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『R.I.S.E.:Over the Sky』~虚弱少女はいかにして浪漫を貫くに至ったか~  作者: あらまき
PROJECT: ARC

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戦闘本能


 その衝撃は、もはや交通事故。

 巨大メカによるアクロバット過ぎる大ジャンプからの着地は車同士が衝突したと勘違いするほどの衝撃で、激しく脳が揺さぶられ意識が途切れかけた。


 消えゆく意識を繋ぎとめるは、四肢がもげたと勘違いするほどの強烈な痛みと、ずっと消えない静かな怒り。


 勝ち負けの話じゃない。

 その土俵にさえ貴様は上がれないと言われたあの屈辱だけが、今あさひの中にある確かなまことであった。


『左足のデフレクター五割、右三割減少! ついでに左足モーターが二つ破損! 無茶し過ぎだよ君!』

 なぎさのお叱りにあさひは苦笑した。

「いやはや申し訳ない」

 言いながら、あさひはカイの背にハンドガンを向ける。


 そして、今にも逃げようとする彼を、容赦なく撃ち放った。


 バン、バン、バン!


 今までのフラストレーションをすべて叩きつけるかのように、無心に。


『コックピットは避けて! 反則を取られる!』

 なぎさの言葉であさひはシミュレーターではないことを思い出し、狙いを少しだけずらす。


 プロやシミュレーターでなら、コックピットへの攻撃はなんら問題はない。

 けれどそれより下のレベルではコックピットに直結する背中中央部への意図的な攻撃はルールで規制されていた。


 今大会に至っては初心者レベルのため規制は厳しく、故意的な物と判断された時点で試合は一時停止、最悪の場合その場で反則負けが取られる可能性さえあるだろう。


 まあ、逆に言えばコックピットを避ければ何の問題もなくなる程度の話に過ぎないが。


 マガジンが空となり、あさひはハンドガンを内蔵ホルスターに収納し、もう一丁を反対の手で構える。

 マガジンを交換するよりも自動装填を利用した方が効率が良いという判断である。


 今が数少ない射撃チャンスであることは、誰よりもあさひが理解出来ていた。


 武器を切り替え、フルマガジンのハンドガンが火を噴こうというそのジャストタイミングに、カイは両手を地面に付け、後ろ蹴りを放ってきた。

 まるで、怒り狂った牛のように。


『避けてくれたまえ! デフレクターが回復してない現状では、単なるキックでも居終わりかねない!』

 接近まで短期間でダメージを喰らい過ぎたのもそうだが、何より背面ジャンプ着地による衝撃。

 その二つを合算したら、至近距離で背に向けあれだけハンドガンを叩き込み続けたにも関わらず、ダメージレースはあさひの方が負けていた。


「はいよっ!」

 元気の良い返事のあさひだが、返事だけ。

 避けるどころかその場から動く気配さえなかった。


 そして――カイの蹴り放った足を、脇腹にかするという紙一重で回避する。

 あさひはそのまま伸びた後を抱え込み……ジャイアントスイングの要領でぐるりと百八十度振り回し、ぶん投げた。


『ちょっ――』

 声を失った様子のなぎさに対し、あさひはしてやったりと楽し気な笑みを浮かべた。


 カイのコヨーテは障害物に身体をぶつけ、破壊しながら激しい音を鳴らす。

 それでも、受け身を取ったのか思ったよりも衝撃が少なかったのか、カイはあっさりと立ち上がり、投げられた反動を利用しそのまま距離を取ろうと後ずさりだした。


『――っ! あさひちゃん! もう一撃! お願い、何でもいいからもう一撃だけ、相手の右手にいれて!』

 そう言われるものの、既に相手は立ち上がり、しかもじりじりと下がりだしている。


 ここからの攻撃はかなりの無茶を要するだろう。

 素直に下がるのが無難な選択肢だ。


 けど、無難な選択肢を選べるほどあさひに自由はない。

 カイとの実力差は、嫌というほどに見せつけられていた。


 それに、あのなぎさが悪ふざけも回りくどい話し方も止め、慌てて言ったのだ。

 何か理由があるはずだ。


 あさひはためらうことなく加速して前進。

 そしてその勢いを乗せ、カイのいる正面に蹴り放った。


 軸足を横にずらし、足を地面と水平に、まっすぐ最大射程の蹴り、いわゆる蹴込み。

 その一撃は、コヨーテの右腕をまるまる吹き飛ばした。


「なるなる。右腕のデフレクターが切れてましたか」

『ああ。投げられた時右腕に負荷をかけていたのが見えてね。これで、大分有利になっただろう?」

「そだねー。ところで、まだ勝利判定出ないの? この辺りの大会は判定甘いって聞いたんだけど」

 あさひは距離を取り、慎重な立ち回りに変更しながら訪ねた。


 今大会で最も簡単な勝利条件は、相手のEデフレクターを五割以下にすること。

 腕のデフレクターがまるまるゼロとなり、他の部位も相当削っている。

 だからこれで終わりとなって欲しいのだが……。


『残念ながらまだだね』

「厳しいねぇ。まあこっちもそうだからあまり言えないけど、本当コヨーテは優秀だわ」

 あさひは小さく溜息を吐く。


 コヨーテは他の機体以上に繊細な調整を受けており、実際の耐久数値より遥かに生存率が高い。

 そのノウハウと経験による調整は数値だけでは表せないのだろう。


 とはいえ基本は同じ。

 どの機体も重要度の高い部位に多くデフレクターを割り振る。

 まず、最重要のコックピット。

 それから、脚部、胴部、腕部、頭部の順番。


 だから、腕部のデフレクターが消失しても全体で言えば一割程度の喪失に過ぎない。


 それでも、腕を一本奪ったというのは相当に大きな有利が付くだろう。


『後は逃げ回れば勝てる……と言いたいところだけど、任せるよ』

「あれ? 勝てるから逃げろって言わないの?」

『君はカイ君相手に、逃げ回り続けられるなんて思ってるのかい?』

「はは、思うわけないね」

『だろう?』


 むしろ、あさひは逆のことを考えていた。

 ダメージを全身に帯び、よろよろとしながらも歩き回るカイの姿は、弱った獲物のそれではない。


 むしろその反対。

 静かに、だけど確かに。今までとはくらべものにならないほどのプレッシャーを、あさひは感じていた。


「これ、私もしかして眠れる獣を起こしてしまったかな?」

 胸から湧き上がる恐怖を押し殺しながら、あさひは呟く。


 背を丸め、小さくなりながら小走りするその姿は、まるで餓えた獣。

 その有様は……ユニット名である『コヨーテ』の名に相応しい物だった。


 ゆるりとした動作で、カイがハンドガンを構える。

 左腕もダメージを負っていたのか、妙にとろい動作だった。


 そのまま、カイは弾丸を放った。


 距離もあり、動作も遅いから射線も狙いも見えている。

 これなら当たるわけがない。


 なのに……その一発が放たれた瞬間、心臓をわしづかみにされたような感覚を覚え息が詰まった。


 障害物との兼ね合いで、最もよけやすいのは右手側通路側。

 そちらに一歩移動し、あさひは弾丸を大きく避けて回避する。


 間違っていないはず。

 なのに、嫌な予感は避ける前よりむしろ増えていた。


「ごめん先輩! 何か嫌な感じがする! うまく言えないけど……調べてくれる?」

『……ふむ。それは戦士の予感とか、そういうものなのかい?』

「ううん。本当にただのなんとなく。けど、なんとなくなんだけど……なんか、凄く嫌な感じ」

『――わかった。もう少し具体的にわかったら、早めに教えておくれ』


 なぎさはそう返事をし、チェックを開始する。


 あさひのコヨーテ、カイのコヨーテ、先ほど放たれた一発。

 けれど、どこを調べても異常らしい異常は見つからない。


 明らかに攻撃は弱くなっている。

 目に見えて回避出来ている。


 それなのに、あさひは追い詰められてるような錯覚にずっと苛まれていた。


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