第15歩 烏合
今回、後書きが少々長いです
「くそっ、あのボケのせいで霧が晴れた。急いで貼り直さな──」
自身の能力を駆使し、慌てて霧を張り直す。濃い霧はそう短時間では貼れないものの、薄い霧を散布して周囲を確認することはできる。だが、その意味も、あまりなさそうだった。
──ドドドドドドドドド──
「な、何の音?」
「……まさか。」
「これは~。」
エインセル、カイコ、暗听がそれぞれ反応した音。これは足音だ。この隠れ里へ向かってくる魔獣の群れの。
「全員聞けぇ!!
霧の杜が晴れて、魔獣の群れに位置がバレた!
これより防衛戦を行う!!
戦えるものは備えよ!戦えないものは、逃げる準備をしろ!!!」
声を張り上げ、指示を出す。巨大な影を見て呆けていた住民たちが我に返った。ウチの近くにいる者たちの内、暗听、エインセル、カイコが戦えるか。リャナは片足欠損。響歌はそもそも荒事に向いてへん。
「みんな、行くで。
あのデカブツが飛んで来た方からぎょーさん来とる。」
「了解で~す。」
「……わかった。」
「が、頑張ります。」
よし、全員気は確かなようやな。僥倖。
「えらい数や、突破されたら里は跡形も残らんと思って、気張りや。」
駆け足で魔獣の群れが来る方に向かう全員に、緊張が走る。あとは、数を目の当たりにして戦意喪失しないかどうかやけど、どうやろね。
──現場では、早くも門番たちが門の外で構えていた。
「里長!
ここは我らが!!」
「息巻くのはええけど、数見たらそんな気ぃ失せるで。」
地響きを起こすほどの量。あの害獣、他の魔獣も引き連れてきたんか。次、会ったら地の果てまででも追いかけて氷漬けにしたる。
「ほら、来んで。」
迫る黒い絨毯。魔獣の群れ。種も何も煩雑だった。ざっと確認できる中では、タウラス、レッドボア、ハウンド、アラクネ、あたりだろうか。
「ほれ、行くで。」
真っ先に駆け出す。この程度の多勢に無勢、昔取った杵柄や。それに、あん時と違うて、ウチも強くなっとるからな。
「壁になりなんし。」
前線の数列を凍らせる。すぐ後ろにいた魔獣たちが、前列の魔獣で作られた氷壁に激突し、さらに後ろから次々と押されて圧し潰される。だが、勢いは止まらない。瞬く間に氷壁は砕かれ、迫ってくる。
「うぉおおおお!!」
そこへ、門番たちが迎え撃つ。丸い耳と丸っこい太い尻尾の五人衆が、鉈を片手にコロコロと回るように舞い刻む。脚、胴、一撃で屠る気はなく、そいつらがもたついて後ろがつっかえることを目的とした立ち回り。
「お、あの子ら、上手く立ち回るやん。」
氷で生成した槍を振り回しながら観察していたが、防衛戦における戦い方を心得ているその動きに感心した。相手が魔獣であるため、対人ほどの効果はないが、それでも、動けなくなった身体そのものが壁の役割を果たし、後続の勢いを緩める。殺さずとも、自由を奪えばよいのだ。
「ウチも頑張らな。
さて、あの子らはどうしてはるかな。」
門番たちは心配無さそうなので、エインセルたちの方を見やる。
「おぉ、カイコはん。やっぱ強いなぁ。」
ほとんどカイコ一人で塞き止めているような状態だった。張り巡らされた糸に絡めとられて、身動きが取れなくなった先陣に、後続が続き、後ろから押される圧で、糸によって刻まれる。ずいぶんとえぐい戦法を取っとるな。エインセルが引いてまうやろ。
エインセルはエインセルで、門番たちの動きを見て学習したのか、カイコはんのえぐい戦法には目もくれず、迫りくる魔獣たちの脚を、胴を、おもっきしぶん殴って圧し折っている。
「あの子にそこまでの力があるとは思えへんけど、なんかの能力かねぇ…」
時折、危ない瞬間もあるが、暗听とカイコがフォローを入れて守っている。いい連携や。
「よっしゃ。お姉さん、気張るでぇ~。」
言いながら、群れに突撃した。
「ちょ、里長!?」
「狐雪さん!!」
「……狐雪。」
「あぁ~。たぶん、大丈夫ですよぉ。」
皆、それぞれの反応が聞こえつつ、目の前の魔獣に触れる。次の瞬間、魔獣は真っ白に染まり、動かなくなった。魔獣の持つ水分を凍らせたのだ。ウチの持つ必殺技のひとつ。
「さ、このままぜんぶ凍てつかせたる。」
白くなった魔獣に触れた後続の魔獣が、白み始める。この凍結は、伝播する。連鎖する氷結によって、黒い絨毯の中に、白い絨毯ができ始めていた。
凍結のおかげか、魔獣の勢いが徐々に緩んでいく。停止こそしないものの、今までの突撃一辺倒ではなくなった。
「さては、指揮官がおるな。」
正確には、司令塔、といったところか。ハウンドは統率力の高い種だが、それでも、この数を指揮することはできない。ハウンドより強いアラクネが従うはずもない。ドラゴンはオラフォリオの方へ飛んで行ったから、アラクネより強い種が群れの後ろにいるとみて間違いないだろう。
「厄介な……」
この数を統率でき、かつアラクネよりも強い種というと、そう多くはない。小型のドラゴン、ワイバーン。森に潜む木と花の悪魔、トレントとドライアド。影の扇動者、シェイド。ぐらいか。
「霧に触れている感触からして、シェイドは無い。ワイバーンらしい形も感じないし、トレントかドライアド、もしくは両方、ってとこか。」
晴らされた先から配置し直した霧。その霧は、触れた対象の輪郭や感触といった様々な情報をウチに共有してくれる。それを辿って確認する限りでは、ワイバーンもシェイドも居なさそうだった。この二種のいずれかなら、このまま他の子らに任せても大丈夫やろ。
「さてさて、ウチは危なくなった時の保険にでもなっときますか。」
トスッ、と氷の槍を地面に突き刺し、腕を組む。エインセルとカイコはんが加わったこともあり、この数相手でもなんとかやれている。度々出てくる討ち洩らしにはウチが対処しとるけど、中の連中でも充分対処可能な程度には弱っている。この調子なら、任せても問題ないやろ。
「成長の機会は、奪ったアカンからな。」
ひとりで頷き、傍観の構えを取るのだった。
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すごい、凄い。門番さんたちの戦い方を見て、私は感動していた。痛いかもしれないけれど、殺さない方法。それに、そうして動けなくなった魔獣の身体が邪魔になって、後ろがつっかえている。
「よし、私も。」
迫りくる魔獣の群れ、その脚目掛けて拳を、蹴りを放つ。圧し折って動けなくさせる。痛いだろうけど、我慢して欲しい。こうしないと、里が危ないから。
「てやぁあ!」
これまでと同じ、身体の奥底から力が湧いてくるような気がする。魔獣の動きも、自分の動きも、みんなの動きも、よく見える。時間が引き延ばされるような感覚。高揚感。
「……エインセル、大丈夫?」
カイコが声をかけてきた。カイコは、糸を木の間に張って、群れを塞き止めていた。後ろからどんどんと押されて、最前列の魔獣から順番に、カイコの糸で刻まれていく。
「うん。平気。」
わかる、わかっている。この数を殺さずに追い返すことなどできないと。だからせめて、私が倒した分ぐらいには、生きて帰ってほしい。そのために、一匹でも多く私が倒す。
「エインセル、前出過ぎ。」
「うぐっ。」
突然、身体が後ろに引っ張られる。何事かと思えば、背中にカイコの糸が付いていた。前に向きなおれば、先ほど目の前まで迫っていた魔獣が、白く凍り付いていた。カイコは、私がこれに巻き込まれないようにしてくれたのか。
「ありがとう、カイコ。」
「……ん。」
この凍結はたぶん、狐雪さんだ。凄いなぁ、一気に数が減っていく。私も、これぐらい強くなりたい。でも、
「殺さずに、って、できるのかな…」
「…………エインセルなら、できる、かもね。」
カイコが励ましてくれる。でも、方法が浮かばない。今は、考えても意味が無い。この群れを倒さなければ、追い返さなければ、里が危ない。今はそれだけでいい。
「カイコはん!暗听!奥に居る親玉、任せるで!
ウチは反対側に行く。戻ってきよった!」
今、なんといったのだろうか。戻ってきた。どこから、なにが。
「お一人で大丈夫ですか~?」
「……こっちは、任せて。」
「誰の心配しとるんや、任せとき。
…無理は厳禁やからな。」
そう言って、狐雪さんが消える。数瞬遅れて地面が爆ぜ、駆け出したのだということを理解する。驚いている暇はない。勢いが落ちているとはいえ、魔獣は次から次へとやってくる。
「早く終わらせて、里長の援護に行きましょ~。」
「……わかった。」
「頑張ります!」
一刻も早く狐雪さんの援護に行くため、迎え撃つのではなく攻勢に出る。一匹の討ち洩らしも許されないが、このままでは埒が明かないため、ここで一手打つことになった。
「門番さん!こちらは、敵陣に突撃しつつ、司令塔個体の撃破を狙います!
ちょ~っと広い範囲のカバーをお願いしますねぇ~。」
「り、了解であります!!」
暗听さんが、長手袋を外し、三つ編みを解く。手が五本の触腕に裂け、三つ編みのツインテールが六本の触腕に変貌する。両腕で十本、髪で六本、計十六本の触腕で、周囲の魔獣に触れる。触腕が触れた魔獣は、痙攣しながら泡を吹いて倒れた。
「さ~、全力で行きますよ~。」
魔獣が瞬く間に無力化されていく。私たちの周りに、小さな空間ができる程度には。私も、なにかできないか…
「……暗听、凄い。
私は攻め入るのに向いてないから、頼りになる。」
と言いつつ、カイコも糸で魔獣を縛り上げ、その勢いで切断していく。一部の魔獣をその糸で操り、群れに向けて突撃させていたり、カイコも十分にすごいと思うのだけれど。やっぱり私には、殴る蹴るしかない。覚悟を決め、カイコと暗听さんが倒した魔獣を踏み越え、迫りくる魔獣に向かって吠える。
「退いて!!」
それしかないなら、それをする。それでいい。出来ることを全力でやれ。
私が突進してから、心なしか、魔獣が怯んだ気がする。気のせいかもしれないけれど、行ける気がする……
とにかく、司令塔個体とやらを探して倒さなきゃ、この群れを追い返すんだ。
「ん~?怯んでますかね、これ。
チャ~ンス、突撃~!」
「…了解。」
「はい!」
暗听さんが先頭を走る。道すがら、すれ違うすべての魔獣に触れ、無力化していく。続くカイコも、絶えず糸を吐き出し、いくつもの糸のバリケードを作成する。最初、門の付近で作っていたアレと同じもの。私は、ただ追いかけるだけだった。もどかしいけれど、私の手足じゃまだ、届かない。
「見つけた~。先手必勝!」
「ん、人外か。」
魔獣の群れ、その中でも二本足で立って、落ち着いている個体がいた。あれが司令塔個体。いや、二体いないか…
「……暗听、待って。」
「ぇうわぁ~!?」
間一髪、カイコが暗听さんを糸で手繰り寄せて引き戻す。直後、ツルの鞭が暗听さんのいた場所を通過した。
「勘のいい奴がいるなぁ。」
「あらぁ、二体いたんですねぇ。」
「……暗听、片方任せた。
エインセル、周りはよろしく。」
「!!うん!
二人とも、気を付けてね!」
カイコに任された。二人が強そうなのと戦っている間、周りが二人を邪魔しないように、門番さんたちのところに向かう数が減るように。私の戦いは、今ここだ。
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どうしよう、足音が止まない。
「響歌ちゃん、大丈夫だからね。
何かあったら、私が。」
リャナさんが私を励ましてくれる。いいお姉さんだ。エインセルちゃんが懐くのもよくわかる。でも、違う。私は耳がいい。たぶん、リャナさんよりも。だから聞こえる。反対側から来てる音が。
「え、あれ?嘘。」
リャナさんも気が付いたらしい。大きな耳がぴょこぴょこと動く。あぁ、ダメだ。もう破られる。
門番が不在の門が、ミシミシ、バキバキと壊れる音が聞こえる。破られた門の破片が視界の端に映る。土煙が上がり、家が、住居が破壊される音が里に響く。
「くそ、こんな。見ているだけなんて。」
ギリ、と隣のリャナさんが、真っ白になるほどに拳を固く握る。避難してきた住民たちも、一様に慌てている様子だ。それでも、私は慌てていなかった。耳がいい私には聞こえている。里長が、狐雪さんが駆けてくる音が。
「なにさらしてくれとんじゃ!!」
咆哮。直後、洪水に見紛うほどの水が、里に侵入した魔獣を飲み込む。そして、その全てが凍り付いた。
「ウチの里じゃ。誰にも、傷ひとつ付けさせんで。」
里の三分の一を覆うほどの巨大な氷壁の上で、狐雪さんが啖呵を切る。私とリャナさんくらいにしか聞こえていないだろうけれど、格好いいな。
キャラクター毎の見た目情報を、過去投稿分にさかのぼって追記いたしました
こちらで一覧をまとめます
記述内容は下記の通りです
キャラクター名、髪色、瞳、身体的特徴・その他
人外
・エインセル、栗色、碧眼、途中で枝分かれした角を持つ。子供。
・グレム、淡い赤色、茜色、腕・脚・尻尾に鱗を持つ。子供。
・リャナ、明るい薄茶色、黄緑色、大きく長い耳を持つ。
・トロイ、黒髪。ポニーテール、深い紫色、双子の姉。人外としての特徴は服で隠れている。
・エリカ、黒髪。ツインテール、深い紫色、双子の妹。人外としての特徴は服で隠れている。
・レプティレス・ノヴァ、燃えるような赤い長髪、桃色、皮膜と爪のある翼、鱗の生えた尻尾を持つ。長老。
・フレア、暗めの橙色、(未公開)、大きく太い角。大柄で筋肉質。
・カイコ、白髪。長髪、血のような赤い瞳、頭に触角、背中に美しい羽を持つ。
・狐雪、白い短髪、吸い込まれそうな深い翡翠色、尖った耳、九本の尻尾を持つ。隠れ里の里長。
・海月 暗听、毛先に向けて、薄群青→緋色へグラデーションした長い三つ編みローツイン、黒い瞳、頭に小さな透明の笠を持つ。二の腕まで覆う長手袋を着用。
・奏吹 響歌、白髪、真っ白な瞳、全身に包帯。目の下にクマ。声を出せない。
英雄部隊
・クールクス・クル・クライア、薄緑色の短く揃えた髪、青緑色、(身体的特徴は未公開)
・氷魚 プリュイ、水色の短めの髪、海のような青い瞳、(身体的特徴は未公開)
・カラナ・サージュ・ブルコワーズ、金髪。ロング、(未公開)、(身体的特徴は未公開)
・レイ・レオレグ、金髪。オールバック、黄金色の瞳、野性的な印象を受ける男性
・エクス・クエリ・レリーフ、紫色の髪、紫色の瞳、(身体的特徴は未公開)
・ルブル・ル・ルルーフェ、黒髪超ロング、気だるげなタレ目の黒い瞳、少女を思わせる小さな身体




