盗賊団Ⅴ
「あんたさぁ、ここ数日で明らかに強くなってない?」
レイナがジト目で俺を訝しげに見ていた。ついにこのセリフが言えるのか。
「自分、なにかやっちゃいーーー」
「まぁ、あんたの事情は聞かないよ。ここに流れ着いた奴は多かれ少なかれ色々あるからね」
俺の渾身の言ってみたいセリフはレイナさんの良い女ムーブで遮られてしまった。
「なら最初から聞くなよな」
ところで俺たちは恒例の朝食デート中である。クッ…、これでレイナに幼馴染がいなければなと思いつつもやっぱり仕事終わりにこんな美人と会えるのは悪い気はしない。
「でもいつか話してくれるんだろ?」
「まあ、いつかね」
「で、今日は?」
閑話休題。仕事の話に戻る。今までに分かったことを話し合う。まとめるとこうだ。
第一王子は内政派で、国の政治に強く自らも大臣として働いている様子。
第二王子は軍や騎士団に強く、どちらでも要職についている。
第三王子は特に大きな後ろ盾なし。
第四王子は大陸で大きな勢力を持つ聖教会の枢機卿の娘と結婚する予定。
第五王子は地方貴族との繋がりが強く自分の後ろ盾を強化しようと地方に出かけていることが多いそうだ。
ちなみにそれぞれが親衛隊を持っているので件の奴隷商を匿っているのは誰なのかは定かではない。
「カインも似たようなこと言ってたよ」
「ここからが本題で第五王子の策はあんましうまいこと言ってないみたい。地方貴族たちはそこまで彼の後ろ盾になる気はないみたいだ」
どうやら彼が来るたびに色々おもてなしするのも大変なようだと昨日盗みに入った侯爵の屋敷で息子が言っていた。
「地方は魔族の影響もあるし、それどころじゃないってのが本音か」
「ただ代わりに気になる話があって地方貴族の次男や三男みたいな家督を継がない奴らを集めてなにやら夜な夜な集まっては物騒な話をしてるんだと」
「物騒な話ぃ?」
「なんでも自分たちのことを闇会って総称してて王都での貴族の品位を管理しようとかなんとか」
どうやら昨夜盗みに入った侯爵の息子もそれに誘われたらしい。
「王都にはお貴族様が通う学校もあるから家督を継がない地方貴族は意外と王都に多いって話だもんな」
レイナは貴族のことを口にすると嫌そうだ。元々貴族に売られそうになったんだし当然か。
「貴族の子息だから無下にできなくて、形だけの仕事に就いてる奴の暇っぷりときたら」
「金も暇もそれなりに持て余してる奴が次に欲しがるのは名声ってわけ。どうも色々お金かけて貴族の学校とか掌握しにかかってる。でそいつらの集まりが今日の晩にあるらしい」
「そこに潜入しようっていうわけ?」
「実はもう一つあって…。これは別口からなんだけど第四王子が結婚前の独身生活を謳歌する為にパーティーを開きまくってるらしくて」
「どういうことよ、それ」
昨日盗みに入った侯爵の息子はどうやらダブルブッキングでそちらを選ぶようなことを言っていた。
「よく言うと仮面舞踏会。悪く言えば乱⚪︎パーティーかな」
「なっ…!」
男勝りなレイナはどうやらそういう話題には奥手なようだ。男だらけの盗賊団だし、慣れてると勝手に思ってた。この世界にはセクハラとかないですよね?
「男ってそんな時期あんのよ」
「そういうもんなのか…」
レイナが顔を真っ赤にしながら言っている。
「カインは違うと思うけどね?」
「誰も聞いてない!」
「まぁ、実際王子なんて遊び放題だろうに王になりたいが為に聖職者の身内になるわけだからな。独身最後に遊びたい気持ちは男としてはわかります…」
レイナはキッとこちらを睨んでいるが男ってのはそういうもんだ。
「あんたはそっちに潜入したいってわけね」
「違う、違う!実はそのパーティーで最近下級貴族の娘が度々行方不明になってるらしいんだよ!」
マジで他意はない。マジで。確かに異世界来て溜まってるのは確かだけど。
「それに奴隷商が絡んでるかもって?」
「そのパーティーも今夜あるってわけよ」
「ただの駆け落ちかもしれないじゃない」
「にしてはおかしい点があって攫われる前にその娘たちみんな最近付き纏われてるって言っててお付きの人増やしてたみたいなんだけど」
さすがにそんなプライベートのパーティーには付いてこないらしい。これは酒場で呑んだくれてたクビになったまた執事が話してたことだ。
「わかったわ。闇会?とかいうのはあたしが潜入してくる」
「いや、別に仮面舞踏会に行ってくれてもいいけど?」
「ぜったいイヤ」
かなり強く拒否されてしまった。乱⚪︎パーティーにレイナが潜入するのも女スパイっぽくていいと思うんだが。
「あんた仮にも貴族のパーティーに出るような服持ってるわけ?」
「昨日一式拝借してきた」
「なんでそんな準備万端なのよ…」
いや乱⚪︎パーティーに潜入してみたいとかじゃないんだからねっ!
「とにかく明日の朝もここで落ち合おう」
レイナはなにか言いたげだったが、キリッと締めておいた。ちょっとかっこいいかもしれない、俺。
◇◇◇◇
「実際行くとなるとマジでダルいな…」
「昨日ノリノリだった」
どう考えても深夜テンションってやつです。お疲れ様でした。
今思うとなんでええとこの坊ちゃんと嬢ちゃんが乳繰り合ってるとこに行かにゃならんのだ。
ところで俺は会場となる伯爵邸の入り口を見下ろせるところに来ていた。この伯爵もどうやら第四王子派閥らしい。
自分の家が乱⚪︎パーティーの会場って絶対イヤだけどな。
リュゼは無言で入口に来る馬車を隈なくチェックしている。
「来た」
今降りてきたやつが王子らしいのだが、全員仮面に魔法効果が施されており、隠されてるのは一部だが顔を上手く認識できないようにされている。
ただリュゼには迷彩効果?が適用されないようだ。
曰く所詮人相手の認識阻害とのこと。この天使チートである。
「じゃあ俺たちもパーティーに出席といきますか」
と言っても正規の入り口からではない。邸宅の2階から侵入することとなった。靴と仮面、気配遮断のスキルで難なく侵入には成功した。
入った先は伯爵令嬢の私室らしい。金目のもんで足がつかなそうなものは頂戴していくかと盗賊らしいことをしていると。
「!」
なんか手紙の入った箱を発見してしまった。
「リュゼ」
俺はまだこちらの字には精通していない。リュゼに代わりに要約を頼む。
「この娘、かなりやり手」
どうやらこの伯爵令嬢は王子とも体の関係のあるお友達らしい。しかも自分の気に入らない、もしくは親が対立関係にある娘をパーティー中に奴隷商に売り飛ばしていたようだ。
人によっては傷物にしてから親を脅したり、奴隷から助けたと嘘をついて恩を売ったりしていたようだ。
「女の敵は女」
「おまえがマーキングした奴隷商はここに来てるか?」
「来てない。人のこと犬みたいに言わないで」
天使ちゃんは犬扱いされると大層ご立腹である。
「奴隷商が来てないとしてもそいつに引き渡す可能性はあるよな?」
「その可能性は否定できない」
「拉致する手順は?」
「地下のワインセラーに隠し部屋がある。そこから水路に出られて港や倉庫に入れるみたい」
確かに屋敷の周りには堀があって、水が流れていた。高低差もあるし、上が盛り上がっているのとは裏腹に明かりさえ灯さなければ誰にも発見されず連れ出せることだろう。
「泳がせる?」
リュゼ曰く今回も標的になってる令嬢がいるようだ。
「もっと良い方法がある。そいつ今日はどんな格好してるんだ?」
俺の座右の銘は「目に目を、歯には歯を」である。




