第六話【上昇する二人】
───────木鼓研究所、地下15階の通路。
ト壱は、この地下迷宮とやっとオサラバできる。
それはこの隣にいる垣真の活躍が大きく作用していた。
二人は現在、地下15階の最北部に居る。
「─────コイツは『食品ワゴンエレベーター』だ。フツー人間様だけで入らねぇから、連中もまさかコレで上に行くとは考えん」
自慢げに話す垣真。しかし、ト壱の顔は引きつっている。
「……これに乗るってか?」
垣真の説明する『食品ワゴンエレベーター』─────それは、二人が入るのがやっとの狭さ。
籠の内側の広さから、本来人間一人と食品ワゴン一台が乗るモノだと、見て理解出来る。
ト壱が少し考えている隙に、突然、垣真がいきなりボタンを押し始めた。
躊躇の無い押下。カチャン─────とボタンが押される音。ト壱は驚く。
垣真の腕をガシリと掴み、「何してるんだ!」と言い放つ。
「イヤ、ボタンを押したらアイツらにバレるじゃないか! 何も用のない食品専用エレベーターが動いたら、不自然に思うのが普通だろ!!」
しかし、垣真は逆に冷静である。フンッと、すました顔は崩さない。
掴まれた腕を振り払うと、自分のコメカミに指を当てるジェスチャーを披露し、説明し始めた。
「大丈夫だよ白骨のオッサン。俺がいつ『エレベーターの籠に乗る』って言ったよ」
ト壱は予想外の答えに珍しく焦りが見え、つい聞き返す。
「────なんだって?」
ゆっくりと、小学生に言い聞かせるように、垣真は答える。
やれやれと、「わかってねぇな」と言わんばかりのドヤ顔を見せる。
「この通路にも、きっとエレベーター内にも監視カメラがあるはずだ─────だが、エレベーターの『籠の上』ならどうかな?」
「まさか……エレベーターの上に乗るって言うのか? 籠を引っ張りあげるワイヤーの横に??」
「おぉ〜─────ご名答。籠が到着したら、天井を突き破りその上に乗り込む。
ここのエレベーターの大半は、『出入口のすぐ上』に防犯カメラが付いているから……」
垣真は身振り手振りで説明し続ける。
「カメラが出入口の真上にあるとすれば、その真下は『死角』だろ? 入ったら奥へ入るなよ。そこで天井をぶち抜けば出来上がりだ。」
ト壱は何を言っているのか、理解はしていない。
しかし、「少なからず、この施設を見ているのはコイツだしな」と、半ば諦め、垣真の計画に賛同をした。
そしてもし失敗すれば、その時はまず垣真を殺せば良い────そう思った。
───────チーンッ……。
そうこう話す間に、食品ワゴンエレベーターが、地下15階へ到着したようだ。レジ横のベルのような、軽く抜けた音がそれを報せる。
ウィーンッと、左右へ開かれる自動ドア────ト壱は足を踏み入れ、ジャンプ。
「よっ─────と……」
──────────パコォオン!!
天井目掛けて普通にぶん殴る。幸い、素材は薄い鉄板だったようで、素手の殴りでいとも簡単に突き破ることに成功した。
二人は籠の上に這い上がり、垣真が登り終えると同時にドアが閉まる。
普通のエレベーターのような、アナウンスは流れない。
垣真は、先程ト壱が開けた穴から上半身だけを籠の中へ戻し、『上矢印』のボタンを押した。
エレベーターの籠の上に登るという珍事のような脱出。
二人は溜め込んでいた息を吐き──────────……沈黙。
こういう時……普通のエレベーターなら気さくなBGMや、階数表示のアナウンスが、この沈黙を乱してくれる。
しかし、それすらなく狭苦しい空間に男二人。
エレベーターはグングンと1階へ向けて登り続けている。
「「…………」」
互いに気まずさを感じていた。
ゴウンゴウンという昇降音。乗ったはいいが、話すような話題がなかった。
二人は互いに(気まずいな……)と、段々と耐えきれなくなる。
──────────痺れを切らし、沈黙を破るのはト壱だった。
荒々しい環境で人生を過ごしてきた彼にとって、沈黙とは慣れていない状況である。
と言うより彼にとって、何もヘッタクレもない雑談を話すのが10年ぶりのようなものである。
「─────お、おい!」と、久々に会った親戚のように、横を向いて話しかけた。
162cmの彼は、垣真の顔の方へ見上げている。
「えーっと……眼褄……だっけ? ココから出たら何したいんだ?」
ビクッと、垣真の肩が跳ねる。意外にも、最初に口を開くのがト壱だったからだ。
そして同時に、「最初に喋ってくれてありがとう」と、謎の感謝を心の中でし始める。
垣真は、「えーっとだなぁ……」と一呼吸置き話す。
「俺は妻に会いに行くよ。『眼褄 来紗』って言うんだ。写真がありゃ見せてやりたいが、美人なんだぜ?」
垣真の目は笑っている。しかし光が灯っていなかった。
「まぁ、自衛隊に戻ることは出来ないけどな。あの木鼓とか言うクソカスが手ェ回して、駐屯地で『眼褄は死亡した』で届けられてるらしいからな。晴れて俺は『名無しの権兵衛』だ」
ト壱はそれを聞いて(もしやイカンことを聞いたか?)と、自分の言葉に危うさを感じてしまう。
しかし、ここでどうにか会話を終わらせたくないト壱。少し微笑み言葉を返した。
「─────なら、良かったな。そのクソ変態博士は俺が殺したぞ」
垣真は驚く。ト壱自身も、「なんてクソみたいな励まし方だ」と自分に驚いている。
「え……殺したの!? アイツを!?」
ト壱は得意げに腕を広げる。
「あぁ───俺に向けて『勃起』だのなんだの言ってくるわ、薬打ち込むわ、俺と喧嘩するわで殺しちまったよ」
「どうやって殺したんだよ」
ト壱は垣真へ向け、中指を立てた。垣真はそれを見て嫌な顔をする。
「オイ、それはなんなんだ。もしかして、『中指立てたヤツが死ぬ』って能力か?」
「違ぇよ見てろ」
すると、グギグギグギ────と、以前生やしたように『外骨格の刀』を中指の延長線上へ、形成し始めた。
垣真は唖然とし、その生物的な凶器を見つめ口が塞がらない。
「コレが俺の力だ。昆虫や蟹みたいに『外骨格』を形成し纏える力を与えられたらしい。お前はまだ『メリケンサック』の形した物しか見てないもんな」
その刀に見とれている垣真。次は、逆に質問を返す。
「いい物見せてもらった。そんじゃお礼代わりに────────ココのちょっとした『秘密』───詳しく説明しようか? ……仲間として、知っとくべきだ」
ト壱は少し躊躇した。正直、利用しているだけで仲間意識はそこまで無い。
しかし、ト壱はやはり『沈黙』が苦手のようで、会話を途切らせたくないと感じている。
それに、気まずいのはもうコリゴリである。
垣真は収監中で蓄積した、本研究所の闇を話す。
「ここは……ある組織の研究所らしい。組織の名までは知らない。何を目指し、何を野望としているかも知らない。
世界征服……金融機関の破壊……俺には想像もつかない。
──────ただ、『BONE』については勉強させてもらったよ」
ト壱は「またBONEか。」と、腕を組みながら聞き入る。
垣真は続ける。
「俺ら『BONE』と呼ばれる能力者は、『生物兵器』……はたまた『組織の兵士』として、仕事を振られる運命にある」
「組織……兵士ねぇ……」
「そして『BONE』とは、『Biological Organism for Novel Evolution』────『新規進化形生体』の略だ」
「ばいおろじ……えぼ……はぁ」
「いいよもう『BONE』で……アイツらの書類を『見た』からついでに話しただけだよ。続けるぞ」
エレベーターの上──────空気が張り詰めている。
「BONEの能力は『人体組織の拡張・強化・誇張した能力』、『人間に他生物の特徴を植え付けた能力』、『上記を複合したような能力』───────の3パターンがある」
「ほう……それで?」
「俺で言えば、『眼』を強化したようなもの。白骨のおっさんで言えば、『昆虫等の外骨格』と『人間の骨生成能力』を誇張した様なものだろうな」
ト壱は「なるほどな」と頷く。垣真は右目を瞑り、左目に能力の赤十字『レティクル』を出現させ、話を続ける。
「能力発現には、能力者の『テンション』とか『意志』で発動のしやすさが変わったりするらしい。だから能力者の多くには『能力名』を付ける奴が多いんだ────────だから俺もルーティンとして付けてる……『照準眼鏡』ってな」
この話を聞いたト壱は、心当たりがあった。
確かに伊助と対峙した際、異なる『攻撃の意志』ごとに『メリケンサック』と『刀』が形成された。
ト壱は少し漫画チックで厨二病臭いとは思ったが、ルーティンとして付ける分にはいいと考え、即興で考える。
そして───────閃いた。
「そうだな─────『一将万骨』……ってのはどうだ?」
垣真は片眉を上げ、少し間を置き返答した。
「─────大将一人が出世する裏で、数多くの戦士の命が失われている……か。元ヤクザにとっては皮肉めいてるけど、いいじゃん」
「うるせぇ。足洗ったわ」
ト壱はここで、裏で糸を引く謎の組織の存在を知る。
─────自由になれるはずの『自分』を、人ならざるものへ拘束しようとする存在。
同時に、心の奥底に新たな野望が根付く。
『自由を掴む』こと、そして……────────その『組織』をぶっ飛ばすこと。




