少しだけ未来のお話(振り返り)
真っ暗な部屋の中央に、スポットライトの明かりが照らされる。
丁度明かりの当たる位置に立っていた少女は、がちがちに緊張している様子だった。
カチコチで、見ている方が不安になってくるような姿。
そんな雰囲気なのに……何故か彼女は『メイド服』を身にまとっていた。
黒いワンピースに白のフリルエプロンという、正統派のクラシカルメイド。
服装は、限りなく本物に見える。
けれど、メイドらしさはまるでない。
本人がかなり小柄で、その上おどおどした態度の所為で中学の学園祭、そのコスプレのようになっていた。
彼女は中央に一人で立ち、カメラの前に向かい、ばっと頭を下げる。
深いお辞儀だが、マナー講座が見たら零点を出すであろう、礼儀もへったくれもない作法。
その後、カンペを見ながら話しだした。
「は、はじめまして。神科大一年生、小森莉央です。えと、今日は"振り返り"? という事情でARCについての紹介をするよう命じられてしまったので、えと、お話したいと思います」
ぽつりぽつりと、ギリギリカメラが拾えるような小さな声でそう言って、莉央は再びぺこりと頭を下げる。
その後、おたおたした後カンペをじっと見つめて、ゆっくり深呼吸。
どうやら緊張で真っ白になってしまったらしい。
「ま、まずARCというのはえっと、あぷらい……ど? ろぼちっくこんすと……? こほん! 『宇宙空間向け汎用作業用ロボット・応用研究及び構築事業部』の略で、ARCです!」
赤面しながらも、莉央は強引に誤魔化した。
『Applied Robotic Construction & Development Division』
通称『箱舟』。
「早い話が、【イクス・ユニット】で【ライズバトル】することを目的とした部活動です……って、これじゃあわかりませんよね。私もあまり詳しくありませんし……」
その後、カンペが彼女の元に届けられた。
『お前の言葉でわかりやすくしてみせろ』
「うぇっ!? アドリブはやめてって言ったのに……えっと、つまり……巨大ロボットで戦う部活動……であってますか?」
言い切った後、ちらっと部屋の外を見る。
『イクス・ユニットについて深堀りしろ』
「えとえと……五メートルから十メートルくらいの人が乗るロボットで、元々は宇宙作業用に研究されているのですが実用化まではまだ遠く、その代わり、こうして競い合う感じになってます」
『ライズバトルを深堀りしろ』
「ふぇぇ……。えと、三機と三機で戦いあう競技で、えと……プロとかあったりして、日本はちょっと出遅れてて弱くて……あと……あと……」
おどおどしながら、再び部屋の外に目を。
そこでOKサインを見て、莉央は安堵の息を吐き、話を次に移した。
「えと、それで今アークの部員は私含めて……ん? 紹介するのは二人だけで良いんですか? 良くわかりませんが、わかりました。では、部長の"天羽あさひ"さんと、エースの"竜胆戒"さんについてお話したいと思います」
そう言って、莉央はぺこりと頭を下げた。
「まず、ARCの中心人物である、天羽あさひさん。ロボットが大好きで、多趣味で、パイロットで、頭が良くてと沢山凄いことがあってちょっと羨ましいです」
『悪い部分も言え』
「……え? 悪いことも? ……うぅ……。背丈が私くらいで、ちょっと身体が弱くて心配です。あと……ああ、パイルバンカーに拘りが強すぎると思います。え? それは良いことだって? ……わからない。私には、わからないです……」
『パイルバンカーは浪漫だろうが。次』
「こほん。次は、うちの他称エースのカイさんです。竜胆という名門生まれで、一年生なのに色々経験者。新参の部活動でもなんとかなってるのは、顧問とカイさんの知識あってだと思います。あさひさんの派手な動きとは逆に、渋みがありますね。ベテランパイロット感が出てます」
『カイの悪いところも』
「うぅ……。人の悪口は嫌いなのに……。えと、ちょっとコンプレックスが凄い気がしますね。でも、優秀な人と家族ならそうなるのは、ちょっとわかる気がします……。あとは……悪いところって……」
『不愛想。むっつり面。鉄面皮。言え』
「い、嫌です! 次行きますよ!」
『なら、顧問の紹介をしろ』
「あ、了解です。顧問は"赤羽京香"先生です。学生時代、十年前にARCを立ち上げたその人でもあります。けど……悲しい事故がありまして廃部となってしまいました。なので今のARCはリバイバルということになります。……あの程度で三大事故に入れるのはどうかと思いますが」
最後の一文は、まるで吐き捨てるかのような言い方。
これまでのおどおどした態度とは違い、嘲笑するような、そんな表情だった。
「あっ! すいません。えと、そうして正式な部活とするため部員を集め、またその目的を……え? これを言え? ……はぁ。わかりました」
少しうんざりしながら、それでも緊張が解けてきたのか、指令通り莉央は少し過剰な演技をしながら語りだした。
「箱舟の終着点を見極め、轍を生む。それこそが彼らの生きる意味。夢を求め、流離う空の旅人に明日はあるのか……。も、もう良いですか!?」
真っ赤になりながら、莉央は叫ぶ。
その後ぺこりと頭を下げ、ぱたぱたと足音を立てながら部屋の外へ走っていった。
「こんなビデオどこで使うんですか……もう……」
そうぼやく声を最後に、映像は途切れた。




