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終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第09章

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第302話 魔界の底

俺と山本先生と橘の三人は、地下への通路を下っていた。


元魔法使いの異形たちが出撃した出入り口付近は、機械の攻撃に晒されて滅茶苦茶にやられてしまっていた。


しかし、とある廃墟に地下へと続く入口があった。

瓦礫に埋もれてしまっていたが、それをどかすとコンクリートの味気ない階段が未知へと誘う口を開けた。


体の大きな異形たちは通るのがやっと。


間垣と名乗ったリーダーが先頭に立ち、俺たちは後に続いた。


なお、撮影だが。


俺たちは外から来た魔法使いで、地下施設の様子を広く知ってもらいたい。


そう伝えると、間垣は「あ……がい……こく?」と言って首を縦に振った。

微妙に勘違いしているが、まあ外国みたいなものだろう。


とにかく、許可は得ていた。


あらためて由利衣の作成したマップをスマホで確認。


地下に入ると通信圏外となり、索敵結果の更新は切れていたが、マップは使える。


いざというときの逃走経路も把握しておく必要があったのだ。


地下へと続く通路はこの他にもいくつか確認できた。


そして、深い。


マップをスクロールさせると、およそ地下百メートル地点に空間が広がっている。


あの機械といい、やはりこの魔界の文明は外の世界以上だ。


山本先生は「さえき亭魔界店の用地があるといいですね」と、早くも店を出す気だった。


その言葉にはあえて反応せずに歩く。


妙なことに気づいた。


この壁……緑色の石が砕かれて埋め込まれている。

それが淡く発光し、魔力が感じられた。


「これは、グリーンストーンか」


風属性の魔力を含むダンジョン鉱石。


大気汚染対策として外の世界でも重宝されていて、需要は高い。


山本先生は「なるほど」と一言。


「大規模な排気設備は音と振動で検知されますから。

これが一種のフィルターなんでしょうね」


機械と戦う人類の知恵か。

それにしても、これほど大量の……。


やはり梨々花を連れてこなかったのは正解だった。

採掘を始めかねない。


そんなことを考えながら地下へと降りていく。


やがて階段は終わり、通路が広くなる。


緩やかなスロープを下ると、重厚な鋼鉄製のシャッターが見えてきた。


間垣は、シャッターの前に立つ。


スイッチ類も、認証カードをかざすような端末もない。


すると目の前の異形から魔力が溢れ出す。


これは身体強化系魔法か。


間垣は分厚い鋼鉄製シャッターに手をかける。


……って、おい。


異形のこめかみと腕に太い血管が浮かぶ。


「ぐ……うう」


呻きながら魔力を爆発させると、一気に持ち上げた。


まさかのフィジカル技。


呆気に取られる俺に、山本先生がカメラ目線でコメントを飛ばす。


「下手に電子制御にすると、乗っ取られるかもしれませんから。

出入り口は、あえて通りにくいようにしているのでしょう」


今回はジャージネキがレポーターか。


視聴者さんに隠れファンも多いと聞く。

いや、別に隠す必要はないのだが。


その後、さらに三枚のシャッターを通る。


――まずいな。


侵入が困難ということは、脱出も困難。


あの扉、果たして村正で斬れるかどうか。

竜魔法を乗せていても厳しいかもしれない。


だが、そんな俺の懸念を察知したのだろうか。


橘のボソリとした声が、鬼蜘蛛の糸に乗って鼓膜を震わせた。


「まあ、鉄鼠やったら、いけるんちゃいますか」


あの、機械兵を食い破った式神か。


ちらりと振り向くと、すました顔をしている。


……やはり、連れてきて正解だったな。


頼もしげな目で橘を見て頷く。

視線を正面に戻す。


眼前数センチの位置に、背伸びした山本先生の瞳があった。


「…………どうかしましたか?」


心臓の鼓動を抑えて、声を絞り出す。


抑揚のない言葉がかかる。


「佐伯さん、よそ見せずに行きましょう。

撮影中ですから」


小さく顎を引くと、山本先生は踵を返してスタスタと歩き出した。


「佐伯はん、目移りはあきまへんえ」


……うるさい。


やりづらさを感じながら、先へと進む。


すると、通路が終わり、急に眼前が開けた。


「こいつは……また」


思わず声が漏れる。


そこには地下都市があった。

俺たちは高い場所からそれを見下ろしていた。


背の高い建物はなく、せいぜいが三階建てだが。


それでも街が広がっている。


道路が敷かれ、ビルや住宅や田畑があり、公園には木々が生い茂る。


そして、地下空間の天井には青空が広がり……太陽?

いや、そんなはずはない。


解説を待つ俺に、ぽかんとした顔をする山本先生。

さすがに、これほどのスケールとは思っていなかったようだ。


大都会とは言わないが、ちょっとした地方のタウンの規模だ。


山本先生は「えっと……」 と声を絞り出した。


「擬似的にレイリー散乱を再現する照明器具がありますが……

地下の天井一面なんて……」


遠くに山々が見える。

あれも、ディスプレイか何かなのかもしれない。


とにかく、見た目が普通だ。

それがとてつもなく異質。


間垣を先頭に、地下都市へと続く階段を降りていく。


地を踏んだ俺たちに――


「あっ、間垣さん。お疲れ様でーす」


サラリーマン風の中年男性が声をかけてきた。


魔力を感じない。

普通の人間なのだろう。


男はフレンドリー全開でグイグイくる。


「戦いの様子が分からなくなって心配しましたよ。

それで、高ランク魔法使いは見つかりました?」


なんだこいつは。


わけのわからない状況に、戸惑う俺たち。

男は構わず声をかけてきた。


「あなたたちですか?

いやあ、まだ三人もいたなんて。

神は人類を見放していなかったですね!!」


間垣は「あ……」としか喋れない。


山本先生が何か言いかける前に、俺は口を開いた。


「いや、俺たちはあの戦艦に捕らわれていた魔法使いじゃなくて。

外から流れてきてね。

間垣さんに良かったら来ないかって」


男は目をぱちくりさせる。


「魔法使いじゃないんですか?」


「目当てじゃなくて悪いけど、戦艦にいたわけじゃないんですよ」


男はがっかりした雰囲気。


嘘は言っていない。

ただ、解釈は自由だ。


俺たちが魔法使いだとしたら、この男はどう出てくるつもりか。


あの高ランク魔法使いを求めるテンション。

見極めるまでは迂闊なことは言えない。


しかし、後々のトラブルも想定して偽りもしない。

向こうが勝手に思い込んだ。

それだけのことだ。


そんなことを考えていると、男は肩にかけたバッグから、何やら棒を取り出した。


「……失礼」


それだけ言うと、俺の目の前で棒をスッスッと動かす。


おそらく生体反応をスキャンしているのだろう。

機械が擬態しているかもしれない……これもどこかで見た設定だ。


俺たち三人のチェックを終えると、安心した表情を見せた。


「外からですか……歓迎しますよ」


そして、にこやかに言う。


「それで、上の機械はどうなりました?

こちらの監視は、戦艦からの攻撃や変な嵐でめちゃくちゃにされてしまって……」


何らかの手段で見ていたのか。


だが、途中から分からないということは、俺たちのことは認識していないということだ。


異形の元魔法使い――間垣をちらりと見て答えた。


「間垣さんたちの健闘と、あの嵐で撃退できましたよ。

いや、さすが魔法使いですね」


そして山本先生へアイコンタクトを送る。


すぐに、にこやかな笑みを浮かべるジャージネキ。


「私たち、各地を取材しているんです。

ここの様子を外に伝えさせてもらえませんか?」


男は俺の手にあるカメラを見る。

そして、感心したように頷いた。


「ジャーナリストさんでしたか。こんな時代に……

私は代表じゃないので、なんとも言えませんが。

でも、ここにも生き残りがいて魔法使いが戦っている。

それは呼びかけて欲しいですね」


俺たちは、力強く頷く。


そのとき、間垣の仲間の異形がぞろぞろと階段を降りてきた。


それを見た男が絶句した。


「……帰ってきたのは、これだけ。

そうとう激しい戦いだったんですね」


そして、深々と頭を下げた。


「本当にありがとうございます。

みなさんがいなかったら……

ゆっくり休んでください」


異形たちは、疲れ切った眼差しで軽く男に頭を下げると、連れ立って引き上げて行った。


男は間垣にも声をかけた。


「この方たちは、私が案内しますよ。

間垣さんもゆっくりどうぞ」


「あ……魔法……エス……エス……」


間垣の言葉に被せて山本先生の声。


「間垣さん、その話は私たちからしておきますから。

どうぞ休んでください。

ありがとうございました」


すると間垣は、「そう……か」と一言だけ残してその場から消えた。


間垣を見送ると、男が問いかけてきた。


「何の話ですか?」


山本先生から淀みない言葉が紡がれる。


「外にはすごく強力な式神がいるんです。

その勢力と連携できないかなって考えていまして」


俺たちがアドラメレクに連れられて体験した、式神と機械たちの大戦争。


確かに、あの機械連中にも対抗できそうな個体はいた。

……制御不能ではあるが。


男の顔が輝いた。


「本当ですか!?

いやあ、それこそ我々のことを伝えてくださいよ。

ここの責任者のところに案内しますので、どうぞ」


俺たちは男に連れられて歩き出した。


それにしても。


絵に描いたような平和な街だ。


空に鳥はいないが、青空が広がり涼風も吹いている。


道路には時折自動車が行き交う。

地下なので排ガスは出せない。

電気自動車だろうか。


さっそく取材タイムだ。


俺は前を歩く男の背中に声をかける。


「それにしても、これほどの都市が残っているとは思っていませんでしたよ」


男は「そうですか……ひどい状況ですからね」としみじみと返してきた。


「地下世界に籠もってもう数十年……。

通信は遮断していますし、外のことなんて分からないんですよ。

あなたたちみたいに、命がけで旅する人がネットワークを繋いでくれていて」


これだけ高度な文明を築いておきながら、最後は人力の情報網が頼りとは、なんともな寓話だ。


ちらりと話題を振ってみる。


「それで、高ランク魔法使いの噂がここまで届いていたと」


男は、はあ……とため息。

よほどがっかりしたようだ。


「完凸SRだって話じゃないですか。

まさに最後の希望ですよ」


いくら完凸といっても、美柑は戦闘魔法使いとしては素人だ。

そこまで縋るようなものだろうか。


男は続ける。


「それで、捕らえられた後は機械に利用されているなんて……

空飛ぶ船から悲鳴が聞こえるって話が数年前から出ていましてね。

その魔法使いなんじゃないかと」


俺はわざとらしく、ため息をつく。


「他の魔法使いをおびき出すためですよね。

まったく、血も涙もない。

もう何年でしたっけ?」


「そうですね……十年は経つんじゃないですか?」


――なんだと?


確か美柑は五十三で魔法使いになって、最後に覚えている誕生日は五十八だと言った。


十年も機械に拷問を?


ド根性などといった次元をぶっちぎっている。


そして、その話が本当ならもう七十ということじゃないか。

来奈と変わらない歳にしか見えないのに。


完凸SRの超再生能力……恐るべしだ。


いや、さらにその上をいく完凸SSRのベアトリスは何千歳なのかも知らないが。

あそこまで行くと、もうリアリティがない。


やがて、代表者がいるという二階建ての建物へと案内された。

規模は村役場といった感じだが、小綺麗で清潔感があり、手入れが行き届いている。


中に入ると、男は「お疲れ様です課長」と若い女性から声をかけられる。


男は、「そうそう……」と俺たちを振り返った。


「そういえば自己紹介もまだでしたね。失礼。

私、ここの設備課長をやっているセンゴクと申します」


千石、かな。


俺は代表して自己紹介。


「こちらこそ、失礼。

私は佐伯、こちらは山本と橘」


山本先生と、橘は軽く頭を下げた。


潜入ではあるが。

偽名を使う意味はまったくないだろう。


男もあらためて頭を下げると、二階へと案内。


一番奥の部屋のドアをノックした。


「市長、外からお客様が見えられました。

よろしいですか?」


中から、「どうぞ」 と男性の声。


ドアを開けると、小部屋には若い男が執務机にかけていた。

市長というからには、もっと年配を想像したが。


人あたりの良さそうな市長は、ナガシマと名乗った。


長嶋としておくか。


俺たちも名乗ると、ソファーを勧められた。


設備課長の千石と名乗った男は、退室していった。


俺たちは腰かけると、先ほど男にした説明を繰り返す。


すると市長は、大きく頷いた。


「そうですか、ぜひ取材をお願いします。

こういうときですから、人間同士は助け合いです」


これで、大手を振ってコンテンツハンターとして活動できるというものだ。


礼を言うと、市長は軽く手を振った。


「いえいえ。

それで、みなさんはどちらから?」


…………。


なんて言ったものかな。


一瞬言葉に詰まる。


そこに、橘の堂々とした声。


「東京どす。

ご存知かどうかは分かりまへんけど」


市長は「うーん」と思案顔を見せた。


数秒後、


「失礼、不勉強で。

そうですか、そんな都市が……

その東京に、強力な式神が?」


橘はすらすらと続けた。


「式神は東京やのうて別の都市の話やけど。

山のように大きゅうて、戦艦の大群も駆逐しはったんよう。

ほんに頼もしいわあ」


そう言って、スマホの画面を見せる。

さっき梨々花が撮影した動画だ。


巨大式神のシーンで市長は前のめりになった。


橘は「ただなあ……」と続ける。


「見ての通り、この式神はちょっとやんちゃが過ぎよるんよう。

そのままは厳しおすなあ」


市長は、軽く息を吐いた。


「なるほど、分かります。

高ランクの式神ほどイカれてますからね。

あいつら」


……いま、なんて?


橘は袖で口元を隠して笑う。

そして、市長には聞こえないように鬼蜘蛛の通信に乗せてきた。


「ここは合わせとき。

ほんに、まあ……魔界というだけはありますなあ」


橘はチャンネルを切り替えるように、鬼蜘蛛のネットワークを切り替えていく。

雑多な会話が流れたかと思うと、先ほど退室した男の声が鼓膜を震わせた。


「たくよー、空振りだってよ。

あの魔法使いの化け物、使えねえな」


ここ魔界の底に住む人々の腹の底。

その取材が始まるのだった。

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