表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第09章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
318/331

第314話 黒澤死霊兵団

地下都市の建物のひとつに入る。


目指すのは、地上への連絡網を束ねる交換機だ。


「橘、どうだ?」


「二階でおすな。一階から飛んでおくれやす」


意味不明……ではない。


おそらく、二階はドアロックされていて認証が必要なのだろう。


俺は鬼蜘蛛の糸に導かれるまま、一階のドアを蹴破る。


三体の機械兵の反応がマップに現れた。


近くの一体を切り伏せ、竜魔法を纏った残像の刃をいくつも飛ばす。


刃が二体の機械を襲っている合間に、召喚魔法の能力で残像を具現化させる。

残像の刃の魔力を足場の形状に変化させ、そのまま真上に飛んだ。


天井には穴。

橘の式神・鉄鼠の能力だ。


いちいちドアロックの認証を解くような回りくどいことはしない。

巨大戦艦の攻略時に経験済みだった。


二階に上がると、かなり喰い荒らされていた。


「俺は要らないんじゃないかな……」


思わず声が漏れる。


「うちは次の交換機と地下ケーブルの探査に忙しいんどす。

鉄鼠は引上げますさかい、よろしゅうに」


ここまでサポートしてくれれば充分だ。


この部屋にも機械兵の反応はある。

どれが交換機とやらかも分からない。


――関係ない。


村正へ魔力を注いでいく。

同時に、暗視モードをオフ。


青白い光が部屋を煌々と照らした。


機械兵の動きが一瞬止まった。

カメラがハレーションを起こしたのだ。


だが、別のセンサーもあるのだろう。

すぐさま動きを再開。


俺はそれを待つほど悠長ではなかった。


竜魔法ウィンドブレスとアクアブレス。

混合竜魔法を村正から撃ち出す。


機械兵の体を切断し、部屋の装置を次々と破壊。


とどめに火炎弾を撃ち込む。

警報機が鳴り響き、スプリンクラーが作動した。


「橘、完了だ。黒澤たちに合図を」


この騒ぎを聞きつけた機械兵が集まってくるに違いない。


このエリアの機械の相手は、ここ数日間退屈していたあいつらに任せる。


俺は二階の床から一階へと降り、建物を飛び出すと声を上げた。


「次行くぞ!! 遅れるなよ!!」


麗良の飛行魔法がかかり、体がふわりと浮く。


「それじゃあ、最短でいきましょうか」


機械兵を無視して俺たちは飛び立つ。


その頃、戦闘民族たちが動き出していた。


***


由利衣がふわりと笑う。


「さすがコーチたち、行動が早いなあ。

わたしたちは、機械を別のエリアに行かせないこと。

ここをやつらの墓場にしてやるんだよ」


さらりと物騒なセリフを混ぜる。


橘の鬼蜘蛛の探査では、ここから少し先からは別の交換機の管轄。

現在破壊工作班が向かっていた。


防御結界の壁を広く展開。

交換機を破壊するまで、このエリアの機械を通さないようにするのだ。


そして、強固な防御結界を仲間に張った。


混鉄棍を握る来奈は、ニカっと笑顔。


「サンキュー由利衣!!

次アレ行っちゃうの?」


由利衣は頷くと、呼吸の書を取り出す。


書物に手を添え、呼び出したのは――


イナンナの世界でスカウトした、蛇とフクロウ。

そのゾンビ。


初めて見るセロは、「おっ、なんだそれ!!」と興味津々。


由利衣は、にこにことセロを見る。


「この子たちが守ってくれるから、側を離れないようにね。

それと、視聴者さんには初お披露目……」


さらに魔力を込める。


すると、由利衣の眉間に皺が寄った。


「えー? 納得してたじゃん。

いまさら文句言うのは男じゃないよ?」


そして、ちらりと蛇を見る。


「ちょっと、余計なこと教えないで。

せっかく、召喚一回三千Gで握れてたのに。

…………いいよ、一万五千Gで」


ゾンビ同士のネットワークがある。

待遇に格差をつけすぎるのは悪手か……。


死霊王への道を歩む由利衣は、ひとつ学んだのだった。


そうして呼び出したのは――


その前に、グレイスが動いた。


「来たよ、あれは私のもんだ」


ひらりと舞うように機械兵へと迫り、ヴァジュラを突き立てる。


雷が爆ぜ、内部回路を焼かれた機械兵は一撃で沈黙。


「おおっ、姐さん。

魔力制御良くなってね?」


気狐の憑依で練度が引上げられているが、そこに加えて、この数日は美柑に付き合って基礎の見直しを行なっていた。

元々抜群の戦闘センスの持ち主なのだ。


グレイスは、「まーな」 と言いながらヴァジュラを振るう。

いつの間にか、来奈も混鉄棍を振り回していた。


見る間に機械兵を圧倒していく。


しかし――


一体の機械兵にヴァジュラを突き立てたとき、近づいてきた別の一体が槍の間合いの内側に入った。


機械兵から響く電子音。

この反応は、映像で見覚えがあった。


愚者の魔眼が輝く。


「こいつ、自爆……」


防御結界で耐えられるのか?

いや、衝撃は防げても高熱が……。


ヴァジュラを引き抜きながら、一瞬にも満たない思考の回転。


間に合わない。


魔眼の輝きが強くなった、そのとき。


黒い影が風のように駆け寄り、機械兵に鉄山靠(てつざんこう)をぶち込んだ。

弾き飛ばされた機械兵は、他の機械を巻き込んで爆発炎上。


スマートグラスの映像が、ハレーションを起こし白に染まる。

グレイスはヴァジュラを振り回しながら、暗視モードを切った。


炎に照らされていたのは……見知らぬ道着姿の男。

いや、ゾンビ。


来奈が嬉しそうな声を上げた。


「お久しぶりじゃん、キョンシーマスター!!」


第五層隠しダンジョンの四階ボス。


ティナが吸魂符に封じていたものを、由利衣が譲り受けたのだ。

式神の呪いを解く薬の報酬だった。


キョンシーマスターの貫通攻撃を纏った拳と蹴りが、機械を抉り、叩き潰していく。


クラリスでさえ未来視を使わなければ勝つことが難しかった達人ゾンビなのだ。


そこに、精霊サウンドエフェクト。


Fool――No.5 Dragon Form


メタリックレッドのマスクと強化服に身を包んだグレイスが、銃弾をこともなげに躱し、ヴァジュラを次々に機械兵へと突き立てていく。


連鎖的に爆発。


だが、強化服には熱も通らないようで、勢いを緩めずに雷を放つ。


あたり一面火の海と化した。


由利衣は来奈へと指示を飛ばす。


「来奈、アクアブレスお願い。

地下で火は危ないから!!」


その言葉を受け、来奈は口に塩タブレットを放り込む。


キュレネが輝き、衝撃波とともに竜魔法の水弾を飛ばした。

炎を消し飛ばし、同時に機械兵の体を穿つ。


ティナが先行して基地局を潰し、無線を無効化。

橘が交換機を探査し、破壊工作班がそれを潰す。

こうして、エリア全域を地上との通信網から切り離すのだ。


機械が気づいた後はもう遅い。


別のエリアにも知らせようにも、通信で知らせる術がないのだ。


直接伝令に向かう機械を食い止めるのが、このチームの仕事だった。


由利衣は呼吸の書でスケルトンを顕現。


全五十体。

ずっと魔力制御の訓練は怠らず、今ではここまで出せるようになっていた。


少しだけ残念そうな顔。


「魔界で五万体スケルトンダンスの目標、ちょっと盛り過ぎちゃったなあ……」


ちらりと、キョンシーマスターを見る。

押し寄せる機械を風に揺れる柳のように躱し、鋭い一撃を叩き込んでいる。


「まあ、強いのが来てくれたから。いっか」


そして、スケルトンが次々に合体していく。

五体一組の異形の巨大スケルトンが、十体完成した。


三体分のスケルトンでサソリを模した下半身を形成し、二体分で上半身をつくる。


そして、アイテム袋から武器を取り出して四本の手に持たせる。


由利衣はセロへ笑いかけた。


「五身合体・スケルピオンだよ」


少年の顔が輝く。


「すげーな、由利衣も来奈もグレイスも。

式神にならなくても、こんな強い魔法使いがいるなんて思わなかったぞ」


彼に迫る機械は、蛇とフクロウが守っている。

とはいえ、初のバトル。

腰が引けてもおかしくない状況なのだが、セロは少しも動じていなかった。


その様子を頼もしげに見る由利衣。


「セロにも、自分にしか起こせない奇跡がきっとあるから」


そう言うと、スケルトン軍隊を前線に投入し、銃を構える。


魔力弾が撃ち出され、防御結界を超えようとする飛行ドローンや機械兵を撃ち抜いた。


あらかた消火を終えた来奈が笑う。


「由利衣、大活躍じゃん!!」


来奈は機械兵へと一気に間合いを詰め、混鉄棍の容赦のない一撃を見舞う。


腰の小さなバッグからチーズハットグと唐揚げ串を取り出し、モグモグしながら金棒を振るう。


カロリー補充を終えたところで、再び竜魔法を展開。


カプサイシンのカプセルを口に放り込み、奥歯で噛む。


来奈の頭上には円形の魔法陣。

魔力が竜の翼とツノを形づくる。


黄金の瞳が闇に包まれた都市を照らした。


混鉄棍を地面に突き立て、銃を握る。


撃ち出したのは、無属性貫通・タキオンブレス。


魔力弾が機械兵の体を貫き、直線上にいた後ろの数体にもまとめて大穴を開けた。


由利衣と来奈、二人の魔力弾が機械兵に振り注ぎ、次々とスクラップにしていく。


「素材あざーす!!

チャリンチャリンきてるよ、これ!!」


能天気な高笑いと銃声が響く。

バッグから激辛チョリソーホットドッグを取り出し、辛味とカロリーの補給。

食べながら魔力弾を次々に撃ち出していく。


そのとき、上空から声が響いた。


「大将たち、次の交換機を潰しました」


由利衣が目を向けると、大きなカラスが二羽飛来し、メモを落としてきた。


狸ツインズが化けた鳥だ。


橘自身は先に進んでいて鬼蜘蛛の通信圏外のため、狸たちが伝令係なのだ。


由利衣はメモを確認し、即座に防御結界の防衛ラインを引き直す。


そして、仲間に向かって大声を張り上げた。


「みんな、前進!!

もっと機械増えてくるから気をつけて!!」


強化スーツに身を包むグレイスが、迫りくる機械兵へヴァジュラの雷を叩きつける。


「面白いね、行こうじゃないか!!」


そう言いながら、踵を返して新たな敵に向かって駆け出そうとする。


由利衣は小さく息を吐く。


「もう。ここにいる機械もなんとかしないといけないのに……」


すると、カラスに化けた狸の一体が「任せてくださーい」と声をかけて飛んで行った。


数秒後に、遠くで爆発の音が響いた。


機械兵たちの一部が、そちらへ向かっていった。


橘の式神・家鳴(やなり)

能力は、音を出すこと。


その姿は小さな鬼だが、人の声マネから今のような轟音まで自在。


狸の一体と家鳴のコンビは、機械兵を撹乱し、引きつける陽動部隊。


そして、もう一体が化けたカラスは再び橘の元へ。


由利衣はそれを見届けると、駆け出すグレイスの前に防衛結界を張った。


不可視の壁に激突する戦闘民族。

文句の声とともに、由利衣に詰め寄ってきた。


「何すんだい、いいところだってのに!!」


由利衣は、にこやかに語りかける。


「ねえグレイスさん、わたしはここを山本先生から任されてるの」


山本先生は橘の護衛として先を進んでいる。

この戦場のリーダーは由利衣だった。


「だから何だい。

バトルは好きにやらせて貰うよ」


「山本先生は、“協力して対処して”って言ってたんだけど?」


グレイスは、山本先生の名前を出されると弱いのだ。


軽く舌打ち。


「……じゃあ次はどうするのさ」


グレイスが装着するスマートグラスのマップの、とある一点が点滅した。


「次はここ。ちょっと待ってね」


由利衣は来奈も呼ぶ。

機械の戦力が分散したおかげで、アンデッド軍団だけでもなんとか対処できそうだった。


しかし、いちおう念のため、追加投入することに。


――骸蟲。


隠しダンジョン三階のボスで、これもティナが封じていたものだ。


呼吸の書が淡く光る。


続けて由利衣の目元と口元が引きつった。


「……ねえ、五千Gで御の字とか言ってなかった?

そんなに出せないよー」


しばし交渉が続く。


来奈はその間、バッグから取り出したナッシュビル風ホットチキンに食らいつく。


「姐さんもいっとく?

あたし、リズさんが食べてる動画観て、気になってたんだー」


変身が解けたグレイスは差し出されたチキンサンドを一口。


「悪くないね……で、いつまでやってんだい。

ケチケチしてんじゃないよ」


由利衣のこめかみに太い血管が浮かぶ。

絶叫が暗闇を突き抜けた。


「ケチなのはわたしじゃなくて、梨々花だから!!」


しかし、セロの構えるカメラに気づくと、ふわりとスマイルを送った。


「…………じゃあ、二万飛んで五百Gでどうかな?」


他のゾンビたちがざわつき出した。


こうして、黒澤死霊軍団(レギオン)の構成員は、死霊王との賃上げ交渉に打ち勝つ。


呼び出されたのは、巨大なムカデのような骸骨。


機械の銃弾をものともせず、体当たりで吹き飛ばしていく。

その後ろでは、十体のスケルピオンが四本の武器を振るいながら、恐れを知らぬ突進で機械兵に攻撃を浴びせる。


キョンシーマスターが戦場を縦横無尽に駆け、その拳と蹴りが機械の体を易々と貫いた。


来奈は「なんか、いつの間にかすごいことになってね?」と、感心しながら三つ目のホットチキンにかぶりつく。


由利衣は満足そうに頷くと、来奈とグレイスへ作戦を説明する。


「この点滅は、魔力反応。

大きな二つの反応はもっと奥だけど、それよりも小さなものは途中にいくつかあるの。

R魔法使いの式神だと思う」


つまり、R魔法使いの式神を正気に戻し、戦力を拡大しながら奥へ進む――それが由利衣の作戦だった。


さっそく、ターゲットのポイントへと移動を開始。


機械の相手は最小限に、セロを含めた四人は駆ける。


グレイスが疑問の声を上げた。


「頭がイッちまった式神は、機械どもに襲い掛かってたらしいじゃないか。

これだけ機械がいて、なんで大人しくしてるんだろうね」


この都市の式神と思わしき魔力反応は、移動せずに動かない。


そして、式神の周囲には機械の反応もあるが、交戦しているようにも思えなかった。


確かに、奇妙だ。


由利衣は「そうだね」と同意。


「何かおかしいと思う。ねえ、来奈は……」


ちらりと来奈の方を向く。


暗視映像を通じて目に飛び込んできたのは、走りながら嬉しそうに宝石箱を物色する魔法使い。


由利衣の視線に気付くと、得意げに笑いかけてきた。


「さっき、そこの家に、ちょーとだけ冒険。

まだたくさんあるって、絶対!!」


「ねえ来奈……」


由利衣の声に構わず、マジックバッグに宝石箱をしまうと、一気にまくし立てた。


「ワクワクしてきたなー。

機械もさ、けっこういい値で売れるんじゃねって梨々花が言ってたし。

あと、地下都市って魔法鉱石ゴリゴリに貯め込んでるって話じゃん。

根こそぎいただいていこうよ」


何か言おうとした由利衣に言わせない。


「あーでも、やっぱお宝っていえば武器かなー。

こないだの都市にいた式神が持ってたやつ。

ああいうのがあればさ、由利衣の軍団も強化できんじゃね?」


……。


数秒の沈黙が過ぎる。


そして、ふわりと笑顔を浮かべる由利衣。


「さすが来奈。黒澤死霊兵団(レギオン)の超パワーアップ、次はそれだね」


式神に動きがないことの謎は、いつの間にか脇に置かれていた。


だが――


式神と思わしき魔力反応に近づいたとき、グレイスの目が淡く黄金に輝いた。


「いいねえ……退屈しないじゃないか」


そこには、巨大な油圧ショベル。

アームの先端には、物を掴むための爪が装着され、式神を締め上げて拘束していた。


キイキイと硝子を引っ搔くような奇妙な声を上げて悶える式神。


拘束されていた式神は二体。

それを囲むように、自立駆動の重機が六体。


由利衣の震える声が来奈とグレイスの鼓膜を揺らした。


「あの爪はミスリル……式神を拘束して封印してる。

なんて……」


その先の言葉を、能天気な響きが打ち消した。


「すっげー、お宝の塊ってことじゃん!! あれもらいっ!!」


そう言って、星の魔眼が黄金に輝く。


由利衣の目の前から、来奈の姿が消えた。


「おい、あれは私の獲物だよ!!」


続いてグレイスも勢いよく駆けて行った。


式神を味方につけ、戦線を拡大する作戦。

その前に、我欲を優先する戦闘民族二人。


取り残される由利衣。


「え……と、私がリーダーなんだけど」


ぽつりと呟くと、セロの声がかかった。


「由利衣はいかないのか?

来奈とグレイスみたいに、ぶっ飛ばすとこ見てみたいぞ。

映えってやつだろ?」


カメラの冷たいレンズが、頬を引きつらせる由利衣の顔を捉える。


「……やるよ」


手にした銃をアイテム袋にしまう。

代わりに、新しい銃を取り出した。


「死霊王の戦い、見せてあげるから」


三人目の戦闘民族が、白マントをなびかせて巨大機械への立ち向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ