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『R.I.S.E.:Over the Sky』~虚弱少女はいかにして浪漫を貫くに至ったか~  作者: あらまき
PROJECT: ARC

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袋小路


 竜胆の家は、由緒正しき名門一族である。

 ライズバトルからユニット設計まで、親族の多くが第一線でイクス・ユニットと深く関わり続けている。


 ゆえにライズバトルにも一家言持っており、『竜胆流』なんて風に世間では呼ばれていたりもする。

 実際に流派があるというわけではない。

 ただ、竜胆の家やその指導を受けた者を周りが勝手にそう呼ぶだけ。


 だから当然、実際の流派のように特別な技だったり、骨子となる教えがあるわけではない。

 むしろ、竜胆流としての思想はその真逆に近い。


 ユニットや武装の発展は日進月歩。

 一年も経てば最先端の戦略も陳腐化し使い物にならなくなる。


 そんな環境で流派なんて物に頼るのは博打に近い。

 だからその辺りは時代に合わせ、代わりに苦手を消すというのが竜胆流の基本方針となる。


 オールマイティに何でも使えるようになれ。遠隔近接どちらも欠かすことなく。


 そのような指導方であるため竜胆流にとがった者は少なく、どのプレイヤーも基本丸い。

 無難な戦術、無難な武装、無難なプレイング。


 攻めを三割守りを七割。

 ただし状況は臨機応変に。


 それが竜胆流。


 とはいえ……仮にも流派とまで呼ばれた名門一族である。

 奥義に等しい物が、一つだけあった。


 それは基礎にして奥義。

 戦略の基本であり、切り札。


 逆転の一手なんて代物ではなく、コツコツと積み重ね勝利をもぎ取るための布石。


 名前があるわけではないが、敢えてそれを言葉とするならば、【対戦相手のコントロール】とでも言うべきだろうか。


 最初からカイはあさひに当てるつもりで銃弾を撒いてはいない。

 むしろ、敢えて"一か所だけ"簡単に回避出来る場所を作り、誘導するための射撃を重ねていた。


 思惑に気づかれても、それはそれで構わない。

 対策を取るということは、回避しやすい場所を捨てるということ。

 それならそれでこちらは有利となる。


 相手の行動を『策に乗る』か『策に乗らないか』という二択に絞らせた時点で、カイの思惑は成立する。

 その上、どちらを選んでもカイの有利に繋がるのだからそれは完全に袋小路だ。


『相手に不利な択を押し付け続けること』

 それが、竜胆流奥義の始まり、"ファーストセッション"だった。




 しばらくは、地味な撃ち合いが続いた。

 お互いデフレクターに不安があるため無理が出来ない。


 時間での回復を待ちつつ、相手に回復させないよう牽制をするなんて地味な立ち回りを続けるしかなかった。


 ただ、状況はいつぞやの反対となっている。

 カイの銃弾は一発も当たらないのに対し、あさひの銃弾は既に二発ほどヒットしている。


 状況で言えばあさひの方が有利だろう。

 ただし……それはすべて、この一瞬にて逆転する。


「さて――これで、仕込みは終了だ」

 カイは再び、誘導を込めた弾丸を放つ。


 これが最後の誘導。


 もしも狙いに気づいたなら、大ダメージ覚悟でこちらに身を乗り出すしかなくなる。

 けど気づかず誘導されてしまえば、そこは彼女の機動力を奪う、"鳥籠"となるだろう。


 そしてあさひは――素直に遮蔽物の奥に隠れた。

 それが誘導であると、結局最後まで気づくことが出来なかった。


 壁際、遮蔽物の裏、隣には先ほど砕かれた瓦礫。

 逃げた先で、あさひはようやくカイの真意に気づく。


 逃げ場を完全に失っていた。


 これが、"セカンドセッション"。

『貯めた有利行動を利用して、物理的に相手の行動を制限する』


 これで勝利というわけではない。

 だが、戦況の明暗を分けたことには違いないだろう。


 格闘ゲームでなら、壁際に追い込んでダウンを取った状態。

 オセロなら、一方的に角を二つ取った状態。


 誰の目から見ても、ピンチだとわかる。


 そしてここまで追い詰めれば、これまで以上の精度で相手の行動を予測することが可能になる。

 絞る必要さえなく、行動が二つしかなくなるからだ。


『嬲られ続けるのを覚悟し耐える』

『一発逆転の無茶をする』

 その二つだけ。


 その相手が取るであろう一発逆転の手段を予め予測し、カウンターを叩き込む"備え"を取りながら、最後まで詰めていくこと。

 それが『ラストセッション』となる。


 意図的に有利な流れを作り、有利を重ねて相手を追い込み、行動を支配し敗北の可能性を限りなくゼロに仕向ける。

 これこそ、『竜胆流の極意』である――と、カイは理解していた。


「本気で戦え……だったな」

 小さく息を吐き、集中する。


 今から行おうと考えたのは、正直カイの苦手な手段である。

 それでも、本気で来いと言われたのだからとれる手段はとるべきだろう。


 カイは通信チャンネルを開き、一号機との接続リンクを送った。


 カイの最も苦手な戦術というのは話術を置いて他ならない。

 つまるところ――盤外戦術である。


 正直、受け取らないで欲しい。

 単純に話術が苦手なのもそうだが、これから味方としてやっていく相手に口撃をするというのは将来的に好ましいことではない。


 ただ……出来ることがあるのにしなかったら、それはそれで後にあさひは煩い気がする。

 カイは今回の一件で、あさひの面倒さを甘く見たことを割と懲りていた。


 かちりと音がして、通信接続の文字が見える。

 溜息を吐きたい気持ちを抑え、カイは言葉を綴った。


「追い込まれたお前に勝ち目はない。だから……」

 この期に及んで、まだ譲ろうとしている自分にカイは気づいた。


 まあ、当然だろう。

 あさひの動きには、花がある。

 スター性と言い換えても良い。

 それは竜胆流、引いては自分にないものだ。


 怠惰となり果てたカイでさえ、"彼女のサポートならやってみたい"とさえ思うくらいに、面白い。

 天羽あさひという女は、カイにとって『びっくり箱(トイボックス)』であった。


「だから、負けを認めるか、俺が降参するのを受け入れろ」

 そう……降参させるだけじゃない。

 カイの降参を受け入れることも、カイにとっては十分な勝利条件となる。

 それはある種において、あさひを屈服させたことに他ならないだろう。


 その脅迫のような提案を、受けて欲しいと理性は言っている。

 けれど本能は、こんなところで折れるあさひは見たくないとも言っている。


(我ながらめんどくさい心境だことで)

 カイは自分自身を静かに呪った。


『……って……っ……でー……』

 何か、小さな声が聞こえた。


 いつもあれだけ声が大きいのに、今回に限っては本当に小声。

 通信機能が壊れているのか、それとも声さえ出せない程に弱っているのか。


「戦闘時間は既に三十分を超えている。もう思うように動くことも出来なくなっているだろう?」

 これもまた、シミュレーターに慣れてしまったがゆえの欠点。


 シミュレーターでは常時絶好調の状態となるが、実機ではそんなわけにはいかない。


 痛みと疲労で肉体はどんどん衰弱していくし、機体だって激しく動けば動くほど摩耗する。

 そしてその分だけ、現実とシミュレーターとの差異は広がり、パイロットは水中かと勘違いするほど、思うように動けない。


 まるで藻掻くように操縦することから、その状態を"溺れる"なんて表現することもある。


 だから、シミュレーター頼りのPDが成果を残せるのは、短期間での試合のみ。

 長時間の試合や長期に携わる大会などではほとんど結果を残せない。


『……天……風……』

「かぜ? あさひ? 一体何を……」


『紅蓮の力を、ここに……』

 それは、歌だった。

 妙に力強く、単調な歌詞しかない、チープな歌。


 なんらかのアニメの曲のような、そんなものを、あさひは何故か歌っていた。


「……本当、わけがわからん。通信を繋いだなら聞こえてるんだろう? どうする? 降参するか、降参を受け入れるか、それとも――」

 いきなり、あさひの声が爆音になった。


『どんな逆境にも! 絶対に、くじけないでー!』

「うるせぇ!」


 叫びながらも、まあなんとなく理解した。


 要するに、不利な状況を打開するため、自分を鼓舞していたのだろう。

 それなら、百歩、いや千歩譲って納得出来る。


 なんでその曲やねんとは思うが。


「まあ、そういうことなら構わない。徹底的に叩き潰す」

 追い詰めながら、カイはそれだけを告げ、口を紡いで行動に移す。


 ここまで来たら、相手が出来る一発逆転の手段……『破れかぶれの策』なんてのは、一つしかない。


 左右からの移動が物理的に封じられてる以上、攻める場所は、今隠れている遮蔽物を飛び越こえるのみ。


 それがわかっているから、残りはもう、完全なる消化試合でしかなかった。


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