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終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第09章

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第324話 神の杖

機械たちは自ら素材を採掘し、精錬し、仲間たちを増やしていく。


それは数年、数十年にも及ぶ変わらぬプロセス。


いつしか、生き残った人類の数を遥かに上回る機械が生まれていた。


生産工場は彼らの母胎であり、メンテナンスパーツの供給源でもある。


機械文明にとって、最重要戦略拠点だった。


ここを人類に襲われないように、トップクラスのセキュリティが敷かれている。


地下都市から約五十キロメートル離れたここも、そんな重要施設のひとつ。


荒野のど真ん中にそびえる、大規模な工場や倉庫群。


この地は年間降水量が少なく、乾燥している。

再生エネルギーが活用でき、生産に適した環境。

地下水脈の上にハイテク都市が築かれていた。


遠く離れた地下都市では、いま大規模な殲滅作戦が行われている。

しかし、ここは何事もないかのように通常稼働を続ける。


生産ラインは淀みなく動く。

部品が製造され、パーツが組み上がり、新たな人工の魂がインストールされていく。


本日もご安全に――


その機械たちの故郷が、突如として植物地獄に変わった。


地中から噴き出した蔓がベルトコンベアや生産設備に絡みつく。

建物もびっしりと覆われた。


さらに倉庫の床を貫いて現れたのは、巨大スナバコノキ。


種子を時速二百五十キロで撃ち出し、周囲の建物へ次々と叩き込んでいく。


極めつけは、何万本も生やした巨大ガマ。

一斉に放たれた綿毛は白い嵐となり、換気フィルターを詰まらせ、センサー類を無力化していく。


その様子は、戦艦に搭載された高解像度カメラによって厨房の大型モニターへ映し出されていた。


スマホをチェックする梨々花。


視聴者さんの反応は上々。

リズのえげつない魔法は、コンテンツの華なのだ。


しかし。


「まだまだ。前菜でお腹いっぱいになられちゃ困るわね」


そう嘯くと、キッチンタイマーが鳴る。


麺を二刀流で湯切りし、特大どんぶりに投入。


リズのテーブルには、回鍋肉チャーハン定食・唐揚げトッピングに加え、千両役者のラーメンが並ぶ。

彩り豊かなカロリーのステージだ。


舞うように、踊るように箸が動き、歌声のような儚げな咀嚼が響く。


食事の手を止めることなく、植物操作魔法を次々に放つ。


梨々花はモニターを注視しながら、政臣へと問いかけた。


「どうなの?」


「無線で打電済み。

戦略拠点が敵魔法使いと思われる攻撃を受けている。

本艦が対応にあたるため、権限を与えられたし」


政臣の応答に、梨々花は軽く頷く。


機械に絶対の指揮官はいない。


通常時は緩やかに連携し、非常時には暫定リーダーを選出する。

その個体が合理的な判断のもと、一時的に軍団を指揮するのだ。


政臣は続けた。


「……よし、他の機械からも承認されたよ。

援軍が必要か? だって」


梨々花はネギを切りながら、薄く笑った。


「要らないわよ。

必要なのは、神の杖……そう申請しなさいな」


ここは丸ごと鹵獲する予定だった。


素材と設備、そして起動前の機械をいただき、こちらのリソースとする。

そんな算段。


しかし、リズの提案により急遽作戦を変更した。


ここを囮として神の杖を撃たせる。

そこから衛星位置を割り出して、戦艦の主砲のビームで攻撃。


予定していた戦略物資の調達は諦めるしかない。


小の利を捨てて、大の利を掴む。


それは、仲間たちの命だ。


梨々花の切れ長の目がモニターを睨んだ。


「撃つなら、こっちが先。

早くしないと、敵魔法使いに技術も物資も持っていかれるわよ」


強力な式神が解き放たれた地下都市か。

それとも、機械どもの生命線ともいえる工場か。


――さあ、どっちを優先する?


包丁がネギを刻む音と、咀嚼の音が空間に静かに満ちていく。


モニターには、蔓の塊が工場の屋根を突き破る様子が映し出されていた。


製造中の機械も、生産設備も、緑の奔流に飲み込まれていく。


「最新の半導体製造装置って、ものすごく高価らしいじゃない。

いただきたかったわね……」


瞳が潤むのは、ネギのせいだ。

梨々花は、自分にそう言い聞かせていた。


「さあ、返答はどうなの!?」


政臣へ声をかける。

パソコンのモニターを注視する政臣は、(せわ)しなくキーボードを叩きながら答えた。


「承認は……取れたよ。

発射コードも送られてきた」


梨々花は固定カメラを気にしながら、まな板に包丁を勢いよく突き立てた。


「撃ちなさいな、神の杖を」


政臣は小さく頷くと、手元のスマホに語りかけた。


「ダンさん、そちらの準備は?

……じゃあ、いきます」


外の世界のエンジニアたちも固唾を飲んでいた。


神の杖は都市伝説級の戦略兵器。

まだ実現できていない。


それが、ダンジョンの中の魔界で運用されていたとは。


貴重なサンプリングデータを得られるとあって、この配信はお茶の間のみならず、世界中の政府関係者や軍事専門家からも注目を集めていた。


同接数は爆上がり。

世紀の瞬間を見逃すまいと、幾億もの熱視線が注がれていたのだ。


政臣はコードを打ち込み、実行キーへ指をかける。


梨々花と目が合う。

小さく頷き合った。


梨々花は満面の笑みをカメラへと向ける。

最高潮に盛りがってきたところに、スポンサーからのお知らせだった。


「さて、みなさん。

毎日の洗い物、こんなお困りごとありませんか?

お鍋をゴシゴシこすっても、油汚れが全然落ちない。

本日ご紹介するのは、そんな常識を変える魔法の洗剤。

こちらにあるのは、頑固な油汚れのフライパン。

スポンジで軽くなでるだけで……ほら、こすってもいないのにピッカピカ!!

秘密はダンジョン由来の藻から抽出したエキスを、リズさんの長年の研究によりミリグラム単位で独自に配合。

目に見えないミクロな汚れを包んで落とす。

さえき亭の厨房でも採用されている商品なんですよ。

これを、本日は一リットルサイズ五本セットで、四千九百八十G。

いまから三十分間、オペレーターの数を増やして対応しまーす!!」


続けて、この秋からのインド料理フェアの宣伝まで行うと、梨々花はビシッとポーズを決めた。


「それじゃあ、いってみましょうか!!

神の杖――フォックス・スリー!!」


政臣の指が実行キーを押し込んだ。


同時に梨々花の魔術師の魔眼が輝く。


その手には、セトのウアス。

暴風を巻き起こす杖だ。


ウアスへ魔力を流し込んでいく。


政臣の見つめるモニターに反応が走る。


「神の杖、発射」


呟くと同時に、戦艦の主砲からビームが放たれた。


神の杖を投下した瞬間の衛星位置を基準に、移動先を予測。

外の世界のスパコンが主砲の発射角度を演算し、そのデータをこの艦を乗っ取ったAIへ送る。


主砲は既にエネルギー充填済み。

熱源反応は、梨々花の氷属性付与で隠蔽していた。


そして、セトのウアスから魔力が溢れ上空を猛烈な砂嵐が覆った。


監視衛星の目を誤魔化すのだ。


政臣は、すぐに打電。


内容は――

敵魔法使いによる高出力光魔法を確認。

本艦は迎撃に成功。


そして、全速力で都市上空から離脱した。


低軌道衛星の高度から、着弾まではおよそ二分。


少し離れた場所でショーの見物だった。


政臣がモニターを確認。


「神の杖の衛星、一時停止だって。

撃墜まではいかなかったね」


梨々花の頬が緩む。


充分だ。


どれくらい時間がかかるか知らないが、地下都市に追加の攻撃が来なけれはそれでいい。


そして、始まった――


空気をつんざく音と、流星のような光。


それが真っすぐに機械たちの工場へ落ちて行った。


地上に激突すると、そのエネルギーでタングステンの金属棒はプラズマ化。


衝撃波が巻き起こる。


だが、それで終わりではない。


神の杖は岩盤を突き破り、なおも地下深くへ突き進む。


やがて地下水脈へと辿りつく。


リズは儚げな咀嚼を止めずに呟いた。


「来ます……」


ここに水脈があることは、由利衣のマップで分かっていた。

だからこそ、敵AIも神の杖の使用を合理的と判断したのだ。


不穏な地響きが空気を震わせた。


地下の岩盤がめくれ上がり、生き物のようにうねる。


続けて岩盤を突き破って、灼熱の熱湯と溶岩が巨大な柱となって噴き上がった。


水蒸気爆発の轟音が遅れて響く。


蒸気がドーム状に広がり、巨大なキノコを形作った。


土埃が巻き上がり、上空で帯電。

蒸気は黒雲となって空を覆う。

激しい雷が幾筋も走り、熱い雨が地上を打った。


梨々花は大型モニターを凝視する。


地盤沈下で崩壊していく機械たちの都。

地獄絵図の隣では、洗剤の売り上げカウンターが猛烈な勢いで回っていた。


満足そうに目を細めると、政臣へ指示を飛ばす。


「高柳くん、打電。

神の杖は目標に着弾。最重要拠点は消滅するも、魔法使いの野望は阻止。

ちくしょう、人類め……よくも」


政臣は苦笑いで送信キーを叩いた。


まずは神の杖を防ぐことには成功した。


しかし、地下都市が包囲されている状況なのだ。

安堵の息をつくのは早かった。


大型モニターの映像を確認するリズは、チャーハンを流し込みながら真剣な眼差し。


梨々花へと声をかけた。


「次は……」


次の作戦は――


「キクラゲとエリンギのトッピングを……」


キノコ雲にインスパイアされた、儚げなオーダーだった。


梨々花は、「あんかけにしましょうか」 とキャベツとカマボコを取り出す。


まだリズはファイティングポーズを解いていない。


ならば、攻勢をかけるまでだ。


政臣は大声で注意を呼びかけた。


「ここも危ないかな……磁場の反応がおかしいね。

地下水脈への影響が思った以上かも。

離脱しよう」


艦のカメラが映し出すのは次々と吹き上がる熱泉。

地が割れ、めくり上がり、空は黒雲が覆う。


この世の終わりのような有様だ。


ここから地下都市までは五十キロ離れている。

さすがにそこまでは被害は及ばないだろうが。


しかし、いまは自分たちの身を心配するのが先だった。


艦は一気に速度を上げた。


上空から人の頭大の岩の塊が降り注ぐ。


それくらいでは戦艦の装甲は貫けないが。

カメラやセンサー類がやられてしまっては、身動きが取れなくなる恐れがある。


梨々花は中華鍋をふるいながら、骨魔法を展開。

背中に骨の腕を一本生やし、セトのウアスを握らせた。


魔術師の魔眼が黄金に輝く。

瞳の虹彩が緑に煌めいた。


艦の上空に風刃嵐を巻き起こし、不可視の防御壁を作り出す。


「雨、ところにより岩って……

とんでもないわね」


大型モニターの分割画面には、地表を厚い雲が覆う様子が映し出されていた。


この異常気象は、思わぬ僥倖。

監視衛星の目を逸らすことができるだろう。


キクラゲとエリンギを投入する。


水溶き片栗粉をかき混ぜる梨々花の目が、ぴくりと揺れた。


……キノコ、か。


そっとリズを見る。


「ねえ、リズさん。

素敵なキノコのフルコースいきましょうか。

機械にもぜひ味わっていただきたいわ」


儚げな期待の眼差し。


次の作戦は、新たなコンテンツ――


まだまだ、チャンネルは変えさせやしない。


梨々花は静かにホワイトマッシュルームを取り出し、アヒージョの準備を始めるのだった。


***


地下都市。


来奈が混鉄棍を振るう。


「ったく、こんなにいっぱい、どこにいたんだっつーの!!」


その相手は、地面の下から飛び出してくる機械たち。


ワームのような形状のものだ。

不意打ちで魔法使いを襲い、捕獲する厄介な兵器だ。


尋常な数ではない機械が湧き出してくる。


それでも、来奈と前鬼のコンビにとっては脅威ではない。


淡々と処理する前鬼だが、訝しげな表情。


「なんだろうな、いきなり」


なぜ、地上や空からではなく、地中からの総攻撃なのか。


「おい、ガキ!!」


来奈へ声を飛ばす。


「ガキじゃなくて来奈だって。なにー?」


「お前、中へ行け。なんかあるぞ!!」


ワームの一体を塵に還した来奈の眉が動いた。


返事代わりに、星の魔眼が輝く。


前鬼を残して、建物の中へと姿を消した。


前鬼はフンッと鼻を鳴らす。


「……うっとおしいミミズだな」


斧に魔力を漲らせる。


地面から飛び出す寸前のワームに、斬撃を浴びせる。


超高速のモグラ叩きが始まった。


「狙いは何だよ……

まあ、ろくでもねえことなんだろうけどな」


そして、大声で叫ぶ。


「おい、聞こえてんだろ!!

油断するなよ!!」


橘へと警告を飛ばした。


***


時間は少し戻る。


鈴原に案内されて施設内の一室に辿りついたティナたち。


その目に映るのは、半径一メートルほどの巨大な凸型レンズのようなもの。

それがアームによって天井と床に対して水平に固定されている。


天井付近の光源から照射されたレーザー光がレンズを通り、床に複雑な魔方陣を描いていた。


鈴原は簡潔に説明。


「この都市の電力で生み出した光源を超弦石――あのレンズに当てて魔法を駆動する。

魔法と科学のハイブリッドってやつかな」


ここは時空魔法によって生み出された巨大空間。

その魔法を維持するための装置。


電源は地熱発電。

機械に制圧された今でも稼働しているらしい。


魔界の魔法使いも科学の恩恵を受けていたのだ。

それが共存の道を辿れれば、また違った未来もあっただろうに。


ティナの心中に複雑な思いがよぎった。


そして。


「ねえ、超弦石って……

あんな巨大なもの、見たことも聞いたこともないんだけど」


手元の転移の指輪を見る。

これにも小さな透明な石が嵌っている。


時空魔法の効果を宿す魔法石だ。

極めて希少で、オリハルコンよりも高額で取引されている。


鈴原は端末を操作しながら、「そうか」と一言。


キーボードをカタカタと打ちながら、ポツリポツリと言葉を紡ぐ。


「ご先祖様が必死で採掘したお宝のひとつだ。

そいつを捨てようとしてるわけだが。

どこで間違えたんだろうな」


魔法使いの一族と、普通の人。

持てる者と、持たざる者。


すべての因果はここから始まっていた。


ティナは、軽く肩をすくめた。


「さあ……なんでだろ。

私は最初から持ってたわけじゃないから」


ガチャでランダム選出される自分たちとは違い、最初から特別な血族として生まれる魔界の魔法使い。


蓄財も、それを守ろうとする行為も、集団の利益を優先した結果なのだろう。


良いも悪いも、ティナには判断できなかった。


ただ、超常の力を持たない大多数とは、相容れなかった。


その結末が、この地下都市だった。


話題を変えるようにティナは声をかけた。


「……それで、いけそうなの?」


「意外とデリケートなんだ。

手順を飛ばすと暴走しかねない。

俺も初めてだからな」


都市が陥落寸前、最終決戦に備えて、仕組みはあらかたレクチャーを受けていたというが。

慎重になるのは仕方なかった。


じりじりと時間が過ぎていく。


だが、ここは待つしかないのだ。


そのとき、これまで黙っていた橘が呟いた。


「なんぞ来はりますな」


鬼蜘蛛の魔力糸に前鬼の声が乗ったのも同時。


そして、


「なに、この装置。怪しげじゃん!!」


嬉しそうな顔の来奈が到着したのも同時だった。


ティナは何か言いかけたが、思い直して来奈向けの説明をしてやる。


「超弦石……

滅多に出回らないレア中のレア鉱石よ。

こんな巨大なレンズに加工したものなんて、あんたの食費三億年分くらいの値段がつくんじゃない?」


その雑で盛りに盛った換算に、来奈の瞳が輝いた。


「ねえ、これ要らないなら貰っていいのかな!?」


――言うと思った。


ティナは黙ったまま、鈴原の作業完了を待つ。


来奈もワクワクしながら待つ。

頭の中では、アームのどこを壊せば効率よく回収できるか、もう計算が始まっていた。


「入江はん、お宝もよろしゅうおすけど。

なんぞ怪しいなあ」


足元がかすかに揺れた。

そんな気がした。


機械どもの殲滅作戦。

一つは、爆弾で都市を吹き飛ばすこと。


そしてもうひとつ――


それが魔法使いたちに忍び寄っていた。

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