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『R.I.S.E.:Over the Sky』~銀髪美少女が浪漫を貫くようです~  作者: あらまき
PROJECT: ARC

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PROJECT: ARC (前編)


 天羽あさひが『神代かみしろ科学技術大学』に通いだしてから、一週間が経過した。


 入学式からオリエンテーションを迎え、講義の履修登録という準備期間もつつがなく終わり、ようやく大学生活に慣れてきたという実感が持ててきた。


 ゲート前に立ち、IDカード代わりの学生証をパネルに通す。


『神代科学技術大学ロボティクス学科一年 天羽あさひ』


 慣れたというのに、この文字列を見るとあさひはいまだに頬がにやけそうになる。

 特に、ロボティクスの文字。

 これがまた良い味を出している。


 特に意味があるわけでもない文字列だけれども、この文字だけであさひはご飯が三杯いける気がした。


 認証を受け、開かれたゲートを通りキャンパス内に入る。

 どこか楽しそうにしている私服姿の若者がちらほらと見えた。


 騒がしさはなく、自然に囲まれゆったりとして。

 世俗とは時の流れが隔離されたように感じる、のどかな時間。

 中小規模の大学らしい、穏やかでのほほんとした空気が流れている。


 こんな空気も、あさひは嫌いではなかった。




 一限が始まるまでの時間、教室。

 あさひは、どこか挙動不審な様子となっていた。


「なんだかそわそわしてるね。大丈夫?」

 そんな風に声をかけられ、あさひは隣を見る。


 大学で出来た新しい友人が、不安そうな顔でこちらを見ていた。


 彼の名前は影山祐希。

 大学入学後に出来た、今のところ唯一の友人である。


「心配させてごめん。あと、おはよう祐希」

「あ、うん。おはよう天羽さ……じゃなくて、あさひさん」

 他人行事ではなく、ちゃんと名前を呼んだことを褒めるよう、あさひは微笑を返した。


 ふと、あさひは祐希の前にある雑誌に気が付く。

『ミリタリー・ウェポンズ』

 名前の通りの雑誌であり、つまるところ祐希はミリタリーと呼ばれる好む趣味を持っていた。


「あ、もしかして邪魔だったかな?」

 本に向けられた視線に気づき、祐希はおどおどと不安そうに尋ねる。

 まだ数日の付き合いだが、それでもあさひが断言できる程度には、祐希は気が弱い。

 ただ雑誌を読んでいただけなのに、それがいけないことであるかのような態度だった。


「まさか。好きな物があるってのは良いことだよ」

「ありがとう。でも講義始まるし、やっぱり片付けるね」

「そう気にしなくても良いと思うけどねぇ」

 呟きながら、あせあせと雑誌を片付ける祐希の横顔をあさひは見つめる。


 彼、祐希は見惚れるほどに綺麗な顔をしていた。

 と言っても、アイドルやホストのような美形というわけではない。

 それならば、世の女性たちは彼を放置なんてしない。


 むしろ彼の容姿は、そういった美形方面の逆方向。

 本人は気にしているだろうから口には出さないが、彼の美しさは女性的な側面も多分に混じっている。


 つまるところ、彼は、中性的な美形と呼ばれる類のものだった。


 更に言うなら、その美しさも天然というわけではなく、化粧の力を多分に借りているからこそ。

 一切メイクをしない男子が多いから、逆にそれが特徴的に見える。


 メイク男子とかいう奴なのだろう。


 そのきめ細かい肌、その美白。

 ぶっちゃけ女子力では確定で負けている。

 メイクとか一から教えて欲しい。


 女装しても絶対に違和感はない。

 むしろ女装の方が似合うまでありそう。


 失礼な考え方を連発しているあさひだが、そのおかげで、あさひは祐希と気楽に友達でいられた。

 男と女が二人でいても、悪目立ちすることはなく、邪推もされない。


 彼の外見、臆病なまでの気遣い、空気。

 そのすべてが、彼をそういう恋愛的な空気から遠ざける。

 いや、はっきり言えば、彼は誰からも男性として見られていない。


 だから、あさひは異性でありながらも心地よくもお気楽な距離感を楽しむことが出来ていた。


「っと。私も準備しないと」

 祐希のことばかり考えていたあさひは、はっと我に返り、バッグのものをテーブルに出していった。


「おや、素敵なペンケースじゃないか。素敵な"赤"なのか"ベネ"だね!」

 背後から聞こえる、どこか気取ったしゃべり方。

 それにあさひは聞き覚えがあった。


 あさひが振り向くと、そこには想像通りの顔が。


「やぁやぁあさひちゃん。おはよう! 素晴らしい朝だね」

 神楽坂なぎさの笑みは、相も変わらず胡散臭いものだった。


「えっと……あさひさん。お知り合いですか?」

 祐希の言葉にあさひは小さく頷く。

「うん。彼女はかぐ――」

 あさひの言葉を遮るよう、なぎさは自分で自己紹介を始めた。


「私はなぎさ。君たちの一つ上の学生で、あさひちゃんの大親友さ。よろしく頼むよ。それで君は……」

「あ、影山祐希です。祐希と呼んで下さい。えと、こちらはなぎさ先輩と呼べば良いでしょうか?」


 先の会話の空気を読んだのだろう。

 祐希は苗字を尋ねず、下の名前を素直に呼んだ。


「うむ! 自己紹介ありがとう。そして好きに呼んでくれて構わないとも、祐希ちゃん」

 その言葉に、あさひは苦笑する。

 きちんと男性の恰好をして、それでちゃん付けされるのがまた祐希らしかった。


 祐希は困った顔で呟いた。

「えっと……ちゃんは、勘弁してもらえないでしょうか?」


 きょとんとした後、なぎさは少しだけ、ほんの少しだけ申し訳なさそうな顔になって、「申し訳ない、祐希君」と口にした。


「それで、えっと……なぎさ先輩は、どうしてここに?」

 祐希は首を傾げ、尋ねた。


「……まあ、私を探しに来たんですよね?」

 あさひがそう口にすると、なぎさは笑った。


「おや? おやおやぁ? 何故そう思ったのかな?」

「他に理由がないからですよ」


 そう……去年、再会を約束した。

 箱舟を取り戻す同志となった。


 だからこそ、このタイミングでなぎさがあさひに接触するのは必然に等しくて――。


「残念だが、外れだよ。あさひちゃん」

「……えっ?」

「うむ! 君がそう思うのも無理はない。ただね、私は……君たちと一緒に受講しに来ただけ。それだけなんだよ」


 その言葉を聞いて、二人は無言になった。


 沈黙が、流れる。

 きょとんとした顔のまま、二人は互いの顔を見合い、再びなぎさの方を見た。

 いかにも、自信満々という表情の、小悪魔的ななぎさを。


「あの……これ、一年必修科目なのですが……」

 心底言いづらそうに、あさひは呟く。


 それを聞いて、なぎさは微笑のまま、彼らの方に顔を寄せ、小さな声で囁いた。


「ふふ……この講義を舐めたら痛い目に遭うよ?」


 そう、いかにもな感じでなぎさは二人を脅した。


 あさひは教科書に目を向ける。

 けれど何度見ても、そこに書かれているのは『微分積分』という文字だけ。

 落とし穴があるようにはとても見えなかった。

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