【225】冒険者試験編㉗ 〜アーシスの召喚獣〜
「ふぁ〜〜〜ぁ……」
にゃんぴんは大きく伸びをすると、そのまま煮干しをもぐもぐと食べ始めた。
ポリポリ、ポリポリ……。
緊迫したアリーナの空気をまるで無視したその姿に、アーシスは血だらけの顔で、じとっとした目を向ける。
「…………うまいか?」
「んにゃ〜、まぁまぁにゃ!」
そこでようやく、にゃんぴんは気づいた。
「……なんにゃ!?傷だらけにゃ!!」
次の瞬間、淡い光が弾ける。
回復魔法。
薄緑色の光がアーシスの身体を包み込み、裂けた皮膚と打撲がみるみる塞がっていく。
「サンキュ」
アーシスは拳を握ったり開いたりして身体の調子を確かめ、剣を握り直した。
「……強敵にゃ?」
にゃんぴんは、ひょいっとアーシスの頭の上に着地する。
「……ああ」
アーシスは、ネプチューンと、その背後に佇むバル=ゾルディアスを睨んだ。
(……魔物か?精霊か?)
ネプチューンは無表情のまま、にゃんぴんを観察している。
「……まぁ、関係ない……一緒にやるだけだ」
淡々と告げると、ネプチューンは杖を軽く動かした。
──その合図と同時に、バル=ゾルディアスの右腕が唸りを上げる。
巨大な斧が、弧を描いてアーシスを叩き潰しにきた。
「おわっと!」
アーシスは跳躍し、背面で斧をかわす。
そして──着地と同時に地面を蹴り、魔獣の懐へ一気に飛び込んだ。
「昇竜剣《ライジング・DG》!!」
下から上へ、渾身の剣閃──だが。
ガガガガッ!!
アビスグラムは弾かれ、火花が散る。
「くそ……やっぱダメか」
「んにゃ〜、硬いにゃ〜」
アーシスとにゃんぴんは即座に距離を取る。
「……何度やっても同じだ。お前の剣は通らない」
ネプチューンの淡々とした声。
「うるせっ!攻略法は分析済みだ!」
アーシスは即座に言い返す。
「分析なんて珍しいにゃ。頭使ったにゃ?」
「まーな」
アーシスはドヤ顔で鼻の下を指でこする。
「いいか。あの召喚士にも、あの魔獣にも、剣は弾かれた。……てことはつまり……」
剣を握る手に力を込める。
「"力が足りない"ってことだ!!」
「…………にゃ」
あまりにも直球な結論に、にゃんぴんは一瞬言葉を失った。
「弾かれるなら、弾かれない強さで斬ればいい!」
アーシスは叫ぶ。
「にゃんぴん──"黒紫の剣士”、いくぞ!」
「にゃっ!」
「……黒紫の、剣士?」
ネプチューンが眉をわずかに動かす。
宙に浮かんだにゃんぴんの身体を、淡い黒紫の光が包み込む。
額に刻まれた紋章が、じわりと浮かび上がった。
「──いくにゃ!」
次の瞬間。
黒紫のマナが奔流となり、細く長い魔力の糸となってアーシスの全身へと流れ込む。
「……あれは……黒紫のマナ……」
ネプチューンの目が細められた、その瞬間。
「うおおおおおおおおおおお!!!!!」
アーシスの咆哮が、アリーナを揺るがした。
「……っ!?」
血管が浮き上がり、全身を激痛が走る。
口元から血を滲ませながら、アーシスは歯を食いしばって耐えた。
次の瞬間──
凄まじい魔力が爆発し、黒紫のマナが暴風のように荒れ狂う。
「くっ……はぁ……はぁ……」
竜巻のように吹き荒れた魔力は、次第に収束。
薄く、黒紫の焔がアーシスの身体を包み込んだ。
アーシスはゆっくりと顔を上げる。
「……ふぅ。レベル1は、だいぶ慣れてきたぜ」
──息を呑む控えエリア。
──ざわめく観客席。
影の男はニヤリと笑い、G=フュールーズは、真剣な眼差しでアーシスを見つめていた。
「……く、くくっ……なんなんだ貴様は」
ネプチューンは笑い、そして杖を掲げる。
「……面白い!やれるなら、やってみろ!」
バル=ゾルディアスが咆哮し、巨大な斧を振り下ろす。
ガチィィィン!!
アーシスは正面から斧を受け止めた。
衝撃波が結界を震わせる。
グ、グググ……。
バル=ゾルディアスは力を込める──だが、アーシスは微動だにしない。
魔獣の凶暴な顔に血管が浮かぶ。
──次の瞬間。
アーシスは剣を滑らせ、斧の脇を抜けて一気に懐へ。
「にゃっ!」
にゃんぴんが放った魔炎が、アビスグラムに絡みつく。
「波動剣!!」
振り抜かれたアビスグラムから、鋭い剣撃の波動が空気を切り裂いて飛び出した。
ズシャアァッ!!
── バル=ゾルディアスの胸部が斜めに裂け、紫色の血が噴き上がる。
控えエリアから歓声が上がり、観客席ほ大きくどよめいた。
「っしゃ!はじめて通ったぜ!!」
アーシスとにゃんぴんが、ハイタッチ。
その光景を、ネプチューンは静かに見つめていた。
「まさか……学生が第七層に傷をつけるとはな。……いや、認めよう。……貴様は一人前の"男"だ」
ネプチューンはゆっくりと杖を掲げる。
上空に魔法陣が展開され──チャリン、と金属が砕けるような音が、バル=ゾルディアスの身体から響いた。
──それは、淡紫色の巨大な鎖が、砕け散った音だった。
「な……?どういうことだ……?」
アーシスが目を見開く。
「んにゃ〜……」
にゃんぴんは冷静に告げる。
「今までは、魔力の鎖で魔獣の力を抑えてたみたいにゃ」
「え……て、ことは」
「んにゃ〜、ここからが本番にゃ」
「……………」
アーシスの頬を、冷や汗が伝った。
ネプチューンは、冷酷な目で杖を振り上げる。
「見せてみろ──貴様の覚悟を」
(つづく)




