 そしてその後、赤羽に媚びるような目を向けた。


「赤羽顧問様。どうか平に、平に」

「……そう言われるとなんか教えたくなくなるんだよな。まあ教えるけど」

「えへへ。んでどこにいらっしゃる感じで?」

「今日はもう帰っただろうから明日にしろ。明日来たら教えてやる」

「そんな! このたぎった情熱はどうしたら良いと!?」

「知らんがな」

 赤羽は吐き捨てた後、あくびを噛み殺しながらバインダーを回収。

 そのままさっさとガレージを後にした。


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