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終末のオラフォリオ  作者: 冷雹
第一章 箱庭崩壊編
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第4歩 強襲

あれよあれよと第四話です

「これより先、敵性人外が根城にしていると思われるエリアに入る。

 休憩地点はここが最後だ。充分に身体を休め、万全を期して討伐に望め。」


 人外、憎むべき人類の敵。

 神に選ばれ、大いなる力を授かっておきながら、その力に呑まれ、守るべき民を害した愚か者たち。その末裔。

 彼らは必ず、身体のどこかに人ではない生物の特徴を顕現させる。だが、私たち新世代の英雄は違う。見た目は人そのままで、人を超えた身体能力を持ち、魔力と共に人類から失われたはずの魔法をも操ることができる。人を外れた獣畜生とは違うのだ。


氷魚(ひお)、お前も休んでおけ。

 貴様の最大の武器はその持久力(スタミナ)だが、いざ戦闘でそれを発揮するためには休息が必要だろう。」


 派遣された討伐隊に所属する同僚にそう言われ、警戒を解く。今回の討伐隊は過激派のみで構成されている。穏健派の間抜け共は、討伐対象こそ駆除するものの、それ以外のほとんどは逃がしている。曰く、対象が強力な個体なため手が回らなかった、などと抜かしているが、信じられるものか。

 あの怪物、カラナ・サージュ・ブルコワーズ。穏健派の主席にして、全派閥を合わせた英雄部隊内での人外討伐数最多という、矛盾の塊。あれが居て、一介の人外ごときに手を焼くようなことがあろうはずもない。


「だが、誰よりも人外を殺した女の発言だからこそ、共存に一考の余地が生まれる、か。」


 皮肉なものだ。誰よりも人外と共に生きることを望みながら、その実、誰よりも人外を手にかけるとはな。まぁ先ずまともな精神状態ではないだろう。下手をすれば、私たち過激派よりよっぽど恐ろしい。


「氷魚、氷魚 プリュイはいるか。」

「は、ここに。」


 今回の討伐隊の隊長、過激派の主席に名を呼ばれ、思考を中断する。

 過激派主席、クールクス・クル・クライア。休息用のテント内に、薄緑色の短く揃えられた髪と、青緑色の瞳を携えた顔を覗かせる。

 ブルコワーズが怪物ならば、彼は傑物。鋭く尖ったその理想を体現するかの如く、ブルコワーズに次ぐ実力を有する彼は、日々人類の安寧を守るため、人外や魔獣と戦っている。立場が立場なため、遠征には出られないが、近郊の任務の際は必ずご自身で指揮を取る。責任感の強いお方だ。


「いかがなさいましたか、クライア様。」

「様はやめてくれ、ただでさえ僕は怖がられているんだ。唯一、気にせず話しかけてくれる君までそう硬いと、我らが正統派は後任が居なくなってしまうよ。

 それに、君は次席だ。せめて、卿とかにとどめておいてもらえると嬉しいな。」

「...貴方がそうおっしゃるのであれば。改めまして、どうされましたか、クライア卿。」

「うん、それがいい。

 いやね、充分に休めているかなと思ってね。

 君は責任感が強い、そして、奴らへの恨みも相当なものだ。こんな目と鼻の先では、先制攻撃を受けてもおかしくない、そう考えているのだろうなと思ってね。

 君の最大の強み、その持久力は僕も買っている。だが、それを十全に発揮するには、しっかりとした休息が必要だろう。

 気を貼るのはいい、だが、休む時は休め。」


 つい先ほど聞いたような話を、クライア卿からも指摘されてしまった。自分はそんなに休まなさそうなのだろうか。確かに、つい先ほどまで警戒しっぱなしではあったが…


「……先ほど、他の者にも、同じことを言われました。」

「おや、君には話しかけてくる同僚がいるのか。これは将来安泰かな。」


 そう言ってクライア卿は、からかうように笑って行ってしまわれた。そのお顔を、他の者にも見せれば避けられることなどありますまいに…

 言っても聞かないのでしょうね、規律が乱れると、そうおっしゃるはずだ。であればなおのこと、次席たる私が、卿と皆の連絡口にならねば。


「とはいえ今は、ご指示通りに休むことですね…」



 ────────────────────────────────



 今日も今日とて、私はグレムとかけっこをしている。負けの記録だけが伸び続けているが、前よりも追えている。捕まえられるようになるのも時間の問題だろう。


「おぉ~、だいぶいい感じに仕上がってるじゃない。

 グレムを捕まえられるようになったら、また私とだからねー!」


 リャナからのヤジが飛ぶが、構っている暇はない、今はただグレムを追いかけることしか頭にない。


「だー、惜しかったー!まだダメかー!」

「はぁっ、はぁっ、まだ、負けてあげないから、ね。」


 実力が拮抗し始めてからはお互いに全力となり、1ゲーム毎に休憩が必要なほどに消耗するようになっていた。リャナは、自分の訓練もそっちのけでその様子を嬉しそうに眺めている。これがここ数日のいつもの風景。私たちの勢いに感化され、追いかけっこのみならず、模擬戦にも熱が入っている。


「ふふふ、若いっていーわね~。」

「り、リャナさん、セリフが、その…」

「おばさんみたぁ~い。」


 いつの間にかトロイとエリカも来ていた。トロイとエリカは、この集落における料理担当のようで、その2人がここにいるということは、


「ご、ご飯ができました、よ。」

「ご飯ができたよぉ~。」


 くたくたの身体を起こして食事に向かう。全力で身体を動かした後に食べるご飯はとても美味しい。五臓六腑に染み渡る、ってリャナは言ってた。そういえば、今日のリャナはその頭に生えた大きな耳をやけに動かしている気がする。


「さ、ご飯を食べたら、あんたたちは先に訓練場に戻っていて。

 あたしは少しみんなとお話していくから。」


 そう言って笑いかけるリャナの表情は、少しだけ作り物のようだったけれど、待ちに待った食事を前に私は、その違和感を手放した。



 ────────────────────────────────



「…り、リャナさん。」

「うん、わかってる。

 …あいつらが来たみたいだね。」

「ど~します~?戦う~?逃げる~?」


 エインセルとグレムが訓練場に向かっている最中、広場に残ったリャナ達が会話をする。彼女たちは、迫りくる英雄部隊の存在に気づいていた。それは、その驚異的な身体能力によるものか、それとも別の異能によるものか、どちらにせよ、彼らはもはや目と鼻の先。対処法を迷っている猶予など、もう幾ばくも無い。


「ここまで近いとなると、確実にクライアが居るわよ。

 あいつの相手は正直、御免被(ごめんこうむ)りたいわ。」

「確かに、やつは厄介だ。

 あいわかった、クライアは私が相手をしよう。」

「の、ノヴァ様…」

「…じゃあせめて~、誰も邪魔できないようにする~。」


 過激派主席、クールクス・クル・クライア。彼の悪名は、人外の間で広く知れ渡っている。

 曰く、標的となった集落の近隣に隠れ潜んでいた人外が、軒並み滅ぼされた。とか、彼が出撃した戦場は、人外にとって地獄の顕現である。とか、とにかく最悪な評判である。

 人類を滅ぼさんとする人外側の過激派、その長たるノヴァであっても、勝てるかは五分──それがクライアという厄災だ。


「皆の不安もわかるがね、相手は待ってくれない。どころか、嬉々として来るだろう。

 なにせ、私が居るのだ。

 どれ、久々に暴れるとしようじゃないか。

 繋いだ命、みすみす奪われるわけにはいかない。気張りな、お前たち。

 せめて、あの二人は生かすんだ。そしてお前たちも、生きるんだ。」



 ────────────────────────────────



 神聖国オラフォリオ、その領地からさほど離れてない静かな森。今からここは、戦場となる。


「やぁやぁ、人外集落の皆さん。今日はいい天気ですね。

 ……そんな怖い顔をして、どうしたんです?」


 英雄部隊。人外の保護、あるいは討伐を担う人類最大にして最後の防衛手段。その中でもとりわけ人外への敵意が高い過激派。その主席が、数十名の部下を引き連れて人外の集落を訪れる。

 対する人外は十名程度。しかし、こちらも過激派。人類を、住処を脅かす脅威とみなし、その絶滅を掲げ、日々その爪を研いできた集団である。

 決して相いれぬ両陣営は出会うべくして出会い、戦いの火蓋は、切って落とされた。


 数で劣る人外は、数的不利を悟るや否や、奇襲を仕掛ける。英雄部隊の後方より仕掛けられた、しなる尾、堅い甲羅、鋭利な爪による奇襲は、部隊前方にいたはずの人物によって防がれてしまう。


「「なっ!?」」

「この程度か、人外。

 所詮害獣、足りない脳で考えたと思えば、悪くない作戦なんじゃないか?」


 氷魚 プリュイ。水色の短めの髪、海のような青い瞳の彼女は、教団過激派の次席である。幼女を思わせる風貌に似合わぬ物騒な篭手を身につけ、空を叩く。それだけで、後方から仕掛けた人外達は倒れ伏した。


「厄介なのがまだいるのか!」

「っ!?……多少は骨があるんだろうな。」


 そんな氷魚に飛びかかる影。頭から、長く大きな耳を生やした人外、箱庭にて付けられた名は、リャナ。その強靭な脚力でもって氷魚を蹴り飛ばし、被害の拡大を防ぐ。

 しかし、この場にはまだ傑物が居る。彼は、氷魚が蹴り飛ばされることにさして驚いた様子も、ましてや心配する様子もみせずに悠々と歩を進める。


「驚かない事、心配しないことが我々の信頼。

 そして、彼女は次席。あちらのお嬢さんもなかなかやるようですが、彼女には勝てませんよ。

 とはいえ、早く終わらせて援護に向かうとしましょう。

 ───錨を上げろ、抜びょ…う?」


 過激派主席が、その真価を発揮しようとしたその瞬間。陰が到来する。

 降臨したそれは、人外過激派の長にして星。人類にとっての凶星が、戦場に舞い降りたのだ。


「まさ、か…レプティレス・ノヴァ……!?」

「ほう?若いの、私を識っているか。

 なんぞ文献でも読んだか?それとも、どこぞの生き残りかえ?」


 怪しく、鈍く輝く凶星目掛けて、傑物は咆哮と共に突撃する。その行動は彼らしくなく、激昂したのか、脅威を前に奮い立ったのかは定かではない。なにせ、目にも止まらぬ速さで、舞い降りた星ごと空に帰ってしまったのだから。


「や、厄介なのはお二人に任せて、私たちは、ざ、残党狩りと行きましょう。」

「よ~し、れっつご~!」


 かくして、戦場は三つに分かたれた。飛車角落ちとなった英雄部隊と、数で劣る人外、ようやく拮抗した戦場は激化する。その音はやがて、幼い少女にも届くだろう。



 ────────────────────────────────



 広場から少し離れた場所、ただの獣道とも言えるその場所で、氷魚とリャナは向かい合う。


「いきなり蹴り飛ばしやがって、箱庭では躾もしてもらえなかったか?害獣。」

「人んちに来るときはアポとれって、教わる前に来ちゃったのかな?お嬢ちゃん。」

「「あ?」」


 互いに、口撃による相手の動揺を狙うが、互いが互いの煽りをもろに受ける。その結果、それぞれが感情に任せた攻撃を行う。

 先手を打ったのは氷魚だった。再び氷魚が空を打つ。はたから見れば素振り、戦闘中ともあれば空振りに見えるそれは、寸分の差もなくリャナに打ち込まれた。


「ぐっ!?」

「わけもわからんまま死ね!」


 乱打。次々と繰り出される不可視の打撃。回避のしようもないそれを受けながら、リャナは敵の異能について思考を巡らせる。


 (どうなっている、どう見ても届かない距離、なのに殴られる。衝撃が届く。先ずはこれを何とかしなければ…)


 思うが早いか、疾走。早い速い疾い、あらゆる言葉を置き去りにするかのような速度で駆け出したリャナは、しかしまだ打ち続けられる。だが、


 (当たりが弱くなった?避けれないまでも、着弾点を逸らして受けるダメージを軽減している時のような…これなら振り切れるか…!)


 さらに加速し、影をも置き去りにしたリャナには、もう衝撃は届かなかった。


「ちっ、すばしっこい。」

「あんたの攻撃、大体分かったわ。

 ひとまず、衝撃の転送ってとこね。」

「わかったところで、逃げているだけではな!」


 氷魚の持つ異能は、任意の地点への瞬間的なエネルギーの転送。その用途は遠隔攻撃だけではない。


「もらった!

 っ!?」

「残念、こっちのセリフだ。」


 リャナが氷魚に襲い掛かった瞬間、空間が爆ぜた。周囲の空間へ転送した衝撃による、不可視の鎧である。


「攻性防壁、ってな。

 お前は私に触れられない。」

「…くっ。」


 リャナは再び思考を巡らせる。氷魚に攻撃を当てる手段を、相手の手札と自身の手札、その切りどころを探り続ける。



 ────────────────────────────────



 広場上空、押し戻されたノヴァと押し返したクライア。その表情は真逆。

 余裕ともとれる笑みで揺蕩うノヴァと、緊張と共に空を駆けるクライア。しかし、その内面は同じく、互いに味方への被害を考慮していた。

 彼らが全力で戦闘を行おうものなら、真下で戦闘を行う味方が巻き添えを食らってしまう。それほどまでの脅威、それほどまでに力を解放しなければ討ち取れぬ相手。


「まさか貴女のような大物に出会えるとは思いませんでしたよ。

 こんな、こんな国の近郊で。」

「私としても、貴様のような若造に知られているとは思わなんだ。

 私を知るのは、貴様らのとこの頭、教皇ハルツィナと、ブルコワーズぐらいだろう。

 あやつ、そろそろ死んだか?」


 クライアは、その発言に戦慄する。神の現身たる教皇様は言わずもがな、まさか穏健派の主席の名前が挙がろうとは。

 この人外、凶星 レプティレス・ノヴァは、神聖国の民に人外の存在を公表するより以前から災害として登録されていた人外だ。曰く、何者も逃れ得ぬ死そのもの。出会わないことを願うべき。と、しかし、それを遺すには生きて帰ったものが居なければならないのだ。これまで、それは教皇様だと思っていた。何らかの要因で外出せざるを得なかったところ、偶然、不運にも遭遇してしまったのだと。


 (なんだと!?ブルコワーズだと!?この凶星は、あの怪物でも討伐できないほどの…?)


 派閥の、その思想の違いから犬猿の仲ではあるものの、その実力は認めている。自分でも勝てるか怪しと思えるほどのその実力、それと相対しても目の前の脅威は健在。

 それは、己では勝てないことの証明。認められるはずがなかった。事実、ブルコワーズは共存を望んでおり、無用な殺生は避ける。教団員以外に被害をもたらしていなかったノヴァを見逃した可能性は大いにある。


「では、私のことも知っていただこう。これから貴女を殺す者の名だ。知らぬままでは死に切れんだろう。

 我が名は、クールクス・クル・クライア。教団3派閥が1つ、正統派の主席。

 冥途の土産に持って行くがいい!──抜錨!!」

「威勢がいいな、小僧!

 良い、遊んでやろう、死ぬ気で来い!!」


 眩い光が空を覆う。顕現せしは方舟。クライアの背後に浮かぶそれは、祭具のようで、しかし確かな威圧感を、相対する者に与えていた。

 対する凶星、これを正面から受け止める構えを見せる。小細工如きでは揺るがない、星とはそういうものなのだ。


「くっくっく、どう出る?」

「もう、出しましたよ。」


 砲撃、突貫、拘束、あらゆる行動は、既になされた後だった。それを、思い出した世界は、その効果をノヴァの身に出現させる。

 砲撃により肌は爛れ、突貫により肩が抉れる。錨により拘束された身体は満足に動かせないだろう。


「ぬぅっ!?」

「どうやら、過大評価だったようですね。この程度なら、恐るるに足りません。

 やはり人外など、神話に語られる堕ちた英雄。人の姿を忘れた獣に過ぎないのです。」


 それこそが、偽らざるクライアの信念。理想の英雄像。

 自分たちこそが真に神話を体現せし英雄であり、その身に人ならざる特徴を持つなど、力に呑まれた証拠。そう本気で考えているのだ。だからこそ、彼は過激派と呼ばれることを嫌い、自らを正統派と名乗る。

 しかし、相手はただの人外ではない。星の名を冠するほどの脅威なのだ。


「なにやら厄介な能力を持っているようじゃな。

 けっこうけっこう、小細工は弱者の特権。存分に振るうがいい。」


 空気が沸く。森が乾く。ノヴァの体温が急激に上がり、彼女を縛る錨が、鎖が解け始める。あまりの熱量に、陽炎のように空間が揺らぎ、彼女を視認することが難しくなる。

 周囲への被害を気にしつつも、二人の戦いは、次のステージへ上がっていくのだった。

ここまで、お楽しみいただけていれば幸いです

いったん、次話までは書き上げ、それ以降はのんびり投稿となるかと存じます

引き続き、お楽しみください

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