閑話休題 食事当番の記憶
ここで1つ、日常回です
今日は特に豪勢に、精のつく食事を作らなければならない。決戦の日なのだ。忌まわしき『箱庭』、そこにとらわれた同胞を助け出す。大事な日だ。
「み、みなさん。ご飯が、できましたよ。」
「たくさん食べてぇ~、元気盛り盛りになってね~。」
私たちは、見送ることしかできない。本当は助け出すのに協力したいが、集落は集落で守らなければならない。もどかしい。私たちの能力は敵地に攻め入るより、防衛でこそ真価を発揮する。仕方のないことなのだ。
「なんだぁ?二人とも、辛気臭い顔して。
いっちょ前にあたしらの心配か?」
そんな私たちを見かねたのか、大きな太い角を生やした、大柄な、筋肉質な女性が声をかけてくる。暗めの橙色の髪の彼女は、長老のノヴァ様を除けばここで一番強い。この作戦では、箱庭に突貫するという一番危険な役を担っている。
「だ、だって、はずれ、僻地とはいっても、て、敵地なんだよ…
い、いくらフレアが強くても、し、心配だよ…」
「フレアは脳金だからぁ~、作戦を忘れないかしんぱ~い。」
「なんだとぉ?言ったなこのぉ!」
「きゃぁ~、怒ったぁ~!」
「こ、こら、エリカ!」
フレア、強くて優しい、頼れるみんなの姉だ。その壁のように大きな背中は、なによりも頼もしく、ついつい寄りかかってしまう。そうしてエリカがからかって、フレアが怒ったふりでお仕置きする。いつもの光景。エリカも、頼りない私よりフレアの方が好きなのかな……
「ね~、お姉ちゃん。」
「え、あ、ご、ごめんね。ぼーっとしちゃってた。」
「おいおい、大丈夫かよ、お姉ちゃん。」
いけない、またネガティブな考え方をしちゃってた。私の悪い癖だ。エリカはそんな子じゃない。とても素直でいい子。好きじゃない人に擦り寄ったりしないし、できない。私の可愛い妹だ。
「フレアぁ~、死んじゃやだからねぇ~?
うらめしや~。」
「なんだよ、そりゃ死んだ奴がやるもんだろ?
帰ってくるから、旨い飯、頼むぜ。」
「ま、任せて!ください。
たっぷり作って、ま、待ってる、から。」
そうして、彼女たちは救出に向かった。
───戻ってきた者の中に、彼女の姿はなかった。箱庭から救い出せたのも、たったの3人。でも、フレア以外のメンバーは全員帰ってきた。箱庭からやってきた大きく長い耳の人外、リャナの話では、彼女が殿を買って出たらしい。
「……ばか。」
「…今日の隠し味はぁ、涙ぁ……」
悲しい、悲しいが、悲しんでばかりもいられない。小さな命が、新たな可能性が二人もやってきたのだ。
一人はグレムちゃん。私に似て、引っ込み思案な子で、一緒に来たエインセルちゃんと、リャナさんにだけは砕けた一面を見せる、なんとなく親近感の湧く子だ。
もう一人はエインセルちゃん。この子は優しい。あの地獄のような箱庭の中でも、あんな奴らのことを気にかけて、切り捨てられないでいる。私にはわからない何かが、彼女の中にはあるようだ。否定はしない。彼女には彼女の選択がある。
ふと、エインセルちゃんが震えていることに気が付いた。
「ど、どうしたの?さ、寒い?」
「こっちにおいでぇ~?暖かいよぉ~。」
エリカと一緒に声をかけると、グレムちゃんがエインセルちゃんの後ろに隠れてしまう。エインセルちゃんは、自分の背中に隠れるグレムちゃんに少しだけむっとして、俯いてしまった。
「あ、驚かせてご、ごめんね?」
「私たちはぁ~、あなたたちの味方~。
怖いことなんてぇ、なぁ~んにもないんだよぉ~。」
怖がらせてしまったかと、努めて柔らくなるよう意識して言葉を選ぶ。子供に対しての言葉の選び方がわからない。どう言ったら懐いてもらえるのだろうか…
「......でも、私たちが住んでいた場所を壊した人の、仲間。」
のんきな思考を巡らせていた時、エインセルちゃんがこぼした言葉が、私たちに、私の胸に突き刺さる。違う、フレアは、みんなはあなたたちを助けるために行ったんだ。でも、この子たちは知らない。まだ、子供だから。私たち人外があの施設でどんな扱いを受けていたか、いずれ自分たちがどう扱われるのかを……
エインセルちゃんは、言ってしまったと、そんな顔で見上げてくるが、そうじゃない。あなたからしたら、それが真実。でも、今はそれでいい、私たちの事情はこの子たちには関係ない。エリカと顔を見合わせ、逸らし、その場から動けなくなる。しばらく言葉を考え、ようやく、絞り出す。
「...わ、わかってくれなくても、いい。
でも、私たちはあなたたちを、あの、じ、地獄から助けたかったの。」
「...あなたたちは子供だからぁ、酷いこととかはされてないと思うけどぉ~。
いずれそうなっちゃうかもだったから......ごめんね。」
また、沈黙が訪れる。ほどなくして、リャナさんが彼女たちの後ろから現れ、二人がそちらへ飛びついたので、食事の準備に戻ることにした。
「あの二人、可哀想だねぇ…私たちも……」
「うん。でも、お、大人、だから……」
食事をしよう。ご飯を食べれば、温まる。その暖かさは全身を満たして、嫌なことを忘れさせてくれるから……そうして取り戻した落ち着きで、ゆっくりと整理すればいい。
食事ができたので、長老の元へ向かった三人を呼びに行く。丁度、お話が終わったところのようで、中から呼ばれた。そういえば、自己紹介もしていなかったな。
「た、立てる?
私が、と、トロイだよ。
こう見えても、お、お姉ちゃんだから、任せてね。」
「はぁ~い、立てなかったら抱えていくよぉ~。
妹の、エリカちゃんだよ~。」
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私は、可愛いお姉ちゃんの可愛い妹、エリカ。お姉ちゃんはいつも自信がなさそうだけれど、私はそんなお姉ちゃんを尊敬している。
「ね~、お姉ちゃん。」
「え、あ、ご、ごめんね。ぼーっとしちゃってた。」
「おいおい、大丈夫かよ、お姉ちゃん。」
フレアと一緒にお姉ちゃんを褒めていたのに、当の本人は考え込んでいて何も聞いていなかった。大丈夫かなぁ、お姉ちゃん……
そうして見送ったフレアは帰ってこなかった。他のみんなは帰ってきたけれど、彼女だけがいなかった。代わりに来たのは小さな二人とリャナさん。助け出せたのも、それだけだった。みんなのご飯を作りながら、お姉ちゃんと一緒にいっぱい泣いた。
───ご飯ができたので、お姉ちゃんと一緒に長老のとこに行くと、ちょうど三人とのお話が終わったところだったらしい。
「た、立てる?
私が、と、トロイだよ。
こう見えても、お、お姉ちゃんだから、任せてね。」
「はぁ~い、立てなかったら抱えていくよぉ~。
妹の、エリカちゃんだよ~。」
中へ入ると、放心状態の子供二人と、その二人を心配そうな顔で見つめるノヴァ様、リャナさんがいた。立てなさそうな二人をお姉ちゃんとそれぞれ抱えて広場に戻る。その間、腕の中のエインセルちゃんがビクッと震えたかと思えば、私の腕を強く握りしめ、顔をうずめてきた。
「くぁわいぃい~。」
思わず声に出てしまって少し恥ずかしい。
広場に着くと、既にみんなが食事並べて食べ始めていた。私とお姉ちゃんは、それぞれ抱えていた子たちを自分の隣に座らせる。すると、エインセルちゃんが大きな口を開けて涙を流し始めた。
「また泣いちゃった~。
そーいうときはぁ~、美味しいものを食べるのだ~。」
言いながら、口へお肉を押し込む。これは自信作。美味しくて笑顔になるに違いない。ほら、直ぐに涙が止まり、黙々と食べ始めた。みんなも、その様子が可愛くて、これもどうぞとお皿を目の前に寄せる。
「んふふ~、美味しいでしょ~。
お姉ちゃんと一緒に作ってたんだよぉ~。」
「お、お口に合えば、嬉しいな。
たくさん用意したから、い、いっぱい食べてね!」
そーそー、い~っぱい食べて、元気になるんだぞ~。なんだか嬉しくなった私は、いつもよりちょっとだけしょっぱいご飯を、エインセルちゃんに負けないぐらいの勢いで食べるのだった。
「ずいぶんたくさん食べたじゃない。こりゃ心配して損だったかしら?
まぁいいわ。
ねぇ、エインセル。ちょっと、お話ししましょうか。」
そうしていると、リャナさんがエインセルちゃんの元へやってきた。長老とのお話が終わったらしい。見れば、お姉ちゃんとグレムちゃんも居ない。こっちはリャナさんに任せて、片づけをしよう。
「ぼく、強くなりたい。敵を、悪いやつを倒せるように。」
「え、えっと、怪我しちゃうと危ない、から、ダメ、とは、言えないよねぇ……
うん、ちょっとノヴァ様、長老に、か、確認してみるね。」
食器を片付けていると、お姉ちゃんとグレムちゃんの会話が聞こえてきた。どうやらグレムちゃんは戦うつもりらしい。きっと、私たちと同じ。みんなを傷つけたあいつらが許せないんだと思う。でも、お姉ちゃんの気持ちもわかる。こんな小さな子が戦うなど、とてもじゃないけど、危なすぎる。
「ふっふっふ~、少女よ~。強くなりたいと申すかね~?」
「あ、えっと、うん。
ぼくはまだ弱くて、守ってもらってて、でも、何もできないの、嫌だから。
ぼくも、守りたい、から。エインセル、を…」
いいじゃない、いいじゃない。友達を守りたい。いい理由だ。大事な動機、ブレない芯。戦うというのなら、これが一番必要なのだ。でも、
「良い理由だ~。でもぉ~、自分は傷ついてもいい、そんな考えではいけないぞぉ~。
グレムちゃんが傷つくとぉ~、私たちが、泣いちゃう~。」
「あ。」
そう、あなたはまだ子供。そう言って聞いてくれるものでもないだろうから言い方を変える。誰が傷つくのも嫌だけれど、グレムちゃんみたいな子供が傷つくのが一番いやだ。だから、自分も大事にしなさい。そういう意味を込めて。伝わったかはわからないけれど、グレムちゃんはお姉ちゃんを追いかけて行った。
その背中を見送って、私は気づく。
「……今日この後の片づけ全部わたし~?」
その嘆きを聞いたみんなが、苦笑しながら手伝ってくれるのだった。
トロイとエリカの回想パートでした
今後も、ある程度の区切りでこういった閑話休題を挟ませていただきます




