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『R.I.S.E.:Over the Sky』~虚弱少女はいかにして浪漫を貫くに至ったか~  作者: あらまき
PROJECT: ARC

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エピローグ:再始動


 色々ゴタゴタしたものの、まあ概ねいつも通り。

 そんな数日の末、アークの部室――ガレージ一階に、一組の男女が腕を組み、テーブルを睨むように見ていた。


 テーブルの上には、一枚の書類が転がっている。

 そこには、見たくもない"修理代請求"の文字が写されていた。


 そう――先の大会に参加させたコヨーテ二機の分である。


 金額そのものは、巨大メカの修理として見れば破格なほどに安い。


 イクス・ユニット部活動始動助成金に、大会参加補助資金。

 無数の保険に支援にと、これでもかと絞れるだけ搾り取った達臣マジックにて、被害総額自体は奇跡の百万ぽっきり。


 二機大破を修繕するのにたったの二百万というのは、本当に奇跡としか言いようがないだろう。


 それでも一つ、どうしようもない問題があった。


 その二百万が、元手がない。

 もっと言えば、大会による賞金が手元にない。


 二人は、賞金そのものを手に出来なかった


「……本当、申し訳ない」


 あさひはしょんぼりしながら、カイに呟く。


「いや……連帯責任みたいなものだから気に……すまん、流石に庇うのは無理があるわ」

 何とか慰めようとしたカイだが、言葉が続かなかった。


 すべての元凶は、あの試合。

 今でこそすっきりした顔をしているあさひだが、どこぞの鎌倉武士の如く舐められたら殺すモードでカイに挑んだ。

 全力という言葉でさえ生ぬるいような修羅と化し、両足を粉砕しながらも必殺のパイルバンカーでカイを一撃のもと鎮めた。


 こう言うと、いかにもあさひが勝ちましたという風に見えるが、実際は微妙に異なる。

 あの試合の勝利者は、カイの方だった。


 理由は、自傷ダメージ。


 一撃必殺のパイルバンカーはその反動もまた凄まじく、元々ギリギリだったあさひのデフレクターを余裕で削り切った。


 じゃあカイの勝利なら問題ないのかと言えばそんなことはない。

 右腕破損に加え、腕部から胴体まで続く深い貫通痕。


 どう考えてもカイの機体は動ける状態ではなかった。

 即時修復で復旧出来る範疇を超えている。


 こういう時、通常は事前に登録していた予備機を使うことになっているのだが…… カイが登録していた予備機はコヨーテ一号機。


 つまり、両足完全大破し、二号機以上にボロボロとなったあさひ機である。

 というわけで、本来勝利し決勝に向かうはずのカイは戦うことが出来なくなって、不戦敗判定となり、三位に入れず受け取れた賞金も流れることとなった。


 準決勝試合であったため、どっちかが勝ち残ればそれで賞金がもらえたというのだから、色々と不運だったとしか言いようがなかった。


 まあ、正しくは不運などではなくあさひのやらかしだが。

 だから流石のあさひもちょっとばかし反省していた。


「おはよう君たち! 今日も良い朝だねえ!」


 扉を開け放ち、なぎさが悩む二人の元にいつものように元気良く現れた。


「あ、おはようパイセン」

「うむ! おはようあさひちゃん! それで、どうかしたのかね? カイ君と一緒にむっつり面をして」


 そう言ってからテーブルの上の請求書を見て、そして理解した。


「なるほどなるほど。それでカイ君に責められてたというわけか」

「人聞きの悪いことを言うな。責めてはいない」

「おや。そうかい? ま、どちらでも良いことだがね。……だが、あさひちゃんを焚きつけた私にもちょっとばかり責任はあるような気がするね。これは私がポケットマネーを持って処理をして――」

「そんなこと許すわけがないだろう」


 すぱーんと、激しく書類の殴打を背後から受け、なぎさは両手で頭を押さえる。

 その背後には、赤羽が立っていた。


 ただし、前の時とは違う。

 目に隈はなく、きっちりと化粧をして、そして地面に付きそうだった長い髪はばっさりと切って。

 きっちりと身だしなみを整えた赤羽は、女性の目から見ても頬が赤くなりそうな美しい容姿をしていた。


「なんかメロいですね。赤羽様」

「なんだそれ……。というかあさひ、その様付けは何の冗談だ?」

「え? いえ、憧れのお方なんで。恐れ多かったです? もっと何か付けるべきでした? それとも様付けも不敬でしたか?」

「お前、冗談は……いや、冗談じゃないのかこれ、もしかして……」


 赤羽は戦慄した表情で、なぎさに救いの目を向ける。

 なぎさはいつもの笑みのまま、大きく頷いた。


「説明しよう! あさひちゃんは私と違い、まっすぐな狂信型のため本気でそう思っているのだよ」

「いや、そんな説明はいらん。……というか、ちょっと待てなぎさ。その言い方ならもしかして貴様もか? 貴様もそんなふざけた態度なのに内心は同じなのか!?」

「ふふふ……それはご想像にお任せしよう」

「――心底わかりたくないのだが、ガチだって理解出来てしまったよ。ああくそっ。お前ら私を恨めよ……」


 ようやく、赤羽は本当の真実に到達した。


 彼女たち二人が紅朱雀のファンである。

 それは正しい。


 けれど、彼女たち二人は一般的なファンではなく、語源の『fanatic』の方に近い。

 完全に脳を焼かれここまで育ってきた。

 そんなだから、二人が事故に巻き込まれたことなど恨むわけがなかった。


「……ちっ! まあ良い。それでなぎさ。お前が金を出すというのは、顧問として認めない」

「そう、それだ! 何故か尋ねても?」

「お前が部外者だからだよ。ここは私のアークだ。違うか?」


 その言葉を聞いて、なぎさはにやぁと笑った。


 心底邪悪で、けれど楽しそうな。

 とてもなぎさらしい、そんな笑みだった。


「なるほど。顧問にそこまで言われたならしょうがない。諦めようじゃないか。それで、実際どうするつもりか尋ねても?」

「その前に……そこの二人。お前らも自分が出そうとか考えるなよ? なんかお前ら、お年玉とか真面目に蓄えてそうだから。とくにあさひ。あんたは将来自分のユニット持つために金貯めてそうな気配があるからな」

「な、なじぇしょれを!?」


 あさひは驚きを見せるが、ぶっちゃけこの場の全員がそうだろうなとは思っていた。


「……はぁ。残ったアステロイド・ブルーで修繕費を稼ぐ。それで良いな? パイロットはカイ、お前がやれ」

「ちょっ!? い、いや。待ってくれ。俺は……」

「先の勝負ではお前が勝った。違うか?」

「違う! あれは俺の負けだ。俺があさひに倒された。だから……」

「だ、そうだがあさひ。お前、反論はあるか?」


 あさひはふるふると首を横に振った。


「ううん。負けたことも、実力が劣ることも異論はないよ。アステロイド・ブルーもカイの方が喜ぶと思うし」

 カイが顔を顰める中、赤羽は気にせず会話を続けた。

「だそうだぞ。……あさひ、正直に聞くが、乗れないことに不満はあるか? 顧問として聞いておいてやる」

「本当にないよ。負けはしたけど、カイにも私を刻めたと思うし」

「……お前はお前で怖いな。というわけだ。ま、そもそもカイ以外に乗れる奴いないんだけどな」

「……どうしてだよ」


 カイはジト目でそう尋ねた。


「いや、どうしても何も、賞金を稼ぐと言っているだろうが。ライセンス持ちのお前が出ないで誰が出るんだ?」

「――あ」

「な? というわけで、まとめて方針を伝えておく」


 赤羽はホワイトボードの前に立ち、大きな文字で書き出す。

 それは凛々しく、同時に力強い綺麗な女性らしい文字だった。


『カイ:賞金稼ぎ』

『あさひ:ライセンス取得最優先』

『全体の方針:部活動正式認定を目指す』


『条件:PD3人含む5人の部員』


「以上だ。まずは正式に部とならないとアークとしての目標も目的も決められん。何か文句はあるか?」


 赤羽の言葉に、誰も反論はない。


 あさひはなぎさの方に目を向ける。

 なぎさは赤羽に見えないよう、小さく頷いた。


 嬉しさを、必死にこらえるように。

 あさひは、誰よりもなぎさが紅朱雀の復活を願っていたことを知っていた。


(おめでとう。パイセン)


 微笑みを向けると、なぎさはあさひに感謝を示すようウィンクを返した。


「おい。お前ら何か意見はないのか?」

 ジト目の赤羽に対し、あさひはしゅばっと手を挙げた。


「……なんだ? 一応言ってみろ」

「はい! サインとかお願いしたら書いてもらえますか!?」


 赤羽は先ほどのなぎさのように、あさひの脳天を書類で叩いた。



これにて第一話は終了です。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。


面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、ブックマーク・評価・感想などで応援していただけると大変励みになります。


しばらくは第二話の制作に取り掛かりますので、次回更新までお待ちいただければ幸いです。


それでは、二話にてお会いできることを楽しみにしております。


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