第十一話「背後からの囁き」
それは、朝食の時間のことだった。
「不潔ね」
「待て。あれは男としてはしょうがない生理現象だ」
俺の名は、クルート。
世界救う勇者パーティーに参加しているただの凡人だ。そして、俺のことを不潔と罵っているのは、幼馴染であり聖女のファナ。
どうしてファナが、俺のことを不潔と罵るのか。
それは、健全な男子ならばしょうがない生理現象を目撃したからだ。
どうやら俺は、あの子供魔王の介入によってテントの外で眠っていたらしい。
そして、俺の生理現象は、確実に子供魔王ことクローティアのせいだ。あいつが無防備にパンツを見せつけてくるから……。
「いったい、私達の側から離れてなにをしていたのか」
「なにもしてねぇよ! お前こそ、なにを想像してんだよ。え? 聖女様よ」
「あら? 言っていいのかしら?」
「言ってみろや」
「一人でしこしこしていたのよね? 変態さん」
……こいつ。本当に聖女か? 性女の間違いじゃないか?
めっちゃ笑顔で言ったんだけど。
「どうせ、私達のことをネタにしこしこしていたのでしょ?」
「誰がするかよ! するとしても、お前だけはねぇ」
「そうね。あなたの性欲は、リオに向けられているものね」
「え?」
ちょ、待て。誤解されるようなことをこいつは。
リオが、俺を見て固まっちまったじゃねぇか。いや、そりゃあリオの体つきはエロいから、そういう目で見てないっていえば、嘘になるけどさ。
実際、リオ自身が胸を自由にしていいと言った時は、めちゃくちゃにしようと思ったが。
「それと、清果の太ももと舐めるように見詰めているわよね?」
「え? そ、そうなの?」
おいこら。本当にこいつは……。
「清果。初めて聞いたみたいな反応だけど。前から知っていたわよね?」
「そ、そんなことは……ないよ、うん」
いや、その反応は気づいていただろ。
くそ! ファナのことを辱しめようと思ったのに、俺が辱しめられてるじゃねぇか!
「……もう、この話は止めにしないか?」
「仕方ないわね。さあ、冷めないうちに食べちゃいましょう」
「そっすね……」
その後、俺は二人の顔をしばらく見ることができなくなった。
・・・
朝食後。
俺はいつも通り一番後ろを歩いていた。いつもと違うところといえば、妙に二人を意識しているところか。
なんか二人も、俺のことをちらちら見てる。
(これもあの魔王のせいだ。どうしてくれるんだ!)
『おいおい。人のせいにすんなよ』
はっ!? この人を見下したような声は!?
『よう。楽しそうなことになってんじゃねぇか』
この……どの面下げて現れやがった。
『残念だったな。今回は声だけだ。今は朝だからな。繋がりが』
「聖拳突き!!」
「ふおっ!?」
突然の襲撃。
ファナの拳は、俺の腹に当たりそうな位置で止まった。
当たらなかったが、風圧が凄い。
「な、なにをするんだ」
「……おかしいわね。あなたから悪しき気配を感じたのだけど」
やっぱり、この聖女……ただ者じゃない。
「あたしも感じた。でも、今は何も感じられない」
清果もか。
「精霊達も、なにかを感じたようですが」
リオもか。
これは、迂闊には魔王は話しかけられないな。
「まあ、クルート自身が邪な存在だから」
「相変わらずひでぇな、お前」
『ま、マジでこえーな、こいつら』
あ、おま。今、出てきてら。
「光あれ!!!」
「やっぱりかぁ!?」
本気ではないが、強力な浄化術を食らい、俺はしばらく身動きがとれなくなった。
そうか……なぜ、聖なる力が痛いのか、今更理解した。
魔王の加護。
こいつのせいだ、絶対。
勇者パーティーの一員なのに、魔王の加護を与えられ。
聖なる力がよく効いて。
今後は、パーティーメンバーだけじゃなく、魔王のことも気にしなくちゃならないとは。
死ぬ。
これ、絶対死ぬ。この板挟みは、俺の体がもたないぞ……。




