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夏休み 決戦!5

 疎及を太刀原に任せた大地は今、廊下の突き当りにある両開きの大きな扉の前に立っていた。背後から、太刀原と疎及の会話が聞こえてくる。一方で扉の向こうには、複数人の気配があった。

 そんな状況下で、大地は誰かに語りかけるように、独り言をもらした。


「いいんだよ、爺に任せとけば。ちょっとした因縁もあるみたいだしさ」


 そして、一拍間を置いて、


「待って待って。確かに僕は全くやる気はないけど、一応美雨にされたことの仕返しもかねてここにいるんだからさ。弟君の出る幕じゃないよ」


と言ってから、ようやく扉のノブに手をかけた。そのまま、気だるげに開き、音もなくするりと部屋に入り込んだ。


 中は何もない簡素な部屋で、天井の蛍光灯で白く照らされていた。そして、部屋の奥から入口の方、大地をじっと見つめる十人ほどの男たちと、彼らの前に佇む二人の少女。大地と同い年、あるいはさらに幼いであろう二人の少女は、顔、背中まで伸ばした髪、花音より少し低いぐらいの背丈まで同じで、双子であることが見て取れた。驚くべきは、銃こそ装備していないものの、防弾チョッキやヘルメットその他の防具で完全武装の男たちよりも、普段着と言っていい軽装の少女たちの方が、大地は脅威だと感じたのである。少女たちの死んだような目は、大地ですら不気味だと思わせた。


「あー、なるほどなるほど。君たちがそうか。ここの最高戦力。こっちにいたかー」


 大地の言葉にも全く反応しない二人。超丈の短いホットパンツを穿いた少女が口を開く。


「君、ここにくるまで、殺してきたの?」


 誰を、とは聞かれなかったが、大地はすぐにこの組織の手下たちだと理解した。そう言えば手があいつらの血で血まみれになってんだよなあ、とふと思いつく。


「いやあ、殺してないよー。殺しちゃうとあとあと面倒だしねー。まあ、テロに加担したんだから同情はしてないけど」

「そう。よかった」


 とは言うものの、全く表情の変わらない少女。続いて、超丈の短いミニスカートを穿いた少女が言った。


「ねえ、お兄さん。よかったら、このまま回れ右して帰ってくれませんか。お兄さんが私たちに勝つことはないし、もし勝てたとしても、ボスには勝てません」

「それは、やってみないと分からないじゃん?」

「分かります」


 きっぱりと答える少女に、大地は疑問を浮かべる。


「そんなに自信があるなら、どうして僕と闘おうとしないんだい?」

「部下を巻き込みたくないからよ」


 そう答えた短パンの少女は相変わらず無表情だったが、その目はほんの少し、憂いを帯びていた。へえ、と大地は面白そうに呟く。


「ま、結論から言えば、帰るってのはできないなあ。敵に手を出すな、っていうのも無理な相談だし」

「そうですか」


 二人の少女はため息をつくと、静かに大地に対峙した。そして、二人が言葉を発しようとした、その直前。

 二人を邪魔するように、今度は大地が語りかけた。


「ねえ、提案なんだけど、君たちが降参してくれないかな。そうしてくれたら、そこにいる君たちの部下にも手は出さないと誓うよ。僕、女性を殴るのは慣れなくてね」

「できません」


 即答だった。きっぱりとした声は、二人の覚悟を如実に表していた。二人は言葉を続ける。


「哀れな罪人の前に立つのは」

「私たち、二人の断罪人」

「この私、叶と」

「そして私、望」


 そのまま、ミニスカの方の少女―望が続ける。


「能力、解放。私は、光線が撃てない」


 そして、二人を悠長に待っている大地でもなかった。クラウチングスタートの構えを取る。同時に大地の脚からぶちっ、と音がして、ふくらはぎと太ももがパンパンに膨れ上がった。

 大地が少女たちを見据え、飛び出そうとした刹那。大地は、望が手で銃を形作り、大地へと向けているのを確認した。そして発生した、小さなキュイーンという音に不吉なものを感じ、大地は溜めた力を総動員して、前ではなく横に移動した。


 果たして、その判断は正しかった。


 大地が横に逸れた直後、大地がいた場所を高速の何かが貫いた。何かは入口手前に着弾し、床がシュウウウウウウ、と音を立てた。大地がちらりと確認すると、床は黒く焦げ、少し溶けていた。


「怖いなあ。光線を出す能力かあ。君たちの能力は知ることができなかったから、能力発動前に倒そうと思ってたけど、そうしなくてよかったよ」


 その言葉に、少女二人は初めて笑った。


「光線を出す能力?私をなめないでもらえますか?この組織を侮らないでもらえますか?私たちはもっと、あなたが考えているよりも強いですよ」


 そう言って、再び望は手を構える。再び、あの不吉な音が聞こえる。


「同じ手は喰らわないよ」


 大地が前方上へと跳ぶ。大地の身長分を跳んだ下を、光線が通る。着地した大地はニヤリと笑う。キュイーン、という音がエネルギーを溜める音だと気づいた大地は、音がする度に避ければいいという攻略法をすでに見つけていた。


 だが、そう上手くはいかなかった。大地は今度は、後ろから撃たれたのだ。

 光線に上腹部を貫かれ、思わず足を止めた大地。その口から、逆流してきた血が流れた。撃たれた個所から焦げ臭いにおいが漂う。しかし大地は休むこともせず、横に身を投げた。

 すると、再び光線が通り過ぎていった。光線は扉へと向かうと、扉の手前で反射して、天井へと伸び、着弾して消滅した。


 大地は、ちらりと少女たちと扉とを確認する。少女たちの背丈の半分くらいの大きさの何かが、そこにはあった。蛍光灯の明かりを反射しほんのりと輝くそれは、


「鏡、か」


鏡であった。


 大地の様子を見て、少女二人は死んだ目のまま楽しそうに笑う。そして、愉快そうに言った。

「お兄さんを絶望で満たしてあげるために、あえて教えてあげましょう!私の能力は、『天邪鬼になる』。言ったことと反対のことが起こる能力。私は光線が撃てないと言いました。だから、この攻撃が可能なのです」

「そして私の能力は、鏡を生成する能力。私の鏡は、望の光線にも耐えられる。これが私たちの攻撃法。どこからくるか分からない攻撃の恐怖に、あなたは耐えられるかしら」


 一方で、大地はその額に汗をにじませる。


「どこからくるかわからない。おまけに、花音のエレクトリック・キャノンよりも威力は格段に上か。なるほど、自信があるわけだ」


 大地の余裕は、少し薄れていた。

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