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神様遊戯~光闇の儀~  作者: Riviy
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第四十九ノ契約 懺悔を叫べば、月は現れる



「じゃあ、行こうか茶々!」

「任せて刻!紗夜、お願いね!」

「お任せあれ、です♪」


バッと左右の壁に向かって走り出す刻と茶々。その間、空き地に一人紗夜が立ち竦む。壁に向かって跳躍、壁に着地すると壁を駆け上がって行く二人を横目に紗夜は空中を睨み付けるように凝視する。紗夜の目が暗闇の中で猫のように細くなり、まるで刃にのように空中と新月漂う夜空を睨み付ける。すると、紗夜の視界に空間の歪みが見えた。いや、もしかすると空気の歪みだったのかもしれない。嗚呼、けれども紗夜にとってはどうでも良かった。今まで見えなかったであろう歪み、その意味は。クスリと片方の口角を上げ、妖艶に微笑むと杖を地面に叩きつけた。カンカン、と甲高い音を響かせ、彼女は言う。


「攻撃魔法、展開!」


紗夜の背後に広がる無数の二色の刃。彼女が杖で指示を出せば刃達は我先にと先程紗夜が見つけた歪みへと直進して行く。そうして、ガキンッと刃が弾かれた。グニャリと空間が歪み現れたのは人物だ。空中に足場があるのかの如く、浮遊している。どうやら素早く移動し、様子を見ていたらしい。襲いかかってくる刃の群れに手をかざし、声ならぬ声を紡ぐ。と刃と手の間に透明な壁でもあるのか、刃は全て弾かれてしまう。まだあるのか。クッと唇を噛み締めた紗夜だったが、人物の左右から踊るように跳躍した二人を目視し、叫んだ。


「防御魔法、展開!」


鴇色をした小さな膜が空中に無数に現れた。それはまるで夜空に咲く花のようで、夜空に散る花びらのようでもあった。空中に現れた膜を足場に二人は凄まじいスピードで人物に接近する。相手は滞空時間が恐ろしいほどにある。どんな仕掛けなんて分かりっこない。だって『神祓い』だし。ならば、こっちは勝手に足場を作れば良いだけのこと!バッと膜を蹴り上げ大きく跳躍すると茶々は大太刀を人物の頭上から振り下ろした。先程刃を防いだ不思議な壁で大太刀を防ぐと反対側からやって来た刻の薙刀を大幣で防ぐ。そうして、二人同時に弾き飛ばす。茶々の相手をしていた右手を大幣の柄に当て、スッと滑らせれば再び大幣は槍のように長さを持つ。そして大幣の切っ先を撫でるように触れば、大幣は刃のように鋭さを増す。多くの刃を束ねた神聖なる大幣、と言ったところだろうか?けれど、三人にしてみれば関係ない!弾き飛ばされた刻は空中で上半身を捻り、付近の膜に触れる。ソッと指先で膜を弾けば、まるで蹴って跳躍したかのように飛んで行く。人物の近くにある膜に着地し、薙刀を振る。大幣で防がれるたびにジャラジャラと刃物が刻を攻撃してくる。ガッと人物を弾き、薙刀を振る。それと同時に片足を彼の方へ滑らせると足首を上手く使い、引っ掻けた。哀れ、前のめりになってしまった人物に薙刀を斜めに振り下ろす。だが、やはりと言うべきか大幣で防がれてしまう。悔しげに顔を歪めた刻に今度は人物が攻撃を仕掛ける……かと思いきや、空中を歩き出したのだ。刻の脇を通り抜けたかと思えば、そこにいた茶々に向かって大幣を振り回す。


「うわっ!?」


ブン、ガシャッ。人物の攻撃は茶々が咄嗟に機転を利かせて膜の内側に入り込んだ事によって空振りに終わった。それでも人物は諦めずに膜に大幣を突き刺した。しかし、紗夜の張った膜は彼の攻撃を通しはしない。その事実に茶々は内心カラカラと笑うと、内側から円を描くようにして跳躍した。ちょうど蹴りが人物に当たる角度で。だが、気配で気づかれてしまったらしく、人物は素早く消え、刻の背後で死角になる場所に現れる。


「攻撃魔法、展開!」

「っ」

「紗夜、ナイスだ!」


紗夜が素早く杖を掲げ魔法を唱えれば、無数の刃が刻を襲おうとした人物目掛けて攻撃する。大幣で刃を弾く人物に刻が振り返り様に薙刀を振る。後方に仰け反り、そのまま空中に手をついて後転する人物を追いかけて薙刀を突き刺す。それらを丁寧に、それでいて簡単だと言わんばかりに余裕綽々とした様子で人物はかわして行く。と下半身を捻って勢いよく立ち上がりつつ、刻に蹴りを入れる。蹴りを避け、彼女と入れ違いになって茶々が大太刀を槍のように突き刺せば人物はまた軽々とかわしていく。だが、肩が微かに揺れていた。本当に、本の少し。先程、紗夜が見切れた事も考えれば彼にも限界が近づいて来ているのだ。『神祓い』だなんて言われているが、彼は無感情で残忍な使命を帯びたロボットではない。同じ感情を持つ、同じ存在であるはずだから。だからそれは三人にとっても好機であった。


すると人物が歌を小さく紡いだ。そうして空中で大幣を強く突いた。人物の足元を中心に円が一瞬にして描かれると空中に散乱していた膜が突然消滅した。突然のことに刻と茶々が成すすべもなく落下する。そこへ人物が素早い動きで接近し、大幣を素早くそれでいて勢いよく続け様に攻撃する。それらを懸命に茶々はかわすが全てをかわしきることは不可能であった。素早すぎて茶々が大太刀を構える頃には肩や足を通過してしまっている状況なのだ。対応が追い付かない。と、大幣の切っ先が茶々の額にぶつかった。刃物の束が茶々の額を鉤爪のようにして引っ掻き、大量の血を流出させる。額の凄まじい痛みに脳も体も痺れてしまい、茶々の動きが鈍る。それが狙いだったのか、人物は空中で茶々に回し蹴りを放つと壁に吹っ飛ばす。痛みと痺れに身動きが一瞬遅れた茶々は壁に打ちけられてしまい、恐ろしい威力に壁が抉れる。刻が茶々の名を叫ぼうと、紗夜が次なる一手を打とうとすると、人物は刻の背後に滑り込んでいた。刻と茶々は空中ではあるが距離があったはず。速すぎる!そう思ったのも束の間、刻の首筋に背後から大幣が添えられる。掻き切られる、刻が確信した途端、刃物の束が容赦なく振り切られる。間一髪でしゃがむようにしてかわしたが、人物の足元に回り込んでしまった事が欠点となり、首に人物の足が絡み付いた。ギリリと絞められる首に息が出来ない。人物の足を引っ掻くが彼には大したダメージにはなっていない。そこで薙刀を上に突き、振り回せば、人物は簡単に刻から離れる。ホッと一息、したのも束の間、トンと刻の肩に人物の足が触れた。ステップを踏むような、そんな軽やかな感じ。そのはずなのに、刻の体は勢いよく後方に引き寄せられる。見えない腕に、見えない引力に引き寄せられているかのようで、刻の心中を得体の知れない恐怖が襲う。逃げようと薙刀を振った瞬間、刻は茶々のようにフェンスに叩きつけられていた。ガシャン!甲高い音が耳に煩く響く。頭と全身を強く打ってしまい、ズルズルとフェンスに寄りかかるようにして刻は座り込んだ。


「治療魔法、展「ウルサイ」ヒッ!」


慌てて魔法を唱えようとすれば、紗夜の耳元で恐ろしいほどに低い声が囁かれる。まるで地の底から響いているような、全ての負の感情をかき集めてごちゃ混ぜにしたような不協和音で不快で恐怖で哀愁漂う声。複雑過ぎて全てを拾い上げられない、そんな声。その声に紗夜の体に殺気が走る。杖を胸に掻き抱き、後方を振り返ろうとすれば、肩に優しく触れているものがあった。視線だけで見れば、それは人物の手だった。途端、紗夜の体を電流が駆け巡る。まるで腕を捻り上げられたかのような、切り落とされたかのような表現し難い強烈な痛みに紗夜の足が止まる。自分の左肩から血が流れる生暖かい感触が分かる。痛みに目を見開いた紗夜の首を人物は容赦なく掴み、地面に叩きつけた。土煙が舞い、空き地に大きなクレーターが出来上がる。クレーターの中、人物に首を押さえられた状態で紗夜が倒れていた。体を強く打ち付けてしまい、身動きが取れない。指先も腕の痛みか体の痛みか、指一本さえ動きやしない。紗夜の目の前で人物はがらんどうの瞳を細め、満足そうに微笑んだ。それは笑みではなくて、でも笑みで。それは『神祓い』の勝利で。三人共に体を打ち付け、ボロボロになり、満身創痍になっても人物に勝てやしない。もう少しだったのにな、そう思うのは負け惜しみかそれとも後悔か。紗夜が刻と茶々を視線だけで確認すれば、二人共、ピクリとも動かない。気を失っているのかもしれない。そうして自分の目の前には()()に照準を合わせた『神祓い』。嗚呼、絶望しかない。覚醒状態なら行けると思ったのになぁ。でも、哉都達は()()()()()、人物は()()()()()()()()。ねぇ、どういうことだろうな?ニィと猫のように、いや、猫の如く目を細めて笑った紗夜に人物は気づかない。ギュッと首を片手で絞め、大幣を左胸に向けて振り下ろした。


「展開」


バンッ!人物の耳元で破裂音がした。何事だと、いやどうでも良いと言わんばかりに大幣を振り下ろそうとするが腕が動かない。いや、正確にいえば体全体が押さえつけられているかのように動かない。そして大幣を持っていた手に感じる生暖かい感触と自分の眼下から消えた紗夜に人物はようやっと状況を理解した。騙された、と。状況を理解した途端、片腕を捻り上げられ背中に押し付けられる。もう片方の手には大太刀が突き刺されて地面に縫い付けられ、手のひらから大輪の紅い華が咲く。手のひらの痛さと拘束された腕と共に背中を押され、人物は両膝をついてしまう。顔を上げ、歌声を紡ごうとすれば、棒状の物が二本、人物の顔スレスレを通り過ぎて地面に突き刺さる。二本は人物のうなじ辺りで交差するようにして突き刺したらしく、顔を上げようにも上げられず、上目遣いのように視線を周囲に向けることしか出来ない。だが、歌を紡いでさえしまえば……


「やめておいた方が良いと思うが?」

「だよねー今動けば紗夜がキミの首、落っことすよ!」

「あら、あたしにそんな度胸も腕力もありませんよ?」

「よく言うよ紗夜。積極的に戦闘に参加しているじゃないかい?」

「……もぉ」


ケラケラと無駄だと笑う三人の声。人物の首筋には茶々の言う通り、二色の刃が添えられていた。不穏な動きをしようものなら、すぐさま殺してやる。そう言わんばかりだった。三人から放たれる殺気と絶望にも似た感情に『神祓い』の精神は()()()()


「破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃ破棄しなきゃじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないとじゃないと……………………ボクハ、オレハ………………アッッッッハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッッッッ!!!!!」


絶叫、発狂、咆哮、悲鳴、()()。表現の仕方なんてどうでも良い。拭いきれない感情が人物の、彼の口から溢れだす。そこにあるのは強制破棄への恐ろしいほどの執念、恐怖、そして絶望だった。彼の声が夜の闇にいつまでもいつまでも響く。空気を震わせ、星を震わせ、月を震わせる。不協和音と云う音楽として、殺せと云う脅迫として。


勝敗は、決した。


『神祓い』さんは狂ってます、事実ですが。ウチが作る敵キャラor主人公側キャラって、一人くらいは狂ってるか色んな意味でやべぇやつがいる気がします……多分無意識のうちに作っている可能性。そんなこんな。

次回は木曜日です!

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