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『R.I.S.E.:Over the Sky』~銀髪美少女が浪漫を貫くようです~  作者: あらまき
PROJECT: ARC

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20/43

恥知らずな賞金稼ぎ


 鉄の軋む音。金属のこすれる音。気体が抜ける音。

 多くの音が、コックピットに籠るカイの身体に伝わる。

 外界との繋がりを遮断した小さな箱庭の中では、機械の鼓動だけが満ちていた。


 昔は、この音がとても好きだった。

 そのはずなのに……。


 いつからだろうか。

 この鼓動を聞いても、心が揺れなくなったのは。


 カイは静かに、自嘲気味に笑う。


 駆動音を聞く頻度はそう多くない。

 コックピット内でそれを耳にするのは、何もしない静寂の時間だけだからだ。


 足を一歩分だけ、踏み込ませる。

 たったそれだけの動作で全身に衝撃が襲い掛かり、シートベルトが身体に食い込む。

 轟音が極小の音をすべて吹き飛ばした。

 こんな状態で聞こえる音など、巨人が大地を踏み鳴らす重低音くらいのものだ。


 一歩踏みしめた直後、カイは機体を横へ跳ばした。


 大きな、のけぞるようなジャンプは極端な浮遊感をカイに与え、着地の衝撃がコックピットを激しく揺らす。

 その次の瞬間だった。


 カイが先ほどまでいた空間をバズーカ弾が掠めるように通過したのは。


 避けてなければ、確実に直撃した。

 それでもカイに慌てる様子はなかった。


「やっぱり良い機体だな。コヨーテは」

 ユニットの強さとは何か。

 そう問われ、答えるのは専門家だって難しいだろう。


 傑作機はこの世に数多と存在するが、結論機なんて物は存在しない。

 ただ、"あくまで一つの結論"としては、総合力こそ強さであるとカイは考える。


 例えば、超重量超装甲の機体。

 もしくはその反対でハイスピードの機体。


 こういった一芸特化は、確かに怖い。

 けれど、強いは言いづらいだろう。

 はっきりした長所の代償として、欠点が誰の目にも明らかとなるからだ。


 本当に強い機体というのは、そういった特化機体にある程度付き合えつつ、欠点のない機体のことを言う。


 もちろん、他の要素も欠けてはならない。

 エンジン、ラジエーター、モーター、センサー、CPU、装甲等々。

 すべて平等に、必要な要素である。


 全部を完璧には出来ない。

 完璧な機体なんてこの世には存在しない。


 だからこそ、優れたユニットコンセプトを元にし、それに準じた設計にて生み出された完璧に近い機体、いわゆる優等生が傑作機と呼ばれる。

 

 今カイが乗っているコヨーテも旧式廉価機でありながら未だに使われ続けているのは、そのコンセプトデザインが素晴らしかったからにほかならない。


 高機動の軽量型であることを前面に押し出し、被弾の多い場所にのみ装甲を厚くし"メリハリ"を付けることで機動力と耐久性能を確保。


 最低限の動作を維持出来る程度に脚部モーター数を減らし、動作を安定化。

 その分細かい調整が出来るよう腕部モーターを増加。


 つまり、こいつの得意は近・中距離間での射撃戦。

 そして同時に至近距離でもある程度対応出来るオールマイティさも合わせ持つ。


 銃で言えばアサルトライフルに当たるだろう。

 そういう小奇麗にまとまった機体であった。


 対する『タートル』は、コヨーテ三機分の値段を超える高級高性能ユニットである。

 おまけに世代も二つ新しい。

 カタログスペック自体笑えるほどに違っている。


 それでも正直、カイは負ける気がしなかった。


 腕の話ではない。

 本来の三機チーム戦なら話は変わって来るが、今回のようなタイマン戦ではコンセプトを単独で生かせるコヨーテの方が上という、ただそれだけの話だった。


 それに加えて……。


「あいつ、やっぱりタヌキ……いや、狐だな」

 なぎさのことを思い浮かべ、カイは苦笑する。


 機体選びと同じくらい、武装の選択も戦闘における重要な要素となる。

 そしてこの選択は、なまじ知識のある素人ほど間違いを犯しやすい。


 プロの試合でよく見られるのは、連射性能に優れたマシンガンや、高火力のバズーカといった扱いやすく信頼性の高い兵装である。


 近接武器なら、携行性に優れ扱いやすい内蔵ブレード。

 あるいは一撃の威力に特化した大型ハンマーなどが最近の人気だろう。


 だから必然的に、アマチュア大会にも同様の物を持ち込む人は多い。

 けれど、この考え方は非常に甘いと言わざるを得なかった。


 特に、バズーカなどは最悪に等しい。


 プロとアマチュアの間には機体性能だけでも大きな隔たりがある。

 そこにパイロットの経験、練度、判断力まで含めれば、その差はもはや別競技と言っていい。


 徹底的に積み重ねられた練習時間。

 そして、個人に最適化されたハイエンドユニット。


 その二つにより、プロの戦術は成立する。


 その前提を無視し、形だけを真似て通用すると思うのであれば、それはプロを舐めているとしか言いようがない。


 だから、目の前の機体がどれほど優れていようと、カイは全く怖くなかった。


 と言っても、それはしょうがないこととも言えた。

 今カイが出ている大会は上級者お断りのアマチュアの最下層ランクに位置する小規模大会である。

 参加者に経験やレベルを求める方が烏滸がましい。


 むしろ正規ライセンス持ちであるカイが出ていることの方がおかしいのだが……。

 なんとこの大会の条件は『ライセンス不問』。


 未所持ではなく、あくまで不問。

 持っていてもいなくても良い。


 そんなグレーゾーン的解釈なのに、大学が新規参入したという事情のせいでうっかり潜り抜け、こうして参加出来てしまっていた。


 だからカイにとってこの大会は勝つのが当たり前であり、負けたら恥ずかしいなんて、そういうレベルの大会だった。


「……さっさと終わらせるか」


 カイは腰に内蔵されたホルスターより、ハンドガンを取り出す。


 ユニットの選択も、武装の選択も、恐ろしいほどに適している。

 経験者であるカイが一切文句を言えないほどに。


 だからこそ、恐ろしかった。

 この大会に参加する多くが間違えているというのに、なぜ機体に乗ることも出来ないなぎさが、ここまで最適なチョイスを選び続けられたのか。


 機体相性まで最適化しているのだから、それはもう個人の知識や経験だけでどうにかなる範疇を超えている。


(……考えるのはやめとこう。なんか怖い気がする)


 むしろカイにとっては敵よりも、底知れないなぎさの方が恐ろしかった。


 誰もが威力重視の武装を選択する中で、なぎさが用意したのはハンドガン。

 それも安物の誤魔化しなどではなく、きっちり性能を用意した準最新武装。


 機体はデフォルトのままだが、こっちは相当にいじられている。

 持ったまま動かした時の反応、構えた時のブレ、射撃したときの反動。


 すべてが安定している。

 熟練の職人が調整したような、そんな渋みをカイは感じていた。


 とはいえ、所詮はハンドガンに過ぎない。

 多少威力は増しているが、武器として心もとないのは間違いのない事実である。


 それを考慮しても、カイはこれがベストな選択だと断言出来た。


 タン……タン……タン……。


 横歩きしながら、一方的に射撃を重ねる。

 全弾命中しているものの、ダメージとなっている様子はなかった。


 イクス・ユニットと呼ばれる機体には、『E(エーテル)デフレクター』と呼ばれるバリアが内蔵されている。


 特に、タートルは名前の通り耐久性能はかなり高い。

 装甲が厚いのに加えデフレクターも頑強で、ハンドガンの弾丸を何発喰らってもピンピンとしていた。


「ま、問題ないけどな」


 バズーカを単なる横歩きで躱しながら、淡々とハンドガンを撃ち続ける。


 ただそれだけ。

 距離を取りながら相手の周りをぐるぐる回り、延々と射撃。

 そう、これだけで良い。


 どれだけダメージが低かろうとも、無傷というわけではない。

 安全第一初心者大会では、デフレクターの総合割合が五割を切った時点で敗北となる。


 この条件において、例えミリダメージであってもジリジリと同じ場所だけ削られるというのは恐怖だろう。


 後は、相手がジリ貧を受け入れ為すがままとなるか、恐怖に負けて暴れるか、イライラがピークとなって激情するか。

 どれが選択されようと、カイに負けの目はなかった。


 数分後、状況に耐え切れなくなったであろうタートルが、突進するかのようにコヨーテに突っ込み、そのまま受け流され場外という珍しい形でカイは勝利した。


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