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アンバース

 意識が戻った時には、そこには死体以外には誰もいなかった。

 なんとか、身体が動くことを確認すると、すぐさま這って伯爵が最後に立っていたところを目指した。

 そこになにがあるか、全く予想していなかったわけではないが、伯爵の首の無い死体を目にして虚脱状態となり、しばらくその場に、跪くような姿勢で微動だにせずにいた。

 段々と、身体の各所に痛みはあれど、立ち上がる程度には回復した。

 しかし、戦友は皆死に、伯爵の首を獲られて、それで立ち上がったところでそれがなんだというのだ。

 凄まじい、底抜けの無力感だけが、ファルクに覆い被さっていた。

 さりとて、それではこの場にこうして、いるのか、と自らに問えばそういうわけにもいくまいと思う。

 自害――

 それも、脳裏に明滅しないでもなかった。いや、むしろそれはある種の快感すら伴って想起された。

 親衛隊として、伯爵をお守りできなかった責任をとって、自ら始末をつける。

 そのこと自体には、ファルクは断じて筋が通っていると思ったし、一度捨てたつもりだったのに転がりこんできた命など、そう惜しくもない。

 だが、気を失っている間に、伯爵の首を獲られて敵に気付かれずに置き去りにされて、やっと目を覚まして、そこで自害するというのも、なんだか間が抜けている気もした。

 この場に、敵が残っていたならば迷うことはない。

 伯爵と仲間の仇討ちに、一人でも多く道連れにして死ぬまで暴れてやるだけのことだ。

 仇討ち――

 それもまた、快感、とはやや違うものの、この場になすこともなく呆然自失としているよりは遥かにファルクの心を刺激した。

 そうだ。仇討ち。

 このような形で生き残ってしまったが、それならば必死に生き延びて、仇討ちを志すべきだ。

 拾った命の使いどころは、それしかない。

 そう思い定めると、ファルクは折れた鑓を杖にして、歩き始めた。首無しとは言えど伯爵の遺体だけでも回収していきたいのが本音であるが、もちろんそのような余裕は無い。

 夥しい仲間と、主君の死体を背に、歩く。

 ずっしりと、背中が重いのは、疲労のせいばかりではなかったろう。

 歩きに歩いて、ようやく集落らしきものに到着したが、既に焼き討ちにあった後で、生きている人間は一人もいなかった。

 焼け残っている民家に潜り込んで、しばらく休もうと横になった。体が満足……とは言えぬまでも、動けるようになるまでのつもりだったが、一度横臥すると起き上がれなくなってしまった。

 携行していた僅かな食料と、折りよく降ってきた雨を逆さにした兜で受けて溜めたものを飲んでなんとか命を繋いでいたが、回復どころか徐々に衰弱していく一方であることは嫌でも自覚できた。

 何度か――もはや数えることができぬ――陽が出ては沈むのを繰り返すのを見た。

 このまま、死ぬのか、こんなことになるならば伯爵と仲間が死んだ場所で自害していればよかった――

 途方に暮れながら、そう思った時、馬の嘶きが聞こえた。

 敵か、味方か、とか考える余裕すら無かった。

 最後の力を振り絞って立ち上がり、家を出て、聞こえて来る馬の足音を目指して歩き――そして、今に至る。

「ふむ」

 話を聞き終えて、アレンは無表情と言っていい顔で頷いた。

 ファルクは、疲れたのか、目をつぶっている。

 部屋にいたアレンの家臣たちは、口々にヴェスカウ伯爵と親衛隊の武勇を褒めそやし、一歩及ばなかったことを口惜しがった。

 なるほど、伯爵とその親衛隊の精強さは噂に違わぬ。

 三百で五千の軍をほぼ壊滅させたのだ。魔王という大きく計算を狂わせる要素さえ無かったら、勝利していたであろう。

 その計算違いの存在である魔王に対してさえ、かなりの手傷を負わせているのだ。

 アレンは、家臣たちとは少し違う意味で、伯爵のために惜しんだ。

 親衛隊だけで、そこまでやれたのだ。

 そこに、親衛隊ほどではないが精鋭と言って差し支えない兵士がもう千人――いや、五百人でもいたら、魔王を討つことが十分に可能であったろう。

 なぜ、待たなかったのか――

 アテは無かったわけではなく、あったのだ。ようやく彼の息子たちが重い腰を上げたという報告は届いていたのだ。

 伯爵は、誤った。

 親衛隊と伯爵の最後の戦いは壮絶であり、後々まで語り継がれるであろう。

 だが、しかし、伯爵は、誤ったのだ。

 指揮官として、そこはアレンは冷徹に断定した。

 だが、ファルクがいるので、それは口にするのはもちろん表情に出すのも控えた。それゆえの無表情であった。

「早く魔王を倒しに行こう!」

 壮絶な戦いぶりに感嘆し、興奮もしていたけれども、結局は伯爵は死に、親衛隊はファルクを残して全滅という惨憺たる結果に、部屋の空気は重く暗かった。

 それを突き破るような、明るい溌剌とすら言っていいような声だった。

 その声の元に視線が集中する。

 別にたじろぎもせずに、それを受けていたのはリーンである。たじろいだのは隣にいた恵一だ。

 アレンが、明らかに「あ、こいつらいたのか」という顔をしたが、リーンはそんなの気にしない。

「魔王は大怪我してるし、部下の数もだいぶ減ってるんでしょ。今がチャンスよ」

 臆するとかいうことを知らないリーンである。

 恵一は、差し出がましいことを言うなと怒られやしないかと冷や冷やしていたが、アレンは特に怒ったようには見えなかった。

「まあ、今後については我々で検討する。お前らは下がれ。……今聞いた話、他言するんじゃないぞ」

 アレンは、そう言って手を振った。

「あ、はい。ほら、リーン、宿に帰ろう」

 恵一は、ほっとしてリーンの手を引いた。

 リーンは、抵抗したりはせずに恵一に着いてきたが、最後に言わねば気が済まぬという感じて、叫んだ。

「魔王ってのが物凄く強いのは本当みたいだし、弱ってるうちに殺っちゃった方がいいわよ! 絶対」

「ほらほら、リーン」

 恵一たちが部屋を出て行くと、疲労したファルクも運び出された。

 ファルクの話は三人ほどでメモ書きをとっており、それらを突き合わせてメリナ王女への報告書を作成することを命じると、アレンは考え込んだ。

 ヴェスカウ伯爵ともあろう者が初動が鈍く、領内に賊の跋扈を許してしまったことについての理由はわかった。

 そして、伯爵の死についての確報も、その際に賊に多大な損害を与えたという情報ととともに得ることができた。

 任務のうちの情報収集という面については、かなりの部分まで果たすことができたと言っていいだろう。

 急げと命じたから、報告書はすぐにでも上がってくるだろう。ファルクにも目を通してもらって早馬で送ればよい。

 これからどうすべきか。

 もう一方の任務として、もっと大規模な軍隊の来援を触れ回って人心の不安を鎮める、というものがあり、さしあたってはそれのためにエルスタットを発って移動するべきであろう。

 幸い、賊軍は数は激減した上に、その強さの源とも言える頭目の自称魔王は深い傷を負っている。移動する軍を例え見つけたとしても襲撃するなどできないはずだ。

 それでよい。そうすべきだ。他の手は無い。

 だが、アレンの耳朶に蘇る声がある。

 敵は数が減り、魔王も弱っている。今がチャンスだ――

 先程、リーンが言っていたことだが、あっさりと聞き流せずに今はそれを自分の声のように聞いているアレンがいた。

 今ならば――後続を待たずとも、自分の指揮下にある約千人の部隊だけで魔王を討てるのではないか。

 そのことは、凄まじい吸引力を持った誘惑であった。

 元々、名を挙げたくて方々駆けずり回って今回の任務に配されたアレンである。

 それが適えば、名前が出るのはこの部隊の指揮官たるアレンだ。これがもっと大規模な軍の一部隊の指揮官であったらそうはいかない。

「いや……いや……」

 頭を振る。

 肝心の魔王の居場所がわからないではないか。弱っているという自覚は当然あるはずだから、傷が癒えるまでどこかに隠れているに違いない。

 やはり、ここは移動――それも、行軍中の襲撃などを考えないでよい以上、速度重視で行く。

 目指すは、今や主亡きヴェスカウ伯爵の城館である。

 そして、ウィレスとオーレンと会って彼らとも以後のことを協議する必要がある。

 正直、ファルクの話を聞く限りでは、二人ともあまり頼りになりそうな人物とは思えぬのが頭痛の種だが。

 思考を邪魔せぬように沈黙していた家臣たちに、アレンは矢継ぎ早に指示を出した。

 明朝出立するよう全部隊に通達。

 この街の守備隊は、正直連れて行けるものなら連れて行きたいが、街の者たちが不安から反対したら止むを得まい。


「おーい、明日出るってよ」

 その夜、部屋でくつろいでいると、ぶらつきに行っていたケイトとアンが帰ってくるなり言った。

「お! 来たわね!」

 嬉々として座っていたベッドから立ち上がったのはリーンだ。

 もちろん、彼女は魔王を討ちに行くのだと疑っていないが、ケイトは違う違うと手を振った。

 当然のことながら、リーンは不満である。

「ま、しょうがないでしょう」

 エリスは澄ました顔である。

 あれから帰ってきて、他言するなとは言われたが、エリスには言っておいていいだろうということで彼女にも全て話していた。

 誰になら言っていいとかそういうことをお前らが判断するんじゃない、とかアレンには言われそうだが、ケイトとリーンが知っているのだから今更エリスに隠したってあんまり意味が無いと思う。二人より絶対にエリスの方が口が堅いし。

 それに、この情報はこの先もずっと隠し通すべき重要機密というわけではない。

 で、その話を聞いて、リーンが今がチャンスだ、すぐに行くのだと言うのに対してエリスは、

「いや、でも魔王がどこにいるかわからないでしょう」

 と、冷ややかに言っていたのである。

「とりあえず、伯爵と親衛隊はそういうことになりましたが、それ以外の伯爵家の軍は残っているのだから、それと合流するのは妥当なところです」

「えー、そんなんしてる間に、魔王が回復しちゃうじゃない」

 リーンは不平たらたらである。

「魔王の居場所も、土地勘の無い我々が探すよりも、彼らに聞いた方がいいでしょう。伯爵を討たれたのですから、血眼になって探しているはず」

「ああ、そっか」

 伯爵と親衛隊が魔王と決戦するのには間に合わなかったが、他の軍も動き出していたのだから、伯爵が討たれたことと親衛隊の壊滅を、惨憺たる戦場跡に転がる死体を発見して既に知っている可能性は高く、そうなれば主君を殺された報復のために魔王を探し回っているはずだ。

 得られた情報を総合して考えると、当然その結論には達するのだが、どうもケイトもリーンもそして自分も、そこんとこが駄目である。

 エリスに話をしたかったのは、このように彼女ならば自分たちが気付けないところに気付いてくれるから、というのもある。

「ふぅん、じゃ魔王を倒しに行くのには、そっちに行った方が早いってことね」

「ああ、うん」

 リーンが不平を言うのを止めるためにそう言っておいたが、そもそもこの部隊の主な任務に魔王を倒すことは含まれていない。魔王が本当にかなり強いのだというのがわかった上は尚更だ。

 だが、リーンは持ち前の直情径行ぶりから、自分たちが魔王を倒すべきであると思い込んでいるところがある。

 レベル12のファルクが若輩者扱いの親衛隊が二十人以上でかかってやられた相手である。

 レベル6――実際はたぶん5――のリーンが正面から行って勝てるわけがなく、かと言って正面から行く以外の方法など考えようともしないのだから、もうこれは完全に死にに行くようなものである。

 やっぱり、おれがなんとかしないと、リーンが死んじゃうよな。

 とは思うものの、恵一だってそんな強い奴に向かって行くのは嫌である。

 ここは、前に出ようとするリーンをなんとか後ろに誘導して、もっとちゃんとした軍隊に任せるべきだろう。

 魔王を倒すために選ばれた者――ということになっている恵一だが、そんなもんはあの少女が言っていただけのことだ。

 で、あの少女である。

 いよいよ魔王とその部下とやらが徒党を組んで暴れ回っている地域に入ってから、街を歩く時でもそれとなく気にしているのだが、未だにそれらしい人物は見ていない。

 顔を完全に隠しでもされない限り、一瞬見ただけでわかる自信はある。

 それとわからなくても、凄い美人がいる! と脳が認識して絶対に目が止まるはずだ。

 それ程に、あの少女は整った顔立ちをしていた。そう、整い過ぎてるぐらいに整っていた。

 こっちの世界で知り合った女性の中で、一番美人なのはミレーナだと恵一は思っているのだが、客観的に顔だけでどっちかと言われたらあの少女の方に軍配が上がる。

 主観的には、ミレーナなのだが、客観的――例えば自分以外にも数多く男がいて、それらが投票するとしたら、などと仮定したら、あっちだろうな、と思う。

 そう考えると、あの少女はなんだか非の打ちどころが無いから美人であると万人が認める――認めざるを得ないタイプの美人であるような気もする。

 ちょっと整い過ぎていて、ここはこのぐらい、ここはあと何ミリ、といった具合に物差しでも各所に当てて設計されたかのような作り物めいた美しさを感じる。

 だが、それが逆に探す方にしたら好都合だ。嫌でも見た瞬間にわかる。

 魔王を倒せ、とは言うものの、魔王などというのは物語の中の存在であるという事実に幾度も直面し途方に暮れていたところだ。

 現実世界において人を殺し、街を焼き、実際の被害をもたらして我は魔王であると称している存在が現れた。

 あれが、あの少女の言う倒すべき魔王に違いあるまい。

 とにかく、魔王が倒れたら自分はいわば用無しなのだから、元の世界に帰してくれるだろう、と決め付けるのは楽観的過ぎるだろうか。

 理想を言えば、その前にあの少女と接触し、その辺のとこを話を通しておきたいところである。

「おう、ケーイチも荷物まとめとけよ」

 クロスボウの手入れをしているケイトに言われて、荷物を見るが、散らばった服を押し込めばそれで完了だ。

 結局まだ買った時に着て以来一度も身にまとっていない皮鎧を取り出して、装着してみる。

 明日にも戦闘、ということはないだろうが、そろそろ移動中はこいつを着込もう。

 あとは、剣の手入れだ。

「次、貸して」

「うん、もう終わったわ」

 リーンから研石を貰って、剣を研ぐ。

 刃物を研ぐなど、元の世界では全く経験が無かったが、こちらに来てからはケイトに教わって料理に使うナイフを研いでいたので、少しはサマになっている。

 こうして、武器の手入れなどしていると、少しは気分が盛り上がってくる。いや、しばらく戦闘は無いと思うのだが。

 翌早朝、出発した。

 守備隊については、選抜した百人ばかりが着いてきた。

 これについては、軽く揉めたらしい。

 街の有力者連中としては、いくら魔王はすぐには積極的な攻勢に出て来ることはなく、今まで大丈夫だったこの街は安全だと説かれても、守備の兵士がいなくなることはどうしても嫌がった。

 その気持ちもわかるので、アレンは強いて自分の意思を押そうとはしなかったのだが、ファルクの話によって、どうやら本当に伯爵は討たれてしまったらしい、ということを知った守備兵自身が主君の仇討ちに加わりたい、ついてはアレンの部隊に着いて行きたい、と言い出した。

 そこで色々と話し合った結果、総員五百二十人のうち、百人を代表として選び、これが同道することとなった。

 自ら望んで選出されただけあってその百人の士気は高く、これを見送る守備隊の仲間たちも一際熱っぽく送り出した。

 アレンは、出発前に情報によるとこの近くに賊はおらず行軍中に襲撃を受ける心配がほぼ無しなことから、強行軍となることを通達した。

 歩きに歩いて、次の街に着くと一泊してまた早朝出発だ。

 エルスタットを出てから五日後、

「明日は、アンバースに到着する」

 という触れがあった。

「アンバースって……なんか話に出てたよな」

「あー、うん、なんだっけ」

「えっと、確か、どっちだっけ、なんか伯爵の息子のどっちかがいるとこだよ」

 三人揃って詳細は忘れていたが、伯爵の長男であるウィレスが責任者として赴任している街である。

 伯爵の城館へまっしぐら、と、アレンはそのつもりだったのだが道々、土地の者に話を聞いて、手前にあるアンバースに一度入った方がよいと考えた。

 アンバースには、ウィレスがいる。とりあえず彼に会って話を聞いておくのもいいだろう。

 その間にも、王都よりの早馬が到着。五千に上る軍を編成中、近日中に出陣予定、と知らせてきた。

「五千か……」

 敵情がよくわからない状況では、けっこう思い切った数を揃えたと言ってよい。

 その朗報――と言うべきであろう――を携えて、アレンとその率いる部隊はアンバースの街に入った。

 既に先行させた軽騎兵によってそのことは通知しているので、出迎えの者が出てきていた。

 アレンは、てっきりウィレス自らの出迎えがあるものと思い構えていたが、それらしい人間が見えない。

 出迎えの言葉を述べる身分の高そうな男に対して礼を返し、訝しげに見回す。

 そのアレンの視線を、居心地悪げに出迎えの一行は受けている。

「ウィレス殿がこちらにおられるという話だが……あ、もしや城館の方へ?」

 伯爵が死に、主無き城館へと長男のウィレスが入っている、というのは考えられる話であった。

「あ、いや、それは……」

 とても歯切れがよろしくない。

 その歯切れのよくない受け答えからして、ウィレスはしっかりこの街に滞在しており、そしてこの場にやってきていない、ということをアレンは察した。

 無礼ではないか――

 どうしても、その感情が顔に出た。

 アレン自身は男爵家の跡取り息子であり、伯爵家のそれであるウィレスに比べたら身分が低いと言ってよいが、この場にこのように兵士を率いてやってきているのは、摂政たるメリナ王女の命令によるものだ。

 摂政殿下の名代――と、までは言わぬが、出迎える時だけでも王女に準じる礼を払って然るべきであろう。

「いえ、ウィレス様は、その、ええ、まあ」

「みなさん、お疲れでしょう。宿を用意してありますので」

「ええ、ウィレス様には、後ほど、ええ」

 なんかもう、とことん歯切れが悪い。

「荷を下ろして落ち着いたら、すぐにウィレス殿にお会いしたいのだが、取り計らっていただけますな?」

 なんだか、嫌な予感――言を左右にしていつまでも会わせてもらえないのではと感じたのでアレンは念を押した。

「はあ、それは、まあ、お取次はいたしますが……」

「まさか、貴方に王都土産をお渡ししないと話が進まない、などということは無い、でしょうな?」

 アレンは、意地悪く笑って言った。

「そ、そのようなことは!」

「それはよかった」

 別に、その出迎え連中が賄賂を求めてなどいないことは百も承知である。

 こうまで言えば、しっかりと取り次いでくれるであろう。

「それでは、こちらへ」

 アレンは、ウィレスの住んでいる公館の一部屋をあてがわれ、兵士たちも各所に分宿した。

 恵一たちも、宿屋の一室を割り当てられて荷物を下ろした。

「よし、ちょっとぶらついてくる」

「ん? またか。なんかケーイチ、最近よくうろつくなあ」

「ん、ああ、まあ、ほらここもまたすぐに出ちゃうだろ。ちょっと何があるか見ておきたくてさ」

 ここに来るまでに、恵一は街をよくぶらついていた。言うまでもなくあの少女に遭遇しないかと期待してのことだが、今のところ収獲無しである。

「そんじゃ、あたしも行く」

 ケイトが着いてきた。

 正直、例の少女と会えて話をすることになったら、色々と込み入った話もしたいのでケイトがいると困るのだが、それを断る理由も思いつかぬ。

「ん、ああ、じゃ、行こうか」

「おう」

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