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終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第09章

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第311話 攻略準備

外の世界に向けて、セロ少年の自己紹介が始まった。


「なあ梨々花、これ誰が見てるんだって?」


カメラから目線を外し、梨々花へ問いかける。


魔界の外に世界がある。

その概念自体がピンと来ていないようだ。


それはそうだろうな。


梨々花は「いいから。視聴者さんあっての冒険なのよ」と、細かいことを気にするなと促した。


セロはカメラを真っすぐに見る。


「あー。セロって言います。

委員長……じゃなくて高柳先生の弟子になって、機械と戦うから。よろしくお願いします」


頭を下げて、また正面を向いた。


「ここ、すっげー美味いものがたくさんあって、めちゃくちゃ食う姉さんがいて楽しいな。

それで、仕事はヘイト見つけてティナに通報すること。

“お前ら、プロクシ使っても無駄だから”って言ってたぞ。よく分かんないけど」


そして最後に啓蒙活動。


「“その一言が人生を終わらせる。気を付けよう、暗い夜道とネットの陰口”。

ヘイトハンターが地獄送りにしちゃうぞ」


からの、バキューンポーズ。


これには、コメント欄も沸き立った。


『ヘイトハンター、私を捕まえてごらんなさい……フフフ』


『リュシアンくんとの薄い本。創作意欲が止まんない』


『左だよ左。セロリュシ』


いやいや、リュシセロだろう……と、派閥争いで大いに盛り上がる。


梨々花は「どうやら好評ですね」とご満悦。


――そうなのか?


俺にはよく分からないが、視聴者さんには受け入れられたようだった。


セロは仕事に戻ると、「委員長、ここ押せるって分かんないって」とアプリのUI改善を飛ばす。

あっという間に、俺よりも吸収していた。


そして政臣の呼び方は、来奈の影響を受けていた。


セロは放っておいても良さそうだが。

気になるのは美柑だ。


ベッドから起き出して、椅子に座っている。


麗良が、美柑の前に茶を置いた。


「天ヶ崎さん、休んでいてもいいんですよ。

この戦艦の制圧にも、もう少し時間がかかりそうですし……」


美柑は小さくかぶりを振った。


「ありがとうございます。

でも、あんな小さな子が頑張ってるので」


セロを眩しげに見つめる。


「私の孫も、生きていたらあれくらいの……」


涙が、つっと頬を伝う。


「ごめんなさい、私が一番年上なのにね。

戦うの。責任とかじゃなくて。

殴りたくてもできなかった、家族の分。きっちりぶち込むまで死ねないから」


いまはそれでいい。


どんなことでも、生きる目的ができたのだ。


そして、美柑は戦い方を聞いてきた。


なお、美柑はずっとジャージだったが、今は山本先生が持っていた魔戦部の新ユニフォームのサンプルを着ている。


イナンナの世界で〇国魔法戦特殊部隊が装備していた服を芹那が仕立て直したのだ。


SSR用の戦闘衣装ほどではないが、高品質な魔法素材が使われていて、対魔法・対物理シールドもかかっている。

学生向けだと侮ってはいけない、超一級の兵装だ。


機械に一矢報いたい、そんな美柑の心意気に山本先生からのささやかな贈り物。

美柑は熊耳用のものがぴったりだった。


そして、戦い方だが。


SRはもはや、超越者の域だ。

SSRとの違いは魔眼能力の有無くらい。


完凸ともなれば化け物ステータスのはずなのだが、肝心なのは魔力制御。

こいつができなければ、モンスターマシンを乗りこなせないレーサーのようなものだ。


俺は麗良に声をかけた。


「お前も完凸目指してるんだろ。

そのモデルケースが目の前にある。だけど、戦闘は素人。

育ててみろよ」


そして美柑に向き合う。


「麗良は、俺ともう一人の妹弟子が手塩にかけて育ててきた魔法使いだ。

こいつ、昔は弱っちくて。本当にSRかって、ずっと疑ってたくらいなんだけどな。

それでも、今じゃ俺たちの国の英雄だ。

誰よりも天ヶ崎さんのことを分かってくれるはずだ」


麗良は困惑した顔を見せたものの、静かに頷いた。

そこに声をかける。


「お前も冒険したいって言ってたよな。

次のコンテンツは、天ヶ崎さんのお披露目を兼ねてだな」


美柑は麗良をじっと見る。

そして、頭を下げた。


「よろしくお願いします。

それと、私のことは美柑と呼んでください、麗良先生」


これで話は決まった。

麗良はさっそく美柑の適正を見てみることにした。


とはいえ、何をおいてもまずは魔力制御の基礎だろう。


「それじゃあ、美柑さん。

魔力の集中から始めましょうか。

そうね……来奈、ちょっといい?」


麗良は、混鉄棍をスイングしている来奈に声をかけた。


こちらにやってきた来奈を、まずは褒める。


「来奈、普段から魔力集中しっかりやってるわね」


単に振っていただけではなく、ずっと魔力を体内に巡らせていたのだ。


来奈は得意気な顔を見せた。


「あたし、目標二十四時間だから。

リズさんに貰った霊薬も每日五リットル飲んでるし!!」


一回二十ミリリットルを目安に、一日三回。


その言葉が出かかったが、口を挟むのはやめておいた。


とにかくこいつは雑な性格なわりには、地味な訓練を厭わないのだ。


麗良は頷くと、床にマットを敷いて美柑を座らせる。


「魔法使いは、精霊から魔力を受け取るためのチャンネルが開いているの。

その魔力を体全体に巡らせていくのが魔力集中。

これは基礎中の基礎にして極致。

……呼吸を楽にして、心臓に意識を向けてみて」


美柑は目を閉じて、呼吸を整える。


「……なんとなく。これが魔力……」


美柑の体から淡い魔力反応が感じられた。


来奈が後を引き取って続ける。

美柑の左胸を指差し、それをすっと下げた。


「お腹から足、ぐるっと回ってまた上に行って……

心臓に戻ってきたら、もう一周してみ。

最初は目を瞑ってやってみようか」


来奈も一緒になって、目を閉じて集中。


美柑は、早くも額にうっすら汗をかきはじめた。

梨々花でも最初は十分持たなかったのだ。


来奈なんて、ものの数分で限界だったのに、今では平気な顔をしている。


僅か一年でここまで。

あらためて、成長ぶりに驚いた。


その隣で苦戦する美柑を見て思う。

この程度の訓練すらも受けていないとはな。


魔法使いの能力に覚醒したのが五十三歳。

もう戦闘はいいから、とにかく完凸になってくれと強化素材を与えられるだけだったのだろう。


式神になってしまえば、素人でもモンスターの超パワーで何とかなるだろうと。


なんとも、歪な育成方針。

そこまでの余裕がないと言ってしまえば、それまでなのだが。


美柑は早くも限界にきた。


「……はぁっ、ごめんなさい」


八分か。上々じゃないか。


麗良はタオルで額の汗を拭いてやる。


「別に謝らなくていいから。

五分休憩したら、またできるところまで。

次は一秒でも長くやってみましょう。

その積み重ねしか上達の道はないの。

……そうでしょ、来奈」


「そっ!! 美柑すごいじゃん。

あたしなんて、最初そこまで持たなかったし。

霊薬イッキ飲みいっとく?」


そう言って、リズの霊薬の入ったペットボトルを取り出して手渡す。


美柑は笑いながらそれを受け取ってラッパ飲み。


「なんとなくだけど……来奈に大きな魔力が流れてるのが分かる。すごいね」


そして、麗良と俺を見た。


「麗良先生と、佐伯さんも……」


すると来奈へ振り向いて、「佐伯さんって、化け物すぎない?」と真顔で言う。


――こいつは、また。


一度の魔力集中で、他の魔法使いの魔力を感じられるようになるとは。


磨けば光る一級の素材だ。

SRに覚醒しただけのことはある。


麗良はスマホを美柑に渡す。


「次からは時間を測りながらいきましょうね。

私の学生時代は、水曜日は一限から放課後まで魔力集中。

集中が切れたら、フルスイングのケツバットが飛んできたから、尻に魔力を込めていたわね」


美柑と来奈は、揃ってドン引き。


ヒソヒソと会話が始まった。


「ねえ、魔法使いの訓練って、みんなこんな感じなの?」


「いやいや、あの世代は特殊なんだって。野蛮すぎるっしょ」


麗良はにこやかに二人に声をかける。


「古い時代の人みたいに言ってくれるじゃない。

いっとくけど、先輩の方がガチなリアル蛮族だったから。

私の時代はかなりマイルド蛮族よ」


俺の頃と、やってることはそんなに変わってないと思うがな。


麗良の下の山本先生の時代になって、ようやく大きな制度改革が行われたくらいなのだ。


それはともかく。


麗良は、魔力集中している美柑へ話しかける。


「精霊から受け取る魔力を体に巡らせて、超常の力を顕現するのが魔法使い。

ステータスがいくら高くても、それだけじゃ意味がないの。

魔力を、ちゃんと力へ変えられないとね。

これが、魔力制御と呼ばれる技術よ」


美柑は薄く閉じた瞼をひくつかせながら、小さく頷く。


さて。


適正はどうなんだろうな。


冒険者カードがあればステータスが見れるが、魔界にそんなものがあるのかどうか。


次の休憩中に、グレイスを呼んだ。


いや、正確には気狐だ。


「なあ、美柑に憑依してステータスとか分かんないかな」


グレイスの体から青白い炎が噴き出す。

炎は二股の尾を持つ狐を形づくると、そのまま美柑に憑依した。


美柑の口が勝手に動く。


「完凸SRですかー。見るのは初めてです」


そしてスマホを手に取り、メモしていく。


【天ヶ崎 美柑 ★★★★★】

ランク:SR

レベル:99

体力 :A 7,211

物攻 :S 9,999

魔攻 :B 4,753

物防 :S 9,999

魔防 :B 5,002

敏捷 :S 9,653

幸運 :D 1,487

特典 :S 超再生


来奈と麗良の顔が一気に引きつる。


俺は、まあSRならこれくらいは行くだろうなと思いつつ。

まさかの近接アタッカータイプとは。

そちらに驚いていた。


「なるほど。

じゃあ、とりあえずこれを使ってみるか」


アイテム袋から取り出したのは――


魔導ギア・化血神刀。


麗良は剣士だからな。

その弟子なら剣がいいだろう。


こいつは、イナンナの世界に乱入してきた悪党のリーダーが所持していたもの。


日村が接収し、その後、冒険部ホールディングスが七億Gで買い取っていた。


市場に出せば倍……いや、十倍の値がついてもおかしくない代物。


日本SSRに投資している日村のサービス価格だ。

まあ、強奪したものなんだが。


俺は基礎ができていない魔法使いに、いきなり高価な武具を与えるのは反対派だが。

美柑はこの年から映えて行こうというのだ。

ここはポリシーを曲げて、最大限奢ることにした。


とはいえ、総務課長の許可は必要だった。


「なあ、これ厄災神の世界の景品にする予定だったけどさ。いいよな?」


梨々花は、あっさりと首を縦に振った。


「完凸SRがショボい武器を持っていたら、コンテンツに華がありませんよ。

魅せていきましょう」


といいつも、しっかり圧をかけてきた。


「投資したからには、回収。

先生なら言わなくても分かっていると思いますけど……ええ、先生なら大丈夫ですよね」


俺は聞こえないふりをして、化血神刀を麗良に預けた。


この剣の性能は凶悪極まりない。


ほんのかすり傷でも、強力な呪詛で全身から血を噴き出して絶命に至る。


機械相手にその呪詛がどこまで通用するのかは未知数だが。

普通の武器としても切れ味は抜群なのだ。


さらに、麗良は自分の持っている短刀を美柑に贈ることにした。


月光。

魔力を通しやすい素材でできた魔法剣だ。


麗良は、理沙の形見の雷電を使うから良いと、笑って言った。


こうして、魔界の二人の魔法使いの準備も進む。


セロは科学の力で。

美柑は物理で機械を殴るのだ。


ティナと政臣、そして外の世界のITエンジニアチームは、この戦艦を乗っ取るための解析を続ける。


政臣はそれをこなしつつ、俺が撮影してきた地下都市のコンテンツを編集。

セロには、まずはやっていることを見てくれと見学させ、次に操作方法を教えていく。


「委員長、こんなのが面白いのか?」


自分が育った都市の映像なのだ。

不思議な顔をするセロに、政臣は苦笑い。


ダンジョンの、未知のエリアの、それも地下百メートルに地方都市。

とんでもないお宝映像だが、その価値が分からないのは仕方がなかった。


一方の麗良は、魔力制御訓練を美柑と来奈につけてやる。


グレイスも強制的に参加させ、この機に基礎を見直させていた。


最初は口を尖らせていたグレイスだが、山本先生の視線を受け、黙って従った。

こいつを手なづけるとは、やはり恐ろしい……。


その山本先生はリズへのカロリー供給係。

リズと由利衣は式神の呪いを解くための魔法薬の開発。


梨々花と橘は、リモートの幹部を交えて、冒険部ホールディングスの経営戦略会議。


リモートの相手は、悪魔公女とフェリクス、カレンとシャンガ。


悪魔公女は、第五層の魔王領を夫のイケメン侯爵と切り盛りしている。

実は上位魔神ベルフェゴールの分体なのだが、そんなことを知らない梨々花は顎で使っている。


フェリクスは帰らずの森で拾った、もと裏組織の営業。

戦闘魔法使いとしての技量も高く、弁も立つ上に利にさとい。

いまでは梨々花の信頼を勝ち得た兵隊として、さえき亭各店舗の総合マネージャーを務めている。


カレンは厄災神の世界を盛り上げるために俺たちに協力してくれている。

いまは、犬養と熊耳と一緒に第四層を楽しく冒険中。

合間にリモート参加していた。


そしてシャンガは、イナンナの世界を任せている丞相。

聖王はまったくアテにしていないので、あの広い国土の統治は彼の手腕にかかっていた。


みな、大きくなった組織を裏から支えてくれている。


しかし、なんだろうな。


冒険の度に帝国の版図を広げ、手下を増やしていく魔王。

梨々花だけ、他のSSRとは明らかに違う路線だ。


きっと、魔界も狙っているのだろう。

ここは誰かの持ち物だと最初にアドラメレクは言ったが、そいつと交渉する機会はあるのだろうか。


俺はそんなことを考えながら、聞くとはなしに参加していた。


橘だが、彼女自身は金儲けにさほど興味はない。

だが、アクセラレータ魔法による頭脳のクロックアップと、仕掛けが大好きな性格。


梨々花の問いかけに対して、即座に思考実験を展開。

一の問いかけに対して、十のアウトプットを繰り出していく。


梨々花は、ふんふんと頷きながらリモート連中に指示を飛ばす。


そして、


「橘さん、小料理屋とか興味ありません?」


どさくさに紛れて、新業態に勧誘していた。


確かに、はんなり和服美人は冒険者のおじさんたちのオアシスになりそうだった。


橘は「そうやねえ。偽大将はんにも手伝ってもらいまひょか」と、爆弾を投げてきた。


俺が抗議の声を上げる間もなく、梨々花は頷く。


「いいですね。

配信はコンプライアンス重視でお願いしたいですが、ライブではキワのキワを攻めていきましょう」


「なあ、桐生院……」


梨々花は振り向いて言い放った。


「じゃあ、先生がやります?

目隠しザリガニボックスチャレンジに、マイクロビキニ装着からの熱湯風呂」


二の句が継げない俺。


梨々花は橘へ「脱毛処理はしっかりお願いしますね」と念を押すと、そのまま会議へ戻った。


こうして、リアクション芸と毒舌漫談を追加実装され、偽大将は本人非公認のまま夜の店を盛り上げることが決まる。


ビジネスの手も緩めることなく、着々と魔界攻略の準備が進むのだった。

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