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最強モブへの道Ⅱ


かくして俺たちはダンジョンのメインロードに戻り、魔物を全て無視して奥地の大きな扉の前に来ていた。

あたりは開けていて魔物もほとんどいない。リュゼ曰くダンジョンのボス部屋の前はこんなものらしい。


「じゃあ打ち合わせ通りに」



ギギィと大きな軋み音と共にゆっくり扉が開いていった。


中にいたのは人の身体の優に3倍はあろうかという牛の頭に4本の腕を持った化け物だった。…正直怖すぎる。


【個体名:ミノタウロス】

【分類:魔物】

【保有スキル:突進無敵 恐怖察知 勇気察知 物理攻撃A+ 武器無効 人数制限7 単身攻略補正 威嚇咆哮】


「パターンA」


リュゼの声が響く。見つかったのか気配遮断はすぐに解除される。

曰くミノタウロスは勇むことも恐れることもしてはいけない。俺が姿を見てビビったことで気づかれたらしく唸り声を上げる。


「グガア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!」


パターンAは4本の腕を2本ずつ組んでハンマーのように振り下ろしてくる。


【緊急回避】


この攻撃は衝撃波ごと避けなくてはいけないので思いっきり距離を取る。青い炎の松明が囲む祭壇のようなステージから出るとこの魔物がする行動は2つの選択肢がある。


「パターンC」


パターンCはこちらに向かっての突進。ちなみに突進中は如何なる攻撃を持ってしても止められない。


【緊急回避】


「回避が早い!パターンF!」


突進キャンセルからこちらを捕まえに来る動きである。しかしリュゼの呼びかけのお陰で気づけた俺は煙幕を張ることに成功していた。


【気配遮断】


「グガア…!!!」


このパターンは一旦仕切り直しである。


「回避が早すぎる。良いパターンだったのに」


「(無茶言うな!)」


残念そうにリュゼが言う。本来はもっと引きつけて躱さないと相手の隙を作れないみたいだ。ゲームなんかと一緒だけどこれは現実で食らったら多分死ぬ。


「パターンB」


咆哮後に4本の腕を使ってあたり一面の地面をところ構わず叩き潰す。


「くっ…!」


【回避】


今度は先程の攻撃ほどの衝撃波はないのでその場で何度も回避を繰り返す。


【回避】【回避】【回避】【回避】


すると攻撃が止みーーー


「パターンD」


飛び上がって上から衝撃波と共に落ちてくる。突進とは違って無敵状態で向かってくるわけではない。ただし衝撃波は先ほどの攻撃の比ではない。したがって


【緊急回避】


また大きく距離を取る。


「パターンC!」


また突進してくる。リュゼは今度こそ決めろと言わんばかりの目。

わかってる。必要なのは勇気と知恵。


化け物の顔をギリギリまで引きつけてーーー


【回避】


後ろで花火が弾けるような閃光が走る。無敵の突進も壁にぶつかれば、その力は自分に跳ね返っていく。


「ダウン!」


ダウンした場合、俺が取るべき行動は1つ。とにかく素手で殴りまくる。


「オラァ!!!」


拳が痛もうが関係ない。こいつにダメージを与える唯一の手段は拳なのである。なにせ武器が無効化されている。

俺の物理攻撃値はレベル1のそれだが関係ない。なんせこいつの弱点は知恵と勇気なのだから。


リュゼ曰くここは本来かなり高レベルのダンジョンでボスにはギミックがある。勇者パーティーも世界の主要国を冒険した後に訪れる予定のダンジョンだ。


冒険に慣れたパーティーは当然リスクを冒すような攻撃はしない。真正面から自慢の武器で倒そうとしても無効化される。そんなボスがレベル1の打撃に苦しんでいた。なにせ一番勇気を振り絞らないと接敵できないのだから。


「ガア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」


「復活する!」


【緊急回避】【気配遮断】


ダウンから復活する気配をリュゼが教えてくれる。一旦距離を取って煙幕と共に化け物の視界から消える。その間に痛めた拳を治療する。


アドレナリンが出ていても骨の折れた嘔吐感は拭えない。街で購入したポーションをぶっかけると手は若干震えていたが、使えそうだ。


「気づかれた」


もう恐怖はないが、勇気を察知されたらしい。


「半分以上削った、パターンが変わる」


リュゼの言う通りミノタウロスは虚空から手の本数分の斧を取り出していた。


ここからは斧を使ってくるがーーー


「終わりよ」


これはリュゼが言っていた必勝パターンだ。見るからに禍々しい魔力が斧に集まっていく。


それを横目に見つつ俺は罠を仕掛けた。奴はウォーミングアップのように斧をぶん回すとやがてこちらに狙いを定めた。


「グガア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!」


咆哮の衝撃と共に奴は駆けてくる。俺も奴を迎え撃つ…と見せかけてーーー


【緊急回避】


眼前に迫った敵をスルーして奴の上空に放り出された俺が振り向いて目にしたのは俺が張ったただの糸で足を引っ掛けて転び、自分の持っていた4本の斧のどれかで自分を傷つけてしまった哀れな魔物の姿だった。


「ガア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」


先ほどの雄大な咆哮とは真逆の痛々しい悲鳴は戦いの終局を告げた。


「とどめ!」


空中に放り出された足はその虚空を確かに捉えていた。言うまでもない魔道具エアウォークの効果である。壁を蹴ったように加速した俺は自身の飛び上がる運動エネルギーと落下エネルギーを足してスーパーマンのように奴の無防備な背中に拳から飛び込んだ。


「グガア゛ア゛エ゛エ゛!!!!!!!」


断末魔の叫びと共に耳を疑うようなリュゼの一言を俺は確かに聞いた。


「もう1周できる」


いくら強くなる為と言えど…。頼むから勘弁してください、天使様!!!


◇ ◇ ◇


結局、あの後もう1周させられてダンジョンの入り口に戻ってきた頃には朝日が差し始めていた。

…休みとか言いながら朝日見るまで労働とか前世の繁忙期を思い出して笑えない。


しかし疲れた身体とは裏腹に行きの荷物の多さからも解放され、懐も温まる算段となったことで足取りは軽かった。


「しかしこの鞄すげえよな」


足取りが軽い理由1つ目。なんと異世界御用達の大容量バッグを手に入れたのだ。明らかに体積と容量が見合わず某ネコ型ロボットのポケットよろしく次元歪ませている系のやつだ。


【勇者想定装備:ブレディ】

【分類:鞄】

【説明:ミノタウロスを最初に倒した者だけが手に入れることができる魔道具。その内容量は町一つを飲み込むと言われている】


「それ使ってるのバレたらちょっとした騒ぎになる」


「やっぱり?」


「魔法鞄は珍しい、ミノタウロスも未撃破のボス。」


あのダンジョンはまだ未攻略の物だったようだ。と言うかリュゼ曰くこの世界でダンジョンをクリアしようとするのはよっぽどの冒険好き。大抵は素材集めに潜ることがほとんどなのだとか。


「あいつ倒されたことなかったの?そんな強くなかったと思うんだが」


「それは私のおかげ。本来なら勇者でも他の国で鍛えた後に戻ってきて挑戦する予定のダンジョンだった。レベル50前後はないとクリアできない」


なんでもあのミノタウロスは戦う人数が増える毎に強くなる上にあのボス部屋に入れるのは最大7人。武器は無効化される上に物理的な防御力も高いとのこと。


「じゃあなんで俺の素手での打撃があんなに効いたわけ?」


「それこそが奴の弱点だから。レベル差のある弱い相手からの打撃が致命的なほど弱い。後は糸を用いた攻撃にも弱い」


なんでも奴の出自、伝承を調べるとわかるらしく、このダンジョンの石碑にもちゃんとそれが記されているので隈なく探索すればわかるらしいのだが…そんなの絶対試すわけない。なんせ低レベルのやつはあんな深くまで潜れるような雰囲気じゃ絶対ない。


「そりゃこんな鞄も手に入るような難易度だったわけだ。これも勇者の装備なんだろ?俺が使っても大丈夫なのか?」


「勇者はステータスが上がる毎に内容量が増える鞄を使う予定。最終的にはあっちの方が内容量は多くなる」


「じゃあ遠慮なく使っていいってことね。素材も結構高値で売れるって言ってたよな?」


機嫌良い理由2つ目。素材が高額と聞いた上に鞄のおかげで取れるものはほとんど持って帰ってこれたからだ。


「…まだ売れない」


「なんでだよ。早く換金した方がいいだろ」


「ダンジョン前が一番安く買われる。大騒ぎになる。ギルド登録してない」


曰くまだ討伐されたことのない魔物で相場が定まってない上に採れたてだから輸送費なんかが経費に入らない。


しかも出所は身元不明の低レベルときたらそりゃそうなるか


目立つのも詮索されるのも嫌だしなぁ。リュゼの言うことに従うしかなさそうだ。


「とりあえず目標レベルは達成したんだろ?」


「まだ。また休みの時にもう一回くらい来て1日中潜らないといけない」


「いまの俺ってレベルいくつくらいなんだ?」


なんだかんだ俺は自分のステータスを全く知らない。この世界ではステータス画面とかないのだろうか?


「レベルで言うなら27」


27かあ…。高いのか低いのかよくわからん。


「それって強い部類なのか?」


「レベルで言うなら王都の一般兵と同じくらい」


ということはまだまだ無双には程遠いと言うことか。潜入の時とか気をつけないとな。


とは言え王都にいる兵士だって訓練を受けたり、長年戦ってそのレベルな訳で効率的な手段であることは間違いないようだ。


最強モブへの道はまだまだ遠いようだ。





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