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【完結】追放された悪役令嬢は氷の騎士と静かに人生を取り戻す~復縁は望みませんが、謝罪は受け取ります~  作者: モーヒアス


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17/19

番外編

――とある日の深夜。

 

「……リュークが泣いている」


アデルは目を開けた。

暗闇の中、微かに聞こえる小さな泣き声。

だがその小ささとは裏腹に、破壊力は絶大だった。

隣で眠っていたはずのセレスも、ゆっくりと目を覚ます。


「ん……」


「寝ていてください」


即座に制止する声。


「私に任せてください」


「でも――」


「任せてください」


やけにきっぱりしていた。

どこか“任務”のような響きすらある。


「私も親ですから大丈夫です」


「……じゃあ、お願いね」


少しだけ迷った後、セレスは素直に任せた。

その瞬間。

アデルは静かに、しかし妙に緊張感のある動きでベッドから降りる。


 ――戦場に向かう騎士のように。




30分後。

 

「……泣き止まない」


帰ってきた。

早い。

そして、腕の中には当然赤子がいる。


「どうしたの?」


「分かりません」


即答だった。


「抱いてみて、揺らしてみて、声もかけてみて……」


「うん」


「だが泣き止みません」


真剣な顔で言う。

完全に困っている。


「貸して?」


セレスが手を伸ばすと――


一瞬だけ、躊躇した。


「……まだ大丈夫です」


「無理しなくていいのよ?」


「無理ではありません」


だがその言葉と同時に。

赤子の泣き声が一段階大きくなる。


「…………」


沈黙。


「騎士様?」


「……お願いします」


秒で折れた。


セレスが抱き上げると――


数秒で泣き止んだ。


「……なぜだ」


アデルが本気で困惑している。


「お腹かも」


「ミルクは飲みませんでした」


「オムツは?」


「替えました」


「じゃあ安心したのかしら」


「アンシン……?」


その単語に、アデルが少しだけ目を見開く。

セレスは優しく微笑んだ。


「お母さんの匂いとか、分かるのよ」


「……そうですか」


ゆっくりと頷く。

だがその表情には、ほんの少しだけ悔しさが混じっていた。


「……リューク、俺では、駄目か」


「そんなことないわ」


すぐに否定する。


「時間がかかるだけ」


「時間……」


「そのうち、“お父様じゃないとダメ”ってなるから」


「……本当ですか」


「ええ。赤ちゃんって一歳ごろまでは父親の顔は認識していないそうよ?」


「えっ……」


「ボヤーンとしてるみたい」


その言葉に、アデルはわずかに息を吐いた。


そして――


「……努力します」


やはり真面目だった。




翌日。


「アデル様」


「……なんだ」


「隈がすごいです」


マーサの第一声がそれだった。


「問題ない」


「問題しかありません」


即否定。


「昨夜、何度起きられました?」


「三回だ」


「少ないですね」


「…………」


一瞬、誇らしげな顔をしたのが無駄になった。


「奥様は六回です」


「……そうか」


静かに敗北した。


どうやら父親というのは、赤ん坊の夜泣きが聞こえにくい生き物らしい。




その日の午後。


「抱きます」


唐突だった。

セレスが少し驚く。


「いいの?」


「お互いに慣れる必要があると愚考します」


真剣そのもの。

もはや訓練である。


「ふふっ、じゃあ……お願いね?」


 そう言って渡すと――

 

やはりぎこちない。

だが昨日よりはマシだった。


「……軽い」


「昨日も言ってたわね」


「変わりませんね」


「急には大きくならないわよ」


「そうですか」


真面目に納得する。


そして――


赤子が、小さく手を動かした。

指が、アデルの指に触れる。


「……見てください。掴みました」


「ええ」


「……離さないですね」


「そうね」


ほんの少しだけ、力が入る。

その小さな手に。


「…………」


アデルが、しばらく黙る。

そして。


「……困りました」


「え?」


「このままでは、動けません」


「離してもいいのよ?」


「……無理です」


即答だった。

セレスが吹き出す。


「ふふっ……」


「笑わないでください」


「だって」


「…………」


結局、そのまましばらく動けなかった。




数日後。

事件は起きた。


「……熱い」


アデルの声が低い。

腕の中の赤子に触れ、明らかに様子が違うと気づいたのだ。


「リュークが……リュークが…」


「どうしたの?」


「熱があるみたいです」


一瞬で空気が変わる。


「え?」


セレスも触れる。

確かに、少し熱い。


「……どうすれば」


アデルの声が、明らかに焦っている。


「医師を――」


「呼んであります」


早い。


「すでに?」


「さっき指示しました」


「いつの間に……」


どうやら気づいた瞬間に動いていたらしい。

さすがである。

だが。


「アデル様」


マーサが入ってくる。


「落ち着いてください」


「落ち着いている」


「声が一段低いです」


「…………」


図星だった。




医師が到着し、診察が終わる。


「軽い熱ですね。よくあることです」


 その一言で――

 

アデルの肩から力が抜けた。


「……そうか」


「はい。心配いりません」


その後、薬や対応を聞き終え。

医師が帰った後。


「……よくある、のですね」


ぽつりと呟く。


「ええ」


セレスが優しく答える。


「子供って、そういうものよ」


「……知りませんでした」


「これから知っていけばいいの」


「…………」


少しだけ、考える。

そして。


「……全部覚えます。マーサ、資料を国中から取り寄せてくれ」


「そんなに頑張らなくていいのよ?」


「いいえ」


首を振る。


「守るために必要です」


「もう十分守ってるわ」


「足りません」


即答だった。

その真面目さに、セレスは少しだけ困ったように笑う。


「じゃあ、一緒に覚えましょう?」


「……ええ」


その返事は、少しだけ柔らかかった。




その夜。

また泣き声が響く。


だが今度は――


「……私が行きます」


迷いがなかった。


「大丈夫?」


「ええ」


前回とは違う。

どこか、少しだけ余裕がある。




数分後。

泣き止んでいた。

アデルが戻ってくる。


「どうしたの?」


「……分かりませんが」


少しだけ、誇らしげに。


「泣き止みました」


「すごいじゃない」


「……偶然かもしれませんが」


「それでもいいのよ」


「…………」


少しだけ考えて。


「……次も任せてください」


「ええ」


そのやり取りを、マーサが後ろで見ていた。


「アデル様」


「なんだ」


「ようやく“父親”らしくなってきましたね」


「……最初からそのつもりだ」


「ええ、存じております。ですがここまでしてやっとスタート地点です」


「ああ、もちろんだ」


だが声は少しだけ優しかった。




夜が更ける。

静かな寝室。

セレスがふと目を開けると――

隣に、いない。


「……アデル?」


起き上がると。

少し離れた場所で、揺れている影があった。

リュークを、抱いて。

静かに、ゆっくりと。


「どうしたの?」


「……起こしてしまいましたか」


「ううん」


近づく。


「寝てるわよ?」


「……確認しています」


「何を?」


「……呼吸です」


セレスは一瞬だけきょとんとして――

そして笑った。


「大丈夫よ」


「……そうですか」


「あなた、心配しすぎ」


「…………」


否定しない。

代わりに。


「……可愛いです」


ぽつりと呟いた。


「知ってるわ」


「……小さいです」


「ええ」


「……守ります」


「うん」


短い会話。

だけど、それで十分だった。


氷の騎士はもう冷静ではいられない。

夜泣きに起きて、少しずつ慣れて。

それでも毎回、少し慌てて。

小さな手に振り回されながら。

それでも確かに――

幸せの中にいた。


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「最弱魔法しか使えない奴隷少年、捨てられた森で覚醒する〜森を支配する力で無双し成り上がる〜」


新作連載始まりました!

よろしくお願いします!


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