盗賊団Ⅱ
草木も寝静まる丑三つ時なんて
よく言ったもんで。
深夜の王都でも
繁華街やスラム以外は
しんとしている。
(なんであの仕事受けちゃうんだよ)
結局レイナが持ってきた仕事の中から
俺の盗賊団デビューの依頼は
件の男色貴族のものになった。
レイナも正直なところ冗談だったようで。
“ もうちょい簡単な仕事からでもいいんだぞ?”
なんて夕食時には言われてしまった。
ただリュゼが頑としてその仕事にしろというので
俺としては受けざるを得なかったわけだ。
自信過剰なやつみたいで少し嫌だったし
理由は聞いても教えてくれない。
(で結局あの仕事受けた理由は教えてくれないのか?)
『あなたに話していいのか
迷っている』
『理由も複雑』
(なら別に無理やり聞かねえけど)
『一連の出来事が終われば
ちゃんと話す』
さいで。
なら無理やり聞こうと思わない。
…と話しながら深夜に
王都を徘徊しながら
たまに近寄ってくる
巡回の憲兵や貴族の私兵、
あるいはスラムの荒くれ者を
撒き続けていた。
ここ最近の俺の日課で
気配遮断を使わずに
誰にも絡まれないように
散歩することで素の俺の隠密術を
磨くことが目的らしい。
みんな睡眠時間が長いせいもあるが
俺の夜型になった生活習慣は
転生してもあまり変わらないようで
こうやって深夜に起き出しては
体力とスキルを限界まで
使うことで成長の
効率を高めているというわけだ。
…さすがに眠くなってきたと思い、
スラムに戻りかけるころ
娼館が立ち並ぶ一角を通りかかった。
なんだかレイナによく似た
赤髪の少女が店先でせっせと
路地を掃除していた。
レイナは現在おそらく10代後半ほど
数年前まではこんな少女だったに
違いない。
少女は娼館の客が路地に
吐いたゲロをせっせと水で流して
ババアに怒られながら
タイルをブラシで磨き上げていた。
なぜかその少女が
やけに目に残った。
…帰ろう。
◇ ◇ ◇
翌日。
俺は朝食がてらレイナと
今回の仕事について話していた。
イッセイはパンを齧りながら聞く。
「で?なにを盗んでこればいい?」
レイナはテーブルに足を乗せたまま、不機嫌そうに 煙を吐いた。
「新人にこの仕事を任せるつもりは
なかったんだけどな」
どうやらレイナはいまだに悪ふざけで
この仕事を割り振ろうとしたことを
ばつが悪く感じているようだ。
「召喚祭の日、スラムのガキが
何人か消えた」
空気が少し重くなる。
天使が俺に理由を
話したくないのはこれか。
イッセイは眉をひそめる。
「グランベル家」
レイナの目が冷える。
「表向きは慈善貴族。才能ある子供を
見出して騎士学校に通わせたりしている
一方で自分好みの男子に手をつける。
裏で奴隷商とも繋がってる」
(サラッとヤバいこと言うね)
『多分、事実』
「今回はその奴隷商の足取りを
追うのと子供の救助が目的ってとこだ」
イッセイは少し姿勢を正した。
俺がこの世界に来たせいで攫われた
子供達がいるってことだ。
『回収したい装備もある』
(装備品?)
『勇者パーティ想定装備』
空中に半透明のウィンドウが浮かぶ。
【勇者想定装備】
《黄糸の革靴エアウォーク》
・足音軽減
・空中闊歩のスキルを得る
・素早さ補正
【現状】
グランベル家が保有
イッセイは目を細めた。
(……これ俺向きじゃね?)
『かなり』
(勇者じゃなくても使えんの?)
『専用装備ではないから可能。
専用の方に上位互換の装備がある。
しかも次の勇者隠密系じゃない』
(なんでわかる?)
『あなたが来たから』
装備や能力が食い合う
心配はしなくてよさそうだ。
「おい新人」
レイナがこちらを見る。
「あんたは陽動の方だ。
くれぐれも捕まらないようにな」
「…この仕事を俺にやらせるのが
嫌だったんだよな?
過酷な仕事なんだろ?
初仕事の前祝いをくれないか」
「なんだよ」
「俺を潜入の方に回してくれないか」
数時間後。日も沈み。
歓楽街に人が集まり出す頃。
イッセイは貴族街の屋根の上にいた。
「うわぁ……」
思わず声が漏れる。
王都中心部。
スラムとは別世界だった。
白い石畳。
巨大な屋敷。
巡回騎士。
金の匂いがする。
『目標確認』
リュゼの声。
視線の先には巨大な屋敷。
グランベル家。
警備兵だけでもニ十人以上いる。
「これ新人向けじゃなくない?」
『だから意味ある』
リュゼは淡々と言う。
『低レベル時に高レベル相手と接触するほどスキル成長効率上昇』
イッセイは息を吐く。
この世界の人間は、
安全な雑魚狩りばかりしてレベルを上げる。
だからスキルが育たない。
でもイッセイは違う。
最初から格上相手に渡り合う。
その方が後々強くなる。
「理屈はわかるけど怖ぇよ……」
『自分で志願した』
確かにな。
しかしレイナは子供を全員助けるのは
無理だとか言っていた。
俺にはいざという時の気配遮断もある。
絶対…全員助けてみせる。
陽動のゴロツキたちが眼下で
揉め事を起こし始めていた。
イッセイは気合いで屋根から飛び降りる。
着地。
「いっ…!!!」
「……ん?」
一人の兵士が眉をひそめた。
兵士はしばらく周囲を見回し――
「気のせいか」
去っていった。
冷や汗が流れる。
ギリギリ悲鳴を上げなかったし
気配遮断を使用した。
『なぜ靴ないの…?』
(どうせ靴盗んで帰るなら履いて
帰った方が無駄がないだろ)
俺は足に足袋だけ履いていたのだ。
着地で小石を踏んで
激痛が走った。
…マジで痛い。
『バカ。見つかったら死んでた。
気配遮断使ってもスキルレベルは
上がらない。意味ない』
(うるせえな。
ちょっと緊張してただけだ)
『油断しない。
今の兵士、レベル高い』
(わかったから心臓に悪い情報後出しするな)
屋敷内部へ侵入。
赤い絨毯。
シャンデリア。
廊下には今まで支援したであろう
騎士の絵画や武器が飾られていた。
情報では地下に子供達を捉えているようで
昼から屋敷周りを観察しても
屋敷には奴隷商や主人は見かけられなかった。
『装備品も子供も地下』
イッセイは廊下を進む。
巡回兵。
メイド。
執事。
誰にも見つからない。
散歩の訓練が効いている。
その中の1人の執事がどうやら
玄関先でのゴロツキとの揉め事を
報告しに行くようで
足早にどこかへ行く。
…こいつについていこう。
時に後ろにピッタリ着いたり、
豪華な調度品をキャットウォークのように
歩いたりしつつ、執事を追う。
すると地下への入り口と思われる
重厚な扉の前に出た。
「お役ゴメンだね」
スキル影落とし使用。
いわゆる首にチョップを当てて
気絶させるアレだ。
頭の中で音が鳴り
レベルが上がったようだ
【罠感知 Lv1 獲得】
【気配察知 Lv2 → Lv3】
【盗人 Lv1 → Lv2】
【影落としLv1 → Lv2】
「……マジで経験値うまいな」
『だから本来、強者相手の潜入が最適解』
そんなこんなで地下牢に
たどり着いたわけだが。
(悪趣味だな)
そこに広がっていたのは
上階と同じ光景で
地下までの螺旋階段に
装備や絵画が飾られている。
みんな見目麗しいような
美男子ばかりが描かれて
いるが、上と違うのは
その表情だ。
みな一様に苦悶の表情を
浮かべている。
(真性のサディストだな、こりゃあ)
『サディ…?』
(自分の好きな奴を苦しめたいってこと)
『加虐趣味』
しかしここまでいくと
もはやサイコパスのようだ。
その一角にーー
『あった』
エアウォークは血塗られた一角に
鎮座していた。
売却もせずに使用もしなかったのは
コレクションだったからか。
『元々これの持ち主は
勇者パーティに入る素質があった』
俺は手を合わせて拝んでから
ありがたく使わせてもらうことにした。
そうして悪趣味な標本を
見ながら進んでいくと
曲がり角の先から笑い声が聞こえた。
「いやぁ、次の“商品”も上玉でしてな」
「ガハハ!召喚祭の時期は
孤児は集めやすくて入れ食いじゃの」
「勇者関連の噂を流せば
入れ食いですからの」
イッセイの目が細くなる。
太った男。
豪華な服。
たぶんグランベル伯爵。
隣には奴隷商らしき男。
(胸糞悪ぃな……)
『殺す?』
(物騒な天使だな)
だがイッセイの中にも少しずつ怒りが湧いていた。
勇者のためとか、
世界のためとか以前に。
こういう連中は気に食わない。




