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(11)再び、祇園城襲撃


「祇園城の守備が手薄です」

 年が明けた応永三年(一三九六)の年初、白河で交戦中の若犬丸は、井野権兵衛からそう報告を受けた。

 十年前、若犬丸は守備が手薄となった祇園城を攻撃し、一時的に占拠に成功した。その後、祇園城は下総結城家が守備しており、警備が厳重だと聞いていたが、月日の経過とともに危機意識が緩んできたのかもしれない。

「小山庄に潜んでいる旧臣らが、若殿のご帰還に合わせて蜂起する準備を整えています。今なら祇園城を奪い返せます」

 奇しくも、白河結城家の本家である下総結城家が祇園城を守備している。ここで再び祇園城を奪回すれば、白河結城家と交戦中の田村家の間接支援になり、何よりも奥羽の地を管轄国に加えて悦に入っているであろう氏満の顔に泥を塗ることができる。

 若犬丸は、則義に祇園城を攻略したい旨を伝え、了解を得ると、夜風の衆とともに小山へ向かった。

「若殿、よくぞご無事で」

 祇園城から北西約三里半の場所にある太平山の山麓で、若犬丸は旧臣たちと再会した。

 集まった旧臣は百人余。彼らは旧主である若犬丸の姿を認めると、一様に涙を浮かべた。

「皆の者、苦労をかける」

 糟尾山で義政が自害し、小山家が取り潰されてから十四年になるが、旧臣たちは若犬丸の蜂起を待ち望み、潜伏を続けていた。そんな彼らの熱意に、若犬丸は胸を打たれた。

「祇園城を取り返す!」

「おーっ!」

 二月十三日、若犬丸率いる小山軍は祇園城を攻撃し、占拠に成功した。権兵衛の報告通り、祇園城の守備兵はごくわずかしかおらず、ほとんど戦闘らしい戦闘は行われなかった。

 若犬丸に祇園城を奪われたとの報を受けた氏満は、関東と陸奥の武家に対し動員令を発し、自身は二月二十八日に鎌倉を発ち、小山へ向かった。

 鎌倉府軍が祇園城の南西約五里の場所にある下総古河へ到着した際、若犬丸は祇園城から出撃し、奇襲攻撃をかけた。鎌倉府軍は混乱を来たして一時劣勢に陥ったが、兵力に勝る鎌倉府軍は徐々に態勢を立て直し、小山勢を押し返した。

 若犬丸は祇園城に戻ったが、鎌倉府軍が押し寄せて来る前に城から退去することにした。

「皆の者、わしと共によく戦ってくれた。礼を言う」

 若犬丸は深々と頭を下げて旧臣たちと別れると、夜風の衆らとともに日光方面の山側の間道を縫って進み、白河へ向かった。鎌倉府軍は、小山軍が退去した祇園城を接収した。

「鎌倉府軍に敗れ、逃げ戻って来ました」

 白河の田村軍の陣に到着した若犬丸は、則義にそう言った。

「卑下することはありません。寡勢にて祇園城を奪取とは、実に見事なお働き」

 則義はそう言って若犬丸をねぎらった。

 確かに、氏満に一泡吹かせたことで良しと言えるかもしれない。若犬丸はそう思った。

 氏満は古河に滞陣し、若犬丸の行方を探っていた。陸奥の田村家と白河結城家とが白河にて交戦中であることは以前から報告を受けていたが、その田村軍に若犬丸がいるとの情報を掴んだ。南朝方の田村家は、鎌倉府の命にことごとく従わないとの訴えも聞いていた氏満は、この際、田村家討伐も兼ねて軍を進めることにした。

 五月二十七日、氏満は古河を発し、白河へ向かった。各武家へは、小山若犬丸討伐という名目で再び陣触れを発した。

 六月一日、白河へ到着した氏満は、田村軍への総攻撃を命じた。田村父子と若犬丸はそれを迎え撃ち、新田家残党は鎌倉府軍の側面を突いて応戦したが、ついに敵の大軍に陣を破られ、田村軍は潰走した。

 田村父子と若犬丸は宇津峰城へ退却したが、鎌倉府軍がすぐに襲来するのは間違いない。

「若犬丸殿は、すぐに城を退去されよ」

 則義はそう言った。

「私は、田村家と共に最後まで戦います」

 氏満と鎌倉府軍を陸奥にまで引き寄せた責任は自分にある。若犬丸はそう感じており、この城を枕にして死ぬつもりであった。

「否、若犬丸殿は生き延びて、戦いを続けられよ。鎌倉府の理不尽な強権を跳ね返す抵抗勢力の旗頭として、あなたは今後も生きて、戦わなければならない」

 これまで何度もの敗戦を経験し、都度逃げ延びては再起を図り、氏満と戦ってきた。また、そんな若犬丸に期待し、支援を惜しまない勢力も確かに存在する。だから、この地で終焉を迎えるのは、必ずしもそういう人たちの期待に沿うとは言えないのかもしれない。

 心苦しくもあり、潔くもないが、ここは生き延びて、再起の道を模索すべきだろうか。

 悩んだ挙句、若犬丸は宇津峰城を退去することに決めた。

「会津に、良い潜伏先があります」

 則義はそう言い、その場所を若犬丸に示し伝えた。

「ご武運を、お祈り申し上げます」

「若犬丸殿も、どうかご無事で」

 若犬丸は田村父子に別れを告げ、妻子と夜風の衆、近臣らと共に会津へ向かった。


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