第九話「嫉妬の理由」
「で? どうして、お前はここに居たわけ?」
もはや人の形を保てず、魂だけの存在になった悪霊。
聖なる力が物凄い清果やファナを遠くへとやり、なぜか一番側に居て落ち着くとか謎の言葉を言うので、仕方なく事情を聞いている。
ちなみに、リオも精霊の加護が強く近づけないようだ。
「もう、三百年も前だ。俺は、ここで幼馴染と待ち合わせをしていたんだよ」
「ほう」
「俺は、その幼馴染に何度もアタックした。それが実ったんだと思ったんだよ。それで、テンションが上がって待ち合わせの時間よりも早くここに来たんだ。そしたら……そしたらなぁ! 見ちまったんだよ!!」
あっ、これはまさか。
魂だけだが、その感情の高ぶりは輝きの強さで理解できた。
「幼馴染が、他の男とめちゃくちゃディープなキスをしていたところをな!!」
「それは……つらいな」
「マジでつらかった……! しかも、その男がもう一人の幼馴染だったんだから更につれぇ!!」
うわぁ……確かに、好きだった子が、他の男とキスをしている現場を見るのは辛いよな。
しかも、ようやく恋が実ったと思ったテンションで、だからな。
「うんうん。それで、お前はどうしたんだ? 泉に住み着いているってことは」
「ああ。ここで死んだんだよ」
やっぱりな。失恋したことで自殺、か。予想はしていたけど、まさか予想通りだったとは。
「けどさ、それで他のカップルを呪うのは違うんじゃないか?」
「俺だってわかってはいたさ。けどな、俺の目の前でイチャイチャとするカップルの姿を見ると、思い出しちまうんだよ! あの時の光景がなぁ!!」
その後は、ただただ男の愚痴を聞かされるばかり。同情はするが、もううんざりだ。
色々言ってくるが、結局は失恋により自殺をして、その恨みをここに来る若いカップルを呪っていたと。
まあ、ここは小さな村で、最近も人口が減ってきたから、若い人達が少なくなった。
そして、泉の噂も伝わって誰も近づかなくなった。
「……はっ。どうやら、俺はここまでのようだな」
やはり、ダメージは大きかったようだ。
魂が消えかかっている。
「最後に、俺の気持ちを思いっきり吐き出せて、すっきりしたぜ」
「そっか。力になれたのならよかったよ」
「……だがな、最後に言わせてくれ」
ん? なんだろう。
「ハーレム野郎は、爆発しろやあああっ!!!」
「……」
結局最後まで、嫉妬の悪霊だったな。
「終わったようね」
「そうだな。……はあ、疲れた」
・・・
「なるほど……そんなことがあったのですね」
「ええ。かなり恨んでいたようです」
泉から帰ってきた俺達は、村長にことの次第を全て話した。
すると、村長がこんな昔話を語る。
「実は、その昔。村一番の美しさを誇る娘が、どういうことか誰からの告白も受け入れず、生涯独身を貫いたというんです」
「それって、どれくらい前の話なんですか?」
リオが問いかけると。
「およそ、三百年ほど前の話です」
「三百年って……」
泉の悪霊が死んだのも三百年前。
つまり、まさか。
「その娘さんが独身を貫いた理由は、わからなかったのですか?」
「ええ。ですが、これが原因じゃないかという話なら知っています」
「その原因とは?」
ファナの問いかけ、俺達は全員、村長の言葉に耳を傾ける。
「……その娘には、二人の幼馴染が居たそうなんです。そして、その内の一人がある日当然いなくなり、ようやく見つけた時には死体となっていたと」
「なるほど。泉に住み着いていた悪霊がその失踪した男で間違いないようね」
「じゃあさ。独身を貫いた娘さんっていうのが」
「悪霊が好きだった幼馴染なんだろうな」
ここからは、俺達の勝手な想像で、真実かはわからない。
もしかしたら、独身を貫いた娘は、死んだ幼馴染のことが好きだったのだろう。
そして、悪霊が見た光景だが……もう一人の幼馴染。そいつに、無理矢理にでも唇を奪われた。そこをタイミング悪く見てしまい、勘違いをしたまま自殺。
「……悲しいですね。もしちゃんと話し合っていればあるいは」
「そうだね。もしかしたら、彼も自殺することも、悪霊になることもなかったのかもね」
いつの時代も、恋愛とは難しいものだ。
一度すれ違ったり、間違ったりしたら、変になってしまう。まあ、俺には無縁の話だけどな。
助けた冒険者達の話に興味を持ち立ち寄った小さな村。
そこで、解決したのは勘違いによって起こった悲しき恋。
村を出た後は、女子の空気がなにやらいつもと違ったように感じた。




