表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
223/230

【222】冒険者試験編㉔ 〜追憶の瞳〜


 ──十三年前。

 山々に囲まれた、とある小さな村。


「え〜、にいちゃ、もう行っちゃうのぉ……」

 子供用の短い木剣を握った小さな男の子が、口を尖らせていた。


「はは、ごめんなニーノ」

 その村には似つかわしくない高貴なロングローブを纏った青年は、そう言って弟の頭を撫でる。


「俺様の助けを待ってる人たちが、たくさんいるからよ」

 ──青年の名は、ネプチューン=ペンタゴン。


 冒険者デビューと同時にS級に位付けされた、天才召喚士。

 この村が誇る、出世頭だ。


 ──そして、小さな男の子の名はニーノ=ペンタゴン。

 ネプチューンの、たった一人の弟。


「僕様もついてく!冒険者になる!」

 ニーノはぷくーっと頬を膨らませながら、木剣をぶんぶんと振り回した。


「おいおい、お前はまだ9歳だろ?……さすがにまだ早いって……」

 苦笑いを浮かべるネプチューンの言葉を聞かず、ニーノは勢いよく畳み掛ける。

「にいちゃは召喚士だから、僕は剣と魔法を極めて魔法剣士になる!……それで、前衛でにいちゃを守るんだ!」


 無邪気で、まっすぐな瞳。

 ネプチューンは、その瞳が好きだった。


 スッとその場に膝をつき、ネプチューンはニーノと目線を合わせる。

「はは、お前は才能があるからな。すぐになれるさっ。……でも、今お前までいなくなったら、誰が母さんを守るんだ?」


 ニーノは、うっ、と言葉に詰まり、唇を噛んだ。


「ニーノ」

 ネプチューンは優しく頭を撫でる。

「俺様がいない間、母さんを頼むぞ」


 そして立ち上がり、山の向こう──まだ見ぬ戦場を睨んだ。


「俺様は……"世界を守る"!」



   ◇ ◇ ◇


 ──3ヶ月後。

 後に"魔王大戦"と呼ばれる、魔王軍と人族との全面戦争は長期戦に入っていた。


 辺境の戦線に配置されたネプチューンは、難敵とされていた魔王配下の魔族を撃破し、砦を死守。

 一時的な休息として、故郷への帰還か許可されていた。


 ザッ、ザッ、ザッ。

 馬を走らせること数日。

 深い山を越え、ようやく故郷の村が目に入る。


「…………は?」

 言葉が、喉で引っかかった。


 英雄として迎えられるはずだった凱旋は、あまりにも静まり返った風景で迎えられた。


 ──村は、焼け野原だった。


 炭と灰。

 立ち上る煙の匂い。

 人の気配は、どこにもない。


 ネプチューンは、走った。

 足がもつれるほど、必死に。


 家は、半分崩れていた。

 扉を蹴破った先で、ネプチューンはそれを見つけた。

 倒れたまま、動かない──ニーノの姿。


 魔法剣士を目指していた、まだ小さな背中。

 地面に飛び散った血痕。

 握られたままの木剣。

 そこには、戦った痕が残っていた。


「……なんでだよ」

 膝が、崩れ落ちる。


「俺様は……魔族を倒したんだぞ」

 世界を救ったはずだった。

 誰よりも強くなったはずだった。


「なんで……」

 答えは、返らなかった。

 溢れ続ける涙を止める術を知らず、ネプチューンは、ただ強くニーノを抱きしめた。


 ──その日、ネプチューンは理解した。

 "どれだけ強くても、すべては守れない"。



   ◇ ◇ ◇


 グローリーゲイト。

 夜風が、砂煙を静かに散らす。


 アリーナに立つアーシスは、真っ直ぐにネプチューンを見据えていた。


(──その瞳。……懐かしいな)

 ネプチューンは、口元を歪めて笑う。

 それは、嘲笑でも冷笑でもない。

 痛みを知る者だけが浮かべる、苦い笑みだった。


 ネプチューンはスッと手を上げ、パチンと指を鳴らす。

 ──その瞬間。

 アーシスを囲んでいた幻影が砕け散り、アビス・レクイエムは霧のように消えた。



「……召喚を、解除した……?」

 控えエリアで、パブロフは息を飲む。



 ネプチューンは、深く息を吐いた。

 そして、アーシスを見据えたまま、ぽつりと呟く。

「……貴様の覚悟、試させてもらうぞ」


「えっ……」

 その言葉を掻き消すように、ネプチューンの杖が、石床を叩いた。


「──《契約位階・第七層》」


 ネプチューンの声が、アリーナに低く響いた。


(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ