没
マルクスとエンゲルスはルーミアに案内されつつ八雲紫から提示された場所へと向かう。私たちに会いたいという女の子がいるのだとか。
「それはそうとエンゲルスよ。タリスマンの発見によって楽園が見つかるのではないかと目されているわけだが、旧約聖書に記載された楽園はどこかにあるのだろうか」
「まぁエデンではなくとも現実世界に住み続けるよりかは幸せになれる場所であればどこでもいいと思うけど」
「それもそうだな。さて、あれが人里だな」
「待ち合わせ場所は、人里から山を登った先にある神社だ。うーん、まぁちょっと寄り道してもいいんじゃないか」
「人里を観察していこう」
マルクスとエンゲルスは人里を散策する。
里に入ってすぐに、整備された川が奥まで続いているのが見える。川の両脇には、白塗りの土壁に黒い木の窓枠が嵌められた一階建の木造建築物が整然と並んでいる。その様相はまるで岡山県の倉敷美観地区のようだ。
ここからだと見えないが、おそらく路地を入って行ったところにも同じような建物が並んでいるのだろう。
マルクスとエンゲルスは川沿いの道を歩いていく。今度はルーミアが後ろに続いている。
「ふむ。平和そのものといった感じだな」
「勤勉さや成長を過剰に要求されない分、内的な豊かさを追求することが容易で、だからこそ全人的発展を遂げた人々の割合が高く、共同体全体に渡る平和が成立しているのだろう」
「理想的な社会だな」
「計画経済、集産主義というわけでもないだろうが、安定した経済が成立している。我々が今居るこの場所が、商業的に一番栄えている場所だというのに、神経症的広告が一つも無い。これは知性の表れだよ」
「小さなスケールだからこそ実現可能な社会なのだろう。スケールが大きくなれば破綻すると思う」
「そうだな。共産主義は百人を超えると成立不可能だというのが、今の我々の見解だ」
「この人里は数千人の人口は居るだろうから、共産主義では無い。数千人規模であれば社会主義だな」
「人口が増えれば資本主義体制へと移行せざるを得ないが、まぁ今のところは動きの小さな共同体が維持されているといったところか」
「共産主義社会主義資本主義いずれにしても社会的協調の方法論以上の意味を持たない。重要ではあるが、たかがその程度でしかないのだ」
「イデオロギーを先行させるのではなく、現在の下部構造を観察した上で適切な上部構造を行使しなければならない。小さなスケールでは共産主義、スケールが大きくなるほどに資本主義へと近づいていく。世界が一つになった暁には、資本主義以外の社会的協調モデルは実行不可能だろう」




