最強モブへの道Ⅰ
…ところで盗賊団は意外と労働基準法を遵守している。
というのも今日もお仕事と意気込んでアジトに顔を出すとレイナに5日働いたら2日非番だと追い返されたのである。
完全週休2日制じゃねえか。
それなら盗賊団のアジトの近くに用意された宿でゴロゴロしてようと思ったのも束の間。
良い機会だからとリュゼが俺を市場に引っ張っていく事態となった。
「(さすがに身体休めたいんだけど)」
「どうせ寝るだけ。睡眠時間はきっちり確保していた。これ以上必要ない」
どうやらこいつには労働基準法は通じないらしい。プライベートやで、こちとら。
「(で、なにすんの?)」
「ダンジョンを攻略する」
お、それっぽくなってきた。と思いつつ彼女は市場をどんどん進んで立派な建物の近くまでやってきた。もしやこれは…。
「(ギルドか?)」
異世界の定番じゃん。中をチラッと覗くと見るからに荒くれ者たちがたむろったり、受付には正反対に可愛らしい女性が立っている。
「そうだけど登録しない」
なんじゃそりゃ。ちょっと憧れてたんだけどなあ。
「登録するのはもっと先。今すると異世界人ってバレる」
どうやら詳しく聞くと王都や大きな町のギルドは身元がしっかりしていないと登録できないらしい。それだけに出身ギルドは冒険者の信ぴょう性を上げるそうで。
リュゼ曰く田舎の審査がガバガバの高ランクな冒険者よりもランクは少し下でも信頼性のある町で登録した冒険者の方が依頼されやすいし、ランクも信用される。
「(依頼出す側も余計に経費のかかる高ランクよりも確実に解決してくれるランクの冒険者を呼びたいわな)」
「そういうこと」
言ってる間に彼女はギルドの裏路地から入った露天の前で止まった。
「これ、買って」
リュゼが指したのは茶色い布袋だった。
「おっちゃんこれいくら?」
「銅貨7枚だね」
「適正価格は5枚」
自動で最安値教えてくれるとかスマホ並みに便利な天使である。
「うーん」
「にいちゃんコウモリ退治だろ?ギルドの横流しだからこれは聞くぜ」
どうやらこの袋はコウモリに効くアイテムのようだ。
「大量に継続的に買うと言って1袋あたり銅貨4枚にしてもらって」
リュゼの言う通り伝えると二、三やり取りがあったものの無事購入することができた。…ちなみにすごく重い。
その後もリュゼとショッピングと洒落込んだわけだが。買うもの買うものの意味がわからない。骨董品を扱う店で短剣を買ったり、油やマッチといった生活用品。それを待たされ続ける俺。
「(前世のクソ女との買い物思い出して腹立つんだが)」
「少しの辛抱」
中身がブランド品やら服やらじゃないだけマシだが、荷物の重さと反比例に俺の財布は軽くなっていき、5枚あった金貨が残り1枚になった。
ちなみに見ているとどうやら金貨1枚で1万円くらいの価値らしい。最後にその金貨も荷物を入れる手押し車により旅立ってしまった。
「今から転生の森に行く」
これでショッピングも終わりか、やれやれと思った矢先なけなしの金で昼飯を食い、タバコを吸っていると女神はそんなことを言い出した。
「(帰って寝たいんだが)」
「まだ体力ある」
俺の精神的疲労を女神は考慮してくれない。
そんなこんなで日も沈みかけるという頃、わざわざ転生の森(スタート地点)に戻ってくるハメになった。
「これがダンジョン」
目の前には一つの村のように石造りの建物を屋台や冒険者が囲んでいた。どうやら他の冒険者たちは多かれ少なかれ疲労の色を顔に宿しており、引き上げていくところのようだ。これから王都で一杯やろう的な声が聞こえてくる。
「(今からぁ?)」
「そう。夜の方が効率いい」
「(でも入口閉めていってますけど)」
入口をしきっているであろうギルドの職員さんらしき人たちも引き上げていくようだ。制服がギルドでみたそれとよく似ている。
「だから忍び込める。どうせ正式な手続きを踏んでもあなたにこのダンジョンの立ち入り許可はでない」
そういうことかよ。天使が思いっきり犯罪行為を推奨してくる異世界生活ってどうなの。なんて思っていたら声をかけられた。
「にいちゃん、出遅れたか?もうこの時間からだと商品は売れねえぞ」
「そうなんですよ。仕入れに時間かけすぎました」
「オニバット対策の匂い袋なんて持ってきてもここらの冒険者は買わねえぞ?しょうがねえ、今日荒稼ぎした俺っちが買ってやろうか?」
聞くと銅貨6枚で買ってくれるらしいので売ろうとするとリュゼに全力で止められた。銅貨の上乗せ分はここまでの輸送費みたいだ。
周囲も見ると王都より少しずつ物価が高い。この差でここらの人たちは商売しているようだ。
そんなこんなでちょうど持ってきた荷物と相まって売れない行商人を演じること数時間。ダンジョン前の広場の人もまばらになった頃、俺は異世界初のダンジョンに挑むことになった。
入口は気配遮断スキルで素通りである。まじチートすぎるでしょ。
「ちなみにここの魔物、レベル高いから気配遮断EXでも感知してくる」
全然チートじゃありませんでした。
「死ぬじゃねえか」
「大丈夫。敵意を見せなければ気づかれない」
「じゃあ倒せないじゃん」
「倒さなくていい」
リュゼは口数が多くないのでこっちから聞かないとなにをしたいのかさっぱりわからん。
入口から少し行くと明らかに強そうな筋骨隆々の狼がたくさんいた。それも素通りしてなんとか目的地に辿り着いたらしくリュゼは指を刺す。
「このブロックを短剣でくり抜いて」
「いい加減なにをするのか教えてほしいんですが」
「わかった。それが終わったら教える」
なんとか短剣をブロックの間に差し込むと柔らかい土のような所で刃が止まり、それを四方差し込んでいくとブロックが切り抜けた。
「これからオニバットの巣に入るから短剣に油を塗って」
油を塗っているとリュゼは続けて手順を口にする。
「まず入口が開けたら匂い袋をたくさん投げて。オニバットはその匂いが大嫌いだから逃げていく。突入したら逃げ遅れた周りのコウモリを短剣で落としていってマッチで火をつける。最後に巣に火をつけたら倒せる」
そうか、そいつらを倒せば良いアイテムかお宝があるのか。
「じゃあいく。ちなみに噛まれても死なないけどすごく痛い」
そんな不穏な呟きを残してコウモリの巣がある小部屋に入っていった。数分後、コウモリの巣は駆除したものの何箇所も噛まれた俺は痛みで気絶する運びとなった。
「大丈夫?」
「大丈夫に聞こえるような悲鳴だったか?」
「死んでない。次に行く」
「待った。お宝は?」
「オニバットの巣にお宝なんてない。それに焼いた」
「え、じゃあ何のために?」
初冒険というよりはどっちかってーと駆除である。気絶してる間の膝枕くらいしか報酬がなかった。
「レベルを上げて強くなる」
そう真っ直ぐに言われると逆らえない。かくしてリュゼは次々と強そうな魔物をスルーして俺にコウモリの巣を駆除させていった。
いわゆるメインロードからも外れたこんなところ誰も来ねえだろうと思うような何個めかももうわからなくなったようなコウモリの巣の駆除が終わった途端リュゼがすくっと立ち上がって言った。
「これからボスを倒しに行く」




