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終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第09章

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第323話 爆弾都市

村正の能力で作り出した足場に乗り、暗い地下都市の空を飛ぶ。


地上からは機械兵の機銃掃射が浴びせかかるが、すべて無視。

構わずに全速力。


グレイスは、都市の中心へと向かうように指示を出してきた。

そこに爆弾があるのだろうか。


ティナたちがこの都市の切り離しに向かってから、五分は経過している。


もう時空魔法の停止を行なっているかもしれない。

だが、切り離しが完了する前に爆発すると、愚者の魔眼が教えてくれたのだ。


やるしかない。


しかし、少しだけ引っ掛かっていた。


「機械のやつら、やはり取っておきがあったとはな。

しかし、なぜすぐに起動しないんだろうな」


されてはたまらないのだが、平然と自爆するようなやつらだ。

命を惜しんでいるわけでもないだろうに。


グレイスは俺の疑問に「さあね」と、それだけ。


答えは分からない。

とにかく、でかいリスクとやらが最優先だ。


やがて見えてきたのはタワー。

鉄塔ではなく、飛行場の管制塔のような建物だ。


地下都市のため、さほど高くはない。

それでも、他の建物を見下ろすように立っている。


「あそこにあるのか……?」


爆弾の威力のほどは分からないが、相当なものだということは覚悟しなくてはならない。


タワーへ向かう俺たちに、機械兵の集中砲火が襲い来る。


すると俺とグレイスの周囲を浮遊していた水が広がり、防御結界として展開。


後鬼の魔法だ。


効かないとみた機械兵は武装を切り替えて、より強力な弾丸を撃ちまくるが、水の防御結界は微動だにしない。


魔界での初戦、ティナの式神・暁鶴の防御結界を削った弾丸すらも通さないとは。


なるほど、伝説の式神というだけのことはある。

由利衣の防御結界をも凌ぐかもしれない。


守りについては問題はなさそうだった。


肝心のターゲットだが……。


タワーに近づいていく。

上部に管制室と思われるガラス張りの部屋。

リスクがあるとすれば、そこなのだろう。


村正の残像の刃をガラスへ向かって飛ばす。

竜魔法ウィンドブレスを纏う斬撃が、ガラス壁を粉々に割った。


管制室から機械兵がこちらへ機銃を撃ってくるが、後鬼の防御結界に守られた俺たちは構わず突撃。


管制室になだれ込み、銃口を向ける機械兵たちを斬り伏せた。


ぐるりと室内を見渡す。


端末とモニターが並んでいて、その端末のひとつを機械兵の一体が操作していた。


操作といってもキーボードやスイッチ類を触っているわけではなく、手の先から伸ばした金属の棒のようなものを端末のコネクタに挿し込んでいる。


端末にアクセスしているのだろう。


そいつは、お仲間がぶった斬られてもいささかも動じずに淡々と任務をこなしていた。


敵ながら天晴なやつ――


などと思うはずもなく、頭から一刀両断。


俺は軽く息をついた。


「ここから起動する手筈だったんだろうな。

押さえてしまえば……」


だが、言葉の続きはグレイスの「まだ終わってないよ」の声に掻き消された。


ヴァジュラの先端がモニターに向けられる。


そこに映るのは、この都市の地図。

そして、三つのポイント。


ポイントの脇にはゲージが表示されていて、どんどん埋まっていく。


埋まりきったら何が起きるのか。

聞くまでもなかった。


「おい、機械倒しても止まらないじゃないか」


グレイスは、フンッと鼻から息を漏らす。


「もうプログラムが起動したんじゃないのかい?

……ただ、ここのリスクもまだ消えてないね」


そう言うと、「ここを出るよ!!」と大声で叫ぶ。


俺は慌ててモニターをスマホで撮影。


管制室を飛び出した。


すると、グレイスは、ゆらりと揺れる二本の尾にヴァジュラを握らせた。


ヴァジュラの刃先に放電の火花が走る。

タワーに向けてレーザーのように一直線に雷を撃ち出した。


崩れ落ちるタワー、遅れて響く轟音。

ついでに、タワーの周囲にいた機械兵たちも薙ぎ払っていた。


これがヴァジュラの能力か。


いや、神話伝承級なのだ。

まだこんなものじゃないだろう。


いずれにしても、使い手次第でここまで威力に差があるとは。

グレイスに憑依している気狐の有能さに、あらためて感心した。


そして、グレイスへと確認。


「それで、リスクは止まったのか?」


グレイスは「そうだね……」と頬を緩ませた。


だが、


「いや、別のリスク……三つ出てきたね」


あの爆弾の起動は、やはり止まらないのだろうか。


しかし、一度リスクは消失したのだ。

考えられるのは、遠隔ではなく直接起動。


だとすると、まだ猶予はある。


俺はスマホの画面をグレイスに突き出した。


「この中で、どれが一番ヤバいんだ?」


グレイスは一点を指差す。


よりによって、都市の一番奥とはな。


思わず舌打ちが出た。


今の音声は、政臣に編集してもらわなくてはならない。


こんなときに、視聴者さんへの心証を気にしていた。

今はスマートグラスのカメラで撮影中なのだ。


「飛んで向かっても間に合うか……

いや、その後の脱出の時間を考えるとな」


暗い空を見上げる。


爆弾は処理しなくてはならない。

教え子と仲間を救うのだ。


そして俺は……。


軽く頭をかく。

短い間だが、冒険者として再起できたのだ。

それだけで上等だろう。


そんな覚悟を決め、グレイスへ振り向いた。


「なあお嬢、お前は――」


しかし、いない。


グレイスの「おっ!!」と嬉しそうな声が聞こえる。

ふと下を見ると、地上にいた。


そして俺の目に映るのは、小型のガチャ機。

リスクを乗り越えた、愚者の魔眼へ精霊からの報酬。


『Now, it’s gacha time. Pull a great one!』


響き渡る精霊サウンドエフェクト。

この魔界でも健在なのか。


俺も降りていくと、グレイスはハンドルを勢い良く回した。


出てきたのは、白いカプセル。


『Fool――No.4 Tiger Form』


狐耳のフライトキャップが召喚獣のフェレットに戻り、次に昆虫の羽根へと変化。


白地にメタリックブルー、メタリックグリーン、メタリックレッドをあしらった色鮮やかな強化服とマスクがグレイスの全身を包み、光を放った。


スマートグラスの暗視映像がハレーションを起こし、慌ててモードを切り替える。


俺の様子に構わず、ノリノリのグレイス。


「精霊もなかなかいいチョイスじゃないか!!」


この派手なスーツの、どこがいいというのだろうか。


「おい……なんだその色は。

どこがタイガーなんだ?」


グレイスは、やれやれといった調子で答えた。


「おじさんのくせにモノを知らないねえ。

タイガービートル、ハンミョウだよ」


何だそれは。


――とは言わない。


「へえ、そっちか」


曖昧な言葉を発すると、グレイスは「それじゃ、私につかまりな」と背を向けてきた。


「……何がだ」


じれったそうに言葉を荒げる大女。


「時間がないんだよ。早くおぶさりな、走るから」


俺が、こいつに?


歴戦の女海賊のような見た目だが、まだ十八歳。

うちの教え子と同い年なのだ。


躊躇するおじさん。


すると、


「気狐!!」


グレイスが叫ぶと、二本の尾が俺に巻きついた。


そして、持ち上げられる。


「行くよ!!」


言うやいなや、ドンッと地を踏みしめて夜の都市を疾走。


グンッと引っ張られ、みぞおちのあたりがフワッと浮く。


そのまま一瞬で数百メートル駆け抜けたかと思うと――


突如急ブレーキ。


グレイスは屈み込み、俺は遠心力でグレイスの上を通過して前方へと投げ出される。

かろうじて尾が地面に激突しないように引き留めてくれた。


「おいっ!!」


強めのクレームを入れると、「仕方ないだろう」とボヤく。

何がどう仕方ないのか、まったく分からない。


グレイスは投げやりに説明。


「このフォームの速度は時速七百キロメートル。

けど、周りの景色が分からなくなるから、時々止まって確認しなきゃいけないのさ」


つまりは、脳の画像処理が追いつかないのだという。


――使えないじゃないか。


そう喉まで出かかったが、グレイスはナイスアイデアを展開してきた。


「ただ、リスクに向かって一直線なら、構わず突っ走れるねえ」


そう言って方向転換。


俺の目の前には……。


「おい、一直線って。ビルがあるじゃないか」


そんな素朴な疑問を飛ばす俺の右手に、グレイスはヴァジュラを握らせてきた。


「魔力を集中するんだよ」


その一言で、こいつの雑な考えは全て伝わった。


俺の体は気狐の尾で簀巻きにされ、グレイスの頭の上で水平滑空スタイル。


おじさんがヴァジュラで障害物を排除。

グレイスは、リスクに向かってまっしぐら。


完璧なプランだ。


「なあ……」


「行くよ!!」


――本気だ。


俺はとっさにヴァジュラの刃先に魔力を集中。


雷がレーザーのように射出され、ビルに大穴を開けた。


時速七百キロで走り出す戦闘民族。


ジェット旅客機のボディにくくりつけられている状態を想像して欲しい。

つまり、そういうことだった。


厳しいのはそれだけじゃない。


このヴァジュラ。

一撃放つたびに、魔力をかなり持っていかれる。


使い慣れた村正とは違い、初めて触った武器なのだ。

制御が難しい。


しかし、幸いなことに後鬼が付けてくれた水が俺に随時魔力を供給してくれていた。


これが無ければ、一発撃ってから次弾の装填まで時間がかかり、ビルに激突していただろう。


全てが綱渡りのぶっつけ本番だった。


「おい、イカれまくってやがるな!!」


そう叫ぶと、グレイスは愉しそうに笑う。

俺も思わずハイになってきた。


ゲラゲラ笑いながら雷のレーザーを撃ち出し、超高速で地下都市を一直線に駆け抜ける魔法使いたち。


なんともシュールな絵面。


だが、こんなアホな冒険は初めてだ。


俺は頭の中が真っ白になり、雷でビルを吹き飛ばすマシーンと化す。


そんなトリガーハッピーなおじさんに、グレイスの声。


「そろそろ着くよ!!」


まだ数分も経っていない。

なんともデタラメな移動だった。


そして、重要なことがある。


「おい、どうやって爆弾処理するんだ?」


聞いてはみたものの、こいつが答えを持ち合わせているとは思えなかった。


そして、雷を浴びせても大丈夫なのか。


「ヴァジュラはやめとくんだね」


返ってきたのは、それだけ。


ならば。


「おい、到着寸前で俺を解放して飛ばすんだ」


言い終わると同時に、体を縛っていた尾にぶん投げられた。


慣性のまま、高速で自由飛行になる。


一言くらい予告が欲しかった。


だが――


ヴァジュラを左手に持ち変え、右手に村正。


魔力を高めると、村正は砕け散る。


そして、再生した姿はドラゴンスレイヤー。


ショッキングピンクに輝く刀身が、闇の地下都市に光の帯を描きながら飛ぶ。


目に飛び込んできたのは、モニターの淡い光に照らされた機械兵。

その傍らには、爆弾と思われる黒い塊。


そいつに向かって、超重力の魔法を帯びた斬撃を飛ばした。


爆弾が炸裂し、機械兵が粉々に吹き飛ぶ。


爆発のエネルギーが波のように広がる。

だが、その全ては黒の重力場へ飲み込まれていった。


まさに、間一髪のタイミングだ。


そして俺も重力場へと向かって飛ぶ。


焦る俺に気狐の尾が巻き付き、すんでのところで引き戻された。


グレイスは、グンッと方向転換。


常人なら内臓破裂からの背骨が折れているところだ。

しかし防御ステータスを跳ね上げ、オリハルコン繊維の上着に魔力を通している。

加えて後鬼の護りと癒しが効果を発揮し、命を繋いでいた。


文句を言おうとした俺を、大声がねじ伏せた。


「おじさん、いいのがあるじゃないか!!

次行くよ!!」


そして俺は、再び雷を放つ砲台となる。


地下都市に、魔法使いたちのハイな笑いが響き渡るのだった。


***


デスクトップPCのモニターを見つめる政臣が、微かな震えを帯びた声を放った。


「ポンペイウス沈黙。

正体不明の重力場を観測……爆弾は消滅。

佐伯さんだよ、きっと」


梨々花は、さらりと黒髪をかき上げた。


「先生ならやってくれると思っていたわ。

みんなも戦っている、私たちは神の杖を何とかするわよ」


政臣はその言葉に頷くが、懸念はまだ残っていた。


「ただ、クラッススの作戦は継続……

“都市の消滅”って、何だろう。

爆弾以外にも何か仕掛けるつもりなのかな?」


暫定リーダー二体のうちの一体は、まだ健在だった。


気になるが、詳しい情報はない。

あったとしても、連絡が取れない以上はどうしようもなかった。


仲間が切り抜けるのを信じるしかない。


それよりもだ――


梨々花は、特大どんぶりに山と盛ったラーメンの上にチャーシュー、パイコー、バター、コーンを積み上げていく。


カロリーを育てながら、政臣へと次々と指示を飛ばす。


「高柳くん、失敗は許されないわよ」


監視衛星がこちらの頭上にないタイミングを図り、速やかに神の杖を持つ衛星を屠るのだ。


監視衛星はひとつではない。

しかし交代の隙間時間、ブラインドスポットはある。


そいつを突く。


梨々花は特大どんぶりの上から背脂を乗せたザルを振るう。


完成した三大栄養素の塊を、リズの前にドンと置いた。


「それじゃあ、いきますか。神をペテンにかけるのよ」


リズは小さく頷いた。

儚げな啜りとともに、世界樹の魔力が満ちていく。


女帝の魔眼の黄金の輝きが、室内を煌々と照らした。


リズは左手をスッと調理場に設置された巨大モニターへ向かって差し出す。

そこに映るものへと、裁きを下すように。


いま、カロリーの爆弾が炸裂しようとしていた。

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