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【完結】追放された悪役令嬢は氷の騎士と静かに人生を取り戻す~復縁は望みませんが、謝罪は受け取ります~  作者: モーヒアス


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リュークとエレナの大冒険その3

## 第三話 願いの国の大冒険


「ぶもおおおおおお!!」


「速っ!?」


 巨大な黒い猪――黒ブタが、とんでもない勢いで突っ込んできた。


 地面が揺れる。


 木が倒れる。


 怖い。


 めちゃくちゃ怖い。


「にいさまーー!!」


「走れエレナ!!」


 二人は全力で草原を駆け抜けた。


 後ろから黒ブタが追ってくる。


 なんで。


 なんで本の世界に入った瞬間こんな目に遭ってるんだ。


「モチ!!」


「はい!!」


「なんとかしろ!!」


「頑張ってください勇者様!!」


「役に立たず!!」


 モチはぴょんぴょん跳ねながら普通についてきていた。


 なんなんだこいつ。


「ぶもおおお!!」


 黒ブタが飛び掛かってくる。


「うわっ!!」


 リュークはエレナを抱えて転がった。


 どごぉん!!


 地面がえぐれる。


「……父様なら一撃だろうなこれ」


 でも自分は十一歳。


 まだ父様みたいには戦えない。


 その時。


 キラリ、と何かが光った。


「……ん?」


 草むらの中。


 一本の剣が刺さっていた。


 銀色の剣。


 妙に綺麗。


 しかも。


 絶対“抜いてください”って感じで光ってる。


「……いや怪しい」


「にいさま!」


「分かってる!!」


 黒ブタ接近。


 時間なし。


「くっそ!」


 リュークは剣を掴んだ。


 瞬間。


 ぶわっ!!


 強烈な風が吹き荒れる。


『選ばれし勇者よ――』


「うるさい!!」


 条件反射で剣を振った。


 どごぉぉぉぉん!!!


「ぶもっ!?」


 黒ブタが吹っ飛んだ。


 森の奥まで。


 ぐるぐる回転しながら。


「…………」


「…………」


 静寂。


 エレナが目をきらきらさせる。


「にいさま、すごい!!」


「いや今の何!?」


 剣がぴかぴか光っている。


 怖い。


「さすが勇者様!!」


「違うって言ってるだろ!」


 だがモチは全然聞いていない。


「これで願いの国は救われます!」


「いや一頭倒しただけだろ!?」


「細かいことは気にしないです!」


 気にしろ。


 結局。


 二人はモチに連れられ、“願いの国”を旅することになった。


「いやほんと帰れないの?」


「帰れますよ!」


「いつ!?」


「全部終わったらです!」


「…………」


 エレナはすっかり冒険気分だった。


「にいさま!」


「ん?」


「ぼうけんだね!」


「……まあな」


 怖いけど。


 ちょっとだけ楽しい。


 そんな自分が悔しい。


 最初に辿り着いたのは、小さな村だった。


「わあ……!」


 エレナが目を輝かせる。


 お菓子みたいな家。

 空飛ぶ魚。

 喋る猫。


 意味が分からない。


 でも綺麗だった。


「勇者様だー!!」


 なぜか歓迎された。


「勇者様!ぜひこちらへ!」


「いや違っ」


「ひめさまもどうぞ!」


「ひめさま!」


 エレナが嬉しそう。


 もう駄目だ。


 完全に乗ってる。


「お菓子です!」


「わぁ!」


 机いっぱいのスイーツ。


 エレナの目がさらに輝く。


「食べる!」


「待て! 毒とか――」


 もぐもぐ。


「おいしい!」


「早い!!」


 でも大丈夫そうだった。


 リュークも恐る恐る食べる。


「……うま」


「でしょう!」


 虹色のケーキだった。


 材料は分からない。


 でも美味しい。


「にいさま!」


「ん?」


「これも!」


 エレナがどんどん皿を押し付けてくる。


 その様子を見ていた村人たちが笑った。


「仲良し兄妹ですねぇ」


「えへへ!」


 エレナが得意げに笑う。


 リュークは少しだけ照れくさかった。


 その後も冒険は続いた。


 喋る猫に道案内され。


「左ですにゃ」


「猫も普通に喋ってる……」


 空飛ぶ魚に襲われ。


「ぎゃー!!」


「食べ物投げるなエレナ!!」


 なぜか巨大プリンから逃げ回り。


「ぷるぷるしてる!!」


「怖っ!!」


 最後には、エレナが王女扱いされた。


「エレナひめさまー!」


「ひめさま!」


「なんで!?」


 理由はよく分からない。


 でもエレナはノリノリだった。


「にいさま!」


「ん?」


「わたし、おうじょ!」


「そうか……」


 母様そっくりだなぁ、とリュークは思った。


 自然と人を惹き付ける感じ。


 笑ってるだけで周りが明るくなる感じ。


 エレナはまだ小さいけれど、きっと将来すごく綺麗になる。


 そして父様はたぶんもっと過保護になる。


 今ですらひどいのに。


 この前なんて。


『父様、だっこ』


『ああ』


『くるくる!』


『分かった』


 氷の騎士が娘抱えて庭をぐるぐる回ってた。


 騎士団の人たち、みんな目逸らしてた。


「にいさま?」


「……父様苦労しそうだなって」


「とうさま?」


「うん」


「とうさま、だいすき!」


「それは知ってる」


 父様もエレナ大好きだからな。


 めちゃくちゃ。


 夕暮れ。


 二人は大きな城へ辿り着いた。


 空がオレンジ色に染まっている。


「ここが最後です!」


 モチがぴょんと跳ねる。


「最後?」


「はい!ここが願いの塔です!」


 城の最上階。


 そこには、小さなおじいさんがいた。


 真っ白な髭。

 長い杖。

 優しそうな目。


「よう来たのう」


「えっと……」


「お前たちは、良い兄妹じゃ」


 おじいさんが笑う。


 エレナが首を傾げた。


「きょうだい?」


「うむ」


 おじいさんはリュークを見る。


「お前さんは、ちゃんと妹を守っておる」


「……まあ兄だし」


「そして妹も、お前さんを信じておる」


 エレナがにこっと笑った。


「にいさま、かっこいい!」


「……ありがと」


 少し照れる。


 おじいさんは満足そうに頷いた。


「この国はの」


 静かな声。


「幸せな子供しか辿り着けん」


「……幸せ?」


「愛され、大事に育てられた子だけが来れる場所じゃ」


 リュークは少し黙った。


 父様。

 母様。

 マーサ。

 アーニャ。


 みんなの顔が浮かぶ。


「……そっか」


 なんだか、胸があったかかった。


「にいさま!」


「ん?」


「わたしたち、しあわせ?」


 エレナが聞く。


 リュークは笑った。


「うん」


「いっぱい?」


「いっぱい」


「えへへ!」


 エレナが嬉しそうに笑う。


 おじいさんも笑った。


「さて」


 杖が、こつんと鳴る。


「そろそろ帰る時間じゃ」


「帰れるの!?」


「うむ」


 よかった!!


 リュークは本気で安心した。


 その瞬間。


 部屋の中に光が溢れる。


 風が吹く。


「わっ!」


「にいさま!」


 エレナが抱きついてくる。


 リュークはその小さな身体を抱き締めた。


「大丈夫」


「うん!」


 光が強くなる。


 世界が白く染まる。


 最後に、おじいさんの声が聞こえた。


『良い夢を』


 その瞬間。


 全部が白に溶けた。


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