第四十八ノ契約 二回目の月夜にて
一斉に飛び出した三人と同時に人物も大きく跳躍した。彼の背中から生えた無数の腕も三人を捉えようとウヨウヨと蠢き、襲いかかる。まずは腕に対処しなければならない。バッと地面を蹴り上げ、茶々が二人の前に躍り出ると大太刀を構える。茶々を狙って無数の腕が襲いかかるが、人物は茶々が何をしようとしているのか分かっていた。だからこそ、惜しくはなかった。自分に襲いかかる無数の腕を見据えると大太刀を振り切った。上手い具合に全ての腕を切り落とし、空中に花びらの如く舞い踊る。だが人物はそれでも良いと言わんばかりに大幣を構えて走る。すでにその背には新しい無数の腕が生え始めていた。どうやら人物自体を倒さなければ意味などないらしい。嗚呼、それでも自分達だって変わらない。ガンッと勢いよく突き刺すようにして大幣で茶々に攻撃する人物。大幣の先についた紅くも白い紙がカサカサと茶々の前で揺れ動いた。大太刀を横にし、凄まじい攻撃を防いだ茶々に再び生えた腕が襲いかかる。だが、そんな茶々の肩に手を置き、刻がその上を飛び越えて現れる。突然現れた刻に腕はまるで人間のように驚き、どちらを攻撃すれば良いのか迷い出す。しかし、そんな隙も与えず刻はもう一度腕を切断する。切断しつつも人物の後ろに回り込み、大幣を弾いた茶々と共に武器を振る。二人の攻撃に気がついていたのか、ガキンッと人物の首筋を狙って放たれた一撃は刻と茶々の武器が交差しただけであった。慌てて頭上を見上げれば、案の定、空中に人物が浮遊していた。そうして、歌を紡ごうとした。その時、傍らから迫る殺気に人物は気付き、大幣の石突きを振り返り様に振った。ガンッと鈍い音がして両者の腕に微かな振動が響く。そこにいたのは人物よりも高く跳躍した紗夜だった。杖にもなり槍にもなる武器で突き出された大幣を嫌なものを振り払うようにして弾くと、素早い動きで人物の懐に潜り込む。怪我をしていない分と覚醒している分、刻と茶々よりも動きが速い。三人と人物の実力はそれこそ五分五分だろうか?人物の中で何かが音を鳴らし潜めた。目の前に迫った紗夜に人物はがらんどうの瞳を向け、大幣を突然短く変化させた。以前の長さに戻した大幣を懐に迫った紗夜に向けて振り上げると彼女は後方に大きく仰け反ってかわす。そこへ振り上げた大幣を振り下ろす。がそれよりも先に紗夜が杖にもなり槍にもなる武器ーもう杖とするーを人物の顔目掛けて振り切った。そのため、大幣は軌道を変え、紗夜の肩をかすっただけだった。すぐさま振り切った杖を引き戻す紗夜から逃げるように空中で距離を取ると人物は今度こそ歌を歌った。
「♪~」
「そうはさせません!攻撃魔法、展開!」
だが、落下しかける中、紗夜が杖を掲げて叫ぶ。空中で跳躍してきた刻と入れ違いになり、紗夜の魔法が刻の背後で展開される。それは人物の無数の腕と同じで無数の二色の刃だった。杖を天に向かって掲げた紗夜の指示に従い、二色の刃は人物目掛けて攻撃する。同時に刻も薙刀を振り回す。と人物は歌を一時中断し、無数の腕を自分の前にまるで繭のように展開させ、二色の刃と刻の攻撃を防ぐ。先程の紗夜が張った膜と同じくらいの強度のようで、刃物は繭に腕に突き刺さったり弾き返されたりされてしまい、刻の攻撃も通じないらしく大きく弾かれてしまう。ザッと片腕を振ってもう一度大幣を長くし、歌声を人物が響かせようとしたその時、刻は繭の腕が自らの攻撃で少しだけ剥がれていることに気がついた。ペロンとまるで粘着力をなくしたシールのように剥がれかけていた一本の影の腕。滞空時間がもうない刻にとってその腕は幸運の手すりだった。その腕を掴み、腕の力を使い天高く跳躍した。そして繭の腕の上を駆ける。そうして繭の腕に身を隠す人物に向かって薙刀を突き下ろした。上から来た攻撃を間一髪で人物にかわされてしまう。と人物の背後から茶々が斜め切りを放った。その渾身の一撃は背後に回された大幣によって防がれてしまう。だが、二人は視線だけで会話すると武器を勢いよく人物の方に振った。先程と同じ展開だが、今度は人物の攻撃手段の一つである腕が刻の足元に、繭となってしまっている。容易に移動は出来やしない!二人の考えが当たっていたらしく、人物は大幣を手元から弾かれ、頬と脇腹に傷が入る。ようやっと自分達の一勝だ。それに二人は嬉しそうにニヤリと笑う。しかし、歓喜したのも束の間、人物は痛がる素振りも見せずに刻に向かって回し蹴りを放った。かわされてしまったがどうでも良いらしく、そのまま茶々にも回し蹴りを放つ。そうして二人が距離を取ったのを確認すると腕を解体し、大幣を左右に大きく振った。
「……は?」
「……え?」
続いて行った、いや、行われた人物の行動に空中にいた刻と茶々は声を上げた。大幣を左右に振った途端、背中から生えていた腕が生えなくなり、突然草木のように萎れ始めたのだ。どういうことだ?何故、自ら攻撃手段を?あの腕が本気だと思っていたのに違うと云うのか?そんな二人の混乱を他所に人物は刻を振り返り、ニィと口角を上げた。光が宿っていない瞳が口角とは反対に動いていないため、余計に不気味だった。
「!刻!」
ピクリと背後に悪寒を刻が感じたその時、遥か下ー彼らの眼下にいた紗夜が叫んだ。ハッと背後を振り返った刻の目の前に迫っていたのは先程紗夜が放った攻撃魔法にも似た複数の色をした刃物だった。今から薙刀を振っても全てを防ぐことは不可能だ。幾つかは受けることになる。それに気付きながら刻が薙刀を手首の上で弄び、構えるとプロペラのようにして回すことにした。それと同時に紗夜が杖を掲げ、叫んだ。
「防御魔法、展「紗夜!」?!」
が、それは茶々の緊迫した声によって遮られてしまった。それもそのはずだ。いつの間にか、人物は紗夜の前にいたのだから。突然現れた人物に杖を振り下ろすが片手で掴まれてしまう。大幣を腹に叩き込まれ、痛みによろめきく紗夜。そんな彼女を追いかけ、人物は大幣を左胸に突きつける。そこに刻が弾いた刃物が人物を狙って落ちてくる。その無数の刃物と共に茶々も頭上から大太刀を振り下ろす。人物が後方に数歩下がったため、茶々の一撃は地面にガンッと当たってしまっただけだったが、片足で大きく跳躍し人物に一気に攻め込むと大太刀を振った。大幣を縦にして大太刀の軌道を塞ぐと茶々に向かって蹴りを放つ。首を傾げるようにして蹴りをかわし、茶々は大太刀から片手を外すと肩辺りに上げられた人物の足を掴む。と体に走る痛みを我慢し、片手に力を籠め、人物を持ち上げた。まさかの馬鹿力に人物の目が微かに見開かれる。空中に投げ出される形になった人物を着地した刻が攻撃し、その脇から紗夜も杖を振り回す。空中に投げ出された人物は片手で茶々の手を引き離し、大幣を振り回した。大幣が刃物のように突然鋭さを増し、接近してきた彼らを傷つける。投げ出されていた人物の片手を茶々がもう一度掴み捻り上げ、着地した足を紗夜が体勢を低くし刈る。しかし、人物は小さく口を動かして消えた。瞬きした瞬間の移動かそれとも瞬間移動か。もう速すぎて分かりっこない。空き地に三人共に着地し、警戒するように背中合わせになる。人物が何処から現れるか分からない以上、警戒するにこしたことはない。
「速いですね。覚醒している状態、と云うことでしょうか?」
「うーん、似てるけど違うくない?」
両手で杖を握りしめ、紗夜が言うと茶々がそう答える。確かに紗夜の言う通り、人物は速い。だが、見分けられないわけでは決してないのだろう。
「まぁどちらでも良いだろう?今は。勝つことを求められた私達にとっては」
刻の言葉に茶々はニヤリとゲス顔とでも云うのだろうそんな笑みを浮かべ、紗夜もクスリと笑った。
「ふふ、そうですね。では、あの人にお見せ致しましょう?」
「イイね♪」
「嗚呼。では、もう一度行こう!」
「「うん/はい!」」
力強い仲間の声に刻は嬉しそうに笑った。まやかしのように浮かぶ新月が微かに色をつき始めたように哉都には見えた。
外は暑いが話は続く(言いたかっただけ、多分)




