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第四十七ノ契約 その者達、我らの参謀なりて



「さあ、今此処に姿を現せっ!我が名は鈴花。契約せし神姫の名は、紗夜《さよ》!」


目の前に迫った血走った目に臆する事なく、鈴花は右手に舞い降りた鴇色の光をギュッと握りしめる。つい先程、耳元で、いや、近くで猫の鳴き声がしたが、それはい(・)つ(・)も(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)事(・)だから関係ない。まぁ、哉都達は驚くだろうが、嗚呼、でも、私達(・)だって!


「紗夜ちゃん、出番よ!」


ガキンッ!鈴花が叫んだと同時に人物の大幣が振り下ろされた、がそれは甲高い音によって消えてしまった。いや、簡潔に言えば弾かれたと云う方がしっくりくる音が響いた。思わず鈴花が切られるという恐怖に目を背けていた彼らは、その音に前方を振り返った。そうして、驚愕した。そこにあったのは、いや現れていたのは鴇色……いや、薄いピンク色をした膜だった。哉都達を包むように鈴花を中心に展開されており、人物からの大幣の攻撃も腕の攻撃も全てを完全防御している。哉都は鈴花の前方に誰かいることに気がついた。鈴花とだいたい似た体型と身長なためか、重なって見えなかったらしい。刻を抱えたまま上半身だけを捻って鈴花の前を覗き込めば、刻と茶々も彼女の前にいる存在に気付き、目を見開いた。


「「紗夜!?」」

「え?!二人共知り合い?!」


鈴花の前、膜の前には杖の先に鋭く尖った三日月が組み合わさった槍のようなーぶっちゃけ組み合わさっているー武器を持った一人の少女が立っていた。人物は新たな獲物に殺気を煽られでもしたのか、膜を一心不乱に攻撃しているが、一向に壊れる様子はない。突然、何処から現れたのかも分からない少女の登場に刻と茶々が大声を上げる。茶々に至っては驚き過ぎたのか、怪我に響いてしまったらしく、「イタタ……」と利き腕とは違う肩を押さえていた。刻と茶々が知っている、国久が云うように知り合いなのか?一瞬にして現れた新たな驚愕に哉都の鈴花には及ばない脳がフル回転を始める。と、少女の頭と背中辺りーよりも多分もっと下ーに黒いものがついていることに気がついた。それらはピコピコと可愛らしく動き、その動きを哉都は何処かで見たことがあるような気がした。そして鈴花の右手に握られた花の装飾を施した美しい剣。つまり……え、つまり?


「あら、その声は刻と茶々ですね。お久しぶりです……まぁ、そこまでお久しぶりでもないでしょうが」

「紗夜?……どうして、此処に」

「どうして、だなんてあなたがよくお分かりでしょう?」


クスクスと鈴を転がすような可愛らしい声で少女は笑う。顔だけで茶々を振り返ると同時に膜への攻撃が過激さを増した。だが膜は人物よりも強化されているのか、ヒビ一つつくことはない。


「無駄です。覚醒状態ではないあたしの防御魔法ならば破れたかもしれませんが、今のあたしの防御魔法は破れませんよ♪」


無駄な抵抗だと言わんばかりに少女は人物を一瞥する。すると人物はようやっと理解したのか、膜から離れ、哉都達の動向を見守る事にしたようだ。逃がすつもりはないらしい。まぁどちらにしろ、哉都達には『神祓い(人物)』を倒すか強制破棄(敗ける)しか選択肢は残っていない。いや、あるではないか。第三者と云う戦力が。


「……鈴花も契約してたんだな」


低い、この状況を垣間見て出たであろう低い声は哉都が思っていたよりも低かった。剣を両手で持った鈴花はクルンと哉都達を振り返ると、困ったような謝りたそうな複雑な表情を浮かべた。右目に契約印が刻まれているようで、彼女が瞳を開閉するたびに美しく模様が見え隠れする。今まで見えなかったのは、鈴花が契約を結んだ『神の名を冠する者』に関連しているのだろうが今は良い。鈴花のその表情が全ての答えだ。長年親友をやっていたわけではない。それに、ず(・)っ(・)と(・)前(・)か(・)ら(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)し(・)。そう云うように哉都が片手を出せば、国久もにっこりと笑って彼と同じように片手を差し出す。二人の様子に鈴花は混乱していたようだったが、嬉しそうに微笑み、二人の手の上に自身の手を重ねた。


「鈴花、作戦は?」

「その持ってる剣で鈴花が戦うんじゃないよね?」

「なわけないでしょ国久。私には……うんん、私は、ま(・)だ(・)剣《コレ》で戦えないわ……ありがと二人共」


まさか感謝されるとは思ってもみなかった哉都と国久は顔を見合せ、クスリと笑った。


「頭脳明晰の鈴花がなにも策を講じないわけと思ったしな」

「知ってた……気づいてたしね。僕らが気づかないと思った?鈴花は自分のこと以外にはちょっと疎いんだから」

「国久、今それは関係ない」


そうして笑いながら頷いた。二人の優しい言葉とやり取り鈴花は嬉しそうに、楽しそうに笑った。親友を守るために契約を望み、親友の役に立つために契約を望み、そして抗うために契約を望んだ。きっと、自分達は似た者同士なんだ。鈴花の言い淀みが少し気になったが今は後回しだ。すると三人の手に刻と茶々が手を重ねて来た。驚きつつもその瞳に灯る火に二人の強い意思を感じる。それは以前話していた知り合いがいるという心強さからだろうか、それとも欲(願い)があるからだろうか。


「あたしもやります。ていうか、お嬢様の指示ですしぃ」

「紗夜ちゃぁ~ん?」


そこに少女の手も重なる。まるで小さな山のように重なった手は誰にも崩すことが出来ない山の絆、信頼だ。少女のちょっとしたからかいに鈴花が「いらないこと言わないで」と軽く彼女を睨み付けると、少女はケラケラと笑った。その様子がなんだかいつもの自分達のようで笑いそうになってしまったのは内緒だ。国久が鈴花に「作戦は?」と促すと彼女は刻と茶々と少女を視線で示した。


「刻、茶々、二回戦、やりません?」


少女に言われ、その意味に気づいたのはなにも刻と茶々だけではない。二人は血塗れになった手で傍らに放り投げていた武器を握った。


「もちろん!やろうよ、紗夜♪」

「嗚呼、喜んで」


二人の頼もしい答えに少女は笑う。哉都も握っていた刻の手を握る。握り返してくるその力が、まだ、叫んでいる!


「治療魔法、展開」


先に三日月がついた杖のような武器を傷だらけの二人に掲げ、少女が呟くと空色と鴇色の二色の光が先から放たれ、螺旋を描きながら刻と茶々を包んで行く。二人の一番酷い怪我に集中して光は包み込み、怪我を治療していく。急激な回復に二人の顔が痛みに歪んだ。不安そうに心配そうに哉都と国久が二人を見下ろせば、少女はカラコロと笑って言った。


「ご安心ください。急激な回復に伴い痛みが生じているんです。二回戦をやるのに大怪我があってはフェアじゃないでしょう?あっちはほぼ無傷なのに」

「神王・神姫って魔法?使えるんだね?」


国久の些細な疑問に鈴花は「どうなの?」と振り返ると少女が答える。


「人……神王・神姫によって異なります。二人から話しは聞いているでしょうが、攻撃が得意な者も後方支援が得意な者も『神の名を冠する者』の中にはいます。あたしは多少魔法が使える中距離型の攻撃を得意としています」

「多少ってことはいるにはいるんだな。まぁ、生まれた時代?が違えばそうか」

「そうですね。所詮あたし達は『神の名を冠する者』。多種多様ということですよ♪」


なにが所詮なのかさっぱりだが、少女は楽しそうにカラコロと笑う。人型や精霊型とか色々いるのだ。武器が出現し、召喚・契約、モノノケがいる時点でなんでもありっちゃあありか、うん。とりあえず、納得しつつうんと哉都が頷くと、刻がゆっくりと立ち上がり始めた。しっかりとした足取りで、哉都の手を握りしめながら。腹に大きく咲いていた華は色を潜めており、少女の言う通り大怪我を多少なりとも治したらしい。「主君のお陰でもあるよ」と刻は握っていた手をゆっくりと抜き、哉都の頭を撫でた。その隣では茶々が立ち上がり、大太刀を構えようとしていた。再び立ち上がった強制破棄と云う獲物に人物はピクリと反応し、背中の腕をユラユラと動かし、大幣の石突をカンカンと地面に打ち鳴らす。まるでがらんどうの瞳の代わりに大幣で威嚇しているように見える。無数の腕もマフラーも翼のように蠢いて、まるで何処ぞの魔王のようだ。だが、こっちだって敗けてはいられない。


「じゃ、作戦開始と行くよ!」


そう茶々が叫んだ途端、パリンッと音がして膜が割れた。キラキラと落ちる膜の破片がまるで星のようで、暗闇で美しく反射する。と、少女が突然、哉都と国久に向かって頭を下げた。驚く二人の前で少女は云う。


「忘れていました。あたしは紗夜。お嬢様の神姫です。どうぞ、お見知りあれ」


ちょこんとスカートの裾を摘まんで可愛らしくお辞儀しながら少女は言った。

少女、紗夜《さよ》は深紫色のロングヘアーで両のもみあげがくるくると巻かれており、後ろ髪は少し編み込みが施されている。右が鴇色、左が空色のオッドアイ。服は黒を基調とした控えめなゴシックロリータ服でまるで貴族のお嬢様のような気品と優雅溢れる格好だ。スカート部分はふんわりとしており、少し膝上。靴は踵が多少高い。左腕の羽のように広がった袖には薄いピンク色で肉球が、右腕の袖とスカート部分には薄い空色で月星紋と蘭紋が背中合わせに並ぶような形で重なりあったデザインで描かれている。そしてもちろん、彼女の頭には黒い猫耳、後ろからは黒い猫尻尾が生えている。


パンッと膝を叩いて刻が哉都を守るように背を向け、薙刀を構える。目の前で揺れ動く『神祓い』を睨み付けながら三人の『神の名を冠する者』が並ぶ。その姿はまさに神と云うに相応しく、神々しかった。


「紗夜ちゃん、やっちゃって!」

「無理はなしで、頼んだ!」

「勝て!」


背中から送られる契約者達の力強い声援と云う石と言葉に三人の『神の名を冠する者』達は、嬉しそうに口角を上げた。


「我がお嬢様のご命令とあらばっ!」

「了解!主様!」

「主君の仰せのままに」


三者三様の力強い答えに哉都達も笑った。

全員やっと揃いましたー!物語で言えば、まだ全員じゃないけど!けど!出せましたー!……はいそこテンション高いとかいつものことでしょ(え)

……次回は来週月曜日です!後書きなにか言うことあるかな!?(フラグ)

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