第十話「強くなった原因」
「……ここは」
暗い。とても暗い場所だ。
俺は、確かいつも通り一人寂しくテントの中で眠っていたはずだ。しかし、ここはテントの中じゃない。
寝袋もないし、近くに荷物もない。あ、いや違う。確か俺は尿意に襲われて、テントから出ていったんだった。
そして、しばらく離れたら急に意識が。
「ようやく繋がったみてぇだな」
「……子供?」
周囲を見渡していると、いつの間にか正面に子供が立っていた。
右が燃えるような赤、左が黒という珍しい髪の色。
そんな髪の毛をツインテールにしている。
というか、周囲の風景も変わっている。まるで、貴族の部屋のようだ。
「見た目は子供だが、俺様は魔王だ」
「ていう設定か?」
「んなわけねぇだろうが。俺様は正真正銘の魔王様だ。てめぇら、勇者一行が倒そうとしているな」
……そうか、これは夢か。
うん、絶対夢だ。
でなければ、こんなすぐに魔王に会えるはずがない。
「それで? その魔王様がなんで俺の夢に?」
「んのもん決まってるだろ。てめぇには俺様の加護が与えられているんだ。つまり、てめぇは俺様の所有物ってこった」
へー、ふーん……ん? なんだって? 今、この子供魔王なんて言ったんだ? 俺が、誰の加護を与えられているって?
「じょ、冗談はよせよ。そんなはず」
「冗談じゃねぇ。てめぇのような凡人が急に成長できるはずねぇだろ? てめぇだって、急に強くなった原因がいまだにわかってないんだろ? ん?」
可愛らしい顔をして、なんて口の悪い。
とりあえず、見下されるのは勘弁。
よいしょっと。
「思っていた通り小さいな」
おそらくファナよりも小さいんじゃないか? こんな子が、本当に世界を脅かす魔王なんだろうか。
「てめぇ! 俺様を見下ろすな!!」
「お前が小さいのが悪い」
「所有物は所有物らしく」
なんだ、この悪寒は。
俺に見下ろされたことで、不機嫌になった魔王が指に魔力を込め、勢いよく振る。
すると。
「ぐえっ!?」
俺は床へ強制的に圧される。
「うむ。これでいい」
「こ、この……!」
「無理無理。てめぇ程度の存在が俺様に逆らえるはずがねぇだろ?」
くそぉ……! また俺はこんな。
「さて、本題だ」
というか、この位置だとパンツが丸見えだ。
この子供魔王。黒とは、見た目にそぐわない色の下着を穿きやがって。
「まず、どうしててめぇに俺様の加護を与えたか。知りたくねぇか?」
「まあ、知りたい、けど」
「理由は簡単だ!」
まさか、俺を通じて勇者の動向を探ろうと?
「ただの暇潰しだ」
「ふざけるなああ!!」
マジでふざけるなよ。もうちょっとまともな理由はなかったのか。
「しっしっしっし!! まあそう吼えるな。本当は、てめぇを使って勇者達の絆をズタズタにしてやろうと思ったんだが」
お? さっきよりはまともな理由。
「てめぇが思っていた以上に弱かったのと。勇者達が強すぎたせいで呆気なく失敗しちまった」
「あ、そうっすね」
すみませんね、加護を与えられても弱くて。いや、あいつらが強すぎるだけなんだよ。
どうなっているんだ、あいつらは。
「このままだと、俺様は簡単に殺されかねない! ので、新たな作戦を考えた!」
「へえ、どんな?」
というか、いい加減押さえつけるのを止めてくれないかな。
ここ精神世界みたなところなんだろうけど、体がめちゃくちゃ痛いんですが。
「どうやらてめぇは、勇者達のお気に入りみてぇだからな」
お気に入りかどうかはわからないけど、前よりは大事にされているかもな。
ファナ以外から。
「つーわけでだ。てめぇを本当の意味で俺様の物にする」
「何を言ってるんだろ? お前」
「わかんねぇかなぁ……つまり、てめぇを俺様に惚れさせるってこった!!」
「お前、馬鹿だろ」
「はあ? 誰に向かって言ってやがる。まあ、覚悟しておけ。てめぇみてぇな奴は一瞬で堕としてやるからよ」
正直、俺を手に入れたとしても何の意味もないと思うんだが。
「だったら、魔王様のお力とやらで俺を操るなりすればいいじゃないのか? そっちのほうが簡単だろ?」
「そいつは無理だ」
「なんで?」
「どうやらてめぇに加護を与えた後、めちゃくちゃ強力な結界が張られちまったようなんだよ。そのせいで、俺様の力がめっちゃ弾かれるんだ。今は、てめぇがあいつらから離れているのと加護のおかげで、こうして会話程度はできるんだが」
気づかない内に、俺は清果達から護られていたようだ。というか、俺が強くなった原因に気づいていたのか?
そうだとしたら、教えてくれればいいのに。
「つーわけで、これからはちょくちょく話しかけるからな。ちなみに、俺様との繋がりは夜になればなるほど強くなる」
「……俺、お前のこと話すぞ」
「そいつは無理だ。加護によって俺様のことは許可がないと喋れないんだ」
厄介な加護だ。まあでも、こいつのおかげで凡人の俺はもっと強くなれたわけだし。
会話相手ぐらいは……いいのか?
「言っておくが、俺は簡単にはお前のものにはならねぇぞ」
「吠えろ吠えろ。人間など、魔王である俺様にかかれば堕とすなど造作もない。では、最後に聞け! 俺様の名はクローティア・ヨジョセ! 覚えておくがいい!! はーっはっはっはっは!!」
まさか魔王から加護を与えられていたとは。
この先、どうなるんだ? 俺。




