第10歩 惑わし
自分でも驚くほどのペースで書きあげております。
誤字脱字などございましたら、ご容赦いただけますと幸いです。
カイコさんが参入して、四人で隠れ里に向かうことに。あの戦闘で無茶苦茶強かったカイコさんが加わったことがとても頼もしい。
「帰ったら私もぉ、お姉ちゃんと一緒に鍛え直さなきゃなぁ~。」
「?エリカはすっごく頼もしいよ?」
「エリカ、あなたはとても厄介。」
嘆きを聞いて即座にフォローしてくれる無垢な天使、エインセルちゃん。今日もマジ可愛い大好き癒し。そして、その天使に絆された美の塊、カイコさん。端正な顔立ちに長いまつ毛、真っ白で長い髪の毛と毛並みのいい触角、鮮やかな紋様のある大きな羽、綺麗としか言いようがない。でも、別に羨ましくはない。私は可愛い系だから。本当に。
「えへへぇ~。フォローありがとねぇ~、エインセルちゃん。
カイコさんもぉ、すっごく厄介でしたよぉ~。」
「うん!へへへ。」
「…そう。」
撫でると、クシャッと笑顔を浮かべる天使。本当に癒しだ。ちら、とリャナさんに目を向けると、ちょうど目が合う。どうやらまだカイコさんを警戒しているみたいだ。急に襲ってきたわけだし、そもそもあの箱庭崩壊の当事者で、その生き残り。怪しいと思うのは仕方がない。
「ところでぇ~、カイコさんは最初ぉ、なんでエインセルちゃんを攻撃したんですかぁ~?」
「ちょっと、エリカ。」
「エリカ…」
本人に聞かないとわかるものもわからないので、ぶっちゃけて聞いてみることにした。そしたら、リャナさんとエインセルちゃんから非難の目を向けられる。目線が痛い。でも誰かが聞かなきゃじゃないですかぁ…
「……そう、ね。エインセルの腕についていた腕輪が鳴って、私はあなたたちを、その、箱庭側の、教団の送り込んできた敵だと思ったの。
だから、腕輪を付けている人物から排除しようと……ごめんなさい。」
真相はなんてことなかった。要するに勘違い。誰も怪我をしていないことから、全員が全員、かなり気を遣って戦っていたことは明らかだった。
「なぁんだ、そぉいうことでしたかぁ~。
てっきり錯乱してるのかと思いましたけどぉ~、ちゃんと喋れてたし、なんでかなぁ~って。」
「……あなたたちは、どうしてあそこに?」
今度はカイコさんからの質問。当然の疑問だろう。調査しに入ったことは伝えたけれど、なんで調査しに来たかは伝えていない。
「あのね、私たち隠れ里に向かってたの!そしたら魔獣に襲われて、何とか追い返したんだけど危ないからって森を出たの。
そしたらそこにあの箱庭があって、中に入ってみたら、カイコが居たんだ。」
「……そう。よく、頑張ったわね。」
エインセルちゃんが頑張って説明してくれた。カイコさんがエインセルちゃんの頭を撫でるが、明らかにエインセルちゃんに対してだけ、態度も表情も緩んでいる。
「……はぁ、本当に何でも無さそうね。
警戒して損したわ。」
「リャナ、あなたの警戒は、正しい。あなたたちからすれば、私は怪しさの塊。
でも、誤解が解けたなら、嬉しい。」
そう言って、初めて私たちに微笑んでくれた。自分を警戒している相手に、自分も気を張っていたと、そういうことなのだと思う。確かに、私だって自分を警戒している相手と一緒に居るなら、なにがあっても大丈夫なように気を張る。これがカイコさんの素なのだろう。大人しく、穏やかで、そしてまだ、ほんの少しだけ幼い感じ。
「んふふ~、私ぃ、カイコさんのこと好きかもです~。」
「…奇遇。私も、エリカのことは気になっていた。」
「えぇ~、ほんとですかぁ~?嬉しい~。」
「拘束、とか、能力が近い、気が、する。」
あぁ、そういう。ちょっとだけがっかりしつつも、それはそれで嬉しくもある。そんな会話を皮切りに、徐々にカイコさんの口数は増えていった。主にエインセルちゃんに対しての。
それから二日ほど歩いて、私たちは再び森の前にやってきた。
「ここからはぁ、森を進みまぁ~す。
目的地の隠れ里は、深ぁい霧に包まれた森の中にあってぇ、その霧の中にはぁ、魔獣も来ないんですって~。」
「……それ、って、迷いの森?」
「そうです!カイコさん、知ってるんですかぁ~?」
「名前だけ。」
この旅の目的地である隠れ里は、迷いの森と呼ばれる深い霧に包まれた森の中に存在している。ちょっとの先も見えないほどに深い霧は方向感覚を失わせ、入ったきり帰ってこなかった者も少なくないという。
「そ、そんなとこ、入って大丈夫なの?」
「大丈夫よ、エインセル。噂が本当なら、どうも人外だけは例外らしいのよね。
ほぼ必ず隠れ里に辿り着くみたいよ。」
「ほんと?」
迷いの森の説明を大げさにしたせいで、エインセルちゃんが怯えてしまった。すかさずリャナさんが宥めてくれる。そう、どういう仕組みかはわからないけど、人外が立ち入った場合のみ、ほぼ確実に隠れ里に辿り着けるようになっているらしい。つまり、私はその迷いの森までの道案内役なのだ。
「と言っても、隠れ里に着くまでは一緒なんですけどねぇ~。」
「そっか、エリカはみんなのところに帰るんだもんね……」
「寂しそうな顔しちゃってぇ~、お姉さん困っちゃう~。」
「あ、ご、ごめんね。その、帰ってもいいよ。」
違うんだぁ、そういう言い方は傷ついちゃうなぁ~。寂しそうなエインセルちゃんに上げて落とされるという弄ばれ方をしながら歩みを進めると、明らかに異常に濃い霧の壁が見えてきた。
「ここからはみんな離れないで歩かないとね。
こう霧が深いと迷子になりそう。」
「……私の糸、で、みんなを結ぶ。これなら、はぐれない。」
「おぉ~、カイコさん賢ぉ~い。」
みんなで手を繋いで歩くのも良かったけれど、カイコさんの糸があるならその方が確実だ。カイコさんは、もはや糸とは呼べない、縄みたいなふっとい糸を全員に巻き付けてくれた。ここまでしたら流石に大丈夫だろう。
「よぉ~し、れっつご~。」
「おー!」
「…おー。」
「はぁ。」
四人揃って、霧の中へ足を踏み入れる。霧の中は、思っていたより息苦しくなく、むしろどこか涼しくて心地よいぐらい。快適すぎて、帰りたくなくなってくる。戻ってこない人の中にはこういう人もいたのかもしれない。
「気持ちぃ~。」
「気が緩んじゃいそうね。」
「うん、へへへ。」
「……」
カイコさんの糸で繋がれている安心感からか、私とエインセルちゃんは気が緩んでしまっていたが、リャナさんとカイコさんは気を張ったままだ。特にカイコさん、まだ外の世界に慣れていないのか、しきりに周囲を気にしている。
「カイコさん、まだ緊張しますぅ?」
「そうじゃなくて、こう、誰かに見られているような気がして……」
「誰かに?うーん、わかんないなぁ~。
リャナさんわかりますぅ?」
「言われてみればそんな気がしなくもないけど、気のせいと言われれば気のせいな感じもする、かなぁ。」
「う~ん、エインセルちゃんは?」
「全然!気持ちいなって!」
そっか~、可愛いねぇ~。気を張っている二人が気づいた視線とやら、薄っすらで確信が持てない程度のそれが何なのか。私も、緩んでいた気を張り直す。
「どれぐらい歩けばいいんですかねぇ~。」
「……皆目見当もつかない。」
「足元が見えなくて歩きづらいのよね。」
「大丈夫?リャナ。」
だいぶ歩いてきたはずだが、未だに目的地は見えない。そもそも目の前ですら怪しいこの霧の中、当て所もなく彷徨っているだけで本当につくのか怪しいところではある。そんなことを考えていると、霧の先に木とは異なる影が見えてきた。
「おぉ~、こんな感じなんですねぇ~。」
「着いたの?これ。」
「でっかい、扉?」
「……誰かくる。」
影の正体は大きな門だった。門の前には、少しだけ霧の晴れた空間が広がっていた。その門が僅かに開き、中から一人の人外が歩いてきた。門番だろうか。
「ここは人外たちが外界と断絶して静かに暮らす里だ。ここへはどのような用事で参った。」
どこか威圧感を感じる喋り方で出てきたのは、丸い耳を生やし、太く丸っこい尻尾を生やした人外だった。眉が吊り上がり、やや怒っているようにも見える。
「過激派集落から来ましたぁ~。この子たちの保護をお願いしまぁす。」
案内役として一歩前に出て、説明を行う。相手の気が立っているなら簡潔に、要点だけ。
「……嘘をつくならもう少しまともな嘘をつけ。貴様ら、何者だ。何を企んでここに来た。
そもそも、どうやってここに辿り着いた。まさか、操られているのではなく、完全に洗脳されているのか?」
「えっ。」
「えぇ~。」
「…まずい流れね。」
「…………」
話が通じない。というか、嘘じゃないんですけどぉ~。
「そう言われてもですねぇ、私たちは本当に過激派集落から来ててぇ。
大変だったので早く入れて欲しいって言うかぁ~。」
「……エリカはおバカ。その言い方じゃ通してもらえるわけがない。」
「そうね、カイコに同意。それじゃ怪しさしかないわ。」
「流石にダメだと思う。」
満場一致のブーイング。エリカちゃん心折れそう。門番さんは相変わらず鋭い目つきだしぃ。全然通してくれなさそうでどうしよ~。
「貴様ら、そこを動くなよ。少しでも怪しい動きをすれば殺す。」
もう完全に敵認定されてますよぉ、どうしてこんな目に合わなきゃいけないんですかぁ……
嘆いていると、ぞろぞろと人外が出てきた。こちらの人数と同じ四人。最初の門番を入れれば五人だが、種族としては全員同じなのか、皆一様に丸い耳と丸い尻尾を生やしている。
「一人ずつ検査を行う。改めて言うが、動くなよ。」
言われるがままにじっとしていると、門番以外の四人がエインセルちゃんを囲むように動く。三人が武器を向け、一人が近づいて手をかざした。
「ちょっと、なにするのよ。」
「あのぉ、なにを?」
私とリャナさんが同時に口を開いた。可愛いエインセルちゃんに何をしようとしているのか、それを聞くためだ。だが、事態はもっと深刻だった。カイコさんが動いてしまったのだ。
「……慎重に答えなさい。
何を、しようとしたの。」
「が、これ、は。」
「ぐ、動けん。」
私たちと戦った時と同じように、門番含めた五人に糸を付けて拘束したらしい。
「ちょっとカイコ!やりすぎよ!
私たちは戦いに来たわけじゃないわ!」
「……こちらの話に耳も貸さず、挙句エインセルに武器を向け怪しい動きを見せた。
十分すぎる。」
リャナさんとカイコさんの間に緊張が走る。火花すら見えそうなぐらいに険しい顔でにらみ合う二人。確かに、エインセルちゃんが危ないと思ってはいるけれど、流石に実力行使が早すぎる気もする。
「カイコ、やめて?
心配してくれてるのはわかるけど、やりすぎだよ。
私のために、ありがとう。」
「…………エインセルが、そう、言うなら。」
心底しぶしぶといった様子で、糸での拘束を解除するカイコさん。エインセルちゃんが聡い子で良かったぁ~。とはいえ、事態はちっとも好転してない。
「はぁっ、はぁっ、き、貴様ら。
やはり悪意を持ってここに近寄ったか!!」
案の定、門番たちが激昂してしまった。これからどう弁明しようか、そもそもできるのか。万が一の場合の交戦も視野に入れつつ考えていると、再び門が開いた。
「あれまぁ、遅いな思うて出て来てみれば物騒な…
これ、どういう状況?」
緊張した状況の中出てきたのは、ピンと尖った耳を生やし、九つの尻尾を携えた、短髪の人外。その瞳は、吸い込まれそうなほどに深い翡翠色で、危うく見とれてしまいそうなほど。まぁ~た美人さんですかぁ。可愛い系のエリカちゃんの立場は揺るぎませんからぁ別にいいですけどぉ~。
「遠路はるばる。ようけ来はりました。
三人って聞いとったんやけど、人数が合いまへんなぁ。
どなたがどなたやろ。
おひとり、増えてはるみたいやけど?」
カランカランと足音を鳴らしながらこちらへ歩いてきたその人外は、底冷えするような冷たい声を放った。
無事?隠れ里に到着しましたね。
引き続き、お楽しみください。




