第2歩 外の人外
第2話です
エインセルと共に、わからなさを楽しんで頂けたら、幸いです
抱えられてたどり着いたのは、小さな集落だった
そこには沢山の人外がいて、野山で捕ってきたのだろう動植物を、テキパキと慣れた手つきで調理しているところだった。
「ここは...どこ...」
「...しらないひとがいっぱい。」
感情が動きすぎてもはや何も感じないほどに憔悴しきった私たちは、ただ茫然とその光景を眺め、それに対しての感想を漏らすことしかできなかった。
まるで宴会でもするかのようなその光景は、先ほどまでの凄惨な事件を忘れさせるようであったが、煌煌と燃え上がる炎がそれを許さない。
火を囲む薪の燃えるさまが、先ほど見た炎上する箱庭を想起させ、こんなにも暖かいのに、底冷えするような冷たさを思い出し、身体が震える。
「ど、どうしたの?さ、寒い?」
「こっちにおいでぇ~?暖かいよぉ~。」
そう言いながら、ふわふわと軽い足取りで二人が近づいてくる。双子なのか、二人とも深い紫色の瞳と黒い髪で、一人はツインテール。もう一人はポニーテールだった。人外らしい特徴は見受けられなかったが、そう言った特徴は服で隠れているのかもしれない。
人見知りのグレムは、私の後ろに隠れてしまう...私だって、隠れたい…だが、隠れられないので、目を合わせないで済むように俯く。
「あ、驚かせてご、ごめんね?」
「私たちはぁ~、あなたたちの味方~。
怖いことなんてぇ、なぁ~んにもないんだよぉ~。」
そんな私たちを見て、二人は優しく言葉を紡ぐ。
距離を測りかねているような、探っている感じだ。優しい人なんだろう、多分、嘘じゃない。
「......でも、私たちが住んでいた場所を壊した人の、仲間。」
しまった、口に出してしまった。
気付いて顔を上げるが、もう遅い。返す言葉を失った二人は、気まずそうに目を合わせてから、申し訳なさそうに目を伏せた。
しかし、私たちから離れることは無かった。
「...わ、わかってくれなくても、いい。
でも、私たちはあなたたちを、あの、じ、地獄から助けたかったの。」
「...あなたたちは子供だからぁ、酷いこととかはされてないと思うけどぉ~。
いずれそうなっちゃうかもだったから......ごめんね。」
その申し訳なさそうな、伝えたいことを飲み込んだような謝罪に、私は思い出す。
「リャナは?」
「リャナ、リャナだ、リャナはどこ?」
私の呟きに反応したグレムが今にも泣きそうな顔で騒ぎ始める。
それにつられるように、私の目にも涙が滲んできた。もう、あの幸せな空間はない。ごうごうと燃え盛る炎に包まれ、地獄と化した箱庭は、立ち入ろうとする全てを拒むのだろう。
それでもリャナは戻っていった。私たちを置いて...
「私のことを呼んだかしら?泣き虫さん。」
泣き叫ぶグレムと、泣き崩れる私の背後から、聞きなれた声がする。
振り返って見れば、いたるところが傷だらけではあるものの、元気そうな姿のリャナがそこに居た。
「「うわぁああぁぁぁ。リャナぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁあ....」」
その姿に、栓が外れた私たちは泣きついてしまう。
───しばらくして、リャナに宥められ落ち着きを取り戻した私たちは、この集落の長、長老の元に来ていた。皮膜と爪のある翼と鱗の生えた尻尾を持った長老は、燃えるような赤い長い髪と、穏やかな桃色の瞳が印象的だった。
「リャナ、グレム、そしてエインセル。よく逃げ延びてきた。生き残りはお前たちだけか...
つらかったろう、怖かったろう。すまないね、我々にはああする他、手がなかったんだ。」
「そんな!私たちだけではどうすることもできなかったものです。
この子たちには酷だったけれど、感謝してもしきれない...ありがとうございます。」
そう言いながら頭を下げる長老に、リャナは慌てて声を上げる。その姿に、ため込んでいた私の感情が再びあふれ出す
グレムも、わけがわからないと、自分の理解が及ばない出来事を処理しきれずに、また泣き出してしまう。
どうしたものかと手をこまねいているリャナと長老に、私は口を開く。
「もうずっとわからない!箱庭を、箱庭があんなになったのに、壊した人にありがとうって......リャナは、あの場所が嫌いだったの?」
幸せそのものであった空間が壊されて、壊した本人が目の前にいるのに、リャナはそれに感謝している。自分がおかしくなってしまったのだろうか。
嗚咽じみた叫びを聞き、二人が動揺しているのがわかる。しばらくの沈黙ののち、長老が重々しく口を開く。
「エインセル、お前の困惑はもっともだ。
だが、事情があることも、わかって欲しい。
お前の疑問に答えてやることもできるが、信じたくないことを伝えることになる。
それでも、聞きたいかい。」
努めて優しく、私の、私たちの意思を尊重するような気づかいを感じる。わかっていた、この人たちが悪い人ではないということ。むしろ、あの時のお世話係さんの方がずっと怖かった。
彼を潰してしまった『かべ』だけは怖いけれど、みんな、私たちを本気で助けようとしていたことぐらい、わかっていたんだ。だから、
「...知りたい。」
「...そうか、グレムも、いいね。
先ずは自己紹介をしよう。
私の名前は、レプティレス。レプティレス・ノヴァだ。
ノヴァと、呼んでおくれ。
実は私も、お前たちとは違うところの『箱庭』で生活していた人外さ。」
そこで一呼吸置き、私たちの反応を見るノヴァ。私たちが黙って聞いているのを見て、決心したように続きを話し始める。
「私たち、大人の人外はね、お前たちのような小さな子供が遊んでいる間、どこにいたと思う?」
「...どこ、って、どこだろう、自分たちの部屋とか?」
私たちが遊びに行くとき、リャナ達大人は、部屋で見送ってくれていた。ご飯で呼ばれる頃には、一緒に食堂に向かっていたから、どこにいたとか考えたこともなかった。
「私たちはね、研究員、教団の人に研究室に連れていかれていたのさ。
そこでは、人外の身体についての研究が行われていてね、簡単に言うと、どこまで怪我をしたら死んでしまうのか、どこが傷ついちゃいけないのか、どれぐらい身体が強いのか、どんな能力があるのか、もうとにかくなんでも、隅々まで全部調べつくされたものだよ。」
ノヴァの語るそれは、私には信じられなくて、信じたくなくてリャナを見たけれど、リャナの顔は青褪めていて、それが本当のことなんだとわかった。
嘘だったんだ。あの優しかった彼も、お世話係さんも、あの場所にいた教団の人は、私たち人外を調べて利用しようとしていたんだ。
それをどう使おうとしていたのかはわからないけれど、きっと善いことじゃない。私たちに、やりたくもないことをさせようとしていたんだ。
だって、あの時『かべ』に襲い掛かった二人は、助けに来てくれたことを知っていたはずだもん。それなのに、お世話係さんが何かを操作した途端に飛び掛かって、きっとみんな操られていたんだ...
「結局、調べたことがなにに使われるのかわからなかったけれど、最近になって分かった。
奴らさ、新世代の英雄とか言って、私たち人外を捕まえたり殺したりしているあいつら。
あいつらは、私たちと同じだ。人を超えた力を持ち、それ以外の特殊な力や、魔法を操る。
もしかしたら、死んでいった仲間たちはあいつらを産みだすために...」
「......。」
新世代の英雄、街で教皇様が演説していた彼らのことだ。仲間に会えると思っていたのに、もしかしたら、みんなを使って産まれたかもしれないなんて、あまりの衝撃に、私は何も言えなくなってしまう。
「...どうやら、話し過ぎてしまったね。
説明するつもりが、少しばかり感情的になってしまったようだ。
今日はもう疲れたろう、美味しいご飯ができているハズだ。
さっきお前たちに声をかけていた二人、トロイとエリカについていきなさい。」
ノヴァがそういうと、外で待っていたのか、おどおどした人外とのんびりした人外が、やはりふわふわと軽い足取りで入ってくる。
「た、立てる?
私が、と、トロイだよ。
こう見えても、お、お姉ちゃんだから、任せてね。」
「はぁ~い、立てなかったら抱えていくよぉ~。
妹の、エリカちゃんだよ~。」
ポニーテールの方がトロイ、ツインテールの方が、エリカと名乗った。そうして二人は、指一本動かす気力の湧かない私たちを抱えて長老の家を後にする。
抱えられながら、グレムの方に目を向けると、見たこともない、すごく怖い顔をしていて、それ以上見ていられなくて私は、抱えてくれているエリカの腕にしがみついて顔を埋めた。
頭の上から、くぁわいぃい~とか聞こえた気がしたが、気のせいだと思おう。
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双子の人外に連れられて、グレムとエインセルが去った後。
残った大人たちは二人の様子について話し出す。
「先の話、二人にはまだはやかったかな。」
「いえ、いずれ知ることになる現実です。
私も、私は、自分がそうなってから知ったので、私の頃の大人たちは、きっともう...」
少しだけ、後悔しているようなノヴァに対して、自身の体験から、早めに知っていた方が良いと断じるリャナ。彼女の顔にはその過去を想起させる昏い影がかかっていた。
「いま、あの子たちの支えはお前だ。
慰めるもよし、そのまま見守るもよし、好きにすると良い。
あの様子では、グレムはきっと私たちと志を同じくするだろうが、エインセルには迷いが見える。
選択肢はきっと、多い方がいい。」
「そう、ですね...
出来れば二人とも、ここではなく、里に行って欲しいですが、グレムは断るでしょうね。」
そこで会話が止まる。ノヴァはリャナの選択を待ち、リャナは思慮にふける。信じたくないように揺れていた、エインセルの碧眼が過る。やがて顔を上げたリャナは、決心がついたような顔で応える。
「わかりました。
あの子たちの背中を押してきます。」
「...それがいい。
今生の別れになっても、悔いの残らないようにしてきなさい。」
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トロイとエリカに連れられて、炎が燃え盛っていた広場に戻ってきた。
広場では、大勢の人外が楽しそうに食事をしていて、逃げてくる前の食堂を見ているみたいでまた涙が溢れてしまう。もうあの場所には何もなくて、優しかった教団の人たちは嘘で、でも、楽しかった、幸せな記憶は本物で...
「また泣いちゃった~。
そーいうときはぁ~、美味しいものを食べるのだ~。」
泣き叫びそうになった口にお肉が詰め込まれる。いきなりのことでびっくりしながらも、それを噛みしめる。
美味しい。お腹が空いていたことを思い出し、どんどん食べる。周りにいた人たちは少し驚いた顔をしていたが、直ぐに笑顔になって、私たちの前にご飯を持ってきてくれた。
「んふふ~、美味しいでしょ~。
お姉ちゃんと一緒に作ってたんだよぉ~。」
「お、お口に合えば、嬉しいな。
たくさん用意したから、い、いっぱい食べてね!」
全てを忘れるかのように夢中で食べる私を、少し心配そうな顔でみんなが見つめる。その視線に気づいた私は、少し照れ臭くなって食事のペースを落とす。
ふと、横を見たらグレムが居ない。グレムを連れていたトロイも居ないので、一緒にどこかへ行ったのだろう。一人じゃないのなら大丈夫かと、私は食事を続けた。
ひとしきり食べてお腹いっぱいになったころ、長老との話を終えたらしいリャナが声をかけてくる
「ずいぶんたくさん食べたじゃない。こりゃ心配して損だったかしら?
まぁいいわ。
ねぇ、エインセル。ちょっと、お話ししましょうか。」
そう言って、リャナは少しだけ真剣な表情になる。その顔を見て、私は食事で追いやっていた思考を取り戻し、目を伏せてしまう。そんな私の頬をリャナは、両手で包むように掴んで目を合わさせる。
「...リャナ?」
「エインセル、あなたの考えていることは正しいわ。
あなたが悩んでいること、迷っていることは間違いじゃない。
あの時、あなたたちを預けて、他の子たちを探そうと戻った箱庭の中で、あのクソみたいな地獄の中でも、マシな奴はいた。
...巻き添えで死んだ子の墓を作ろうとしていた教団員が居たわ。
私は、あんな場所大っ嫌いだけど、でもあなたは違う。
...少なくとも、あの場所に本当の優しさ、善意はあったんだと、そう思う。
だから、全部が嘘だなんて思わなくていい。嘘じゃないものも、あったから。」
私を励ますために選んだであろう言葉は、しかしリャナの本心とは相容れないのだろう。苦虫を嚙み潰したような顔で、それでも目をそらさずに真実を告げるリャナは、私の選択を尊重しようと言いたくもないはずの、あの場所を認める言葉を紡ぐ。
でも、と言葉は続く。
「でもね、もし次があったとして、大切な人を守りたいってなった時に、何もできないのは嫌でしょう?
だから、迷いながらでいい、今はまだ、決めなくていいから、明日、気が向いたら広場にいらっしゃい。
訓練場に移動して、みんなでトレーニングよ。体を動かせば、案外悩みとかすっ飛んじゃうかもだし、ね。」
そうしてリャナは、言うだけ言って去ってしまう。残された私は、また思考の海に沈んでいく。
それからしばらく考え、気が付いたら眠ってしまっていたらしい。まだ悩んでいるけれど、それでも、何もできないでいるのは嫌だから、私は重い足取りで広場に向かう。まだ、なにに使うか決まっていない、決めていないけれど、それでも力をつけたい。
「お、来たね。
そーそー、悩んでていいの。迷ったままでいいから、とにかく選択肢を広げることが大事よ。」
広場に着くと既にリャナが居た。待っていてくれたらしいリャナは、私を見ると声をかけ、訓練場まで案内してくれる。
訓練場には、多分集落の全員が集まっていて、皆それぞれで模擬戦闘のようなものを行っていた。中には心配になるぐらいに激しい戦闘を行っている組みもいて──トロイとエリカだった──あの二人、あんなに激しく動けるのか...
「ふふふ、圧倒されてるね。
大丈夫、いきなりあれに混ざれなんて言わないから、先ずは私一緒に動く練習。
頑張って私の動きについてきてね。」
そう言って森の中に歩いていくリャナ。そこには、アスレチックのような空間があり、既にグレムが飛び回っていた。
どうやらいくつかルートがあるようで、何人かが同じようなコースを飛び回っている。それについていくグレムは、度々落ちそうになりながらも、尻尾を器用に使って何とかコースに復帰している。
「凄い。」
「やる気だね。でも、エインセルは特別。
ここでは長老を除けば一番早い私との追いかけっこだよ。
グレムと違って、コースとか何もなしに、ただ私を追いかけてごらん。しばらくしたら逆に私から逃げる。基礎的な体力と身体のコントロールを鍛えようね。」
その光景に素直に感動しつつ、これから自分がこれに挑むのかと、少しだけわくわくしている。
戦うのは怖い。それでも、もう二度と、何もできないでいるのはごめんだ。敵を倒せなくても、誰かを守れる、連れて逃げられる、せめてそれぐらいには、力が欲しい。強くなる、その一歩目だ。
遅筆、とは言いましたが、まだ序盤も序盤
皆様にお楽しみいただくため、5話ぐらいまではサッと書いてしまいたいです




