仮面舞踏会
つまらない、退屈だ。最近ずっとこんな言葉が口を突いてしまう。
「(誰かステキな殿方が連れ出してくれないかしら)」
最近はそんなことばかり考えてしまう。貴族学校で同級生だった王子やその取り巻き達と仲良くなって始めは有頂天に浮かれていた。
やがて学校を卒業しても動物のように盛っている王子とその取り巻き達を見ていて思ってしまった。
ーーーこいつらもみんな猿みたいだ。
それでも熱に浮かされたようになにかをしていないと退屈で死んでしまいそうだ。
どうせ決められる結婚相手、家を守る仕事。父と母を見ているからよくわかる。どうせ永遠の愛なんてこの世にはない。ただ繰り返しの日々が続いていくだけ。
周りにいる雌犬たちもみんな同罪だ。ムカつく奴はみんな排除してきたのに周りがあたしに同調する奴らばかりになると吐き気がした。
そこらへんで盛り合ってる動物達を見て思う。私もそろそろこんな遊び卒業するべきなのかもしれない。
パパはこの遊びの恩恵をたくさん受けているからまだまだやれって言うかもしれないけれど、アタシももうそんな歳じゃなくなってきたのかも。
だけどこの催しがあるからアタシは豚どもに嫁がされることもなく好きなように生きてこられた。これからあたしどうなるんだろう。
「裏庭で決闘らしいわよ」
そんな噂が駆け巡ってくる。また始まったらしい。女を取り合っておままごとみたいな喧嘩が始まるようだ。なにも初めてのことではない。女をトロフィーにしたお祭りみたいなもの。
それでも男達が浅ましく殴り合うのを見るのは好きだ。…そうだ、次に攫わせるのはそのトロフィーの女にしようかな。
そんな気持ちで裏庭に向かう。
男達は既に向かい合っていた。周りの猿達が囃し立ててそれを雌犬たちも見ている。
「俺が先に話していた!後から手を出すな、無礼者!」
「いやいやどう考えてもめちゃくちゃ嫌がられてましたやん」
片方の男には見覚えがある、というかよく知っている男だった。王子の取り巻きの1人で腕っぷしに自信のある騎士団の男。
何度もあたしを口説いてきたし、応じたこともあったがよくこの催しをやっては相手の男を嬲り、その興奮のままに女を犯す最低の男だ。
片方は見たことがない。初めての参加者だろうか。いくら認識阻害の仮面があると言えども立ち居振る舞いで誰かなんとなくわかってしまうのだけど、この男には見覚えがなかった。
「あと別にその娘を口説こうとしてるんじゃないんだけど」
「なら邪魔をするな!」
激昂した男が手袋を投げつけると周囲がわあっと湧いていた。間に挟まった女はお互いの男を止めようとしながらも陶酔に耽ったような表情をしていた。
「(あの女を次に出荷しましょ)」
周囲に内緒話をすると皆が口を隠しながらホホホと笑っていた。…なにが面白いのやら。
どうせ出荷したら真っ先に壊れるまで奴が使うことになるのに、なんで意味のない決闘だろうと思った。なにせあの猿の腕っぷしだけは本物なのである。
あたしも幾度なく彼を力として行使したのだから当たり前である。
「では立会人は私が務めよう」
名乗りを挙げたのも同じく王子の取り巻きだ。公正なように見せかけて手を組んでいて片方の剣には細工がしてあり、すぐに折れるようになっている。
これだけのハンデがあれば、万に一つも勝ち目もなくなっただろう、そう思っていた。
「始め!」
次の瞬間、地面であられも無い姿を晒していたのは猿の方だった。
「あら」
女が勝った男に寄り添おうとしたが、彼女の肩を男はバッと掴んで言った。
「別にあんたが欲しかったわけじゃない」
予想した展開と違うことが連続で起こり、驚いた。勝ち負けの予想と男は女をトロフィーとみなしていなかったことだ。
「誰だったら欲しかったの?」
期待外れな展開に周囲が盛り下がる中思わず遠巻きから見ていたのに近づいて聞いてしまった。
「あんただったら欲しい」
男は荒々しく答えた。退屈は感じなくなっていたーーー。
すぐに私は男の手を引いた。私室に連れようと階段を登ろうとすると彼は引き留めた。
その手はしなやかで先ほどの荒々しさの雰囲気とは真逆だ。
例え仮面が剥がれてしまい、失望する羽目になったとしてもこの今の熱だけは本物だ。
警備もいない地下に連れられて行くと彼はこう言った。
「このパーティーの主催者はあんただろ?」
「そうよ。だとしたらなんだって言うの?」
「今日が責任を取る日だよ」
彼に接吻でもされたのか、私の意識は深く沈んでいったーーー。
◇◇◇◇
「このお嬢様チョロすぎない?」
「彼女の理想通りの展開だから」
このお嬢様、どうやら人身売買に手を染めてたその実自分が一番攫われたくって仕方なかったらしい。
リュゼが彼女の部屋でいわゆる黒歴史日記を見つけてしまったせいで妄想を辿る羽目になってしまった。
「しかし悪い男」
「いやいや、なんでそうなるんだよ」
「これ、どうするの?」
俺の腕の中にはあられもなく気絶したお嬢様がいたのである。しかしこれ呼ばわりとは。
「こいつ自身を奴隷商に引き渡すんだよ。仮面つけたままなら誰かわかんねえだろ」
言いつつ俺は彼女を抱えながら地下のワインセラーの隠し部屋を探していた。彼女らが拉致の現場を見られるまいと人払いをしたのか、周囲に全く人影も巡回もない。
「あった、これか」
手順は手紙に書いてあった通りでしばらくすると奥の部屋が開いた。
運んでいくと小さい船とこれまた仮面をつけた男が待っていた。
「今日の出荷か?」
「あぁ、なんでも身分隠して売っ払いたいらしいからそのままで頼むって」
「届け先は?」
「とりあえず倉庫にって。今日は俺もついていく」
「買い手も決まってねえのかよ」
ブツクサ言いながらもこんな曖昧な命令は慣れているのか、手際よく男は小舟を発進させた。
「倉庫以外ならどこがあるんだ?」
「そこらへんに地図があるだろ、そろそろ外だから黙ってろ…」
地図をポケットに忍ばせておく。これでルートは抑えた。
「おっさんはなんでこの仕事を?」
「俺だって借金さえなきゃこんな危ない橋渡りたくねえよ」
文字通り水路の上には橋が差し掛かっていた。
「よかったな、今日で危ない橋は終わりだよ」
「!」
スキル【昏睡一撃】
つい最近覚えた隠密攻撃のスキルで相手が無警戒の状態ならしばらく行動不能にできる。ちなみにさっきお嬢さんに使ったのもこのスキルで首に手刀を当てるだけで気絶するというアレである。
地図の目的地は大きな街道沿いの倉庫か、いくつかの屋敷を示していた。屋敷の方はお得意様に直接納入する仕組みらしい。
言っていると水路が終わった。おっさんの身ぐるみを剥いで放置しておこう。
ここからは地下道で倉庫に移動できるらしい。
◇◇◇◇
「運び屋はどうした?」
奴隷商のリーダーらしき男が聞いてくる。
「奴ならついに借金で首が回らなくなってトンズラこいたよ」
「ちっ、始末したんだろうな?」
「知らねえよ、俺はただ荷物を運べば金がもらえると聞いただけだ」
「こいつらはどこにって?」
「1番のお得意様のところにって言われたよ」
「へっ、あいつらも聖職者の癖に好きもんだなぁ、性職者の間違いじゃないのか」
ひっひっひっと何人かの奴隷商が下卑た笑みを浮かべていた。そういう構造だったのか。第四王子は聖協会に性的な奴隷を引き渡すことで便宜を計ってもらおうとしているらしい。同時に奴らの弱みも握ることができる。よく考えたもんだ。
…まあ、王子本人はすげー楽しんで乱⚪︎してたようにしか見えなかったけど。
「(リュゼ、例の奴隷商いないよな?)」
「いない」
…どうやらこっちは空振りだったみたいだ。まぁ、無関係とは言えこんな阿漕な商売を一つ潰せたのだから良しとしますか。
俺は奴隷の納入先を尾行する要員と交代して任務を終了した。
翌朝、待てど暮らせどレイナは朝のデートにはやってこなかった。




