↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『R.I.S.E.:Over the Sky』~銀髪美少女が浪漫を貫くようです~  作者: あらまき
紅を超える蒼

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/84

求める人材は三つの心を一つに出来る人です


 結局宣言通り、カイが大会を早々にリタイアして、さくっと賞金だけ貰ってきた。

 あさひは不満そうだったが、それが正しいと理屈でわかるから、大っぴらに文句を言うことはなかった。


 そんな、数日後。


 ARCの保有するガレージの中、あさひは黙々とペンを走らせていた。


 いつものような、ふざけた態度はない。

 その表情は真剣そのものだった。


 カイはその様子を黙って見つめる。


 銀糸を紡いだような静かに輝く銀を靡かせ、憂いを帯びたその姿はさながら深窓の令嬢かのよう。


 こうしてその姿を見ると、あんなトンチキ機動を繰り広げたパイロットとはとても思えない。


「それで……こんな真剣な様子で勉強してるが……もしかして、ライセンス試験まずいのか?」

 カイは不安そうに、赤羽に尋ねた。


 イクス・ユニットのライセンス試験、その学科はさほど難しいものではないはず。

 少なくとも、神科大に入れるだけの学力があれば難なく突破出来るだろう。


 なのにこんな真剣な様子になるというのは……。

 正直、カイは不安を覚えずにはいられなかった。


 カイの質問を聞いた赤羽は静かに眉を顰め、深い皺を露わにする。


「……そ、そんなに悪いのか?」

 赤羽は静かに、心底納得いかないような表情で、首を横に振った。

「逆だ。こいつ、頭は良いんだよ」

「は? なんで今こんな真面目に勉強してるんだ?」


 しばらくの時間沈黙した後、赤羽は呟いた。


「今やってるのは、上級ライセンスCの学科テスト模試だよ」

「はぁ!? なんでライセンスも持ってない奴がそんなもん勉強してんだ!? というか、なんで上級Dを飛ばしてるんだ!?」

「さっきその上級Dの模試で満点だしたからだよ……」

 ようやく、カイは赤羽の険しい顔の理由を理解する。


 いざやる気になったはいいものの、満点が当然過ぎて学ぶ意味がない。

 そんな有り余るやる気の解消先として、自主的に上級ライセンスの勉強まで始めたそうだ。


 どう考えても頭の悪そうな発想と行動の癖に、その頭脳は赤羽が唸る程度には優れているらしい。


 まったくもって理不尽だ。

 カイは、世の不条理を感じずにはいられなかった。


 赤羽は小さく溜息を吐いた。

「……いや、ちょっと想定外だ。マジでこいつ頭が良い。教師として言ったら失格だが、カイ、お前の倍くらいはこいつ出来るぞ」


 別にカイが馬鹿というわけではない。むしろ平均以上の学力を持っている。

 その上で、あさひの学力はそれを超えている。

 地頭という意味だけでなく、純粋な学力としても。


「……そんなに出来るのか?」

「私もさっき知ったんだがな……こいつ、『桜蘭鈴ヶ原女学院』の卒業生なんだよ……」

 カイは――絶句した。

 絶句せずにはいられなかった。


 驚きすぎてすべての言葉を忘れ、ただただあさひを化け物を見るような目で見つめることしか出来なくなっていた。


 確かに、桜蘭鈴ヶ原女学院というのは近隣県含めたトップオブトップの超難関女学園である。

 けれど、本命はそこじゃない。

 カイが本当に驚いたのは、この学校が“お嬢様校”であることの方。


 つまり……。


「こいつ……"こんな"なのに、お嬢様なのかよ……」

 慄きながら、カイは呟いて……。


「こんなんって失礼な。これでもちゃんと周りには溶け込んでたし、結構人気もあったのよ?」

 とうとう我慢できず、あさひはペンを止め会話に混じった。


 苦言を呈すように反論はしている。

 けれど張本人のあさひもそこに怒った様子はなく、むしろこの扱いを妥当とさえ思っているフシがあった。


「へぇ……。意外だな。ロボのロの字もない場所で上手くやれてるなんて」

「実際その通り過ぎてめっちゃ苦しかったです」

「だろうな。……いや、悪いがそういう風には全然見えんな」


 カイはあさひを頭の先からつま先までジロジロ眺めながら、そう呟く。

 黙って座っているだけなら、お嬢様にも見えるだろう……一万歩譲ってだが。


 だが、口を開けば"メカだ""ロボだ""熱血だ"で、機体を操る様は血に飢えた落ち武者。

 そんな生き物がお嬢様なわけがなかった。


「なああさひ。ちょっと“ごきげんよう”って言ってみれないか?」

 赤羽の言葉を聞いて、あさひはにこりと作り笑いを浮かべ、礼儀正しく頭を下げた。


「ごきげんよう、赤羽様。今日も心地よい朝ですわね」


 赤羽は、自らの嫌悪感を隠そうともせず歪んだ表情をあさひに向けた。

「うっわ身体ぶるった! きもちわるっ!」


「ちょっ。さすがに失礼じゃないですか先生!? ねぇカイ、ちゃんと似合ってたでしょ?」


 カイは非常に言いづらそうにしつつ、ぽつりと呟いた。


「似合ってたけど……だからこそ気持ち悪かった。俺も背筋がぞわっとした」

「あはははは。ぶちころがしてさしあげましょうか」

 にこにことお嬢様モードのまま、あさひは怒りを彼らにぶつける。


 二人は、これこれと安心したような、ほんわかとした表情となっていた。




「んでまあ、さっきのは記憶から抹消するとして……」

 赤羽はまるで自分に言い聞かせるように告げ、咳払いを一つ。

 そして、本題を告げた。


「あさひのライセンス試験は問題なさそうだから一旦棚上げし、部員集めに集中する。もっと正しく言えば、"三人目"についてを話し合いたい」


 赤羽の言葉に、二人は頷いた。


 箱舟と称されるARCは人数が届かず、今だ部としての正式な認可が降りていない。

 今はまだ猶予期間としてなあなあになっているが、あまり長時間このままだと部の設立に差し障ることとなるだろう。


 だから部員を集めるのは最重要なのだが……この場合、ただ誰でも良いというわけではない。


 ライズバトルというのは、三人一チームでの競技であるからだ。

 つまり、最低人数としても後一人パイロットが必要となる。

 あさひとカイに連なる、三人目が。


 そしてそいつは、この癖の強い二人どちらとも相性が良くなければならない。

 だからこそ、赤羽は癖の強い二人に、どんなのが良いか程度の"方向性"を、事前に聞く必要があった。


「というわけで、何らかの希望はあるか? 先に言っておくが、経験者というのは諦めろ」

「やっぱいない感じ?」


 あさひの言葉に赤羽は言いづらそうに言葉を濁した。

「いや……そういうわけじゃないんだが、あまり好ましくないというか、未経験の方がマシというか……」


 あさひは、なんとなくだがよろしくないことは察した。


「よし、詳しくは聞かないでおこう。んじゃ、先生的にはどんな人が来て欲しい?」

「そうだな……。射撃や弓道、剣道の経験者なんかは助かるな。運動神経や体力なんかは、あればあるだけありがたいし、特技を機体に生かせれば、初心者でも伸びは早くなる」

「確かに。主人公みたいな生い立ちは必要だね! カイは何か希望ある? まあカイの言いそうなことは大体予想つくけど」


 ちょっと小ばかにした感じであさひはそう口にする。

 さっき馬鹿にされた、小さな仕返しであった。


「ふむ。じゃあ、俺の言いそうなことを言ってみてくれ」

「あいあい。こほん……。『あさひが近距離、俺が中距離。なら合理的に考えて遠距離のできそうなパイロットが望ましい。きりっ』って感じ。どう? 当たってない?」

 あくまで揶揄いモードだが、カイはそんなあさひを相手にもしていなかった。


「まあ、悪くない着眼点だが俺としてはむしろ逆だな。三人目は近距離戦が望ましいと思っている」

「えっ? どうして? 同一行動式オールインワンの連携スタイル派?」


 プロのライズバトルにて、連携は大きく二種に分類される。


 一つが、全機の行動パターンを同一形式に寄せる"オールインワン"スタイル。

 統率のとれた軍隊のようと言えば、想像はしやすいだろう。


 もう一つは、全機が別の行動パターンを取り、互いを援護し合う"カバーリング"スタイル。

 サッカーやバスケのポジションのように自分の専門分野に特化させ、出来ない部分は他人に頼る。


 絶対にこの二つのどちらかを採用しなければならない……というわけではないのだが、この二つを基準にライズの連携は考察される。


 そのどちらが優れているというわけではない。

 ただ、カイなら前者のスタイルを好みそうだと、あさひは考えた。


「いや、オールインワンだとあさひの個性を潰す。むしろあさひを伸ばす方向で三機目のパイロットを選出するべきと俺は思っている」

 カイの言葉に、赤羽はにやりと笑った。

「ほぅ。面白そうだな。少し語れ。聞いてやる」


 顧問が興味を持ったということの意味を理解して、カイは理屈の解説に入った。


「ああ。まず、よほどのトンチキが来ない限りうちはあさひを主軸としたチームになる。理由はいるか?」

「いや、いらな――」

「いるでしょ! なんで私!? カイの方が強いのに!?」

 あさひの叫びを二人は冷たい目で見つめた。


「俺はある程度どんな戦術にも合わせられるが、お前は無理だろ」

「うっ」

「そもそも、お前他人に合わせるとかそういう発想あるのか?」

「うぐっ」

「だから、お前を生かす戦術を考える必要があるというわけだ。ちなみに戦略は顧問が考えるから、俺たちはそれに合わせるだけ。ちなみにだが、戦術と戦略の違いはわかるか?」

「うぐぐっ」

「というわけで、文句はないな?」

「あーりーまーせーんー」


 完膚なきまでに言い負けたあさひは、静かに唇を尖らせた。


「じゃあ話を戻すが、あさひをチームの軸として考えると、どうしても欠点が一つ生まれる。あさひ、わかるか?」

「んー……まあ、私の欠点なら、体力かな? 射撃も得意じゃないけど、この場合ならそっちの話でしょ」


 カイはあさひの言葉に苦笑いを浮かべた。


 射撃の技量・センスともにあさひは決して劣っていない。

 むしろ優れている。

 ただそれ以上に近接のセンスと操縦技術が高いだけで。

 パイロットとしては天性のものがあると言っても良いだろう。


 反面、"安定性に欠ける""拘りが強い"など多くの欠点を持つ。

 そして本人の自覚通り、最大の欠点はその体力。

 そもそも、生まれついての虚弱体質であるあさひはイクス・ユニットの操縦そのものに向いていない。


 ただでさえ、健常な成人男性ですら音を上げる過酷な環境である。

 そこへ虚弱な少女が飛び込もうというのだから、無茶にもほどがあった。


「そう、体力だ。長時間の戦闘は危うい。正規のバトルで全力を出せるのは、精々一試合五分程度だろう」

「たった五分かぁ。まあ、出来るだけ体力は付けるつもりだけど、正直期待できないんだよねぇ」


「……すまん」

 赤羽は、蚊の鳴くような声で囁いた。


 あさひの身体は自分の事故のせい。

 そのせいで……。


「ん? いえ先生。私の虚弱体質は元からですよ?」

 それは庇ったわけでも慰めでもない。

 あさひの虚弱は生まれた時からずっとだった。


「……そう、なのか?」

「はい。むしろ入院後の方が調子良かったくらいです。なので気にしないでください」

「――ああ。すまん、話を中断した。続きを言ってくれ」


 重くなった空気を誤魔化すよう、カイは少し大きめの声で説明を再開した。


「その全力の五分を開幕に使うなら良い。けど、そうでない場合はどうなると思う? 特に、序盤からあさひが狙われ、体力を消耗していたら」

「あー……そっか。体力ないとバレたら集中砲火を受けるのか。そりゃ私、穴になるなぁ」

「穴と言うほどじゃないが、俺が敵ならお前という札を封じるためそう作戦を立てる。だからこそ、俺が三人目に求めるのは――」


 赤羽はこくりと頷き、答えを言う。

「カバーリング主体か」

 カイは静かに頷いた。


「ああ。あさひをカバーしつつ暴れ回って、なおかつ最後まで体力が途切れない奴。つまり、あさひの足りない体力分動ける奴ってのが、俺の考える理想的な三機目だ」

「なるほど。戦略としては微妙かもしれんが、面白いな。私としては、やる価値は十分あると思うぞ」


 赤羽はカイの考えを理解し、ニヤリと笑った。


「んー。なんか介護されてるみたいで悪いなぁ」

「違う、チームワークだ。そんな意図はない」


 そうカイは言うが、実際はそういう意図も多分に含んでいる。


 将来的にあさひが全国大会に出て、その上で活躍させるなら、そういう"パートナー"は必須となる。

 そんなチームに出来たら……と、カイがずっと前から考えていた。


 そして誰にも打ち明けるつもりはないが――本気で全国を目指すのならば、もう一人パイロットが必要になる。

 自分を、正規パイロットから外すために。


 全国レベル。

 つまり――兄のいる場所。


 そこへ自分は、絶対に届かない。

 もしARCが全国へたどり着くなら、その時の自分は間違いなく足手まといになっている。


 四人目の正規パイロットが育った時点で自分は正規の座を譲り、指導役と予備に回る。


 それが、カイの中では最初から定められていた結論だった。




 あさひは二人の会話を聞き、腕を組んで考え込む仕草を見せた。


「ん……。良くわからないから、ロボットアニメに例えて」

「だから……俺はアニメも漫画もゲームも知らん……」

 呆れたカイを後目に、あさひはちらっと赤羽の方を見た。


「お前は一号熱血馬鹿だ。わかるな?」

「うぃ」

「んで、カイ。こいつ二号陰険性悪馬鹿。わかるだろ?」

「うぃ」


 ジト目で見て来るカイを、あさひは無視した。


「つまりは、ゲッター〇ボだ。なら、三号はどういうタイプかわかるな?」

「方針はわかった!」

「どうしてそれで通じるんだよ……」

 呆れながらも、省略会話の便利さに少しだけ、カイは自分ももう少しアニメを勉強するべきか、少しだけ悩んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。