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終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第09章

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第316話 師のくれたもの

グレイスの体から揺らめく青白い炎。

それが二本の尾を形づくる。


「で、これをどうするんだい?」


「その前に、もうひとつです」


気狐はそう言うと、グレイスの肩のフェレットにも取り憑いた。


召喚の魔力で形作られたフェレットは、狐耳付きのフライトキャップへと姿を変える。


二股の尾を持つ狐戦士が、闇の地下都市に燦然と立った。


「だから、ここからどうなるんだい」


「お前さっきから急かすんじゃないですー」


狐耳がピクリと動いた。

グレイスの眉が寄る。


――何だ?


風の唸る音。

続けて襲い来るアーム。


アームがグレイスのいた空間を抉ったとき、その姿はすでに無かった。


口が勝手に動く。


「お前、その眼鏡、もう要らないですよ」


スマートグラスを外し、チョークバッグにねじ込む。


暗視映像に頼らなくても、裸眼で暗闇の景色をはっきりと捉えていた。


まずは巨大ロボの注意を由利衣たちから逸らすことだ。


巨大な拳を躱すと同時に、すり抜けざまにアームへ取り付く。

左手の鋭い爪を引っ掛けてアームの上に乗る。


そこにドリルが襲い来る。


激突スレスレでジャンプし、それも難なく躱して別のアームに飛び乗る。


そうして、三本のアームをひらりひらりと移動していく。


驚異的な聴覚と暗視。

身軽な跳躍力。それが狐の能力。


愚者の魔眼が輝く。

リスクを……いま、この戦いだけは避ける。


気狐の先読みの占術と合わせ、相手の先の先の先を読む。


相手が動き出したときには、もうグレイスはいない。

巨大な拳もドリルも、かすりもしなかった。


アームの間を飛び回りながら、ヴァジュラを撃ち付ける。


「なかなかじゃないか、狐の能力も。

でも、決め手がないねえ」


気狐が口を動かし、小さなため息。


「お前……そんな立派な槍持っといて、勿体ないやつです」


二本の尾が揺らめきながら伸び、雷槍に巻き付く。

グレイスの手から奪い取った。


「おい、何すんだい」


「手本を見せてやるですよ。ありがたく思えです」


グレイスは軽く舌打ちすると、左右の手の爪に魔力を纏わせた。


グラップルが迫る。

同時に機銃が弾丸を浴びせかけてきた。


狐耳が動き、銃弾の軌道を割り出す。

最小限の動きで銃弾を弾く。


グラップルの爪が開き、グレイスを拘束にかかる。


――こんなスットロイ動き。


躱そうとしたグレイスの口が動いた。


「いいから、見てるです」


ヴァジュラを握る二本の尾の魔力が高まっていく。

その魔力は刃先に集中。


パリパリと火花が爆ぜる。

しかし、雷は出ない。


「ぶっ放すだけが能じゃないですよ。

けど、お前はぶっ放しも三流ですー」


「何だと!?」と思う間もなく、尾が槍を振るう。


刃は赤熱の光を放ち、やがて青白い超高熱を帯びた。

敵機械の巨大な爪とヴァジュラがかち合う。


ミスリル製の爪は瞬時に蒸発。

刃は熱したナイフでバターを切るように、易々とミスリルを溶かしながらグラップルを切断。


その勢いでアームをバスバスと輪切りにしていく。


「おい……ミスリル無くなったら来奈が怒るだろ」


つい文句を言って、しまったと思う。

気狐が楽しそうに口を動かした。


「お前、いつの間に星の魔眼に懐いたですかー」


思わず口元が歪んだ。


生まれた家も、身分も、すべてが窮屈だった。


気付けば一族の中でも浮いた存在。

執事のアミルだけが子供の頃からいてくれた。


魔法使いになって、ダンジョンで羽ばたきたい。

誰にも口を出させない。


お宝なんていらない。自由だけが欲しかった。


けれど。


自由も、冒険も、お宝も、映えも。

全部欲しいと目を輝かせる、屈託のない星の光。

その眩しさに、いつの間にか――


なんてことが真顔で言えるわけないだろう。


グレイスは「フンッ」と鼻で笑う。


「懐いてるのはあいつの方だ。

ピンチはなんとかしてやる、お宝も残してやらないとな」


尾がヴァジュラを振るうたびにアームが溶け落ちる。

残りはあと一本。


気狐が口を動かした。


「それじゃあ、残しといてやるです。

ぶっ放しの手本、よく見ておくですよ」


魔力が再び高まる。


「お前、まずは魔力を槍に集中させること。

散らかりすぎ……性能の半分も出せずに泣いてるです」


刃先に雷が収束していく。

パリパリと激しい火花が散る。


尾の魔力が膨れ上がり、収束した雷を一気に押し出す。


レーザー砲のような雷が、機械の体を穿った。

大穴が空き、崩れ落ちる巨大ロボ。


「お前、これで分かったら、これからは師匠として――」


「お前、やるじゃないか!! さすが手下だね!!」


グレイスの大声がねじ伏せた。


気狐はそれ以上何も言わずに黙り込むのだった。


***


由利衣は回復魔法をかけ続ける。


セロはアドラメレクに問いかけた。


「なあ、おじさん。人間じゃないよな。式神……?

とんでもなく強いってことだけはわかるけど」


アドラメレクは腕組みしたまま来奈と由利衣を見下ろす。


「まあ、俺のことはどうでもいい。

どうだ? 特別サービス、お前だけでも逃がしてやらなくもないぞ。

そのかわり、こいつらは置き去りだがな」


セロは、少しだけ視線を落とした。


「なあ、逃げてどうなるんだ?

俺、ずっと地下でさ……ここに来るまでに上の世界が機械だらけなの、見たぞ。

どうせ逃げたって助からないんだろ?」


アドラメレクは肩を震わせて笑う。

ずいっと顔をセロに近づけた。


「分かってんじゃねえか。

けどよ、ちっとばかしでも命を先延ばしにしたい。

そんな連中を飽きるほど見てきたぜ。

おまえ、ガキのくせに可愛くねえな」


セロは視線を落としたまま小さく息を吐く。

アドラメレクに背を向けて来奈の髪を撫でた。


「俺、仲間ができたからさ。一人で死なないなら、先延ばししなくていい。

……ありがと」


由利衣は、額に汗を浮かべながら小さく微笑んだ。


回復魔法を休みなく展開。

防衛ラインの防御結界を維持。

機械兵はスケルトンとゾンビが対応。


全てが由利衣にのしかかっていた。


……まだ、たぶん大丈夫。たぶん……。


でも、このままじゃ。


そこに、轟音が響く。


振り向くと、ヴァジュラから放たれた雷に、巨大ロボが崩れ落ちていた。


「グレイス……」


思わず顔がぐしゃぐしゃになる。


「おい、由利衣!!

ゾンビどもを引っ込めろ。機械は私と手下が何とかしてやるから」


グレイスが叫ぶ。

続けて気狐のクレームが飛んだ。


「お前、初回サービスって言ったですよ?」


「どこまでが初回かなんて聞いてないよ。

いいから行くよ」


そして、由利衣へと言葉をかけた。


「なあ、来奈のこと頼むよ。

お宝もあるから。

あいつ、目が覚めたらウハウハじゃん!!って笑う……だろ?」


お互いに、小さく微笑む。


グレイスは「ああ、そうだ」と思い出し、拘束された式神を見る。


「人手は多いほうがいいね。

呪い解除の薬、よこしな」


由利衣は小さく頷くと、バッグから薬液の入った瓶を二つ取り出した。


グレイスはそれを受け取ると、ヴァジュラを握る二本の尾を、式神を拘束している重機へと振るった。


雷がボディをまっすぐに貫き、重機は沈黙。


式神が悶えながら拘束を解き始めた。


だが、グレイスの方が圧倒的に早い。

式神がグラップルの爪を抜ける前に、その眼前に迫っていた。


体高はおよそ五メートル。

虫のような六本の節足。

目と鼻の位置には窪みがあるだけ。


大きな顎がバクッと開く。

その瞬間を見逃さず、グレイスはハワイアンブルーの液体を口内へ流し込む。


流れるような手際で、二体とも処置を終えた。


由利衣は、回復魔法をかけながら固唾を飲んで見守る。


異形が獰猛な唸りを上げる。

そこにグレイスが、ぴしゃりと言い放った。


「おいっ、お前ら。機械倒すんだろ?

手を貸してやるから、そっちも協力しな」


式神の一体が、脚を振り上げてグレイスに迫る。


愚者の魔眼が輝く。

リスクは……。


脚の先端が、グレイスの頭の手前で止まった。

顎をガチャガチャと噛み合わせる。


「なんだい、根性出して呪いに勝つんだね。

協力するのかい? しないのかい?」


式神は、六本脚を激しく地面に叩きつける。

ガサガサと数歩走ったあと、グレイスへ振り返った。


グレイスはスマートグラスを装着し、索敵レーダーを起動した。


「よし、戦いは連携だよ。私についてきな」


そう言うと、二体の式神を引き連れて駆ける。


気狐の「お前がそれを言うですかー」の声が由利衣の耳に遠く聞こえた。


スケルトンとゾンビを呼吸の書に戻す。

軽く息を整えた。


来奈の右半身に回復魔法を集中。


「世界樹……力を貸して」


悪魔の国チャレンジで重傷を負った来奈に、リズが投与した竜の血。


実際のところは、竜の血の効果は限定的で、傷を癒したのはブレンドした世界樹の力だという。


回復魔法をかけ続ける。

ほんの小さな効果。


けれど、来奈の体内には世界樹の大いなる力が眠っている。


届くまで、魔法をかけ続けるのだ。


由利衣は小さく呼びかけた。


「世界樹……イシェド。

お師様は、あなたの謎を知りたいって……わたしも。

きっと、攻略してみせる」


由利衣の手のひらから暖かい光が漏れ、来奈に染み込んでいく。


「でも、あんなにボロボロに喰い荒らされて……

お師さま、一生懸命お世話してるんだから。

……ねえ、取り引きしない? ビジネス」


腕組みして見ていたアドラメレクが、ピクリと肩を震わせた。


由利衣は続ける。


「梨々花が持ってる世界樹の杖。

倒したモンスターの魔力を世界樹に送るんだよね。

最近、梨々花は全然使ってないから……

黒澤死霊兵団(レギオン)がガンガン使って、ガンガン魔力ぶっ込んであげるから」


来奈の右肺のあたりが淡く光った。

以前、悪魔騎士団長にやられ、現在再生中の箇所だ。


もう一押しとばかりに、交渉に入る。


「だから、来奈を助けて欲しいの。

今夜はすき焼き作るから。

A5ランク和牛の、とろける霜降りのカロリー、受け取って欲しいな」


リズの接収したカロリーはイシェドの回復のために少しずつ送られていたのだ。


そのとき、精霊の声が聞こえた。

……いや、アドラメレクだった。


「おい、春菊ばっかり食わすなよ――だ、そうだ」


由利衣は、ふわりと笑う。


「野菜も食べないと回復しないよ……よろこんで」


来奈の右肺の淡い輝きが脈動を始めた。

やがてそれは全身に回り、光が植物の芽のような形となり、来奈を包みこんでいく。


アドラメレクの呆れた声が由利衣にかかる。


「お前、イシェドも弱ってるからな。

本来こいつを助ける余裕はあまりないんだぜ」


それでも、騎士団長の時も助けてくれたし、竜魔法を撃つ手助けもしてくれている。


由利衣は、光にそっと手を当てた。


「ありがとう……。しらたきとネギもいっとく?」


魔力が損傷した骨を繋ぎ合わせ、傷を塞いでいく。

回復魔法がそれを手助けした。


来奈の指が小さく動いた。


「来奈!?」


呼びかけると、来奈は頬をかいた。


「ごめん、由利衣……。

で、あたしもすき焼き。

お腹空いちゃって、力がさ……」


セロの手を借りて、来奈の上半身を起こす。


由利衣は来奈のバッグから弁当を取り出すと、そっと友の頬に手を添えた。


「とりあえず、夕飯まで我慢。

鮭とハンバーグ、どっちにするの?」


どっちも、というリクエストに笑いながら答え、割り箸と飲み物の用意をする。


セロが来奈を支えながら言った。


「由利衣、すごいな。

こんな魔法見たことないぞ、奇跡だな」


「わたしの奇跡じゃないよ。

お師さまと、イシェドがくれたの」


――そう。いつか、自分だけの奇跡を。


来奈の口にミネラルウォーターを含ませてやる。

次に割り箸を手に取り、白米を来奈の口に突っ込んでいく。


「ちょっ、おかずも……」


その声も耳に入らず、由利衣は新たなる目標に思いを馳せていた。


***


美柑が「やあっ!!」と気合の声を上げ、化血神刀を繰り出す。


機械兵の機銃は、すべて麗良の雷切が弾き落としている。


「美柑さん、もっと前に出る!!」


指導を受けて、「はい、麗良先生!!」と威勢よく返事。


化血神刀の刃は次々と機械兵をかすめる。

黒の魔力が機械兵の内側から侵食し、破壊していく。


まるで腰が入っていない。

もう魔力集中も絶え絶え。


だが、それはいい。


まずは、戦えるという自信をつけさせる。

接待バトル上等だった。


そして、窓ガラスを割って三階から飛び降りてくる影。


村正の青白い光が周囲の機械兵を次々に切断。


美柑が荒い息をつきながら、「さすが師範!!」と嬉しそうな声を飛ばした。


俺は二人へと振り返る。


「お前らもご苦労だったな。

この都市の交換機も、あらかた破壊できたんじゃないか?」


そこに、橘の声。


「基地局とつながってはる施設は、これが最後でおすなあ」


ならば、ここからは俺たちも本格参戦だ。


膝に手を当てて、肩で息をつく美柑へと声をかけた。


「超再生でもへばるのか?

お待ちかねの機械殲滅タイムがやってきたぞ」


麗良が、はあ……と小さなため息をついた。


「先輩、そういうとこ、ほんっと変わってないですね。

魔力集中は慣れないうちはきついって分かってるくせに」


麗良は、右手に魔力を集中。

光弾を上空に打ち上げた。


明かりを照らすのだ。


「美柑さん、いじわるなおじさんの言うことは聞き流していいから」


俺はスマートグラスの暗視モードを切って、訂正を求めた。


「いじわるじゃないぞ。

これも美柑のやる気を引き出す……」


「美柑さんは、私の妹弟子なので。

先輩のご意見は、私がありがたく伺います」


笑顔の返しで遮断された。


そして、麗良はスポーツドリンクを取り出す。

美柑に手渡しながら、その口から怨嗟の声が漏れた。


「美柑さん、水分補給はしっかりね。

私が学生時代に組んでいたパーティに、ほんっと時代錯誤の兄弟子がいて。

灼熱の溶岩地帯でも“バトル中に水を飲むとバテる”とか訳のわかんないこと言って。

理沙さんがこっそり飲ませてくれたんだけど」


十年以上経って恨み言とはな。


それにしても、なんだろうな。


俺が麗良に何か言おうとすると、いつも理沙が間に入って、やんわり取りなしていたことを思い出した。


俺は、フッと頬を緩めた。


「麗良、理沙に似てきたじゃないか」


「あの頃の理沙さんの苦労が分かりましたよ。

冒険部の教え子には甘いくせに……」


麗良は口を尖らせ、索敵レーダーを確認する。


「それはそれとして、この付近にも式神が数体。

解放していきましょう」


俺と美柑は揃って頷く。


「じゃあ、先輩は一番前で(つぶて)弾を撃ち込みながら機械を片づけていくということで。

美柑さんは私から離れないように」


テキパキと指示。


麗良は、俺をちらりと見た。


「あの礫、一分に三千発撃てるとか、さんざん偉そうに吹いてましたけど、いけるんですよね?」


俺は焦りを悟られないように答える。


「え……いや、どうかな。

少しだけブランクあるから」


麗良はスマイルを飛ばし、淀みなく煽ってきた。


「じゃあ、二千九百五十発くらいは余裕ってことで。

さっすが。美柑さんにもお手本見せてあげてください。

お待ちかねの機械殲滅タイム、へばっていられませんからね!!」


……理沙よりも、押しが強い。


頼もしく成長した妹弟子に率いられて、俺たちは次の戦場へと向かうのだった。

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