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『R.I.S.E.:Over the Sky』~虚弱少女はいかにして浪漫を貫くに至ったか~  作者: あらまき
PROJECT: ARC

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わかりあえたようで(前編)


 医者と共に入ってきたなぎさは、無言であさひにカバンを渡した。

 それが自分のカバンであるとわかったあさひはお礼を言ってから受け取り、中にある造血剤を取り出し、三錠飲み干しす。


 気にするから人が多いからこれまでは誰にも見られないようにしていたが、何も言わず持ってきた辺り、なぎさは知っていると思って良いだろう。


 じっと見つめるなぎさを見て、あさひはカタコトで呟く。

「……ナイショにしてね?」

「モチロンだよ」


 二人は顔を見合わせ、くすくすと笑った。


 ちょうどそれから一時間後だった。

 あさひに一応ながら見学の許可が医者から下りたのと、フィールドの修繕が終わったのは。




 戻ってきたあさひを見て、カイはぎょっとした表情となる。


 作業着の男性複数によって神輿のように車いすで運ばれるあさひは、なんでか知らんがお偉いさんみたいににこやかに手を振っていた。


「お、おま……おまえさ……」

「はーい。お待たせー。あ、私は大丈夫だよー」

「いや。大丈夫って。車いす(それ)は……」

「これは用心のためー。見学の許可もばっちし貰って来たんだぜ」


 ぐっと親指を立てるあさひに、カイは何も言えなかった。


 そう、いつものこと。


 悲しいことに、医者はあさひに異常はないと診断した。

 吐血することさえも、彼女にとっては日常に過ぎなかった。


「あ、そう言えば私が汚しちゃったコヨーテちゃんはどうなったの?」


 車いすを器用に動かしながら、後から来たなぎさにあさひは尋ねた。


「ん? プロの清掃に出したよ。別に誰かがやっても良かったけど、あさひちゃんが逆に気にするかなって思って。安心したまえ。私のポケットマネーさ!」

「あちゃー。なんかごめんね、なぎさ先輩。今度は私が綺麗にするから」

「いいや。そんな必要ないとも。むしろその時間で練習してくれた方が私は嬉しい。それにどうしても気にするなら、今度おすすめのスイーツでも奢ってくれたら十分さ」

「なぎさ先輩……きゅん」


 ときめくポーズを取るあさひに合わせ、なぎさはイケメンぶってあさひの手を取り跪く。


 そして二人で楽しそうに笑い合った。


「……あー。お楽しみのところ悪いが、始めても良いか? さっさと終わらせたいんだけど?」


 呆れ顔のジト目でそう言うカイに、"どうぞどうぞ"と二人仲良くハンドサイン。

 小さく溜息を吐いた後、カイは準備に入った。




 妙な懐かしさを覚えながら、カイはうす暗いコックピットで身体を縮める。


 不思議な気分だった。


 ユニットに乗ってなかった期間は、半年にも満たない。

 それなのに、望郷にも似た感情が胸に宿っていた。


 別に家族から見捨てられたわけじゃない。

 やめようと言い出したのも、ユニットから距離を取ったのも全部自分で選んだことだ。


 自分には、才能がなかった。

 ただそれだけの話に過ぎない。


 それなのに……。


「どうして、あいつの顔が……」


 苦々しく、カイは呟く。


『私の蝋燭はちょっとだけ人より短いみたい。だからね……私は最後まで、激しく燃えたいの』


 頭の中にちらつく。

 考えるだけで苦しくなる。


 これが恋だの愛だのといった感情とは異なる。

 むしろその逆に近い。

 けれど、じゃあこれがどんな感情なのかは、カイにも良くわからない。


 劣等感や嫉妬にも似ているが、それもまた違う。

 同時に憧れや尊敬かと言えば、それもまたどこか異なる部分がある。


 そこまで考え、ようやくその答えにカイは至る。


『敗北感』


 自分よりも実力がなく、虚弱という欠点を持ち、その上で女性というハンデ。

 それなのに、諦めていない。


 家族が優秀過ぎて辛いというだけで諦めた自分だからこそ、その気高さと偉大さを理解出来る。

 理解出来過ぎて、眩しくて、心が潰れそうになる。


 だからこの感情は、称賛を含む敗北感だとカイは悟った。


「はは……なるほどねぇ」


 起動プロトコルを実行し、エーテルスフィアに両手を入れる。


 軽く動かしてから微調整を行い、スフィア設定に身体を馴染ませていった。


 エーテルスフィアによるユニット操作は、文字通りユニットを手足のように操作出来る。

 神経と疑似的なリンクを果たしたそれは、脳で直接操作する感覚に非常に近い。


 それに加えて、神経リンクにてスフィア内に生成される疑似キーボードで細かい操作とショートカットを可能にする。


 つまり脳と指先のダブル操作である。


 これ以上に応用の効く操作手段はないと断言しても良いだろう。

 だからこそ、スフィアがデフォルトの操作手段となっている。


 けれど同時に、この完全無欠なるエーテルスフィアにの操縦手段を、バトルで採用しているプロは五割強程度に過ぎない。


 理由は単純。

 エーテルスフィアによる操作の理論値を出すことが、人間には不可能であるからだ。


 脳によるダイレクト操作と言うが、それは人間に翼を生やし空を飛ぶような感覚に近い。

 それが巨大ロボットというのだから、脳への負担も相当に強烈なものであり、しかもそれを過酷なコックピット環境内で維持しなければならない。


 だから、あさひがレバー式に切り替えてもカイは特に思うところはなかった。

 それを自分がしようとは思わないが。


「そう言えば、タブレット忘れたな」


 なぎさから接続用のタブレットを貰っていたけれど、ドタバタしてたから持ち込むのを忘れていた。


 カイは少し考えた後、設定から外部音声に接続。

 リンク先を検索し、達臣のパソコンがあったのでカイはそこにダイレクトリンクした。


「始めてくれ」

『うぁっ!? あ……ああ。わかった。テンカウントで開始する。幸運を』

「ありがとう。交信終了」


 切断し、静かに深呼吸をする。


 あさひのように、心が燃えることはない。

 むしろ逆に冷たく研ぎ澄まされる感覚があった。


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