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終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第09章

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第319話 剛腕

三人は強いライトの光に目を眩ませた。


屋上から降下してきたのは、機械兵およそ五体。

いや、それだけではない。


ビルの外には、ヘリのような大型ドローンも浮かんでいた。


機械兵たちは特殊部隊の突入のように、機銃をこちらに向けていた。


とっさに矢を構える山本先生。


そこに、ティナの声。


「いいわよ、こいつらの相手は私。

暁鶴、映えるのお願いね」


カメラを構え、コクコクと頷く暁鶴。


橘は、冷静に声をかけた。


「お任せしても、よろしゅうおすの?

鬼蜘蛛で……」


「必要ないから。そっちは式神なんとかしなさいよね」


ティナは金蛟剪をマジックバッグにしまうと、左手をすっと突きだした。


「そんなとこにぶら下って……

遊んでくれって言ってるようなものじゃない」


勢いをつけて窓ガラスを蹴破ろうとした機械兵が、見えない力に大きく弾き飛ばされた。


そして、数体が空中で吸い寄せられるようにくっつく。


ティナの楽しげな声が響いた。


「魔法の研究かぁー。

熱心じゃない。こういうのも課題にしとくべきね」


審判の能力のひとつ、磁気操作。


左手をくるりと回すと、機械兵も回転。

撃ち出された弾丸が味方を巻き込んでいく。


左手をぐんと突き上げると、機械兵たちは宙へ跳ね上がる。

手を下げると、大きく振り子のように振れた。


銃弾が飛行ドローンに浴びせかかり、爆発した。


「さすが機械ね、三半規管が強いじゃない!!」


煽りながら上下左右に振る。


その様子を横目で見る橘。


石化解除の術具を手のひらに乗せると、ふわりと浮いた。

鬼蜘蛛の魔力糸だ。


そして、石像の腕にはめた。


山本先生の緊張が高まる。


本当に大丈夫?

やっぱり、もしものときに備えておいたほうが――


「大丈夫どす。それより、お薬の用意よろしゅうに」


橘に促され、山本先生は由利衣の調合した薬を取り出した。


石化が解けていく。


膨大な魔力の奔流に、山本先生の背筋が粟立った。


だが、一方の橘の魔力も高まる。


鬼蜘蛛の糸が目の前の式神に絡みつき、橘の魔力が流し込まれる。


「山本はんは仕方ありまへんけど……

ティナはんは、いつまでも素人は困りますなあ」


その言葉に、楽しそうに機械を弄んでいたティナの眉が寄る。


橘は、構わずに続けた。


「式神を従わせるには、まずは交渉と力比べなんよう。

ふさわしい力量かどうかを見せていかはらんと……」


石化の解けた式神に呼応するように、橘の魔力がさらに高まっていく。


山本先生の手にある薬液の瓶が、魔力糸に取り上げられた。


「でもまあ、まずはこれがないと話になりまへん」


そう言うと、式神の口が開いた。

いや、強制的に開かされたのだ。


「うちの鬼蜘蛛も、なかなかのもんですやろ?

ご先祖様が大切に育ててきはりましたからなあ……」


橘家に一番古くから仕える式神。

式神術の始祖、橘 香流子の遺産。


遥か昔から、歴代の魔法使いたちの魔力を受けて力を増してきた存在だ。


レイドで大幅に力を失ったが、本家には溜め込んだ魔力がまだまだある。

この魔界行きに際しては、万全の状態で挑んでいた。


ハワイアンブルーの薬液の入った瓶が、石化が解けた式神の口に運ばれていく。

強制的に流し込まれた。


橘の細い目尻が下がった。


「けったいな……んんっ、個性的なお薬やねえ。

赤い粒が情熱的やわあ」


――モンスターの魂の呪術に打ち勝つ薬。

そんな発想は思いもよらなかった。


最悪、戦って屈服させることも覚悟していたのだ。

ここまでお膳立てされて、失敗しては式神使いの名折れだ。


「さて、魔界の式神はんはどないな感じでっしゃろうなあ。

うちにお名前教えて欲しいわあ」


橘は鬼蜘蛛の魔力糸を通して相手の魔力を探る。


まずは名前を知る。

そこから魂の契約が始まるのだ。


そうしている間にも、ビルの外では応援部隊が押し寄せていた。

強力な式神の解放に、スクランブルがかかっていたのだ。


ティナの目の前で、機銃を乱射する機械兵が落下していった。

屋上でワイヤーが切られたのだろう。


ティナは軽く舌打ちし、橘へと振り向いた。


「ねえ、まだ時間かかりそう――」


その目に映ったのは。


鬼蜘蛛の拘束を引きちぎる式神。

額の一本角に魔力が集中し、雄たけびを上げる。


「これは、これは……

うちの想像以上どすなあ、さすが本場ですわ」


ティナのこめかみに汗が落ちた。


……いやいや、だめじゃん。


山本先生は素早くスカジを手にし、矢に竜魔法を纏わせる。

貫通属性とウインドブレスの乗った一撃が式神を襲った。


だが、矢が届く前に式神の姿が消えていた。


山本先生の目の前には一本角の異形の式神。

瞬きはしていない。

それでも、目で追えなかった。


式神の腕が振るわれる。

だが、空を切った。


ティナが転移の指輪で山本先生の背後に瞬間移動し、思いっきりジャージの襟を引いたのだ。


そのまま、二人で橘の側に転移する。


ティナは橘の手を取って叫んだ。


「逃げるよ!!」


三人まとめてビルの外に転移。

自由落下が始まる前に、さらに別のビルの屋上に移った。


周りには飛行ドローン。

眼下には機械兵の群れ。


ティナはパーフェクトスマイルを忘れ、文句を飛ばした。


「あのね。あれだけ余裕ぶってたら、いけると思うじゃん普通。

なにあっさり力負けしてんのよ」


だが、橘は涼しい顔。


「まだ勝負はここからなんよう。

あともう少しで、お名前聞けるところやったんやけどねえ」


山本先生は、苦笑い。


「ティナさん、助かりました。

入江さんよりも速い相手は初めてです……」


星の魔眼のトップスピードを凌駕していた。

体がまったく反応できなかったのだ。


しかし、同時に違和感も感じていた。


「でも、一瞬ためらいがあったと思いますよ。

じゃなかったら、今頃……」


そう言ってから、ようやく震えがこみ上げてきた。


ティナはその言葉に思案を巡らせる。


「隙があったってことなら、薬は効き始めてるのかもしれないわね」


そして、空中の暁鶴を見る。

一緒にここまで移動していたのだ。


カメラにスマイルを飛ばす。


「やーね、こんなので終わりのわけないじゃない。

ちょーっとピンチの演出、スパイスよ」


そうは言ったものの。


ここまで来て強力な式神をゲットならずでは、コンテンツにならない。

なによりも、自分自身にとって悲願なのだ。


今自分に従ってくれているのは、暁鶴に宵鴉に餓鬼王の三体。

強力ではあるが、もう一押しも二押しも欲しい。


日本SSRたちは神話伝承級武具を手に入れた。

ここからが本番、さらに高難易度なステージに挑んでいく。


審判は、あいつらに投資はしているけど。

後れを取るわけにはいかない。


仲間ではあるが、同時にライバル。

SSRとして、常に格上でいたかった。


「一度の失敗で終われないわよ……」


ティナの呟きに、「これからなんよう」と返す橘。


そのやり取りの中。


それまで三人がいたビルに、飛行ドローンからミサイルが撃ち込まれた。


一発では終わらない。たちまち崩壊していく。


式神も脅威ではあるが、この機械たち。

やると判断したら、いささかもためらいがない。


圧倒的な火器と物量と戦術で制圧。


あの式神も、それで陥落したのだ。

いくら強くても、衝動のままに突き進むだけでは勝てない。


そう、力だけでは足りないのだ。


機械どもは、三人はひとまず後回し。

脅威のレベルが高い式神の対処にあたっていた。


崩れ落ちるビルにさらに猛追をかける飛行ドローン。


ありったけの火力を投入していく。


ミサイルも機銃掃射も最大限。

一切の妥協がない。


攻撃を受け続け、瓦礫の山と化したビルの残骸。


その山のてっぺんに、小柄な式神が立っていた。


機械兵が取り囲んでいく。


ミスリルのブレードが腕から展開。


号令もなく、一糸乱れぬ動きで式神へと360°から刃を浴びせかかる。


次々と式神に突き刺さる。

そして、自爆を開始。


ティナたちからは、爆炎で何も見えなくなった。


さらにミサイルが撃ち込まれ、機械兵がなだれ込む。


「やりたい放題じゃないの。このままじゃ酸欠ね」


ティナは左手を差し出した。


眼下の炎がバチバチと帯電を始める。

やがて火花が回転、たちまち竜巻と化した。


地下都市を揺るがす重低音が響く。

遠心力によって中心部の空気が吹き飛び、極端な低圧域が生まれた。


炎がどんどん小さくなる。


ティナは空気を強制的にプラズマ化し、残りの酸素を一気に消費させた。


鮮やかな紫の光がスパーク。

眩しさに目を細める三人。


そこに、空気を切り裂く音が聞こえた。


飛行ドローンの一体が、下から高速で打ち出された何かに貫かれ墜落していく。


下を見ると、式神が機械兵の頭を掴み、強引に引きちぎった。


からの全力投球。


機械兵の頭をちぎっては投げ、ちぎっては投げ。

砲弾代わりにしていた。


橘が、ほう……とため息を漏らした。


「たいそうな怪力でおすなあ。欲しいわあ」


ティナがすかさず横槍を入れる。


「あれ、私も狙ってるんだけど。

あんたは前鬼と後鬼ってやつでいいんでしょ?」


まだ従えてもいないのに、早くも取り合いを始める式神使いたち。


橘の目尻がぴくりと動いた。


「あの式神、なんぞ言うてはりますなあ」


鬼蜘蛛の魔力糸を広げる。

暴れ回る式神の声を拾った。


「おい、くず鉄。俺のハニーはどうした」


ハニー?


三人は顔を見合わせる。


そして、橘は目尻を緩めた。


「ティナはん……

パートナーシップの交渉、開始ですわ」


魔力糸を通して式神へと声をかけた。


「そこの式神はん。

うち、そのハニーとやらに心あたりがあるんよう」


由利衣の索敵によれば、この都市にはもうひとつ大きな魔力反応があった。

あれのことだろうと、橘には見当がついていた。


しかし。


「でも、機械が向かってはりますなあ。

どこぞに運ばれたら、厄介どす。

これは、大変……大ピンチでおす」


含み笑いを押し殺して話を続ける。


式神の声が鼓膜を震わせた。


「その声、さっきの。変なもの飲ませやがって。

お前も魔法使いか?」


「変なものとは、ずいぶんやわあ。

おかげで正気に戻れたんですやろ?」


式神は沈黙。


その間も機械兵の頭をちぎり、空に投げていた。


次々と飛行ドローンを片付けていく。


橘は鬼蜘蛛の魔力糸を張り、撃墜された飛行ドローンを空中で絡め取る。

地上に激突して炎上させないためだ。


魔力糸を操りながら、交渉も続ける。


「そのハニーのおるところ、教えてあげてもええんよ?」


「要らん。自分で探す。

タダより高いものはないからな」


きっぱりと拒否。


ティナはボソボソと橘へと声をかけた。


「ねえ、交渉もダメじゃん。どうすんのよ」


橘はティナをちらりと横目で見る。


細い瞼の奥の瞳。

いささかも動じていなかった。


黙って任せろ。


その無言の圧に、ティナの口は自然に閉じた。


橘は続ける。


「確かに、タダより高いもんはおまへんなあ。

さっきのお薬も、別にタダやないんやけど……

まあ、それはうちらが勝手にやったことやからええですわ」


間を置かずに、畳みかけた。


「けど、考えてみなはれ。

ハニーを探しあてても、石化してはりますやろ。

それが解けても、お薬なかったら狂うたままですわなあ」


そして、ダメ押しの一言。


「うちと取り引きしてくれたら、ハニーと感動の再会できるんやけどなあ。

……どないしはります?」


橘の言葉が終わると同時に、風切音が迫ってきた。

機械兵の体を投げてきたのだ。


鬼蜘蛛の糸の結界を何重にも張る。


魔力糸を絡ませながら、高速で飛んでくる。

ティナが磁力で弾こうと左手を伸ばした。


「手出し無用どす」


ティナは伸ばしかけた左手を止めた。


機械兵は、激突寸前で鬼蜘蛛の糸の結界に阻まれた。


ちっ、と舌打ちの声。


「たいした魔法使いだな。取り引きってのは、何だ?」


「その前に、お名前教えて欲しいわあ。

うちは、橘 志津香と申します」


式神は、フンッと鼻を鳴らした。


「人間だった頃は……いや、今は前鬼か。

それが俺の名だ」


ティナの肩がぴくりと動いた。


橘の横顔を見る。


ゆっくりこちらに振り向くと、はんなりとした笑顔を向けてきた。


「いえーい、うちの式神ゲットどすえ」


ティナは思いっきり顔を引きつらせる。


「……………………やったじゃん」


それだけ絞り出すのがやっとだった。


***


美柑は息を上げながら化血神刀を振るう。


機械兵の銃弾は、村正の残像の刃がすべて防いでいた。


へろへろになりながら、それでも魔力集中だけは切らさずに刃を当てていく。


切断しなくてもいい。

ボディにかすり傷でも与えれば相手は沈黙する。


そんな超激甘イージーモードだが、それでも今の美柑には厳しいのだ。


「どうした、美柑。下がるか?」


声をかけると、「まだまだ……」と荒い息とともに声が返ってきた。


なかなか根性見せるじゃないか。


村正の刃に魔力を込めて、ウィンドブレスとアクアブレスを射出。


機械兵をまとめて切断した。


「師範は……疲れてないんですか?」


お疲れに決まっているだろう。

しかし、おくびにも出さない。


「美柑よりも若いからさ。

あと三日はいけるんじゃないかな」


妙な見栄を張ると、「はー」と感心の声が上がった。


それよりも。


「粘った甲斐はあったな。

ようやく追いついてきたようだ」


魔力反応が近づいて来た。


後方から魔法の風が舞い上がり、機械が飛ばされていく。


目に映るのは、二体の式神。


身長は二メートルほど。

頭は後頭部が長く、目は感情がよくわからない無機質な色。

体毛が一切なく、ツルリとした磁器のような白い肌。


この魔力は……R魔法使いの式神か。


五メートル近い昆虫型の怪物だった頃とは打って変わり、ずいぶんスタイリッシュな宇宙人のような姿になったものだ。


N魔法使いもそうだったが、呪いに打ち勝つとより人の姿に近くなるのだろう。


その後ろから、能天気な声が響いた。


「おー、教官と美柑!!」


来奈だ。


混鉄棍を振るい、機械を破壊しながら近づいてきた。


その元気そうな姿を見て頬がゆるみかけたが、すぐに血の気が引いた。


「おい、入江。どうしたんだ」


シャツが血まみれ。

笑顔で金棒を振るう姿が怖い。


来奈は俺の表情に気づき、なぜか照れ笑い。


「いやー、ちょっとだけ死にかけたんだけど。

弁当食べたからもう大丈夫だし。

でもさ教官、あたしに効くカロリー持ってない?」


意味がさっぱりわからない。


そこに、狐耳のフライトキャップを被ったグレイスがひらりと宙から舞い降りた。


「おい来奈、一人で突っ込んでないで由利衣を待てっての」


そう言いながら、ヴァジュラを振るう。

雷槍の刃先が赤い熱を帯び、機械兵のボディを溶かしながら突き刺さった。


気狐が勝手にグレイスの口を動かした。


「お前、さっきよりはマシだけど、まだまだですー」


「うるさいね。だんだんコツを掴んできたよ」


その格好も謎だが、言ってることも分からない。

勝手に突っ込むのは、いつもお前だろうに。


そしてヴァジュラの扱い。


魔力を無駄に放出せずに集中。

戦い方も洗練されてきている。


この短時間で何があったというのか。


わからない。

しかし、頼もしい援軍だった。


そして、来奈がいるなら次の段階にも進める。


俺は美柑に声をかけた。


「入江を中に案内してくれ。

あの式神たちの拘束を解いてやるんだ」


来奈には一言だけ。


「中に入れば分かる。

お前にしかできないことだ、頼んだぞ」


あの式神を拘束している杭は、村正でも切断は難しい。


しかし、混鉄棍なら。


来奈は嬉しそうに頷くと、美柑とともに中に飛び込んでいった。


そこにグレイスの声が響く。


「由利衣、大丈夫か。無理するんじゃないよ!!」


二体の式神に、由利衣とセロの護衛につくよう指示を与えた。


俺は村正を振るいながら言葉をかける。


「お嬢、なんか変なもんでも食ったのか?

何だそのキャラ変は」


そしてピンと来た。


「お前、もしかして狸の変化か? 偽物だな」


グレイスは嫌な顔を作った。


「別に何も変わってないよ。私は私だ」


そして、小さくボソボソと言う。


「リスクは私だけでいいんだよ。

仲間は守んないとな……」


俺が「何だって?」と聞き返すと、グレイスは急に大声を出した。


「何でもないよ。こっから先は、おじさんが面倒見な。

好きにやらせてもらうよ」


機械兵に突撃していった。


来奈といい、向こうで何があったのか気になるところだが。


これで、ようやく攻略の道筋が見えてきた。


少しだけ安堵の息を吐く。


そう、この時は安心していたのだ。

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