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【完結】追放された悪役令嬢は氷の騎士と静かに人生を取り戻す~復縁は望みませんが、謝罪は受け取ります~  作者: モーヒアス


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リュークとエレナの大冒険その4

## 最終話 ひーみつ!


「……ん」


 最初に聞こえたのは、ぱちぱちと燃える魔力ランプの音だった。


 それから。


 ひんやりした地下の空気。


 古い本の匂い。


「……あれ」


 リュークはゆっくり目を開けた。


 ぼやけた視界。


 石造りの天井。


 地下室。


「……戻った?」


 身体を起こす。


 隣ではエレナが机に突っ伏して眠っていた。


「エレナ」


「んみゅ……」


 つんつん、と頬をつつく。


「エレナ、起きろ」


「……にいさま?」


 ぱちり、と目が開く。


 そして数秒後。


「ぼうけん!!」


 完全に思い出したらしい。


「しっ!声が大きい!」


「はっ!」


 エレナが慌てて口を押さえる。


 その姿が面白くて、リュークは少し笑った。


「……夢、じゃないよな」


 机の上には、開いたままの本。


『願いの国の冒険記』


 さっきまであんなに光っていたのに、今は普通の古い本にしか見えない。


「ほん、ふつう」


「だな」


 恐る恐る触ってみる。


 何も起きない。


 ただの本だ。


「……ほんとに夢?」


 リュークは辺りを見回した。


 地下室は静かだった。


 光の粒もいない。


 喋るウサギもいない。


 黒ブタもいない。


 ……いてほしくない。


 その時。


 からん。


「?」


 小さな音。


 エレナの膝の上から、何かが落ちた。


「……鍵?」


 銀色の小さな鍵だった。


 繊細な装飾が入っている。


「これ……」


 実は本の世界で、おじいさんから最後にもらった鍵。


『秘密の鍵じゃ』


って笑って渡された。


「…………」


「…………」


 二人は顔を見合わせた。


「ゆめじゃない?」


「……たぶんな」


 リュークは鍵を拾い上げた。


 ひんやりしている。


 本物だ。


「すごい……」


「な」


 なんだか急に実感が湧いてくる。


 本当に冒険してたんだ。


 変な国で。

 喋る生き物に会って。

 魔物に追いかけられて。

 空飛ぶ魚を見て。

 エレナが王女扱いされて。


「……意味分かんないな」


「たのしかった!」


「それはそう」


 エレナがにこにこ笑う。


 その顔を見て、リュークも笑った。


「やば」


「?」


「父様たち」


「はっ!」


 完全に忘れてた。


 どれくらい時間が経ったんだろう。


「おこられる!?」


「たぶん!」


 二人は慌てて立ち上がった。


 だが。


 エレナがぴたりと止まる。


「にいさま」


「ん?」


「これ」


 本だった。


『願いの国の冒険記』


「どうする?」


「…………」


 リュークは少し考えた。


 父様に言う?


 母様に?


 でも。


 たぶん。


 これは。


「……秘密にしよう」


 エレナの目がぱっと輝く。


「ひみつ!」


「うん」


 二人だけの冒険。


 二人だけの秘密。


 なんだかその方が特別な気がした。


「よし、戻るぞ」


「うん!」


 エレナがリュークの手を握る。


 小さくて、あったかい手。


 リュークは握り返した。


 それから。


 二人は地下室を飛び出した。


 外へ出ると、春の陽射しが眩しかった。


「うわ、明る」


「ぽかぽか!」


 風が気持ちいい。


 さっきまで別の世界にいたなんて、信じられないくらい普通の日常だった。


「リューク様!!」


「うわっ」


 聞き慣れた声。


 アーニャだった。


 少し怒った顔で走ってくる。


「どこへ行っていたんですか!」


「ご、ごめん」


「探しましたよ!?」


 後ろにはマーサもいる。


「エレナ様まで埃だらけで……」


「あそんでた!」


「でしょうねぇ……」


 マーサが苦笑する。


「怪我はありませんか?」


「ない!」


「本当に?」


「ほんと!」


 マーサがほっと息を吐いた。


「おやつの時間ですよ」


「おやつ!」


 エレナが飛び跳ねる。


 さっきまで異世界冒険してたのに、おやつでテンション上がるのすごいな。


 いや自分もちょっと嬉しいけど。


 食堂へ入ると、甘い匂いがした。


「おかえり」


 母様が微笑む。


 テーブルには焼き菓子と紅茶。


 父様も既に座っていた。


「遅かったな」


「ごめんなさい」


 アデルがじっと二人を見る。


 鋭い目。


 歴戦の騎士の顔。


「……埃だらけだ」


「…………」


「…………」


 やばい。


 怒られるかもしれない。


 だが次の瞬間。


 父様は小さく息を吐いた。


「怪我は?」


「ないよ」


「そうか」


 それだけだった。


 母様がくすりと笑う。


「アデルったら、ずっと心配してたのよ」


「セレス」


「さっきまで“まだ戻らないのか”って何回も」


「言うな」


 耳が少し赤い。


 エレナが嬉しそうに笑った。


「とうさま!」


「なんだ」


「しんぱいした?」


「……少しな」


「えへへ!」


 父様は娘に弱い。


 本当に弱い。


「ほら、座りなさい」


 母様が手招きする。


 二人は席についた。


 焼き菓子を一口。


「……おいしい」


「おいしい!!」


 エレナが幸せそうに笑う。


 なんだか急に安心した。


 帰ってきたんだな、って。


 不思議な冒険は終わった。


 でも。


 悪くない終わり方だ。


「リューク」


「ん?」


 母様が優しく尋ねる。


「二人とも、何かあったの?」


 その瞬間。


 リュークとエレナは顔を見合わせた。


 銀色の鍵。


 願いの国。


 喋るモチ。


 黒ブタ。


 全部が頭をよぎる。


 それから。


 二人同時に笑った。


「「ひーみつ!」」


 一瞬きょとんとして。


 それから大人たちが笑う。


「まあ」


「秘密か」


「ひみつ!」


 エレナが得意げに胸を張る。


 窓の外では、春の風が優しく揺れていた。


 そして。


 リュークのポケットの中で。


 銀色の鍵が、かすかに光った気がした。


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